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その7 「十歳/初めての冒険と魔物退治」

 冷たい朝の空気の中で、剣や鎧の金属音がかすかに響いている。

 練兵場には、すでに武装している父様や兄様、そして、鎧姿の騎士たちが待機していた。

 

 「エレナ、昨晩はよく眠れたかい?」


 「……いいえ、お父様。楽しみで、あまり眠れませんでした」


 「そうか。しかし、緊張して眠くなる暇はないだろう。今日はよく勉強しなさい」


 「はい!」


 父様はうなずき、リリサに振り返る。


 「リリサ、陽が落ちる前には戻るつもりだ。この子を迎えに来てくれ」


 「かしこまりました、旦那様」


 そんな二人のやりとりを他所に、私の胸は高鳴っていた。いよいよ、初めての魔物討伐が始まる。


 ふと、後ろを振り向くと、リリサが手を振りながら「頑張ってくださいね」と口を動かしているのが見えた。


 私は思わず笑顔で大きく手を振り返す。


 (よし……頑張ろう!)

 

 そして、私は父様と兄様と騎士団の人たちとともに森へ向かう歩を踏み出したのだった。


 森に足を踏み入れると、木々の間をすり抜ける光は弱く、薄暗さが辺りを覆っていた。木々のざわめきは聞こえるけれど、妙な静けさが張り詰めている。


 (……森って、こんなに静かなものなんだ)


 私はちらりと父様と兄様の顔を覗き込んだが、特に緊張した様子はない。むしろ騎士団の面々も落ち着いて歩いている。


 (これが、慣れってやつなのかな……)


 陣形は、前衛に騎士三名、その後ろにギルバート兄様、私は中央付近を父様と並んで歩き、後方には騎士四名が控え、全部で十名の小隊だ。


 今回は森の奥まで調査をしないため、徒歩で移動となる。それでも数時間は歩き詰めになりそうだ。

 こうして見ると、父様の装備はひときわ目立つ。


 白銀に輝く剣。


 (真っ白で……きれいな剣だな)


 「お父様、その剣……お父様のものなのですか?」

 

 私はつい、興味が湧いて口に出してしまった。


 父様は歩を止めず、答えてくれた。


 「ああ、これは、私が王都騎士団で副団長をしていた頃、王様から賜った剣だ。王都付近に出現した魔人を討伐したときに頂いたものだよ」


 「魔人を!?お父様すごい!」


 正直びっくりした。魔族の下っ端である魔人でも騎士団の精鋭十名で一体倒せるかどうかとリリサに聞いたことがある。


 「また出た、父上の武勇伝」


 ギルバート兄様がすかさず口を挟む。何度も聞いた話だと言いたげに。


 「ふん、お前はいつまで経っても口が減らんな」


 父様が軽く睨むと、ギルバート兄様は私の方を見て肩をすくめて笑った。私もくすりと笑ってしまった。

 

 道中でギルバート兄様が森に生息する虫や草木のことを教えてくれた。


 「ほら、あれは『シルバー草』。太陽光に当てて乾燥させると怪我の治療薬になる。低級回復魔法くらいの治療が可能だ」


 「この木の葉っぱは触るとピリピリするんだ。手袋がないと触ってはダメだ。でも狩りをするときに役に立つ」


 私は真剣に耳を傾ける。いつか役に立つ時が来るかもしれないからだ。

 初めての冒険、初めての森の匂い、土の感触。どれもが私の胸に、鮮やかに焼きついていった。


 森を進んで一時間くらい経っただろうか、前方の騎士達の動きがぴたりと止まった。


 「……魔物です」


 前衛の騎士の低い声が響く。


 私は思わず息を呑んだ。


 前方の茂みががさり、と揺れる。


 「エレナ、よく見ていなさい」


 父様がさっと私の前に出る。


 その直後――


 茂みの奥から、黒く大きな影が飛び出してきた。


 「グルルル……!」


 狼のような姿。だが、通常の狼よりも二回りは大きいだろう、黒い毛並みが毒々しく光っている。赤い目、鋭い牙、硬そうな爪。


 (まさに魔物と呼ぶに相応しい風貌)


 さらに左右の茂みからも同じ魔物が二体、姿を現す。全部で三体。


 「エレナ、私の後ろに下がっていなさい。あれはウォーウルフ。凶暴で素早い魔物だ」


 父様が鋭く命じる。


 私は返事をしようとするが……


 (あれ……声が出ない……手が震えてる……!)


