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その4 「魔法使いの妹」

 食事が終わり、私たちは冒険者ギルドへと向かった。

 報告には私とエレナちゃんの二人で向かい、レーナは外で待つ事になった。


 受付に報告を済ませ、討伐したファングウルフの素材換金と依頼の報酬を受け取り、依頼終了の証明書をエレナちゃんが受け取ってギルドを出ると、レーナが木陰にもたれて待っていた。


 「お疲れさま。無事終わった?」


 「うん。じゃあエレナちゃんを診療所に送ろうか」


 そのまま三人で診療所へ向かい、玄関ではエレナちゃんのお父さんが迎えてくれた。


 「今日は本当に助かりました。娘のこと、ありがとうございました」


 「いえいえ、こちらこそ楽しかったです」


 「お姉ちゃん達、またねーバイバーイ!」


 挨拶を交わして私たちは診療所を後にした。

 通りを歩きながら、レーナと私は並んで歩いた。

 エレナちゃんがいなくなって、少しだけ気まずい雰囲気が流れていた。


 「ねえ、エレナ。旅費を稼ぐためにこの街にしばらくいるんでしょ?」


 沈黙を破ったのはレーナの方だった。


 「うん。最低でも旅の準備と銀貨百枚くらいは……」


 「それなら、明日から一緒に依頼受けてみない?私はAランクだから、すぐに稼げると思うわ」


 「えっ……ほんとに?いいの?私、まだEランクだし、そんなに強くないよ?」


 「あのパンチ見たら弱いなんて思えないし、もう少し上のランクを一人でも受けられるくらい力があるんでしょ? あいつらたぶんCランクくらいの冒険者よ。それに、あの子を助けてくれたあなたが悪い人だとは思えないもの」


 レーナは空を見上げ、少し皮肉っぽく笑った。


 「あんな風に、指名手配されている人とただ名前が同じってだけで子どもをいじめる大人がいる。情けないわよね……私、そういうの嫌いなの。だから、これは私からのお礼よ」


 私は小さく息を呑んだ。


 「それに……私もそろそろ依頼を受けないと、ランクが下がっちゃうから」


 「下がる事なんてあるの?」


 「ええ。一年間依頼を受けなかったら、どんなランクでも自動的に一段階下がるの」


 「じゃあ、維持のためってことか」


 「ううん。私は別に、肩書きにはこだわってない。ただ──それが“役に立つ”ときがあるから。たとえば、さっきみたいにね」


 レーナは、ため息をつきながら、そんな話をしてくれた。


 彼女とは明日の一つ鐘が鳴った後に、冒険者ギルドで落ち合う約束をして別れた。


 レーナと別れた後、私はまず武器屋に立ち寄り、それほど高くない鋼の魔法剣を一本購入した。膂力変換魔法を使わなければ、これくらいの剣でちょうどいい。ピンチになったら殴れば何とかなる──そう思えるだけで、気持ちに余裕ができる。


 次に道具屋で毒消し薬や最低限の回復薬を買い足し、夕食は、昼間のお店で甘すぎるが懐かしいコーラとたこ焼きのような物が売っていたので持ち帰る事にした。


 宿に着いてからは、湯を借りてゆっくりと体を洗い、部屋で一人夕飯を食べた。たこ焼きにはタコが入ってなくて、鶏肉だったのが残念だった。


 「タコってこの世界では食べられないのかな…」


 夕飯後、剣の手入れをして、明日の装備を整える。

 ひと通りの準備が終わると、私はベッドに潜り込んだ。布団の温もりが安心感を与えてくれるのは、前世でもこの世界でも一緒だなと感じる。


 寝る前に、ふと考えた。


 (このまま何事もなく、レーナと依頼をこなして……それで終わればいいんだけど)


 そんな淡い願いを胸に、私は瞼を閉じた。

 

