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中学2年生の三学期。
中間テストの結果が廊下の掲示板に張り出された。
上位100人の名前が張り出されるので、俺も人だかりにまぎれて、掲示板を見に行った。
すぐに、一番右上に自分の名前を見つける。
「トップはまた4組の山本かぁ」
「山本くんって、一年の時からずっと一番の人でしょ?
今回の5教科平均、98点って書いてあるよ」
「まじで~?
人間じゃないよねぇ(笑)」
「しーっ!うしろうしろっ」
「あっ!聞こえたかなぁ…?」
………しっかり聞こえた。
いつものことだから慣れっこになってるけれど、まわりのひそひそ声や妬みのこもった視線が自分に集まるのは、やっぱりあんまり居心地のいいものじゃない。
見るものは見たので、そそくさとこの場を離れようとしたら、そこにいる全員が振り返るほどの大声で自分の名前を呼ばれた。
聞き慣れた声にそちらを振り向くと、大きな足音を響かせ、奈々ちゃんが走ってきた。
「央太~!!どうしよう!
私、平均65点だったぁ…このままじゃあ、央太と同じ高校いけないかも!」
「奈々ちゃん、ちょっと、こっち…」
奈々ちゃんが大きな声で話すので、まわりの視線がみんな俺たちに集まってしまう。
俺は奈々ちゃんを引っ張って人気のない渡り廊下へ向かった。
「奈々ちゃん。俺と同じとこ受けるつもりなの?」
「そうだよ?
だって、一緒の高校いくって約束したじゃん」
「え?そんな約束したっけ?」
「ひどい!
中学は同じクラスになれなかったから、高校は絶対同じクラスになろうねって言ってたじゃん」
うちの学校は2年のクラスがそのまま3年に持ち上がるので、奈々ちゃんとは来年度も別のクラスだ。
でも、俺はそんな言葉を言った覚えは全くない。
きっとまた奈々ちゃんお得意の自分に都合のいい勘違いだな。
「でも、俺が受けるのは私立の男子校だよ?
一応念のため公立も受けるけど」
「男子校なんてだめだよ!
私入れないじゃん!」
「そりゃそうだよね」
いくら元気でボーイッシュでも、奈々ちゃんは一応女の子だ。
「じゃあ、公立はどこ受けるの?」
「K高だよ」
「K高?K高受けるの?」
奈々ちゃんが驚いている。
「K高かぁ…今から勉強すればなんとかなるかなぁ?」
……………………。
たぶん、いや、間違いなく無理だと思う。
でも、はっきり無理だとも言いにくいので、奈々ちゃんの気持ちが他に向くように言う。
「奈々ちゃん、たしかH高に行きたいって言ってなかった?」
それさえ、今の奈々ちゃんにはちょっと厳しい。
K高はさらにそれより一つランクが上なのだ。
試験でいい点をとって、内申もかなり頑張らないと無理だろう。
「うん。H高は自由そうでいいなぁと思うけど…でも央太と同じとこのがいいもん」
「そんなことで高校を決めちゃだめだよ」
「じゃあ、央太がH高にしてくれる?」
「ええ?」
「だいたい、なんでそこにしたの?頭いいからなんとなく受けるんでしょ?」
「…………………。」
全くその通りなので俺は黙ってしまう。
大学に行くために一番楽な進学高だから選んだんだから。
「ね?一緒にH高受けようよ」
奈々ちゃんが必死に頼んでくる。
いつもながら無茶苦茶だ……。
でも、なんでそんなに必死になるんだろう。
俺と一緒だと安心だからかな?
小さい頃からいつも一緒だったから、俺がいるとなんとなく安心感があるのかもしれない。
俺の方は、それだけじゃないんだけど……。
今のままじゃあ、俺はいつまでたってもただの幼なじみだ。
だから奈々ちゃんから離れて、幼なじみとしてでない自分をみてほしくて、高校は別のとこにいこうと決めていた。
奈々ちゃんにえらそうなことを言ったけれど、俺だって同じようなことを考えて進学先を決めたんだ。
「とにかく、俺はもう決めたから、いくら言ってもダメだよ」
「え~……」
「奈々ちゃんも将来のこととか考えてちゃんと決めないとダメだよ」
「将来……。じゃあ、やっぱり央太と同じとこじゃないとだめじゃん…」
奈々ちゃんが口の中でもごもごとなにか呟いてる。
「何か言った?」
「……なんにも言ってないよ」
「とにかく、もっとよく考えて決めようね」
「考えてるもん」
まだ不満そうな顔の奈々ちゃんをその場に置いて、俺は自分のクラスに戻ったのだった。