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転生勇者と裏切りの聖女〜魔王討伐から始まるエレナの戦い〜  作者: WAKUTAKU
第5章 深き渓谷の国、ドワーフ王国
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その1 「戦いの跡と死者への想い」 

 バイエルン帝国の南城門を抜けた私たちは、まず東へ向かった。街道を進み、オアシスの街への分かれ道を過ぎると、やがて視界の先、砂漠のど真ん中に異様な光景が広がっていた。


 先日、レーナと獣人族の戦士団が激突した場所だ。


 砂は熱で溶け、巨大な黒い鏡のようにガラス化し、雷に焼かれた亀裂が縦横無尽に走っている。焦げた剣や槍、盾が突き刺さり、戦いの激しさを物語っていた。さらに、その一角には隕石でも落ちたかのような大穴が口を開け、今も水が溜まっている。


 「……レーナが、これを?」


 私は呆然とつぶやいた。


 「戦士団がレーナさんを怖がってたのって……」


 ランが苦笑しながら私を見る。


 「これだろうな……」


 肝心のレーナはといえば、馬車の荷台で無防備に熟睡していた。


 「普段はこんななのに、戦いになると別人だよな」


 「……戦闘狂ってやつですかね」


 穴の縁では、数人の作業員が土を掘り返していた。

 オアシスの街から派遣された作業員だろうか。

 私は馬車を止めて声をかけた。


 「おーい!これは何をしてるんだ?」


 「旅の人かい?」


 作業員の一人が顔を上げ、汗を拭った。


 「ここは先日、魔族と獣人族が戦った跡さ。あんたらが見てるその大穴、戦いのどさくさで出来たもんだ。どうやったらこんなのができるのかわからんけどな。でな、この穴から湧き水が出てるんだよ」


 「へぇ……」


 (魔族と戦った事になってるのか…)


 「オアシスの街の水が最近減ってきててな。だから、帝国からの依頼で、この穴とオアシスを繋ぐ水路を作ってるのさ。俺たちにとっちゃありがたいことだども、砂漠だから工事しにくいけど、なんとかしないとな」


 「なるほど、そういうことか。ありがとう!」


 私は彼らに手を振り、馬車を再び動かした。


 「ラン、これ……レーナがそこまで考えてやったと思うか?」


 「えぇぇ、私はそう思えません」


 「だよなぁ……」

 

 「むにゃむにゃ…その私のごはんたまらから…」


 (夢の中でも飯か…)


 戦いの激しさのせいだろうか、野生動物や魔物が近づくこともなさそうだ。


 私たちは整備された砂漠の街道を逸れて、深淵の森の東側を沿うようにして南東の渓谷方面へ向かう。ここからは草原のような場所となる。


 「そういえば、エレナさんはEランクから冒険者始めたんでしたよね?上に上がるのは苦労しました?」


 「うん?私の場合はレーナがコンビ組んでくれたからね。すぐに上に上がれたよ」

 

 ランは胸元のネームプレートを見つめ、感慨深そうに笑う。


 「私、冒険者になるとは思いませんでした」


 旅に出る前、ランはバイエルン帝国で冒険者登録を済ませた。色々な力が働き、彼女はCランクからのスタートだ。これでみんなで旅費を稼ぐことができる。ドワーフ王国には冒険者ギルドはないらしいから、到着するまでお金は大事にしたい。


