その3 「五歳/エレナ・フォン・ブレイジング」
前世で事故死をした私は、目が覚めると異世界で少女に転生していた。
自宅である屋敷に帰ってきたところ、執事や他のメイドに促されて屋敷の中に入る。
まず目についたのは広々とした空間だ。日本のような靴を脱ぐスタイルではないのはわかるが、こんな広い玄関は見た事がない。
目の前には大きな階段があって、両脇には絵画が並んでいる。
その奥にも階段が見えるから、そこを登ると寝室や私室があるのだろうか。
自分の部屋がわからないとは言えないので、疲れた事にして部屋までリリサに抱っこしてもらい、連れて行ってもらうおうと思う。
「リリサ、疲れたから抱っこして」
五歳児だし問題ない完璧な演技だと思う。
抱っこしてもらうとリリサから良い匂いがした。
それと彼女の胸はものすごく大きい。
ダメだと思いつつも思わず魅入ってしまった。
「エレナ様はいつも甘えん坊ですね」
ちょっと恥ずかしい。
「エレナ様、顔が真っ赤です。お熱を測りましょう」
抱っこされている間に顔を真っ赤にしてしまい、リリサに熱でもあるのかと心配された。
「…大丈夫、気にしないで…」
私の部屋とおぼしき扉の前に着いた。
目の前に見えるのは、ものすごく広い部屋だ。
この部屋に来るまでたくさんの部屋を見たし、多くのメイドとすれ違った。一体、何人のメイドが雇われているのだろうか。
屋敷にはまだ奥に部屋が存在していた。
部屋の中を見渡すと目に入ったのは、たくさんのぬいぐるみだ。
犬猫などが多い。
2メートルはありそうな熊のぬいぐるみもあるし、キングサイズなんてもんじゃない大きさの豪華な装飾が施されたベッドもある。
(五歳だけど、エレナは一人で寝る子なんだな)
部屋は二十畳くらいだろうか、一人部屋にしては広すぎる。
大きな暖炉や縦長の広いテーブルも置いてあり、テーブルにはスイーツが置いてある。食べていいのだろうか。
床にはふかふかの絨毯が敷き詰められており、気持ちが良さそうな感じだったので思わず靴を脱いでしまい、リリサに不思議そうにみられた。
そのリリサは紅茶を準備してくれている。
この世界にも紅茶があるようだが、果たして味はどうなのだろうか。
大きな窓から差し込む陽光の温かさが、ここは現実なんだなと感じさせる。
紅茶も前世では飲んだことない上品さで、少しの甘さが心を落ち着かせてくれる。
紅茶を飲み終えて落ち着いたところで、とりあえず部屋のソファに腰をかけて状況を整理する。このソファもフカフカしてて気持ちが良い。
(思わず眠ってしまいそうだ)
ソファに座って、落ち着いて考えてみる。
私は、何故、異世界に転生したのだろうか。
前の世界で、こういった話を描いた漫画やアニメが流行っていたことは知っている。
主人公が異世界に転生して、剣や魔法で戦ったり、貴族の令嬢になって陰謀に巻き込まれたり、特殊なスキルを手に入れて……
そういえば、そういった能力は、神や謎の存在から力を貰うはず。私はそんな存在と会えてはいない。
私はそういうジャンルに興味がなかった。どちらかといえば、努力・友情・勝利 の王道少年漫画が好きで、仲間との絆に心を躍らせるタイプだった。
異世界転生ものは一度も読んだことがないし、むしろ「そんな都合のいい話があるかよ」と思っていたくらいだ。
(……読んでおけばよかったかな)
この日から数日は、なるべく目立たないように過ごした。
いきなり妙な言動をして周囲に疑われるのは避けたかった。
だが、大人しつつも調べたい事は調べられた。
私の名前は エレナ・フォン・ブレイジングという名前らしい。
鏡で自分の顔を確認したとき、そこに映っていたのは 透き通るような白い肌と、少し癖のある金髪、宝石のような蒼い瞳を持つ少女だった。目元の印象がどこかきつく見えるが、幼さの残る顔立ちのせいか、愛らしい雰囲気がある。
年齢は五歳。
(精神年齢は四十五歳ってことか……)
驚くべきことに伯爵家の三女で、この国でも由緒ある貴族らしく、権力者の娘だ。
家族構成を調べたところ、六人兄弟の末っ子だった。
父親:バルバトル 三十八歳(伯爵)
母親:エレオノラ 三十五歳(伯爵夫人、元剣士)
長男:ヘンリース 二十歳(王都騎士団副団長)
次男:エドワード 十八歳(領地内の研究施設勤務)
三男:ギルバート 十六歳(領地内の騎士団副団長)
長女:カトリーナ 十二歳(学生、双子の姉)
次女:マリアンヌ 十二歳(学生、双子の妹)
三女:エレナ 五歳(幼女)
(私だけずいぶん歳が離れている……父も母も私より歳下だ)
父はこの"ブレイジングの街"の領主を任されている。
ブレイジング家は先祖代々、王都から馬車で数時間という近さのこの街の領主をしている。
さらに、ブレイジング家は代々王都騎士団の副団長を輩出する家柄であり、現在その役職を務めているのが長男のヘンリース。
使用人たちの話からも彼の武勇や実力が相当なものだということが伝わってきた。
(つまり、王様の懐刀という感じかな…)
屋敷の中を見渡せば、それが嘘ではないと分かる。
広々とした大理石の廊下、豪華な絨毯、壁には格式ある家紋の旗や見事な絵画が飾られている。使用人の数も多く、料理人、厩舎を管理する馬丁、庭の手入れをする庭師まで揃っていた。
私の周りの状況についてはある程度を理解した。
でも、どうして私がこの家の三女として生まれ変わったのか、その理由は分からない。簡単に調べられるような事ではないのは重々承知の上なのだが、前世の家族の事が気になる。
ひとつだけ確かなことは、この異世界で新たな人生を歩み始めたのだということだった。
もう一度死んであちらの世界に転生できる補償もない。
私は、少女エレナとして生きていかねばならない。
お読み頂き、ありがとうございます。
第2章その3は、如何だったでしょうか。
次話で、自身の置かれた状況を理解したエレナは、ある事を始めます。
彼女の今後を暖かく見守って頂けますと幸いです。
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