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その19 「戦いのあと」

 獣神ヴォルグ、そして怪物となった皇帝との死闘から二週間が経過した。


 私とレーナは、ようやく体を動かせるほどに回復し、今日、バイエルン帝国の新皇帝から直々に勲章を授かることになった。

 そのため、今は式典用の正装に着替えながら、慌ただしく準備をしている。


 怪物皇帝との戦いの後、レーナが勝ち鬨を上げた直後に糸が切れたように私たちは倒れ、ガルグとランがクラウベルク伯爵邸まで運んでくれたらしい。


 冒険者ギルドから呼び寄せた魔法使いが回復魔法で私たちの怪我を癒してくれたが、疲れや魔力の使いすぎは深刻で、一週間近く眠り続けることになった。

 ランが甲斐甲斐しく看病してくれたおかげで、どうにか回復したが、その間にいくつか動きがあった。


 私たちが眠っている間に、皇弟ジークが国民に向けて大きな発表を行った。


・皇帝カール・フォン・バイエルンは怪物との戦いで戦死したこと。

・次代の皇帝は弟ジーク・フォン・バイエルンが継ぐこと。

・戴冠式は二週間後に行うこと。

・怪物討伐と両国の和平に貢献した勇者エレナ、蒼天の魔法使いレーナ、他二名に勲章を授けること。

・獣人族との戦争は魔族に仕組まれた罠であり、これを終結させること。

・勇者エレナへの嫌疑はすべて不問とすること。

・新たに「新生魔王軍」なる組織が魔族内で暗躍している可能性があること。


 皇帝はあくまで「戦死」として国民に説明された。 混乱を避け、皇弟が円滑に玉座につくための配慮だろう。


 さらに獣神ヴォルグは、皇弟と共に国民の前で戦争の終結を宣言し、帝国と獣人族は前々代皇帝の時代のように交易を再開すると決定した。

 二日後には皇弟自身が獣人族の都を訪れ、共に同じ発表を行ったという。


* * * * *


 私たちの体がようやく動くようになった頃、ランが私にあるお願いをしてきた。


 「エレナさん、私も……旅に同行させてもらえませんか?」


 ランは少し緊張した面持ちで、まっすぐに私を見ていた。


 「え?どうしたのラン?」


 「今回、エレナさんがいなければ両国の和解はあり得ませんでした。言葉だけじゃなくて、力も持っている……そんなエレナさんを見習いたいんです」


 真剣な眼差しに、私は少し驚かされた。


 「うーん……お父さんはなんて言ってる?」


 「父上は……これから説得します」


 「じゃあまずお父さんと話して許可をもらっておいで、私は来てくれるなら嬉しいよ。レーナにも話しておくね」


 ランの顔がぱっと明るくなった。

 「! そうします!」


 そう言って、ランは弾むような足取りで部屋を出ていった。


 ――その夜、ヴォルグとランは案の定少し言い争ったらしいが、最終的にはガルグが間に入り、旅への同行が認められたそうだ。


 「エレナさん!許可もらいました」


* * * * *


  皇弟ジーク・フォン・バイエルンは、貴族だけ集めて戴冠式を執り行った。

 この戴冠式は歴史上稀にみるほどの質素な式典となるらしい。

 すべては、国民の生活を立て直すため、余計な出費を控えたという事だ。


 「今後は、獣人族の都と共にバイエルン帝国は繁栄する。旧き時代に戻るのではなく、新たな未来を切り拓くのだ」


 その言葉には、若き皇帝の決意が込められていた。


 戴冠式の後、私(勇者エレナ)とレーナ、ラン、ユリウスに勲章が授けられた。


 七歳の身でありながら獣人族の都に赴き、和平への道を切り拓いたユリウスは、新皇帝ジークから直々に勲章を授けられた。


 クラウベルク夫妻はその場で号泣し、ユリウスを抱きしめる。あの時、彼を連れて行くと決めた私は……ちょっとだけ鼻が高い。


 その一方で、レーナが歴代皇帝に仕えてきた宮廷魔導士リステル伯爵家の令嬢であることが発覚し、皇帝ジークから伯爵の地位を戻すことを提案された。


 しかし彼女はきっぱりと首を振った。


 「陛下、私は生涯一魔法使いでいるつもりです。これ以上の称号は身に余ります」


 「そうか……残念だが仕方あるまい。ならばバイエルン帝国の『生涯宮廷魔法使い』の称号を与えよう。これは受けてもらうぞ?」


 レーナは少しだけ微笑み、恭しく一礼した。


 「はい。有難き幸せにございます」


 ……真面目なレーナは珍しい。アホ毛もおとなしいし。


 その夜は久しぶりの晩餐会となった。

 煌びやかなシャンデリアの下、長いテーブルに豪華な料理が並び、音楽と笑い声が響く。

 そして、料理は国民にも配られ、今日は国民総出でお祝いの日となった。


 レーナがあり得ない勢いでおかわりを重ねるたび、宮廷料理人たちは目を丸くしていた。


 宴も終わりに近づいた頃。


 ユリウスはランを人目の少ない庭園へと連れ出した。


 「ランさん……将来、僕と結婚してくれませんか」


 ランは一瞬目を丸くし――そして困ったように微笑んだ。


 「ありがとう、ユリウス。でも……私はこれからエレナたちと旅に出ますから、受けることはできません」


 ユリウスの肩がわずかに落ちる。だがランは続けた。


 「十五歳になる頃に……もしその時も気持ちが変わらなければ、その時にまたお願いします」


 幼い少年の瞳が、再び真剣な光を取り戻した。


 「……わかりました。絶対にもう一度伝えます!」


 小さな拳がぎゅっと握られ、夜風の中で強い決意が滲んでいた。


 そのやり取りを、私はレーナと一緒に物陰から見ていた。


