その2 「交易の街の依頼」
アンデッドとの戦いから一夜が明けた。
朝陽がかまくら型テントに差し込む。
起き上がってあくびをした時、外から金属が風を切る音が聞こえた。
外に出ると、ランが双剣を振るっていた。
朝日を浴び、汗を飛ばし、何度も剣を振るっている。
「おはよう、見張りありがとう。朝から訓練?」
「おはようございます。はい、エレナさん達についていく条件で、父上から毎朝訓練をしろと言われていまして…」
「ヴォルグは娘思いだねぇ」
私は自然と微笑んだ。
「ランは十分強いよ。でも、その気持ちは大事にしなよ。ちなみに私は剣を……三人の兄さんに教わったな」
ランは少し驚いた顔をしたが、何も言わず再び剣を振り始めた。
「私も二刀流とかしてみようかな」
そんな事を考えていると暴食女が起きてきた。
「……朝からうるさいわね」
ふらふらとした足取りでレーナが出てきた。
顔は青白く、髪は寝癖だらけだ。
「レーナ、体調悪そうだけど大丈夫か?」
「昨日の光魔法……実は初めて使った魔法だから魔力の効率とか分からなくて…回復以外の光魔法は私に合わないのかも…」
そう言いながらも、彼女は持ってきたパンをむしゃむしゃ食べ始める。
「食欲はあるんですね……」
ランが呆れた顔をした。
「これくらいじゃ倒れないわよ」
レーナはパンを飲み込みながら手をひらひら振った。
「あのさ、二人にお願いがあるんだけど…」
「なによ?言ってみなさいよ」
「その……ドワーフ王国の予定が終わったらブレイジング領に向かってもいいかな?お墓参りがしたいし、回収した遺品をせめてイグニス王国内に持っていきたい」
「なんだ、そんなこと、いいに決まってるじゃない」
「私も賛成です。その方が亡くなった方々も喜ばれますよね」
「二人とも、ありがとう」
私は本当に良い仲間に恵まれたなと思った。
* * * * *
それからーー帝都を出て十五日が経過した。
南東へと伸びる街道を馬車でひた走り、草原を抜け、小川沿いの道を進む。空気は乾いているが、時折吹く風は涼しく、旅の疲れを少しだけ和らげてくれた。
「ラン、疲れてない?初めての長旅だろ」
「楽しいですから大丈夫ですよ!」
御者台で手綱を握るランの声は明るい。
後ろではレーナが寝転がり、干し肉をかじりながら大きなあくびをしていた。
「もうパンと干し肉、ラットモドキの肉は飽きたわ。ねぇエレナ、魚釣りしましょう魚!」
「小川は、さっき通り過ぎたぞ……」
(誰のせいでパンと干し肉が、予定より大きく減っているのかわかってるのか?)
「じゃあせめて果物とかー」
「贅沢言わないでくださいよ、レーナさん」
ランが笑いながらたしなめるが、レーナは不満そうに頬をふくらませていた。
そんな楽しい旅でも、時折、魔物に襲われる。
ある日の昼下がり――そのときだった。
「……エレナさん、何か来ます!」
ランの声に、私は手綱を引いて馬車を止めた。
彼女の嗅覚と聴覚はヒューマンの何倍も良い。
正直、索敵がこんなに助かるとは思わなかった。
風下から、低い唸り声がいくつも近づいてくる。
草むらが不自然に揺れたかと思うと、牙を剥いて飛び出してきたのは、ゴブリンだ。
「こいつら、私達を狙ってるな!」
ゴブリンは姑息な魔物だ。冒険者の中では低ランク依頼の割に報酬が良くて人気だが、弱い人族を狙い現れ、毒を使い、女子供の誘拐、武器や馬車を盗もうとする。少しでも油断するとやられる可能性が高い。
この平原は先の魔族との戦いで亡くなった人の武器がたくさん落ちているから、奴らはそれを扱うのだろう。
私は剣を抜き、ランは双剣を逆手に構えた。
レーナはいつもの気怠い調子で杖を掲げる。
「ったく、ゴブリンって醜いし臭いから嫌いなのよね!《サンダー》!」
青白い雷が一本、ゴブリンの一体を貫いた。
それを見て焦ったのか、残り四体が一斉に飛びかかってくる。
「ラン、左を頼む!」
「任せて下さい!」
私とランが左右から迎え撃ち、双剣の閃きと私の剣閃が交差した。血煙を上げ、二体が地面に沈む。
残りの二体が怯んだ一瞬、レーナの火球が炸裂した。
「《ファイアボール》!」
「キェェェェエー」
炎に包まれたゴブリンたちは悲鳴を上げ、そのまま黒焦げになって倒れた。
「ふぅ……本当にこいつら嫌い」
レーナは鼻をつまんで顔を顰めている。
「ゴブリンって深淵の森では見かけないのですが、噂通り姑息な感じでしたね」
ランが双剣を払って鞘に収める。
「二人ともお疲れ、素材剥ぎ取って埋めようか」
私たちは、ゴブリンが持っている武器を調べるが、どうやらイグニス王国の物ではなさそうだ。
しかし、アンデッドゴブリンになられては他の冒険者に悪いので、耳と爪を少し剥いで、穴を掘ってゴブリンの遺体と武器を埋め、私達は再び走り出した。
* * * * *
太陽が沈みかける頃に、渓谷に近い、草原の真ん中にポツンとある交易の町に到着した。
バイエルン帝国とイグニス王国の境界にある中継地のため、両国で運営されていたが、今はバイエルン帝国が管理している町だ。