 「レーナさんって本当に世界に数人しかいないAランク冒険者、蒼天の魔法使いなんですよね」


 「そうだね、二つ名"だけ"はかっこいいよね」


 Aランク冒険者は多くなく、恐らく両手で数えられる程度だ。レーナはそのうちの一人という事になる。


 彼女が蒼龍を撃退した時のパーティーにはAランクが三名いたという。だが、その戦いで生き残ったのはレーナただ一人だった。その功績でAランクに昇格したそうだ。


 Aランクに上がるために求められるのは、大きな功績だ。レーナのように蒼龍撃退、姉のレインはリレトの森の主を討伐、そんな感じだ。


 この世界には私も知らない脅威が多く存在する。


 魔王については、私(勇者)が現れるまで冒険者達が幾度となく挑んだそうだが、魔王は唯一のSランク。

 当時は、Aランク冒険者のみ受ける事が可能だったそうだ。最も私が現れて以降は、その依頼書は破棄されたらしい。


 私はランと馬車の運転を交代して、寝ているレーナを覗き込んだ。


 あの飄々とした態度の裏で、彼女は仲間全員を失って蒼龍を撃退したサバイバーなのだ。


 (聞いた事がないけど、仲間を全て失って、それでも戦う時の気持ちはどうだったのだろうか)


* * * * * 


 やがて砂漠から一面に草原が広がった。

 この先は私の生まれ故郷イグニス王国と魔王軍が激突した戦場跡でもあった。二年ほど前の戦いだ。


 魔王城からヒューマンの国の中で最も遠いイグニス王国だったが、私(勇者)を輩出した事から魔王軍に狙われた。


 荒れ果てた草原には魔素が溜まり、魔人や魔物、そして人族の死体までもが朽ちたまま残されている。

 恐らくアンデッドとなって彷徨っているだろう。


 広大な草原のため、必ず遭遇するとは限らない。

 もし見つけたなら――できれば丁重に葬ってやりたい。


 だが、私には光魔法の素質がない。


 「浄化なら任せてください。これでも光魔法は少しだけ使えます」


 ランがそう言い、レーナも頷いていた。


 「私も使えるわ。あんまり得意じゃないけどね」


 彼女たちの光魔法だけが、この草原に眠る者たちを救う手段だった。


 日が暮れる頃、大岩の下に野営地を作り、レーナが土魔法でかまくら状の部屋を作った。


 焚き火の明かりが揺れ、夜風が草原を渡っていく。

 見張りは三人で交代することに決め、最初の番はランが見張りを勤めてくれた。


 「それにしても馬車はお尻が痛くなるな。レーナは大丈夫か?」


 「……」


 何やらレーナから重苦しい雰囲気を感じる。


 (珍しいな…お腹でも壊したか?)

 

 レーナが口を開いた。


 「皇帝と話したこと、教えてあげるわ。ランにもあとでね」


 彼女の声は淡々としていたが、その奥に長い年月の重みがあった。


 前に聞いた話とは少し違っていたが、概ねはこうだ。


 両親は前皇帝カールとその取り巻きの策略に陥れられ、まず父親が行方不明になり、母親は彼を探すためカールのもとへ乗り込んだが、遺体となって北の平原で見つかった。

 彼女を殺害したのは、カール側の騎士団員がやった事で、その団員は既に捕え、ジーク皇帝は一生牢獄から出すつもりはないそうだ。

 レーナに処罰を任せたいと言われたそうだが、それは断ったらしい。


 別室に父母両家の祖父母が招かれており、会ってきたそうだ。初めて会った家族に戸惑ったけれど、「また会いましょう、もちろん貴方を育てた娘も一緒に…」と告げられ承諾したそうだ。母のお墓の場所も教えてもらったそうだ。


 それと、ジーク皇帝は当時のことを謝罪したが、レーナはまだ幼く両親の記憶はほとんどないから「気にしないで下さい」と伝えたそうだ。


 「それでも……知らなかったことが分かったのは、嬉しかったし、祖父母に会えてよかったわ。いろいろな話をしてくれた」


 焚き火の光に照らされた彼女の横顔から少し涙が流れたのを私は見逃さなかった。


 そして二つの事実が新たにわかった。

 ・父の遺体は最後まで見つからなかったこと。

 ・カール皇帝の即位に魔族が関わっていること。


 「……だから、あの場に居たゲールとかいう魔族、当時から関わってたんじゃないかしら……もう一度会って問いただすわ。必ず」


 レーナの瞳には、炎よりも強い光が宿っていた。


* * * * *


 翌日も移動に時間を費やし、交代で馬車の手綱を握った。


 その夜――月明かりがわずかに草原を照らしていた。お馴染みのかまくら式テントで見張りを置いて休もうとしたところ、遠くに、ふらつく影がいくつも見えた。ゆらり、ゆらりと不自然に揺れながら、こちらへ近づいてくる。


