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その9 「十四歳/成長と葛藤」

 転生したと認識した日から九年。

 私は、十四歳となった。


 この数年で女の子の体にも慣れてきて、最近では最初から女だったように感じることもある。

 前世の記憶は、少しずつ夢のようにぼやけてきたけれど、家族のことは毎日のように思い出す。

 あれは、確かに現実だった。


 私は、窓の外にある遠くの山々をぼんやりと見つめていたが、窓ガラスに映る自分の姿に目を留めた。


 「…うん…うん」


 角度を変えて笑顔を作ったり、頬を触ったりしてみる。

 鏡に映る私は――信じられないくらいの美少女になっていた。

 前世でも、こんな美少女は見たことがない。私は思わず自分の顔に見惚れてしまった。


 「エレナ様?どうされましたか?」


 「いや、なんでもないよ」


 私はさっと両手を後ろに回してごまかした。


 リリサは、二十四歳になっていた。

 彼女の美しさにも磨きがかかり、男性女性問わず憧れの的となっている。

 私の知らないところで、彼女は領内の男性から何度も求婚されているらしい。

 でも私は、それを事前に察知して――そっと邪魔をしてきた。


 ある時は、男が差し出す花束を魔法でこっそり燃やし。

 またある時は、しつこく付きまとう男性を少しだけ脅かした。

 変な男にリリサを嫁に出すなんて、絶対に嫌だったから。

 姉のような大切な存在だからこそ、守りたかったのだ。


 とはいえ、すっかりリリサも適齢期。

 流石に申し訳なくなって、父様と母様に良い縁談を頼んだが――


 「エレナ様のお世話で忙しいため辞退致します」と、本人から一蹴されてしまったらしい。

 ……結婚に興味がないのだろうか。


 私の一日は、すっかり忙しくなっていた。

 午前は算術、歴史、礼儀作法。

 午後は剣と魔術の修練に充てられている。


 ギルバート兄様が、私の修練時間をもっと増やした方がいいと父様に提案してくれたが、父様は貴族としての教育を重視して譲らなかったらしい。

 間に入った母様が、今の時間割に落ち着かせたそうだ。


 だから、自由な時間はほとんどない。

 けれど私はーーこの日々が嫌いではなかった。


 平和だったから。


 少しずつ、貴族の淑女として――とは言えないが、女性らしい振る舞いも身についてきた……本当に少しずつだけれど。


 さて――

 算術に関しては、教師が「もうエレナ様に教えることはない」と言って、数年で五人も代わった。

 新しい先生もそろそろ辞めそうだ。

 私が少し難しい質問を出して困らせたせいかもしれない。

 昨日も先生が「自分自身の未熟さが身に染みました」と父様に話していたらしい。


 この世界では、小学生程度の知識があれば十分。

 数学という学問は、あまり発展していないようだ。


 魔法については、詠唱なしで火と水の二属性を中級まで扱えるようになった。

 光属性も、回復系なら中級まで使用可能。

 闇属性にはあまり才能がないらしい。

 光は回復や補助、闇は物質そのものを破壊する魔法だそうだ。リリサも使えないので、実際に見たことはない。


 「エレナ様は詠唱破棄をされますが、それは魔力の練り方とイメージの強さによるものだと思われます。私は詠唱省略がやっとです。破棄までできるのは、この世界でもほんの数人かと」


 と、リリサが言っていた。

 膂力変換魔法と詠唱破棄の両方を使える人は、私しかいないだろうとも。


 剣術については、膂力変換魔法を使わなくても、領内の騎士団員の中で私に勝てる人はいない。

 ただし、父様にはまだ敵わない。

 剣技だけで、はっきりと実力差を感じる。


 若い頃の父様は、騎士団時代に多くの武勇を残し、ブレイジング家の歴史上最強の剣士と称された人物だそうだ。


 そして、私は――ある目標を持つようになった。


 冒険者になって、世界を旅する事だ。

 この世界には、私の知らない未知がたくさんある。それをすべて見てみたいと強く思うようになった。

 それをやってみたくなった理由は、然程大したことはないので省く事にする。


 でも、この世界では大きな問題になる。


 私は、伯爵家の三女なのだ。

 貴族の娘は、良家の貴族と結婚し、子を産み育てることが使命とされている。

 そしてその結婚相手は、“女神の啓示”で決まる。

 女神アルカナが永久就職先を決めてしまうのだ。


 知らない相手と婚約させられて、つまらない毎日を送るなんて、考えたくもない。


 (本音は、知らない男と結婚したくないだけ……)


 答えは、簡単には出せない。

 父は優しく、私の意志を尊重してくれるけど、冒険者や騎士団という進路は認められないだろう。

 母も私がそんな危険な道を選ぶことにきっと反対する。


 「それでも、優しい父や母の期待に応えたい気持ちもあるけど…」


 お兄様たちは、私の実力を認めてくれている。

 長兄のヨーゼフ兄様は、王都の騎士団副団長として王都に住んでいて、時折帰郷すると剣の稽古をつけてくれる。

 次男エドワード兄様、三男ギルバート兄様も、私をちゃんと見てくれている。

 兄様たちの応援が、私の心の支えだった。


 「女神の啓示の日が近づいている……」


 ここ二、三年、私はよく自室のベッドで物思いにふけるようになった。


 私を悩ませることは、二つ。


 一つ目は「実の姉二人」のこと。

 今では毎日のように嫌がらせをされる。

 数年前、怒りのあまりそばの机を殴って壊してしまった。それが恐怖を与えてしまったのだろう。すっかり距離ができてしまった。

 できるなら顔を合わせたくないが、同じ屋敷に住んでいればそれも難しい。

 彼女たちは二十歳を超えているが、まだ嫁ぐ予定もなさそうだ。


 二つ目は「女神の啓示」について。

 この世界では、十五歳になると女神アルカナからの啓示を受ける。

 王族や貴族には必ず啓示が下りるとされている。

 私にとってそれは「冒険者になりたい」という夢を邪魔する障害だ。


 今のままでは、未来が何も変わらない。

 このまま婚約させられて、屋敷に閉じ込められるなんて、想像しただけで息が詰まりそうになる。


 「せめて…せめて、自由になりたい」


 そんなことを考えながら、この日も眠りについた。


 ――翌朝。

 私は庭で剣を振るい、風を切る音が心地よく響くのを感じていた。

 剣を握っている時だけは、すべてを忘れられる。


 十四歳の一年間。

 多くの葛藤を抱えながらも、貴族としての教育、剣術、魔法の修行に励み続けていた。


 それから、気づけば、あっという間に一年が過ぎていた。


 鏡に映る自分を見つめながら、私は自分の成長を確かに感じていた。

 けれど、その胸の奥には、まだ答えの出ない大きな悩みが残っている。


 そして明日、私は「女神の啓示」を受ける。

 お読み頂き、ありがとうございます。

 2話連続更新の1話目です。

 明日の更新で、過去編は完結となります。

 エレナがどうなって勇者となり、旅に出るのか、見届けて頂ければ幸いです。

 第3章からは現代に戻ります。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

 "感想".ブックマーク"お気に入り"もよろしくお願い致します。

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