警備している騎士団に皇帝からの書状を見せた。
「!……これは陛下からの書状だ、どうぞお通りください」
難なく門を通過すると冒険者や商人でにぎわっている。帝国はどこも賑わっているから、景気が良いのだろうか。
「よし、目的通り到着したから、宿を探そう。そして、冒険者ギルドで魔物の素材を換金だ」
宿をすぐに見つけた私たちは、宿に荷を下ろし、冒険者ギルドに向かった。
カウンターにゴブリンの耳や爪を並べると、受付の男が慣れた手つきで素材を確認し、無造作に袋へ放り込んだ。
「はい、全部で銅貨五枚だな」
「……やっぱり安いな」
私は苦笑しながら銅貨を受け取る。
「すまんな、姉ちゃん。この辺はゴブリンの数が多い上に元々素材価値が低いからな。牙や爪は簡易的な武器になるが、魔道具には使えんし、あれを食う奴もいない」
受付の男が肩をすくめた。
「旅の資金にするには、もう少し価値のある魔物を狩るんだな」
「ま、今回は道中で出くわしただけだから仕方ないから、また頑張るよ」
私はレーナとランに銅貨を分け渡し、三人で打ち合わせをする。
「ドワーフ王国に入る前にここで旅費を稼いでおこうか。それとパンと干し肉が心許ない。追加購入しておきたい」
「エレナが食べすぎるからね。毎度毎度困っちゃうわ」
「とりあえず、依頼板見て考えようか」
私はレーナを無視する。
「そうですね」
ランもスルーしていた。
「あんたらドワーフ王国へ行きたいのかい?行くなら渓谷の吊り橋を渡るしかないな。ただ、近ごろ魔物が出てて、旅の商人が襲われたりしているそうだ」
受付の男が地図を広げ、道の状況を教えてくれた。どうやら渓谷近くで魔族の影もちらほら見られているらしい。
「それなら準備は入念にした方がいいな」
そう言って地図を畳んだ受付の男は、さらに言葉を続けた。
「最初に吊り橋を襲っている魔物退治を受けたパーティーは、全員引き返してきた」
彼がカウンターに置いた依頼書には、依頼主が渓谷管理課と書かれている。
内容は単純で吊り橋の先を占拠している魔物を討伐し、往来の安全を取り戻すこと。
討伐後にこの町の役人が確認すれば依頼達成とも書いてある。報酬は銀貨五十枚。これは破格の報酬だ。
「質問だけど、なんで前の連中は引き返してきたんだ?」
私が受付の男に尋ねると、男は顔をしかめた。
「出るのはゴーレムだ。しかもかなり大型のやつらしい。低ランクのパーティーじゃまず倒せん。中堅どころの連中でも撤退するしかないだろうな」
「ふーん……私たちが受けましょうか?私…Aランクだから」
レーナが腰に手を当てて自慢げに言ったが、受付の男は目を細めて彼女を見た。
「嬢ちゃんがAランク?冗談はやめときな。Aランクは世界全土でも数人しかいないんだぞ」
「ほんとなんですけどーー!」
レーナが頬をふくらませてむくれる。
「まぁまぁとりあえずこの依頼は受けられるんでしょ?」
私は苦笑しながら依頼書を貰った。
破格の報酬だし、ゴーレムくらいなら私たちで倒せるはずだ。
「この依頼、私たちが受ける。私はエレナでこっちはラン、それと――」
「蒼天の魔法使いレーナです」
受付の男が目を見開き、ギルド内がざわめき始めた。
「蒼天の……Aランクの……!? 本物か!?」
「じゃあ横のあの子が噂の猛獣使いか?」
「……猛獣使い?」
また、私のことを言っているらしい。
私は振り向いて猛獣使いとか言った男の冒険者を睨んだ。
「猛獣使いって誰かな?」
「え、でも噂で……」
「誰がそんなデタラメ流してんだ!!」
レーナが後ろでクスクス笑っているのを見て、私は少しだけイラッとした。
「くすくす笑うな!猛獣はお前のことだろ!お金の管理もできない暴食女!」
「はぁ?エレナが何か変な事したからそんな二つ名がついてるんじゃないの!人のせいにしないで下さいね、」
「なにをー!」
私とレーナがにらみ合って、ギルド内の空気が一気にざわついた。
「お、お二人とも……」
ランが慌てて私たちの間に入る。
「喧嘩はやめましょう!皆さん困ってるでしょ」
ランの一言に、私とレーナは渋々口をつぐんだ。
「……まぁいいわ。どうせ明日は私がチョチョイのチョイッてやるから」
「上等だ。明日は私が決めるからな」
そんなふうに言い合いながら、私たちはギルドを後にした。
明日は渓谷の吊り橋でゴーレム退治だ――。
読者の皆様、いつもありがとうございます。
草原を抜けて町に到着したエレナ達は、ドワーフ王国に行くために依頼を受けました。
ゴーレム退治、簡単に終わるのでしょうかーー!?
この話で、エピソード50話投稿となりました。
読者の皆様のおかげです。
次話は9/6曜日22時に公開予定です。
引き続き宜しくお願い致します。
エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。
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