 やがて月光がその姿を照らしたとき、私は息をのんだ。


 かつてイグニス王国の騎士団だった者たち。

 今は意識を失い、ただ腐肉をまとった亡者となり果てたアンデッド五体がそこにいた


 「エレナさん、レーナさん、アンデッドです!」


 鎧は錆び、かつて白かったマントは泥と血で黒く染まっている。

 顔の皮膚は崩れ落ち、骨の見える頬からは膿のようなものが垂れていた。

 近づくにつれ、鼻をつく腐臭が夜風に流れ、思わず顔をしかめた。


 私は剣を構えた。

 だが――足が動かない。


 彼らは祖国を守るために戦った者たちだ。

 あの頃、私の家族を、領地を守ってくれていた騎士団の人達かもしれない。


 そんな思いが脳裏をよぎり、体が硬直してしまった。


 「エレナさん、下がってください!」


 ランが双剣を抜き、一直線に亡者たちへと駆け出した。刃が月光を反射し、銀の軌跡を描く。


 最初の一体の首が、音もなく宙を舞った。次の一体は胴を両断され、腐肉の体が地面に崩れ落ちた。


 亡者たちは呻き声をあげながらも、感情のない瞳でただ手を伸ばし続ける。


 倒れた骸に、レーナが杖を向けた。


 「女神アルカナよ。死せる者達に光の安らぎを与えたまえ…『浄化!』」


 浄化の光が地面を照らし、亡者たちの体は砂となって風に散っていった。


 「……エレナさんは、戦いにくいでしょうから」


 双剣を収めながらランが振り返った。


 レーナが肩をすくめる。


 「事前に決めてたのよ。エレナが迷ったら、私たちがやるってね」


 私は剣を下ろし、二人に頭を下げた。


 「……ありがとう。次は迷わないようにする」


 夜風が吹き抜け、草原は再び静けさを取り戻した。

 私はその場にひざまずき、手を合わせた。


 「どうか、安らかに眠ってくれ……」


 「エレナさん、そのポーズは?」


 ランが不思議そうに覗き込んできた。


 「あぁ、これは遥か東方にある国で使われていたらしい、死者を祈るポーズなんだ」


 (東方といっても……前世のことだけどね)


 「へぇ……そんな祈り方は知らなかったわ」


 レーナが目を細め、夜空を見上げる。


 「じゃあ、三人で祈りましょうか」


 私たちは肩を並べ、手を合わせた。

 月光の下、静かな祈りだけが草原に響いていた。


 「エレナさん、騎士団プレートどうしますか?」


 「そうだね、回収して五人分あればいいけど、無ければ小物を持って行こうか。」


 この世界の騎士団は、冒険者と同じでネームプレートを持っている。死んだ時にそれを持ち帰るためだ。

 私たちは五人分のプレートを探したが、一名分は見つからず、腕輪を持ち帰る事にした。


 「どこかの冒険者ギルドに渡して対応してもらおう」


 夜の戦いが終わり、私たちは休むことにした。

 レーナが土魔法で作ったかまくら式テント、丸い部屋は、三人が横になれるほどの広さがあった。


 外では風が草を揺らし、星空の下で焚き火が小さく燃えていた。


 見張りをしていると、あの亡者たちの顔が頭に思い出された。彼らはイグニス王国のために、魔族と戦った人達だ。中にはブレイジング領騎士団のマークが見えた。


 膝の上の剣を見つめながら、私は胸の奥に失われた故郷への想いが再び燃え始めるのを感じていた。


 「死者への想いか……」

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 ついに第5章開幕となります。

 ドワーフ王国を目指す中で、エレナやレーナは多くの思いについて考え悩みます。

 果たしてドワーフ王国ではどんなことが待ち受けているようでしょうかーー?

 

 次話は9/4曜日木曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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