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その1 「魔王討伐」

 崩れ落ちた王国の城。

 燃え上がる街を背に、光と闇を纏った二人が対峙していた。


 勇者エレナと、かつての仲間――光の聖女リサ。


 「リサ……もうやめてくれ」


 「許さない……私は貴方を絶対に許さない!」


 涙を浮かべながらも、憎しみで剣を握る彼女。

 かつての仲間同士が、今は殺意でぶつかっていた。


 ――なぜ、こうなってしまったのか。

 私は、魔王を倒せば、すべてが終わると思っていた。

 リサの裏切りによって、私は“勇者”から一転、罪人となり、この世界の本当の姿を見ることになる。


 あの日がすべての始まりだった――。


*****


 約1年前ーー。


 血と炎に呑まれた魔王城の最奥。

勇者として、私エレナは、砕けかけた剣を握りしめ、魔王と最後の死闘を繰り広げていた。


 魔王は、六本の太い腕を持ち、漆黒の甲冑に包まれた巨体。放たれる威圧感は尋常じゃなく、空気が重たく感じる。魔王が剣を振り下ろすたびに、大地が震え、瓦礫が四散する。


 私はその度に必死で身をかわし、反撃の剣を叩き込むが、肝心な急所は漆黒の甲冑に阻まれ、手応えがない。


 「無駄だ勇者よ、我が前ではすべてが塵に等しい」


 魔王の低く響く声が広間に轟き、黒い魔力の奔流が私に向けて放たれた。凄まじい圧力が大気を裂き、地面をえぐりながら迫ってくる。


 私は相棒の剣に魔力を込め、盾のように掲げた事で辛うじて衝撃を凌いだ。

 それでも、少し掠っただけで意識が遠のきそうになる。


 「ぐっ……!」


 私も限界が近い。

 視界の隅に、傷つき倒れた仲間たちの姿が映る。


 魔法使いレイン。戦士ノンナ。武道家ザイン。

 そしてーー光の聖女リサ。


 「……無駄か…でも、私は倒れるわけには…」


 それを見た魔王が冷酷に笑う。


 「愚か……!」


 次の瞬間、漆黒の巨大な刃が私へと振り下ろされる。


 「――っ!」


 ガキィィィン!


 私は、渾身の力で剣を振り、その一撃を受け止めた。


 「今よ!」


 魔法使いレインの掛け声と同時に僧侶リサが動いた。2人は同時に魔法を唱えた。


 リサの風、レインの炎――


 二つの魔法が融合し、炎の竜巻が巻き起こる。


 炎の竜巻の中にその巨体が完全に隠れた。

 ――魔王から私が見えていないはず。


 二人の息は、完璧だった。


 「エレナ!」

 

 レインの叫び声。


 私は、立ち上がる。これが――本当に最後の一撃になる。


 残った魔力すべてを、私のクラウ・ソラに纏わせた。


 「この一撃に……すべてを賭ける!」


 考えるよりも早く――私は炎の竜巻へ突っ込んだ。


 「ハァァァァァ!」


 思いっきり振りかぶった私の剣に二人の放った炎と風の魔法が合わさり、黒い甲冑ごと魔王の体を真っ二つに切った。


 「っグボっば…ばかな…」


 赤黒い血飛沫が弧を描き、魔王の断末魔が響く。


 漆黒の甲冑の巨体が、ゆっくりと膝をつき、そして崩れ落ちた。


 その瞬間、魔王の握っていた巨大な剣が滑り落ち、鈍い音を立てて床に転がった。


 「……勝った」


 五百年以上に渡る闇の支配が――ついに終わった。


 崩れた大広間の隙間から光が差し込み、私の体を包み込む。


 「倒した……倒したぞ…!」


 倒れていた仲間たちの声が聞こえた。


 杖をつき、必死で立っていたレインが膝から崩れ落ちる。


 「これで……やっと……平和に……」


 涙を流しながら、震える声でそう呟いた。


 (これで……家族や恋人を亡くした多くの人たちが喜んでくれるだろう……お父様……お母様……私は……)


 私は静かに目を閉じ、亡くなった家族や仲間たちの顔を思い浮かべた。


 ーー仲間たちの歓声が耳を満たしたその瞬間、私の心に安堵ではなく、妙な違和感が広がった。全身に走る嫌な寒気、何かが「終わっていない」と警告する。


 (なんだ…?)


 私は剣を見つめる。魔王の血に濡れた刃は、深紅というよりも、不吉な闇を纏っているように思えた。

 その刃に映る自分の瞳が、どこか空虚で底なしの暗闇を覗き込むようだった。


 その瞬間、背筋を鋭い寒気が駆け抜けた。

 足を引きずるかのように後ろを振り向いて視界が揺れる


 私は、彼女の変わりように戦慄するーーー

 読者の皆様、初めまして作者のWAKUTAKUと申します。序章は3話ございますが、1話あたりを短めとしております。

 引き続き宜しくお願い申し上げます。


 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しすぎて飛び跳ねます。

 "感想".ブックマーク"お気に入り"もよろしくお願い致します。

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