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その16 「親子の和解と皇帝の欲望」

 意識を失っていたヴォルグがゆっくりと目を開けた。

 視界に入ったのは、息子のガルグと娘のランだった。


 「「父上!」」


 「……俺は、気を失っていたのか……?」


 ヴォルグはゆっくりと体を起こそうとするが、力が入らず、ただ息を吐くしかなかった。


 「あぁ、ほんの少しの間だけだ」


 私は、死力を尽くし戦ったヴォルグに話しかける。


 「はは……気を失うなど、数十年ぶりだ……けほっ、けほっ……勇者エレナ、魔法使いレーナだったか。我を負かすヒューマンがいようとは……」


 ヴォルグが咳き込みながらもそう言う。


 「いや、私も傷だらけで疲れたよ…」


 「勇……いや、冒険者エレナよ」


 彼は、空を仰ぎながら続けた。


 「お前は強かった。剣の腕だけではなく仲間と共にというのは協力な武器だ。俺は……なんでも一人でやろうとして、結局、独りよがりになっていた」


 ヴォルグの拳が小さく震える。


 「……俺は……失くしてしまった。力だけを求め……大切な者を遠ざけてしまっていた。そして、初代獣神の遺産を盗まれ、頭にきた我は暴走してしまった…」


 私はその言葉を聞いて、前世の家族に会えない事、この世界の家族を亡くした事、少しだけ自分の境遇に似ているなと思った。


 「父上、我々護衛隊も同じだ。戦う事しか頭になかった」


 ガルグは申し訳なさそうに項垂れている。


 「父上!」


 突然、ランが前に出て叫んだ。


 「しっかりして下さい!まだ私も兄上姉上もいます。都にだって、父上を待つ人たちがいる。帝国とも和解して、また一からやり直しましょう。ここにいる皆さんが、協力してくれるそうです」


 「そうだ。我ら帝国の貴族も協力する。獣神ヴォルグよ、帝国貴族の我々は戦争を望んでいない」


 クラウベルク伯爵がヴォルグにそう伝えた。


 ヴォルグは驚いたように全員を見つめたが、すぐに疲れたように微笑む。


 「……だが、この体の感じ……俺は長く生き永らえられぬ。初代様の力は、この身に無理を生じさせるようだ」


 彼は、自らの死期が近いことを悟っているようだった。


 「獣神様……あの力は獣化魔法ですね?」


 レーナが一歩、前に進み出る。


 (……ん? 様って呼んだぞ?)


 「そうだ」


 「それなら……私が、獣神様の回復を手助けできると思います」


 「なに……?」


 ヴォルグだけでなく、全員が驚きの表情を浮かべた。


 「レーナ、大丈夫なのか?」


 「初代の姿になるのは獣化魔法……変化魔法を解くのと同じ要領だと思う。ただかなり力を使ってるから、そこに回復魔法を重ねる……だから大丈夫」


 レーナはヴォルグの胸に手を当て、目を閉じる。

 途端に、周囲の空気が震え、風もないのにレーナの青い髪が揺れた。


 「魔法使い、名を……もう一度、教えてくれまいか」


 「私は……レーナ・バンシュタルト。でも、子供の頃は、レーナ・フォン・リステル、という名前でした」


 「……っ!リステル……帝国の宮廷魔法使いの娘か?」


 レーナは答えず、瞼を閉じると、まばゆい光が彼女の全身を包み込んだ。

 光の粒が空気中に舞い上がり、集まってヴォルグの体に染み込んでいく。


 (…レーナが貴族……)


 ヴォルグの体から淡い光が生まれ、残った獣化の痕跡や戦いの傷が、見る見るうちに癒えていった。


 「……っ、はぁ……はぁ……」


 レーナは荒い息を吐きながらも、満足げに笑みを浮かべる。


 「これで……大丈夫…左腕も治りましたし、体力と傷も回復しました。ただし……ひと月は安静に、徐々に体を慣らしてください…」


 「おお……!」


 一同が息を呑む。


 「リステル家の娘よ……感謝する。お前の両親――特に宮廷魔導士だった父親とは、森の境界で何度か情報を交わしたことがある。立派な者たちだった……。レーナ・フォン・リステルよ。貴様の名は、生涯忘れまい」


 (……何か重大なことをヴォルグが口にしたぞ)


 「……ありがと……う……ござい……ます……エレナ……少し疲れた……ここで寝かせてもらうね…」


 レーナは力尽きるように倒れ、私は彼女を優しく抱き止めた。


 (今日は本当にお疲れ様。起きたら肉たくさん奢ってやるよ)


 「……クラウベルク伯爵、冒険者エレナよ……初代獣神の遺産……あれは危険な物だ」


 「その“遺産”とやらの行方は不明だ、探さねばなるまい……それと…我ら貴族には、ある考えがある。任せてもらえないだろうか」


 「……負けた俺が言うことはない。任せる」


 「ちなみに、遺産が危険ってのはどういう事だ?」


 「あぁ、あれは…初代様が討伐した化け物が封印されている」


 「化け物?」


 「深淵の森の主だったらしい。木の化け物としか言い伝えられてはいない。遺産を護るのが獣神の役目でもある。だからあの魔法具を使えば力は手に入るが、どうなるか我にもわからん」


