表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/130

その13 「エレナ&レーナvs.獣神ヴォルグ」

 初代獣神の姿へと変貌を遂げた獣神ヴォルグ。

 その巨躯が放つ圧迫感は、帝国の豪華な中庭すら異界の戦場に変えてしまうほどだ。


 私は無意識に剣を握りしめ、横目でレーナを見る。 互いの顔に走る緊張の色は隠せない。


 その一方で、ガングは尻餅をつき、瞳を見開いたまま小刻みに震えていた。


 「エレナ!騎士達を陛下の避難先に誘導した!陛下も『遠慮なくやりたまえ』との仰せだ!これで何も気にせずやってくれ」


 駆け寄ってきたクラウベルク伯爵の背後には、バナード侯爵の姿もあった。

 私達が全力を出せる環境を作ってくれたようだ。


 「わかりました!お二人も避難されて下さい」


 「エレナ、回復ね……《女神アルカナよ、傷つき倒れた仲間を癒したまえ――癒光》」


 レーナの詠唱と共に、温かな光が私の全身を包み込む。痛みが薄れ、体の奥から力が戻ってくるのがわかる。


 「助かった、レーナ」


 「………」


 レーナは自分の手のひらを怪訝な顔つきで眺めている。


 「レーナ?」


 「あ……いつも通り、エレナが前衛、私が後衛でやりましょうか」


 「了解!」


 私は深く息を吸い、剣を握り直す。

 視線の先、獣神ヴォルグは唸りながらこちらを睨んでいた。


 「さあ、第二ラウンドだ!」


 「グオオオオォォォォンッ!!」


 獣神ヴォルグが牙を剥き、天を衝くような咆哮を放った。

 空気が震え、耳の奥にまで響くその声は、衝撃波のように全身に響いた。


 私とレーナは剣と杖を支えに耐え抜いた。


 咆哮が収まった瞬間、私は一気に息を吸い込み膂力変換魔法を発動し、重心を低く――踏み込んだ。


 ヴォルグの爪が迎え撃つ。

 火花が散る。

 重く、速く――さっきより一段、峻烈だ。

 連撃、さらに連撃。爪。刃。息。気配。

 互いの間合いが触れ合うたび、砂利が跳ね、石畳にひびが走る。


 (拮抗……いや――)


 手元から嫌な音がする。

 柄にヒビが入っていた。


 (剣がもたない…!)


 その瞬間、横合いからレーナの魔法が疾駆した。


 「《ストーンバレット》!」


 無数の土の弾がヴォルグを追尾し、左右から襲いかかる。私への攻撃を中断し、跳び退いてそれをかわす。弾は旋回して再び軌道を変え、動きを封じ込める。


 (ここだ!)


 私は割れた剣を捨て、距離を一気に詰める。

 右拳を握り締め、腹部めがけて全力で叩き込んだ。

 重い手応え――鎧のような皮膚の下に潜む柔らかな肉に、衝撃が沈み込む。


 「……ッ!」


 ヴォルグの吐息が荒く漏れた。


 これは通った――そう確信した瞬間、右腕の腕輪に魔力を貯め、淡い光を放ち始める。


 「顕現せよ――《クラウ・ソラ》!」


 光が形を成し、私の手には淡い水色の剣が握られていた。その神秘的な輝きに、ヴォルグの瞳が一瞬見開かれる。


 「はぁぁっ!」


 踏み込みと同時に、一閃。

 前左足を深々と裂き、鮮血が滴り落ちる。

 

 (クラウ・ソラはいつも通りだな)


 ヴォルグは少し後退り、私と目を合わせる。

 

