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そして、中学に入ってからは俺もいじめられなくなり、小学校の時のように冷やかされることもなくなって、俺たちの仲も少しずつ前のように戻った。
それでも、もう以前のような自分たちではなくなっていた。
お互いを意識しすぎて、思ってることを素直に口に出せなくなっていた。
さらに、奈々ちゃんとは三年間違うクラスで、一緒の登下校だけは続いていたけれど、学校ではほとんど接点がなかったし、中学2年まではけっこうしんどかった…。
あ、中学の入学式の写真。
ぶかぶかの学ランをきた俺とセーラー服姿の奈々ちゃんが写っている。
奈々ちゃんは慣れないスカートのせいか、仏頂面で恥ずかしそうにして立っている。
うーん。
この時は、だいぶ身長差があるな。
「あんたこの頃、小さかったものねー」
「……悪かったね」
「で、でもほら、私、急に背が伸びたから。央太が小さいんじゃなくて、私が大きかったんだよ」
奈々ちゃんが微妙なフォローをしてくれる。
次のページをめくると、珍しく奈々ちゃんだけの写真があった。
………ん?
「あれ?私だけ?こんなのとったっけ?」
奈々ちゃんが微妙に目線を外して写ってる。
中2の修学旅行の写真だ。
え……これって…
うわっ!
やばっ!
俺はパタンとアルバムを閉じた。
「よし。じゃあ、そろそろ二階にいこうか?奈々ちゃん」
笑ってごまかしながら俺はアルバムを持って立ち上がる。
奈々ちゃんは不思議そうな顔をしながらも、俺の後についてきた。
「うふふ。ごゆっくりねー」
…………………。
母さんだけが訳知り顔でニヤニヤしている。
「奈々、夕飯までには帰るのよ」
「はーい」
俺たちは階段を上がって部屋に入り、ベッドに二人並んで腰をおろした。
「ねぇ、さっきの写真…」
「あっ!飲み物忘れちゃった。ちょっと待ってて、とってくるから!」
俺は逃げるように部屋をでて一階におりた。
どうしよう。
奈々ちゃん、あの写真のこと絶対気にしてるよな。
困った…。
俺はキッチンからコーラとグラスを2つとって、自分の部屋に戻る。
「わぁっ!」
ドアを開けると、奈々ちゃんがさっきの写真をじーっと見ていた。
俺に気づくと、問うような視線をこっちに向けてくる。
………………はあ。
仕方ない。
「これ、隠し撮りしたんだ」
俺は仕方なく白状した。
「えっ?これ、央太がとったの?」
「うん。修学旅行の時こっそりね」
「全然気づかなかった…」
「この写真、ずっと制服の胸ポケットに入れてたんだ。でもなくしちゃって…。たぶん母さんが洗濯のときかなんかに見つけてアルバムに入れたんじゃないかな…」
奈々ちゃんは驚いた顔のまま、写真と俺を交互に見ている。
頬がうっすらピンク色に染まっている。
「央太が隠し撮り?びっくり………」
「あー……」
「だって……小6くらいから私たちなんだかギクシャクしちゃって、普通に話せなくなってたし……。中学では一回も同じクラスになれなかったでしょ。だから私、ずっと寂しくて…どうしようって思ってたんだよ?
そしたら、央太ってば高校も別のとこ受けるとかいうし……」
「あー。うん…あの時は、ごめんね」
中2の終わり。
俺がK高を受けるって言ったら、奈々ちゃんが急に勉強を教えてって言ってきたんだ。