 恐怖と緊張で、体が固まっていた。


 「前衛、前にでろ!」


 ギルバート兄様の掛け声で、騎士団の前衛が駆け出し、剣を抜いて魔物に向かっていく。


 (動かないと……私も、何かしないと……!)


 頭では分かっているのに、足が石のように重い。


 父様がちらりと私を見て、微かに笑みを浮かべて頭を撫でた。


 「大丈夫だ、エレナ。最初はそれでいい」


 父様が剣を抜き、駆け出す。その後ろ姿を見て、私はようやく呼吸を整え始めた。


 ギルバート兄様の声が飛ぶ。


 「エレナ、見て覚えろ! どう立ち回るか、よく見るんだ!」


 後衛の四名が私を守るように陣形を取る。


 前衛の騎士二名は連携し、一体を押さえ込む。もう一人の前衛とエドワード兄様は素早くもう一体に回り込み、剣を突き立てる。


 父様は真正面から突っ込み、残る一体の首筋を一太刀で切り裂いた。


 「…すごい……」


 私の体の強張りが、少しずつ解けていく。


 父様と兄様は、討伐を終えると私のそばに戻ってきた。


 父様は剣を納め、少し笑って私の肩を叩く。


 「……エレナ、最初は誰でもそうだ」


 「怖くて動けないし、何をしていいか分からない。それが普通だ」


 兄様もにやりと笑って頷く。


 「俺だって初めての戦場じゃ膝が笑って動けなかったさ。まずは目で覚えるんだ」


 「ありがとうございます。お父様、お兄様……頑張ります」


 私はちょっと悔しかった。


 「よし、じゃあ全員聞け!このまま隊列を維持して進むぞ」


 父様が全員に命令を伝えた。


 「承知しました!伯爵様」


 (次こそは……)


 その後――


 森の奥に進むと再び魔物に遭遇した。

 

 剣を抜く、騎士達、父様とギルバート兄様、私は後方で魔法を構える。


 最初は見ているだけだったけれど…


 (次こそは攻撃する)


 ーーー三度目の遭遇。


 小型の魔物が1体、こちらに気づかず茂みから顔を出した。


 「エレナ、ラットモドキだ。あれは任せた」


 父様が短く告げる。


 私は大きく深呼吸をして、両手を前に出す。


 (森の中だから火属性は使わない。初級の雷……小さめの魔法!)


 「――雷槍!」


 小さな雷の槍が飛び、魔物の頭に直撃し、ぎゃっと短い声を上げ、魔物が倒れる。


 「……倒した……!」


 兄様が笑う。


 「すごいなエレナ! 無詠唱魔法使うなんて知らなかったぞ!」


 父様も微笑み、頷いてくれた。

 騎士達も私を見て「さすが、エレオノラ様の娘様だ」とか言ってる。


 胸の奥が、じんわり熱くなる。


 (始めて魔物を討伐した。少しだけドキドキしている)


 この世界では、魔物を倒しても経験値やお金が落ちてくるわけではない事がはっきりした。

 レベルアップの概念はないのだろう。 


 ただ、レベルアップの音楽が私の頭の中で響いた。

 お読み頂き、ありがとうございます。

 エレナは初めて魔物を退治します。

 しかし、喜びも束の間、エレナ達の元に何かが現れます。彼女達の運命はーーー?


 エレナの活躍を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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