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その14 「エレナ&レーナvs.獣神ヴォルグー終局」

 ヴォルグが咆哮し、大地が軋む。

 だが、その目には先程までのような余裕はない。

 次の戦闘が最終局面になるだろう。


 私とレーナが、そんな事をお互い感じ取っていたところへ乱入者が現れた。


 「父上!」


 土煙の中からヴォルグの前面へ駆け寄ったのはランだった。


 「ラン!」


 私が呼んでも、彼女は父親である獣神ヴォルグから目を逸らさなかった。

 小さな体を震わせながらも、彼女は勇敢にも父ーー獣神ヴォルグを睨み据えている。


 「その力は、初代獣神様が“種族が滅びる危機”にのみ代々の獣神に使えと遺したもの!それを、ヒューマンとの戦争で使うなんて……歴代の獣神様が許すはずがない!恥知らず!」


 ヴォルグの巨体がわずかに揺れる。だが次の瞬間、血走った目が娘を捉えた。


 「黙れぇ!この馬鹿娘が!どこへなりと出て行ったのではなかったのか!」


 ヴォルグの咆哮と共に振り下ろされた爪が、ランを直撃する。


  「――ッ!」


 細い体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。

 血が土を赤く染める。


 「一族の恥晒しめ」


 「ラン!!」


 私の胸を灼けつくような怒りが突き上げた。


 「……このぉ!」


 私は一歩踏み込み、クラウ・ソラを握り直した。


 「親が実の娘を手にかけ、何が獣神だ!!」


 私は叫び、踏み出した。

 ヴォルグに斬りかかり、爪と剣が再び火花を散らした。激しい衝撃に腕が痺れる。それでも退くわけにはいかない。

 ランを傷つけたその姿を前に、怒りが背を押した。


 私がヴォルグを抑えている中、レーナが倒れたランへ駆け寄る。


 「ラン、しっかりしなさい!」


 「レ…エ……さ…ん」


 「ちょっと待ちなさいね、《女神アルカナよ、この死の淵に立たされている我が友に神の祝福と奇跡を与えたまえ、女神の抱擁》」


 眩い癒光がランの体を包み、途絶えかけた命を必死に繋ぎとめる。


 その光景を見ていたガングが、やっと我を取り戻したように目を見開いた。


 「……ラン……!」


 震える足で地を蹴り、必死にランのもとへ駆け寄る。


 レーナの魔法の光が少しずつ和らいでいく。


 「ケホッ……ケホッ…レーナさん、ありがとう」


 「意識戻ったわね。エレナと私でお父さんを止めるから安心しなさい」


 レーナがランの額の血を拭い、ガングへと睨みを利かせる。


 「アンタはランを抱えて、ここから離れなさい!」


 「……っ、わ、わかった!」


 ガングはランを抱き抱えた。


 「すまん、妹よ。俺は何もできなかった」


 「…兄さん……」


 ガングは震える腕で妹を連れてレーナから離れた。


 エレナはヴォルグの猛攻を捌くので精一杯だった先程までと違い――不思議と動きについていけている。


(目が慣れたのか…いや…何か違う…)


 「やるじゃないか!少しずつ我の動きについてきておるな。もっと力を見せてみろ!」


 ヴォルグが鋭く吠え、爪を振るう。

 それでもヴォルグの攻撃で私の服が破け、体にも傷が入る。


 「くっ!」


 エレナは距離を取った。


 「ごめん、回復に手間取った」


 「お前、今日はずっと働き詰めだろ?魔力まだ使えるのか?」


 「正直、そろそろヤバいわね」


 レーナは今朝から護衛隊、戦士団の約三百人の相手と獣神との戦いをフォローしてくれている。

 流石のAランク冒険者でも疲労困憊になるだろう。


 「後は私がやる。終わったら回復よろしく」


 (何か掴めそうなんだ気がする。)


 更に上の力が出てきそうなそんな感覚。

 予感めいた気持ちの中で獣神と戦っている。

 

 「ねぇ、エレナ。染色の魔法解いちゃえば?」


 レーナはそんな私から何かを感じ取ったみたいだ。


 「え…でもこれやめると正体が……」


 「皇帝も兵士も居ないんだからいいじゃない!絶対そっちの方が戦いやすいわよ」


 ( 妙に食い下がるな…何が考えがあるのか…)


