その18 「帝都に響く勝ち鬨」
やっと掴んだ――リサの情報。
こいつを倒して、必ず繋がりを吐かせる。
体内と魔素を一気に魔力へと変換し、それをすべて膂力変換魔法に叩き込む。血管が焼け付くような感覚とともに、力が全身を駆け巡った。
「絶対に吐かせてやる……!」
私は低く構え、地を蹴った。
* * * * *
「ねぇラン、もっと速く走れないの!」
「レーナさん…重い…」
「失礼ね!私は絶対に重たくなんてありません!」
「すまぬなラン……父は体が思うように動かん……」
「父上、大丈夫です」
「ガルグは間に合っただろうか…」
「ほら、早く!北区の方からやばい気配が」
「……わかりました!」
* * * * *
「やぁぁぁぁぁ!!」
私は空中に駆け上がり、叫びと共に剣を振り抜いた。
怪物皇帝の左腕が宙を舞い、黒い瘴気が血飛沫とともに噴き出す。
「グァァアワアアアアア!!」
咆哮が帝都全体を震わせる。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
胸が焼けるように熱く、耳の奥で心臓の鼓動だけが響く。
私はさらに一歩踏み込み――胸、肩、腰、次々と斬撃を浴びせた。
止めどなく、容赦なく。
それは戦いというよりも、もはや処刑に近かっただろう。
「……勇者…怖ぇぇ…」
「容赦ないな…」
「勇者様の戦いってこんななんだ…」
兵士や国民は私の戦いぶりに驚いているようだ。
怪物を一方的になぶる私に…
「エレナ、ストップ!」
レーナの声が耳に届かなかった。
私は斬りかかる腕を掴まれ、反射的に振り払おうとした。
「離せっ!!」
「エレナさん、やめて!」
ランが必死に私の体を押さえ、ヴォルグが私の前に立ち問いかけてきた。
「どうした?」
「エレナさん、正気に戻って!」
三人の顔が目に入った瞬間、私の体から一気に力が抜けた。
「……あっ……」
私は剣を下ろし、息を荒げながら呟いた。
「……ごめん……周りが見えなくなってた……」
巨体を切り刻まれた怪物皇帝は、地面に倒れ込んでいる。黒い瘴気が肩口や胸の裂け目から噴き出し、もはや立ち上がる力すら残っていない。
私は肩で荒い息をつきながら剣を握りしめていた。
「エレナ……らしくないわね。何かあったの?」
私は唇を噛みしめ、視線を怪物皇帝に向け答えた。
「……こいつが“聖女様”って言ったんだ。だから……頭に来て……吐かせてやろうって」
レーナの表情がわずかに険しくなる。
私は黙って頷いた。
「……姉さんの仇……」
レーナが小さく呟いて、怪物皇帝を睨みつけた。
「レーナさん?」
「いえ、ラン何でもないわ。エレナ、とりあえず聞きたいことを聞き出しましょう」
「……そうだな」
怪物皇帝の喉奥から、途切れ途切れ言葉が漏れた。
「……セ……イジョ……サマ……」
「聖女……リサのことか!?」
私は一歩踏み出し、怪物皇帝に剣を突きつけ怒鳴る。
「……ユウシャ…ミツ…コロ…セ……セイジョ……サマ……イッ…セ…イ…ノ…タ…」
「リサが命じたのか!?私を殺せと!」
「……ワレ……ハ……ヒカリ……ノ……セイジョサマニ……」
唇から黒い血が滴り、次の言葉が続かない。
「言え!! リサとお前の関係を吐け!!」
私の叫びに、怪物皇帝の口が再び開いた。
だが――
「…………」
怪物皇帝の巨体が崩れた。
黒い瘴気が音もなく霧散し、そこにはただ、醜く変貌した骸だけが残った。
私は剣を握り締めたまま、その場に立ち尽くした。
胸の奥で、心臓がうるさく鳴っていた。
(やっぱり……リサが黒幕なのか……)
空を見上げて、私はハッとした。
「レーナ、ごめん。私…やりすぎた」
「仕方ないわ。化け物に手加減なんて無理でしょ」
レーナは疲れ切った表情のまま、わずかに肩をすくめた。
「詳しいことは聞けなかったけど……やっぱり真実を知るには、遠いけど魔王城に行くのが一番早いのかもね。結果オーライよ」
「あぁ、そうだな」
私とレーナが話している横で、ランとヴォルグは黙って聞いていた。
ランはまだ緊張が抜けないのか、じっと怪物皇帝の骸を見つめている。
ヴォルグは腕を組み、深く息を吐いていた。
その時――
「おーい!ラーン!」
広場の入り口から、元気な声が響いた。
振り向くと、ユリウスが駆けてきていた。
息を切らしているが、その顔には安堵の色があった。
「あれ?エレナの髪色が違うくない?」
彼の到着で、広場の空気が少しだけ和らいだ。
ユリウスの後ろから、皇弟とクラウベルク伯爵が歩いてきた。
戦いの終わった広場には、まだ黒い瘴気の残り香が漂っている。
「勇者よ、見事だった。帝都を守ってくれて、そして、兄を楽にしてくれて感謝する」
皇弟が真っ直ぐに私を見てそう言った。
「いえ、私は……」
そう言いかけた瞬間、背後の路地から微かな気配が走った。
私とレーナは同時に振り向いた。
「レーナ!」
「わかってる!」
私とレーナは同時に魔法を放った。
「火炎弾!」
「ファイアボール!」
二つの炎が交差し、フードの男を直撃した。
