その6 「エレナvs.レーナ」
もう、言葉は届かない。
伝えたいことーーそれは、彼女のすべてを真正面から受け止めてからだ。
「フロストブレード!」
私がそう決意した――その瞬間、レーナが魔法を放ってきた!
「!!」
一瞬だった――数本の氷の刃が鋭い風切り音を立てて放たれる。
咄嗟に身をひねったが、裾が裂け、肌をかすめた冷気が焼けつくほど冷たかった。
剣を構える間もなく、次の魔法が襲いかかる。
地面がうねり、三方から土が隆起して私を囲い込んだ。壁――いや、牢だ。
この密閉された空間へ、レーナは特大のファイアボールを放つ。
着弾と同時に蓋をするつもりかーー!?
熱が渦を巻き、空気が焼ける。
蒸し焼きにする気か――!
「くっ……!」
私は左手に魔力を集中させ、得意の火炎弾で相殺を狙う。炎と炎が激突し、爆風が土の壁を吹き飛ばす。
瓦礫の中を跳躍して抜け出した――その瞬間、軌道を変えながら追尾してくる氷の刃が迫る。
(魔法が速いな……!)
私は空中で、ひと振り、ふた振り。
氷の刃を斬り払ったところで、着地した。
「ちっ…腐っても勇者ね。これで仕留められなかった魔人や魔物はいないのに」
レーナは背中に背負っていた杖を、目の前の地面に刺した。姉のレインも同じような行動をしていた。
レーナが杖を構えたその一瞬だけ、私が知るレインの面影が重なる。胸が締めつけられる。
「アイシクルレイン!!」
氷の刃が雨のように、身構えた私の頭上に降り注ぐ。
ズザザザザザザザザ!!
「がはっ」
避けられなかった。
氷の刃は、私の肩や腕、背中に刺さる。
こんな一瞬でこれだけの物量を作り出せるーーそんな魔法使いは見た事がない。
鋭い痛みが走る。
それでも彼女の全てを受けると決めた私は、剣を握る手を緩めるわけにはいかなかった。
「その怪我だともう逃げ回れないわね」
レーナは得意げに、さも、とどめでも刺そうという雰囲気だ。
侮ってはいなかった。
でも彼女がこんな魔法の使い手だったとは思いもしなかった。
「さぁ、死ぬ前に教えて。何故、私の姉レインを殺したの」
レーナは目を見開いて、私に問いかける。
「……たし………な……」
「は?聞こえないんですけど?」
「レインを殺したのは私じゃない」
「だったら誰が殺したって言うのよ!」
「それは……リサ……あの光の聖女だ」
一瞬、レーナの表情が揺れた。
だが次の瞬間、瞳が憎悪に染まる。
「嘘つき……光の聖女様がそんなこと、するはずないわっ!」
彼女が杖に右手を添え、左手を空に掲げると、風が渦を巻き、炎が重なる。
「これでサヨナラよ!」
風が燃える。
轟々と燃え盛る炎の竜巻が、大地を削りながらこちらへ迫ってくる。
「っ……どこかで見たことある光景だな」
(今の怪我じゃ避けきれないーーどうする!?)
ゴォォォォォォォォ!!
炎の竜巻に飲み込まれた。
だがーーー!
身体中に魔力を巡らせ、体に力がみなぎる。
得意とする膂力変換魔法を解放する。
「はあああああっ!」
魔王を倒した時と同じ、私の渾身の魔法剣を使う。
思いっきり振りかぶり、竜巻を縦に切った。
炎が裂け、竜巻が断たれる。
鋼の剣がバキリと音を立てて砕け散った。
「ーーっ!まさか……」
「…残念…あれで私が終わると思った?」
「…まだ…まだよ。」
レーナは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
*****
簡単に終わるとは思っていなかった。
向き合っているあの人は、魔王を倒した勇者。
強いとは思っていたけれど、勇者エレナがここまでやるとは思いもしなかったのも事実。
蒼龍を撃退した私の魔法を叩き込んでるのに致命傷を負わす事ができない。
*****
「……なら…これはどうかしら!!」
怒りと悲しみが混じった叫びと同時に、レーナの魔力が先ほどよりも濃密なうねりとなり、大気を振るわせていた。
「テンペスタス」
空気がひび割れ、肌を刺すような緊張感が周囲に広がる。青白い光と紫電が交錯しながら渦を巻く。
「炎の竜巻だけじゃ足りないなら……これでどう!?」
風が荒れ狂い、空が黒く染まる。
黒雲の中から、幾本もの稲妻が大地を照らし、氷の欠片が雪嵐のように舞い上がる。
私を中心として、無数の氷柱が地面から突き出し、その先端を稲妻が走る――氷と雷が絡み合い、凶器と化していく。
「天候を操る魔法……」
その光景に、私は戦慄する。
姉のレインもこんな魔法は使っていなかった。
私は急ぎ、クラウ・ソラを顕現させた。
蒼白い刀身が音を立てるように現れる。
この剣を持つと何故か冷静になる自分がいる。
(……これがレーナの全力か。なら、私も覚悟を決めて受け止める!)