 レーナの頭を見つめるが、アホ毛はピンと跳ねてない。


 「わかった。レーナを信じるよ」


 私は左手で髪の毛を触り、染色魔法を解いた。

 髪にかけていた染色の魔法が少しずつ解けていく。

 茶色の髪が、女神アルカナと同じ月光のように輝く白銀へと戻った瞬間――戦場の空気が一変した。


 光がきらめき、戦場の埃の中で白銀が輝く。


 「お、お前はーー!?」


 「… 勇者エレナ…本物…?…」


 「…それでいいのよ」


 その場にいた全員が私を見て驚いている。

 ランが震える声を上げ、伯爵も侯爵も息を呑む。

勇者の象徴たるその髪色は、誰の目にも疑いようがなかった。


 「なるほど……勇者か。髪色一つで欺けるとは思わなんだ…気がつかぬものだ」


 ヴォルグの瞳が大きく見開かれ、獰猛な笑みを浮かべる。


 「あまり姿を晒したくないから、早く終わらせよう、獣神ヴォルグ」


 「良いだろう、我の相手として不足なし!」


 互いに距離を取り、私は剣を構えたまま動かない。

 勇者と獣神の視線が空中でぶつかり、周囲の空気が張り詰めていく。


 ――その静寂を破ったのは、崩れ落ちた石片が地面に落ちる乾いた音だった。


 カランッ――。


 次の瞬間、二人の影が同時に飛び出した。


 勇者の剣閃と獣神の爪が正面から激突し、金属と獣爪が火花を散らす。


 「はぁぁぁ!」


 「ウォォォォ!」

 

 咆哮と衝撃が重なり合い、地面を抉るような衝撃波が走る。火花と衝撃音だけが響く、バイエルン城の中庭。


 これまでは押され気味だったエレナだったが、その動きは次第に研ぎ澄まされ、獣神ヴォルグの猛攻をいなすどころか、逆に獣神の攻撃の隙を縫うように、斬り返すようになっていた。


 「なぜだ……先程までと動きが違いすぎる……!」


 防御したかと思えば反撃、防御したかと思えば反撃と単純な作業の繰り返しのような攻撃だが、確実に獣神の体に少しずつ傷がつき、ヴォルグの瞳に焦燥が走る。

 

 (…どうしたんだ私、ヴォルグの動きがよく見える。さっきまでと全然違う)


「…エレナさん、綺麗…」 

 

 ランは見惚れていた。


 振るわれたクラウ・ソラの軌跡が淡い水色の弧を描き、白銀の魔素が尾を引く。髪色と輝きが溶け合い、彼女の全身はまるで光で形作られた幻影のよう。


 「これが、エレナの本気…」


 獣神と斬り結ぶ姿は、力強さと同時に、どこか神々しささえ漂わせていた。


 「ゥゥウ、ヴォォォォォ!」


 ヴォルグは大地を揺るがすような大きな咆哮を上げた。


 「勇者よ灰となれぇぇぇ!」


 その喉奥から放たれたのは、紅蓮の火炎――大地を焼き尽くす程のブレスだった。

 炎は空気を焼き、私の周囲を光と熱で包み込む。


 自身の肉体の力のみで戦う事に固執していたヴォルグ。追い込まれてタガが外れたのか、炎のブレスを使ってきた。


 だが、私は一歩も退くつもりはない。


 「…そのブレスを斬り裂くっ!」


 魔力の籠ったクラウ・ソラが振り下ろされ、奔流の炎を真っ二つに断ち割った。


 「獣神ヴォルグ、これで終幕だ」


 まだ熱の残る裂けた炎の中を私は駆ける。


 一瞬ーー。

 ヴォルグがブレスを真っ二つに切られ驚愕するよりも早く、私の閃光の踏み込みがその左前足を深々と切り裂いた。


 鮮血が飛び散り、大地に重々しい音が響く。


 「ぐっ……!」


 巨体がよろめき、そのまま地面へと崩れ落ちる。

 巨腕で支えようとするが、切り裂かれた脚のせいで力を失い、立ち上がることも叶わない。


 それでも獣神の瞳には、獰猛さではなく確かな敬意が宿っていた。


 「……見事だ、勇者エレナよ」


 血を吐きながらも、ヴォルグは誇り高く顔を上げる。


「…我の敗北を認めよう」


 その言葉とともに、戦場に沈黙が訪れた。

 荒い息を吐くエレナの白銀の髪が、風に揺れて輝いていた。


 「エレナ、お疲れ様!」


 レーナが私に抱きついてきて、その体制のまま回復魔法をかけてくれた。


 「レーナもお疲れ様」


 私は、お返しにレーナを抱きしめた。


 ーー朦朧とする意識の中で、ヴォルグの脳裏に遠い過去の記憶がよみがえるーー。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 長きに渡る帝国での物語もそろそろ終幕となり、新たな物語へ進む頃合いとなりました。

 帝国騒乱編の最後をお楽しみください。

 

 次話は8/19火曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

 "感想".ブックマーク"お気に入り"もよろしくお願い致します。

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