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その5 「ー交錯する想いー 」

 幼い私たちには、両親の記憶はほとんどない。

 ただ、暖かな手のぬくもりや、ほんの一瞬聞いたような声の響きだけが、かすかに胸の奥に残っていた。


 父はバイエルン帝国の宮廷魔導士として仕え、母はその帝都に名を連ねる大貴族の家に生まれた令嬢だった。


 「貴方達の父さんと母さんはね、誇り高い貴族だったけれど、誰よりも優しい人達だったよ。他民族からも慕われて、出奔した私の事も気にかけてくれて…」


 叔母は時折、そんな風に語ってくれた。

 あの人は昔の事を話すとき、どこか遠くを見るような目になる。

 それが本当かどうかなんて、確かめようもないけれど――私は、両親が誇り高い人達だったと信じた。


 父の一族は代々、皇帝に仕える魔導士の名門だったが、その栄光は父の代で潰えることになる。


 先代皇帝に忠誠を誓っていた父は、ある日、帝都で命を落とした。母もその数日後、忽然と姿を消した。

 次代の皇帝とその派閥による政争に巻き込まれた――そう噂されたが、真実は闇の中。


 叔母が言うには、「簡単に負けるような人じゃないから、誰かに陥れられたのだろう」と話していた。


 私たちは、先代皇帝の哀れみによって、忠臣の手で辺境のギアナ村に逃された。

 叔母ーー母の姉がそこにいたからだ。

 護衛の騎士は村に到着してまもなく病に倒れ、帰らぬ人となったらしい。


 一緒に暮らし出した叔母も、かつては貴族だった。

 でも、冒険者になりたくて、その身分を自分から捨てた人だ。

 今はギアナ村の片隅で、たまに冒険者として依頼を受けつつ、ひっそりと暮らしている。

 この村には、冒険者や冒険者だった人達が多く住んでいるらしい。身分を隠して生きるには、ちょうどいい場所だった。


 「大貴族の長女なら、もっといい暮らしができたんじゃない?」

 そんなふうに私が尋ねたことがあった。

 すると叔母は、こう言った。


 「お金にも、親の愛にも困ってなかったね。でも、知らない男のところにおとなしく嫁ぐなんて、私には無理だった」


 十四の時に家を飛び出して冒険者になり、二十歳の頃に仲間の冒険者と恋に落ち、結婚したそうだ。


 バンシュタルト――それが、叔母の結婚相手の姓だった。

 彼はもうこの世にいないけれど、姉と私は、その名を借りて、この村で新しい生活を始めた。


 私達と暮らしだした頃、叔母は生活のために冒険者として各地を巡っていたが、ある依頼で足を痛め、それ以来村から出ることはできなくなった。

 けれど、彼女の知識と魔法の技術は本物だった。


 「生きるための力にしなさい」――そう言って、私たち姉妹に魔法を教えてくれた。


 姉のレインは、幼いながらも才能に満ちていた。十二歳で冒険者に登録し、叔母と私の生活費を稼ぐために、一人出稼ぎを始めた。


 私は村に残り、魔法を学びながら、姉の背中を見送る日々。敵わないと分かっていても、少しでも近づきたかった。


 姉はいつも優しかった。帰郷するたび、私の頭を撫でて、「元気にしてた?」と穏やかに微笑んでくれた。旅先の話をする時の姉の目は、宝石のように輝いていた。


 私が初めてファイアボールを出せた時も、跳ねるように喜んで、抱きしめてくれた。

 「すごい、レーナは才能あるよ!」

 その言葉が、どれほど嬉しかったか、今でも胸が熱くなる。

 