 「貴様の膂力変換魔法に加えて、その剣は素晴らしいな。何故、最初から使わなかった?」


 ヴォルグが鋭い眼光を光らせ、低く問いかけてくる。


 「ちょっとね。使えない理由があるのさ」


 私はクラウ・ソラを構え直した。


 「そうか…」


 牙を剥き出し、ヴォルグがニヤついた。血を流してなお余裕を見せるその姿に、嫌な圧力を覚える。


 こういうタイプ……自信と力に裏打ちされた“王者の戦い方”、正面からまともに付き合えば、押し潰される。

 ーーできるだけ早く決着をつけなくては。


 「――《アイスランス》!」


 その時、後方から鋭い声が響いた。

 無数の氷槍が現れ、ヴォルグの周囲に幾重にも軌跡を描いて迫る。


 「ほう、魔法も見事だ」


 ヴォルグは口角を吊り上げた。


 「余裕ぶっこいてていいのかしら?」


 レーナが挑発気味に笑う。


 「《ファイアボール》!」


 アイスランスと同時に炎の塊も攻撃に使うつもりのようだ。


 「ふむ……だが、先程のような隙はもう見せんぞ」


 ヴォルグが地を抉って右に跳躍する。

 氷槍の群れが一斉に軌道を変え、ヴォルグを追いかけた。


 「いけ!!」


 レーナの瞳が青く輝いているように見えた。

 氷槍が矢の雨のように獣神を囲い込む。 

 私はその動きに合わせて駆け出し、ヴォルグの動きを読み切ろうと目を凝らす。


 隙を突く、その一瞬を決して逃さないために――。


 氷槍の群れをかいぐり獣神が、急に方向を変えた。

 狙いは私ではない――後衛のレーナだ。

 巨体が迫り、鋭い爪が振り下ろされる。


 「ガキィィィン!」


 レーナは自身の目の前に魔力障壁を展開し、ヴォルグの爪撃を受け止めた。

 轟音と共に衝撃が走るが、障壁はびくともしない。


 「三つの魔法!?」


 ヴォルグの眼が驚きに細められた。


 「あら、残念。そしてーー!」


 レーナは余裕の笑みを浮かべつつ左手を動かす。


 「グァァァァァ!」


 ファイアボールをヴォルグの背面に当てた。

 ヴォルグの毛皮が黒く焦げている。


 私は隙を逃さず、ヴォルグの死角へと踏み込む。

 一気に距離を詰め、懐に飛び込もうとした……が、すぐさま反転し、私から距離を取った。


 私の狙い澄ました剣閃は虚しく空を切った。

 

 「レーナ、大丈夫か?」


 「えぇ、問題ないわ」


 ヴォルグは獣のように息を荒げながら、2人を睨みつけた。


 「それで…何か作戦ある?」


 「そうねぇ……エレナが私の盾になって、全力で庇ってくれれば、魔法で攻撃して倒せるんじゃない?」


 「……そんな作戦、本当にやるのか?」


 呆れたように呟くと、2人の間に沈黙が流れる。


 「……じゃあエレナが考えてよ」


 「……レーナの魔法で足を止めて、その隙を私が狙って攻撃していく……これでどう?」


 「ぷっふふ、さっきまでと同じね」


 私とレーナの間に一瞬の落ち着いた空間ができた。


 「私に考えがあるから、行ってきて!」


 レーナが私の背中を ドンッ と叩いた。

 ――その瞬間、私は飛び出した!


 レーナは杖を地面に突き刺し、両手を広げる。

 私が飛び出した先にいるヴォルグも私目掛けて飛び出している。


 しかしーーヴォルグの目の前に魔力障壁が展開されぶつかった。

 

 「っ……また、魔力障壁か!?」


 「目に見えない壁は厄介でしょ!」


 ヴォルグは魔力障壁で身動きができなくなった。

 エレナは障壁の隙間を縫うように攻撃する。


 ザシュッ!


 その瞬間――ヴォルグの右前足から血飛沫が上がって宙を舞った。


 「グワァァァァ!!!」


 悲鳴が戦場に響く。

 先ほどより深く刃が通った。


 透明な魔力障壁。

 だが――私にはそれが色のついた壁のように見えていた。


 (……そういうことか!)


 背中を叩かれた瞬間、レーナが私の目に 魔法を仕込んだ。色のついた魔力障壁の位置がはっきりと見えている。


 (だから、隙間を狙えた……!)


 攻撃の手は緩めない。

 ヴォルグは体勢を立て直すため、後方へ逃げようとする。


 「まだまだ!」


 逃げるヴォルグの脇腹を、斬撃で切り裂いた!


 ザシュッ!!


 「グワァッ!」


 ヴォルグが苦悶の叫びを上げた。

 魔力障壁のお陰で、大きな隙が生まれた。


 レーナの瞳が、鋭く輝いた。


 「視界に映らず、臭いもしない、魔力障壁ってこういう使い方もあるのよ」


 レーナが腕を振るうと、ヴォルグの身体が魔力障壁ごと吹っ飛び――その吹っ飛んだ先で私は拳を握りしめ待ち構えていた。


 「ふん!」


 右拳が唸る。

 ヴォルグの顔面に、真正面から叩き込まれた。


「グアァッ!!!」


 ドゴォォォォン!

 

 巨体が吹っ飛び、壁が崩れてしまった。

 

 「さっき、エレナが『第二ラウンド』って言ってたわね?でも残念、最終ラウンドだったわね」


 私とレーナはゆっくりと歩き隣り合うように並び立ち構えた。


 「さぁ、そろそろ終幕だ」

 「さぁ、そろそろ終幕ね」


 瓦礫まみれで倒れ込んでいる獣神ヴォルグが目を見開いて私たちを見ている。それは怒りの表情だ。


 ヴォルグの前足から滴る血が石畳を濡らす。だが、その双眸からはなおも凶暴な光が消えてはいなかった。


 「ぐぅ……ふはは……まだだ、小娘ども!」


 巨躯が揺れ、ヴォルグの鬣が逆立つ。

 瓦礫を物ともせず、這いずり出てきた。

 大地を踏み鳴らすたび、衝撃波が石畳を割り、空気が震えた。


 私は剣を構え直し、隣ではレーナが魔法の準備をしている。


「エレナ、気をつけて」


「わかってる」


 二人の影が並び、獣神ヴォルグと対峙する。

 気がつくともう太陽は傾きかけていた。

 風が戦場を吹き抜け、張りつめた静寂の中、次の瞬間に訪れる嵐を予感させていた。


 ――決着は、次の一撃から始まる。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 お盆休み期間中に毎日更新させて頂きました。

 来週から通常通り、火曜木曜土曜の更新とさせて頂きます。

 次話は8/17日曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

 "感想".ブックマーク"お気に入り"もよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