 ──久々に夢を見た。

 魔王討伐の旅の途中で、魔法使いレインと喧嘩になった事があった。髪の毛の掴み合いになり、それを止める仲間達。理由はもう忘れてしまったが、勇者の私と対等に喧嘩してきたのは、彼女だけだった。

 それが少しだけ嬉しくて、彼女をよく揶揄ったりしてたっけな。


 ──翌朝。

 懐かしさで少し気分が落ちていた私は、宿屋で一つ鐘を聞いた後に冒険者ギルドへと向かった。人通りはまばらで、空気にはひんやりとした朝の匂いが漂っている。


 けれど、到着した冒険者ギルドにレーナの姿はない。

 少し速すぎたのかもしれない、ギルドの中で待つ事にした。


 ──そろそろ昼の二つ鐘がなる頃だ。

 椅子に腰かけ、ぼんやりと掲示板の依頼書を眺めていた。

 よく見ると、ギルド内の端の方に私を睨んでいる冒険者がいる。

 

 (昨日のやつか…めんどくさそうな奴だな…)


 何度目かのため息がこぼれる。


 「……これ、すっぽかされたのかな」


 少し苛立ちと不安が混じってきたそのとき──。


 「ごめんごめん、遅くなったわ」


 レーナが、のんびりとした足取りで現れた。


 「いや、暇だったから別にいいけど……どうしたの?」


 問いかけると、レーナはぺろりと舌を出し答えた。


 「……私、低血圧で朝弱いの」


 「え、朝から落ち合おうって言ったのはそっちじゃん!」


 「ごめんなさい、ごめんなさい」


 まるで反省していない口調だった。

 そんなやり取りの後、私たちは掲示板の前に並んだ。


 「今日は私がいるから、Bランクまでの依頼を受けられるわ」


 レーナが腕を組みながら掲示板を見つめる。私もそれに倣い、ひときわ目立つ赤枠の依頼に目をとめた。


「これなんてどうかな?」


 Bランク依頼 魔物討伐

 内容:ガコン平原でオーク討伐

 報酬:オーク1体につき銀貨10枚

 備考:20体前後の群れを目撃どの情報有

    群れの可能性があるため要注意

    他の魔物はギルド規定の別料金


 「これ良くない?すぐに稼げそう!」


 「でしょ!」

 

 なぜかレーナが得意げに胸を張る。


 そのまま受付に向かい、依頼書を提出すると、受付嬢が顔を上げて微笑んだ。


 「レーナさん、やっと受けてくださるんですね」


 「ちょっといろいろ立て込んでてね」


 「エレナさん、彼女と一緒なら安心です。オークを最低でも五体討伐して頂ければ、Dランクに昇級可能と思われます」


 「本当ですか!? 頑張ります!」


 私は思わず声を弾ませた。


 受付嬢に情報を貰い、その日のうちに、私たちはガコン平原へと向かった。街から数時間の距離を徒歩で進み、夜には野営をして、翌朝に目的地へ到着という行程だ。


 オークは豚顔の体躯が二メートルはある獣系の魔物だ。あまり群れで活動する事はないのだが、何故か二十体が同時に目撃されている。私が本気を出せたらなんて事はないのだが、力が使えない今、油断しないに越した事はない。


 野営ができそうな開けた場所を見つけた。

 私はテントを持参したが、レーナは持っていないのでどうするのかと尋ねたら、土魔法で硬いかまくらのような物を作ってくれた。


 「これなら、そこらの魔物では壊せないし、見張りいらず、寝泊まりしやすいわよ」


 魔法で攻撃したり、水を沸かしたり、そんな事は考えていたけれど、テントまで作る事は考えていなかった。これには流石に驚いた。


 「あ、トイレ行きたくなったら、ここを押せば外に出られるわ」


 (細かい作りに感謝だ)