稲妻が地を裂き、冷気が私の周囲を囲む。
一歩でも気を抜けば、やられる。
私は深く息を吸い込み、クラウ・ソラを構え直した。
「いくわよ――アイスライトニング!」
レーナの叫びと共に、天と地がつながった。
白と青の閃光が雨のように鳴り出すと、天空から氷の柱が私の周囲に降り注ぐ。氷の柱には雷が纏わせてある。
氷の柱を避雷針代わりに雷が降り注ぎ、エネルギーが溜まる。耳をつんざく轟音。
溜まった雷のエネルギーが四方八方から私めがけて襲いかかる。
「はぁぁっ!」
私の周囲を剣で横薙ぎに振るい、迫る雷を斬り裂いていく。膂力変換魔法を使った私は、動体視力も向上し、このクラウ・ソラは魔法耐性がある剣、それでなんとか切り伏せられている。
だがーー雷の二撃目が私めがけて襲いかかる。
あの氷の柱をどうにかしないと、これが続くのかもしれない。二撃目の雷を振り払い、
刃で稲妻を弾くたび、光の残滓が散った。
(手が痺れて剣を握るのが辛い)
でも、一瞬の隙も許されない。
三撃目、四撃目と続く。
*****
雷撃を放ちながらも、私は少し迷っている。
(……あの人……本当に……姉さんを……?)
すぐに表情を引き締め、再び攻撃に入る。
「迷うな……私は……仇を討つのよ!」
*****
(氷の柱をなんとかしなければ…!)
魔法使いとの戦いは、近づいて倒すが定石。
七撃目を凌いだあたりで爆風が巻き起こり、舞い上がる土煙の中を私はレーナめがけて走り出す。
私とレーナの視線が交錯するが、土煙でそれは一瞬だった。
「柱を壊そうって魂胆でしょう、けど!」
レーナの近くの柱を二本壊そうとした瞬間ーー。
空の雲から大きな雷が1発、私に降り注いだ。
私はクラウ・ソラで塞いだが、受けた部分が黒くなっている。
「っ……どれだけ高電圧なんだ……」
私は、その威力に冷や汗をかいた。
「その剣、邪魔ね…」
空からの追撃が放たれる。
私は、辛うじて避け氷の柱目掛けて走り出す。
一か八か。
「ーー火炎弾!」
左手からレーナ目掛けて火炎弾を放った。
「ウォーターボール!」
火炎弾とレーナが放ったウォーターボールの相打ちで煙が登る。
そこを私は逃さなかった。
煙で前が見えないが、そのまま突っ込む。
「はっ!」
氷の柱を二本破壊し、雷の威力が落ちたように思えた。
恐らく起点になっているのは杖。
私は杖を破壊しようとクラウ・ソラを振り下ろした。
――ガギィィン!!
衝撃が腕に走り、刃が弾かれた。
目の前に、淡い光を帯びた壁が出現している。
「これは……魔力障壁!?」
「フフッ、やっぱりそこを狙ってくると思ったわ」
腕に痺れを感じながら、私は一歩後ずさった。
(しまった……読まれてる……!)
「貴方の狙いなんて想像通りよ!」
完全に動きを読まれていたようだ。
(ーーどうする!?)
読者の皆様、いつもありがとうございます。
エレナとレーナの戦いも佳境に入りました。
彼女を説得する事がエレナにできるのでしょうか!?
次話は続けて公開しております。
引き続き宜しくお願い致します。
エレナを暖かく見守って頂けますと幸いです。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。
"感想".ブックマーク"お気に入り"もよろしくお願い致します。