 「やるじゃない、ユリウス」


 レーナはまだデザートをモグモグしながら、楽しそうに囁く。


 「でも振られちゃったなぁ……」


 そんな私たちの声に気づいたのか、ランが頬を赤らめてこちらを睨んでくる。


 「……全部見てたんですね」


 「ごめんごめん、ついね」


 レーナは悪びれもせず、終始楽しそうに笑っていた。最近何故かご機嫌なんだよね。


 「あはは!」


* * * * *


 勲章授与式から二日後ーー。


 獣神ヴォルグの頼みにより、私(勇者エレナ)とレーナ、ユリウスの三人は獣人族の都を訪れることになった。

 同行者はヴォルグ、クラウベルク伯爵夫妻、ラン、ガルグだ。


 都では歓迎式典が開かれ、バイエルン帝国との和平に尽力した功労者として私たちは迎えられた。


 夜はヴォルグの屋敷で、関係者だけのささやかな晩餐が開かれた。


 「レーナの母君はな、剣の腕が立った。若い頃、一度手合わせをしたことがある」


 ヴォルグが酒を片手に笑みを浮かべる。


 「結果は我の勝ちだったが……傷を負わされたのは誇りだ。あれほどの剣士はそうはいない」


 レーナは少しだけ目を伏せ、微笑んだ。 

 「そう……お母さんが……」


 ヴォルグの瞳には懐かしさが宿っていた。

 「我に傷をくれたのは母君と――それから勇者くらいだな」


 「獣神様、勇者を数に入れるのはやめた方がいいと思います」


 レーナが笑顔で突っ込む。


 (……)


 翌朝。


 ヴォルグとガルグ、そして屋敷の使用人たちの見送りを受けながら、私たちは帝都への帰路につくことになった。


 「エレナ、新生魔王軍との戦いには我も加勢するぞ。それと……ランを頼むぞ」


 「ちょっと父上! 私はもう子供じゃ――」


 「ラン、親はいつまで経っても子供が心配なものなんだよ。だが……ありがとうな。その時は頼むよ」


 私はランの言葉を遮って伝えた。


 ヴォルグは今度はレーナに視線を向けた。


 「レーナよ、両親は誇り高き宮廷魔導士と戦士だった。いつか……お前もその名を継いではどうだ?」


 レーナは肩をすくめる。


 「そうね、考えておくわ」


 クラウベルク夫妻にも挨拶があった。


 「クラウベルク伯爵とご婦人、この度は我が都のために尽力してくださり、感謝しかない」


 「ヴォルグ殿、これからも両国がうまく行くように頑張ろうではないか――それよりも、ユリウスとランの件はくれぐれもよろしく頼む」


 「むっ! 俺は娘を嫁にはやらんぞ!」


 先日の求婚の件は、もうバレバレだった。


 「「「レーナ様! どうかお気をつけて!」」」


 「はーい! あんたたちも頑張ってねー!」


 気づけばレーナは護衛隊や戦士団の面々に囲まれていた。

 しかし、その顔色は恐怖を感じているような雰囲気だった。


 「先日は大変失礼いたしました。どうかご容赦を……ラン様も、どうかお身体にお気をつけて」


 狐耳の執事ラングリードは、深く頭を下げながら詫びの言葉を口にした。


 「気にしないでください。立場上、仕方のないことですから」


 ランは静かに首を振り、逆に彼を気遣うように声を掛けた。


 「ラングリードこそ、体調に気をつけて」


 その瞳には光が滲み、言葉の最後は小さく震えていた。


 別れを惜しみながら――私たちは帝都への帰路についた。


* * * * *


 獣人族の都からクラウベルク邸に到着した日の翌日ーー。


 私はランとユリウスに頼んで髪の色を変えてもらうことにした。


 魔力で色を変え続けると、戦いの最中に集中力が落ちる――あの死闘で嫌というほど思い知った。

 それと白銀の髪のままでいると目立つからね。


 帝都では髪染め用の染料が普通に売られていて、メイドたちも手際よく手伝ってくれた。

 ランとユリウスは真剣な顔で私の髪を染めながら、少しだけ緊張しているように見えた。


 私は、女神の啓示を受ける前の――地毛に近い暗めの金髪に戻すことに決めた。


 これまで勇者の白銀の髪を隠すため、そしてブレイジング家の家族を思い出さないようにするために、敢えて茶色を選んでいた。


 だが幽霊でも幻でも、家族と再び会えた今、ようやくみんなを亡くした過去と折り合いをつけることができたのだ。


 「家族は、この胸の中で一緒なんだ……」


 髪を染め終え、鏡に映る自分の姿を見た瞬間、そこにはかつての母様の面影が重なり――私は思わず、少しだけ涙をこぼした。


 「え、エレナ……どうしたの?」


 隣で手伝っていたユリウスが驚いたように私を見上げる。


 「いや、なんでもないんだ…気にしないで…」


 言葉を選びながら答える私に、ユリウスは小さく息をついた。


 「エレナは……僕が知らない多くのことを、一人で乗り越えてきたんだなって思うよ。でも……僕も、ランも、みんなも、エレナのこと大事に思ってる。だから……泣かないで」


 その言葉に胸が温かくなる。私は目元を指で拭いながら、ユリウスに微笑んだ。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 帝都騒乱編も残すところ1話となりました。

 新しい旅立ちに乞うご期待下さい。


 次話は8/30土曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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