 ──翌朝。

 レーナがなかなか起きてくれなかったが、無事に平原に到着した。

 平原は、背丈ほどの草が風に揺れ、遠くまで見渡せる開けた場所だった。空は広く、朝の光が淡く大地を照らしている。


 そして、オークを発見したのはすぐのことだった。

 こちらには気がついていない。


 「一体……」


 「行くわよ」


 レーナが先に構える。私は慌てて詠唱を始める。魔法詠唱が必要なのは、力を隠すためだ。

 レーナは無詠唱で魔法を操っていた。


 「《天に住まう女神アルカナよ、我が願いは火球の顕現、その業火で敵を焼き尽くせ》火炎弾」


 「《ファイアボール》」


 二つの火球が飛び、オークに命中する。断末魔の叫びを上げて倒れたそれは、あまりにもあっけなかった。それだけ威力があるって事だ。


 「その"火炎弾"って名前イカすわね」


 レーナがさらりと言う。私はごくりと唾を飲み込んだ。

 ──本当に強いな。


 その後、数時間で五体のオークを討伐。順調に依頼をこなしていく中で、私は少しずつレーナの力の片鱗を目の当たりにしていくことになる。


 彼女は、火、水、雷の三属性をそれぞれ上級まで使いこなせる。この世界の階級付けは威力が問題なだけで大雑把な指標だ。

 でも、私が見た限り彼女には、そのくらいの実力がある。

 しかも、王級規模の魔法を無詠唱で出されれば、相手は逃げる隙がない上に、倒されるしかない。


 気がつけば、辺りにはもうオークの姿が見当たらなかった。残りは警戒して草むらに隠れてしまったと思われる。まだ、昼にもなっていない。


 「……しばらくは出てこないかもね」


 私は剣を鞘にしまい、草むらに目を凝らす。が、気配はどこにもない。風が草を揺らしているだけだ。


 そんなときだった。

 唐突にレーナが、話しかけてきた。


 「私に姉がいたって話、したと思うけど……もう五年くらい会ってないの」


 不意に語られた言葉に、私はそっと顔を向けるが、帽子の鍔でレーナの顔色が窺えない。


 「姉の名前は、レイン」


 私は息をのんだ。


 「姉がね、手紙をくれたの。『勇者エレナ様の旅に同行することになった』って。私はまだ村を出たこともなかった頃で、毎日魔法の修行ばかりしてた」


 レーナの声が、少しずつ熱を帯びていく。


 「吟遊詩人が1度村に来て、勇者エレナの冒険譚を歌ってくれた。そこに姉の名前が出てくると、嬉しかった。すごく、誇らしかった」


 私は何も言えず、ただじっと彼女の言葉を聞いていた。


 「私も冒険者登録して…旅に出て…姉のようになりたくて頑張ったの。蒼天の魔法使いとか言われるようになって……一時的に休暇のために村に帰ったわ」


 レーナの手が震えている。


 「帝国の騎士が村にきて、こう言ったわ。『国家転覆を企てた勇者エレナが、仲間を皆殺しにした』って。……姉もその中にいたってっ……」


 「……」


 「姉を殺したのは……あなたなんでしょう!?」


 怒りに満ちた声と共に、レーナの杖が閃いた。

 放たれたファイヤボールが私の髪と左肩をかすめる。

 かすめた付近だけ、髪色が白銀色に戻っていたのがわかった。


 「魔法詠唱が終わるより火炎弾を放つほうが早かったから、怪しいと思ってたけど、その白銀の髪……やっぱり……!」


 レーナは、涙を流し震えていた。


 「貴女が、勇者エレナ……!」


 「……レーナ…」


 私は言葉を返す間もなく、彼女が再び杖を構えた。

 その怒りは、悲しみと絶望の入り混じった、止めようのない感情だと感じた。


 ──戦うしかない。

 互いの想いが交錯する──

 お読み頂き、ありがとうございます。

 第3章の題名からお察しされた方もいると思いますが、この章は序章に出てくる魔法使いレインの妹、レーナとの出会いとしました。

 エレナとレーナは戦うしかないのかーー!?

 次話にご期待ください。

 

 次話は7/24木曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナを暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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