 数年経ち、Bランクに昇格した直後、姉は『女神の啓示は受けない。このまま冒険者として生きる』という言葉を残し、姿を消した。


 私は「置いていかれた」とは思わなかった。

 私も女神の啓示には不満がある。

 神が人の運命を勝手に決めるのはおかしいのではないかと……もちろん他人には言えない。

 だから私もこの村を出て行くために魔法の修行に励んだ。


 そんな折、姉から手紙が届いた。


 ――勇者様と一緒に旅に出ることになった。


 私は、心から喜んだ。

 姉が、この世界を救う旅に選ばれたのだと。


 その後、村に訪れた吟遊詩人が語った、勇者一行の武勇伝。その中に、姉の姿が登場した。

 語られる物語の中の姉は、まるで光のように美しく輝いていた。


 私は誇らしかった。ただ、誇らしかった。


 私も姉に遅れ十三歳で冒険者となった。Cランクとなった頃に、有名なパーティーの試験を受け合格し、気づけば私もAランクに昇級していた。


 そして三年後、蒼龍を撃退した功績もあり、私は「蒼天の魔法使い」という二つ名で呼ばれるようになった。


 ようやく姉の背中に手が届いたと思えた。

 もう少しで、肩を並べて歩ける気がした。

 強くて、優しくて、誰よりも眩しかった――私の姉


 ……でも。


 蒼龍撃退の後、休暇で村に戻ったときだった。


 帝国の騎士がやって来て、信じられない言葉を叔母と私に告げた。


「国家転覆を企てた勇者エレナが、仲間を皆殺しにした」 姉も……その中にいたという。


 ――あの姉が?


 私の、大好きだった姉が?


 信じられなかった。


 私は絶望した。


 怒り、悲しみ、そして――迷い。

 様々な感情が消える事なく、私の中に渦巻いている。


 そしてーー目の前に姉を殺した仇、勇者エレナが立っている。


 伝え聞く限り、勇者エレナは優しい女性だったと聞いている。

 あの目は、人を裏切る目には見えない。


 でも……私は、姉の仇を討ちたい。


 絶対に許せない。



*****



  レインに妹がいるとは、聞いていた。


 涙を流すレーナを前にして、エレナは拳を握りしめていた。


(…やっぱり……)


 かつて旅を共にした仲間、魔法使いレイン。

 彼女はよく、妹のことを話していた。


 「妹はね、私が何日もかかって覚えた魔法を、たった一日で覚えちゃうの。ほんと、才能の塊なのよ。だから私、女神の啓示どうこうよりも悔しくなって村を出たのかもしれないな……」


 そう言って、はにかむように笑っていた顔が、ふと思い出される。


 目の前の少女――いや、もう少女ではない。

 立派な魔法使いとなった彼女がレインの妹のレーナ。


 「妹はギアナ村に住んでいる」とレインから聞いていた。

 だから私は、商人の街に立ち寄って、旅費を稼いでから村を訪ねる予定だった。

 親友の妹に真実を伝えるつもりで……


 レインは、紛れもない私の親友だった。

 ほとんどの人は、勇者の私を少しだけ腫れ物のように扱うし遠慮や距離がある。

 けれど、レインだけは、対等に接してくれた。

 同年代の女友達のように……


 レーナと最初に会った時は気が付かなかった。

 だが、彼女がAランクの冒険者で姉もAランク冒険者と知った時、さらにオーク討伐中の魔法の援護――あの感覚。共に戦っていたあの頃を思い出させるような、ぴたりと噛み合う呼吸だった。


 昨日の夢といい――その懐かしさが、かえって胸を強く締め付けた。


 今はもう戻れない、あの日々への郷愁が、痛みとしてこみ上げてくる。


 少しだけ、願ってしまった。

 このまま誤解なく、真実を届けたいと……


 でも、それは淡い夢にすぎなかった。


 今、レーナは私を仇として、涙を流している。


 「姉の仇……」


 私はレインを殺してないとはいえ、世間では私が犯人とされている。

 覚悟はあったはずなのに…少し悲しかった。


 彼女の叫びが、あの涙が胸に突き刺さる。


 私は……この子の心を、全部受け止めなきゃいけない。


 例え、どんなに拒まれても――真実を、必ず伝えてみせる。

 お読み頂き、ありがとうございます。

 エレナとレーナ、二人の想いは交錯してしまい、戦う運命となってしまいます。

 果たして、どのような決着となるのかーーー!?

 

 次話は7/26土曜日に2話連続公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナを暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

 "感想".ブックマーク"お気に入り"もよろしくお願い致します。

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