 「なるほど、それは封印が解かれたら騒ぎになるな。じゃあ、私が探そう。ラン、レーナをお願い」


 ようやく全て片付いて和平が結ばれる――誰もがそう思った、その時だった。


 「クラウベルク!陛下が……陛下が居なくなった!」


 他の貴族たちが慌てて駆け込んできた。


 「なに!?避難したのではなかったのか?」


 「護衛につけた兵士が言うには、目を離した隙にいなくなったそうだ」


 「一体……どこへ……」


 「城の中を探しましょう」


 私がそう提案すると、伯爵や侯爵を含む一同で、皇帝の行方を探すことになった。


*****


 真っ暗な階段をひたすら降りていく。

 コツコツと、闇に吸い込まれる足音だけが響く。


 小さな蝋燭を持ってはいるが、炎は風もないのに揺らぎ、壁に奇妙な影を描いた。


 「……獣神が負けるとはな……」


 低くつぶやいた声が、闇に溶けた。


 「まさか勇者がここに来ていたとは…しかも……この動き。貴族どもは私を失脚させ、弟を皇帝に据えるつもりだろう」


 ぎり、と蝋燭を持つ手が震える。


 「やっと手に入れた玉座を……誰にも渡すものか。彼の方のために……元の予定が変わるが、あの“初代獣神の遺産”を使わねば」


 階段を下りきった先。冷気が押し寄せる地下で、皇帝は目的の祭壇にたどり着いた。


 そこには黒い瘴気を放つ遺物が鎮座している。


 「これさえあれば……勇者など恐れるに足らん。奴らを皆殺しにして、何食わぬ顔でまた玉座に座れば良い…」


 皇帝の目に、狂気じみた光が宿った。


*****


 クラウベルク伯爵がゆっくりと歩み寄り、その表情は戦いの直後の安堵を含みながらも、どこか決意を秘めていた。


 「エレナ……ひとつ、話しておかねばならぬことがある」


 伯爵は周囲に視線を走らせ、侯爵や他の貴族たちを見渡すと、重い口を開いた。


 「帝国と獣人族の未来を守るために……陛下を玉座から引き摺り下ろす。そして、皇弟殿下を新たな皇帝に据える。貴族の考えは、全員それで一致している。まだ先の予定だったが、これはチャンスかもしれん」


 貴族たちは皆、顔を曇らせていた。

 反逆の言葉であることを理解していながら、それが最も現実的な選択肢であることもまた承知しているからだ。


 「……なるほど」


 私は静かに頷いた。

 伯爵の瞳に一瞬だけ安堵の光が宿る。

 だがすぐに、その表情が険しく引き締まった。


 「だが問題は――陛下をどのようにして玉座から降ろすかだ。今のままでは国民も混乱しよう。そこで、エレナに協力してもらうかもしれん」


 「私が?どんな協――」


 そう言いかけた瞬間だった。


 ――ゴゴゴゴッ……!!


 大地が鳴動し、城全体が軋むように揺れ始めた。


 「な、なんだ!?」

 「地震か!?」


 爆発音が轟き、床が突き上げられるように跳ねた。


 遠くで兵士たちの悲鳴が混じり、火薬にも似た焦げ臭い匂いが鼻を突いた。


 「報告!」


 慌ただしく駆け込んできた兵が叫ぶ。


 「爆発は城の最北端、地下室から発生しました!」


 「地下室だと……?」


 伯爵の表情が凍りつく。


 「行きましょう!」


 私は声を張り上げ、クラウベルク伯爵、侯爵、兵たちと共に北の回廊を駆け抜けた。


 やがて、私たちは城の最北端へと辿り着いた。

地下へ続く階段口から、熱風と焦げたような異臭が吹き上げ、闇の奥から這い上がってくるような異様な圧に、誰もが息を呑んだ。


 「これは……」


 伯爵が呻くように呟いた、その時だった。


 ――ドンッ!!


 階段口が突如として内側から破砕され、轟音と共に黒い瘴気が吹き荒れた。

 崩れ落ちた石壁を突き破って現れた影に、兵たちが悲鳴を上げる。


 「ひっ……!」

 「な、なんだ、あれは!」


 煙の中から姿を現したのは、もはや“人”の形を捨てた存在だった。

 肥大化した右腕が地を抉り、背からは獣のような棘が幾本も伸び、裂けた口からは濁った咆哮が吐き出される。


 「……陛下……か……?」


 誰かが震える声で呟く。


 異形はぎょろりと血走った眼を光らせ、こちらを睨みつける。


 「オノれ……ウバわセハセヌ……ギョくザも、コノチカラも……!」


 苦悶と狂気の混じった声が、もはや怪物と化した皇帝の喉から絞り出される。


 伯爵が青ざめた顔で呻いた。


 「なんなんだこれは…」


 黒い瘴気が城壁を越え、外の中庭へ溢れ出していく。

 

 そして、その巨躯は天を仰ぎ咆哮した。


 「――ウォォォォアァァァァ!!」


 凄絶な咆哮が帝都全体に響き渡り、避難のため街の広場に集まっていた民衆もその姿を仰ぎ見た。

 誰もが恐怖と絶望の表情を浮かべる。


「ば……化け物だ!」

「あんな……あんな化け物が…国の中に…!」


 眼前に晒されたのは、帝国の象徴たる皇帝の、あまりにも醜悪な末路だった。


 私はクラウ・ソラの剣の柄を握りしめる。


 和平への道が見えたはず――

 だが、国を揺るがす、最大の脅威が姿を現した。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 権力に執着し、初代獣神の遺産を使い力を得た皇帝ですが、化け物へと変貌を遂げました。

 帝国と獣人族の未来はどうなるのでしょうかーー!?


 次話は8/23土曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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