爆炎が上がり、魔族は悲鳴を上げて地面を転がった ――かに見えた。
「服だけだ!?」
「どこに行った?」
私とレーナが警戒しながら周囲を見回した瞬間――
パチパチパチ……
乾いた拍手が広場に響き渡る。
「さすがは勇者様と蒼天の魔法使い様。見事なお手並みですな」
闇の中から現れたのは、仮面に真っ黒なスーツをまとい、高身長で青い髪の男だった。
「…あなた……」
レーナが何やら聞きたそうな感じだがーー
「お初にお目にかかります。新生魔王軍四魔将の一人、魔道博士ゲールと申します。どうぞお見知りおきを」
私とレーナ、ヴォルグ、ラン、ガルグが即座に警戒態勢に入る。
皇弟と貴族たちは私たちの背後に下がった。
「新生魔王軍…エルバラの仲間か!」
「おや、エルバラをご存じで?そう、彼女は私と同じ四魔将…同僚となります」
ゲールは楽しげに肩をすくめ、続けた。
「それにしても、ここに勇者エレナが現れたのは想定外でしたよ…計画が頓挫してしまいました。予定では、初代獣神の遺産を暴走させ、全て獣神の差し金という事にして、帝国と獣人族が争えば、互いに消耗し、我らにとっては好都合となる見込みでした」
「それは…人族の弱体化のためか!」
「いいえ、そんな単純な話ではありませんよ。すべては――彼の方のご意向です」
「……リサか」
「…リサ様…だ。痴れ者が」
ゲールの仮面が怒りのような顔つきとなった。
感情によって仮面の絵柄が変わるのだろうか。
「おっと、私とした事が…つい感情的になってしまいました」
レーナが一歩踏み出し、杖を構えた。
「そのリサ様は何を企んでいるわけ?」
ゲールは口の端をわずかに上げた。
「それは……まだ、口が裂けても申しません」
「じゃあ、力づくね」
私が飛びかかり、レーナが魔法で援護する。
「ライトニング!!」
稲妻がゲールを直撃し、私はそこへ斬りかかった――が、手応えはなかった。
「当たらない!?」
ゲールの姿が陽炎のように揺らぎ、空気に溶けるように消えていく。
「ふふふ……今日はこれまでにしておきましょう。
次に会う時は、もっと面白い舞台を――最高の舞台を用意しておきますよ」
ゲールの仮面が不気味に歪み、笑っているように見えた。
次の瞬間、黒い霧となって跡形もなく消え去った。
「くそっ……消えた!」
苛立ちを隠せずに剣を握りしめる私のもとへ、皇弟が近づいてきた。
「勇者よ、新生魔王軍とは…それに……あやつは一体何者なのだ?」
私はクラウ・ソラを下ろし、深く息を吐いた。
「私も詳しくはわかりません。ただ、かつて魔王が率いた魔王軍とは……どうやら別物のようです」
皇弟も、周囲の貴族たちも顔を曇らせる。
重苦しい沈黙が広場を覆ったが、ランの一言から少し明るさが取り戻された。
「エレナさん……本当にお疲れ様でした」
ランは頭を下げて労ってくれた。
「見事だ、勇者エレナよ」
ヴォルグは低い声で呟いた。
「…エレナが勇者?…えぇぇぇ!そうだったの!?」
ユリウスはものすごく驚いていた。
私は笑って彼の頭を撫でた。
そうしていると、クラウベルク伯爵がゆっくりと口を開いた。
「ま…まぁ、とりあえずエレナ達は我が屋敷に戻って休んではどうか?これでエレナの疑惑も晴れた。帝都に現れた化け物を――勇者と蒼天の魔法使い、そして獣神が共に倒したという構図が出来上がったのだ」
クラウベルク伯爵は一息つき、ゆっくりと続けた。
「そしてーーあなたが王になられる時がきました」
皇弟はしばし黙し、視線を落としたまま何かを考えているようだった。
「クラウベルクよ……しばし王位につくことはやめておこうと思う」
「どうしてですか?」
「兄が死に、国民にも少なからず被害が出ておる。私の戴冠式の前に……彼らを弔ってやらねばならん」
一瞬、広場が静まり返った。
死んだ皇帝とは違い、国民に目を向ける皇弟の言葉に、兵士たちも貴族たちも胸を打たれたのだ。
やがて兵士や貴族たちはひざまずき、皇弟に平伏した。
「勇者エレナよ」
皇弟は私に振り返った。
「戦いは勝った。国民が見ておる。勝ち鬨を上げてくれまいか」
(えっ……そういうの、苦手なんだよな。)
けれど――この場を締めるのは、確かに私しかいないなと軽く咳払いしたがーー
「勇者と蒼天の魔法使いと獣神が、怪物を討ち取ったわよ!!」
(はぁ??)
「おーーーー!!!」
兵士たちと国民の声が夜空に轟き渡り、帝都にようやく勝利の喜びが広がっていった。
「一度やってみたかったのよね」
レーナが疲れ切った顔でニヤリと笑っていた。
読者の皆様、いつもありがとうございます。
怪物となった皇帝を倒したはいいですが、
新生魔王軍四魔将の一人が現れ、何やら意味深な言葉を残しました。
あと2話で帝都騒乱編は終わりとなります。
次話は8/28木曜日22時に公開予定です。
引き続き宜しくお願い致します。
エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。
"感想".ブックマーク"お気に入り"もよろしくお願い致します。




