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そうだ。思い出した。
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それはある夏の日。
クラスでもうるさくてエロい男子が、昼休みに三人集まって、なにやら話していた。
俺の席はちょうど彼らの真後ろだったので、聞くつもりはなかったのに耳に入ってきた。
「なあなあ。うちのクラスでだれのおっぱいが一番いい?」
「俺、藤井ちゃん」
「でも、一番大きいのは松永だよな」
「うんうん。あいつのはでかいよな~(笑)」
「木下は?」
は?奈々ちゃん?
(木下というのは奈々ちゃんの苗字だ。)
「木下ぁ?あいつ狂暴だからなぁ。あ、でもほら見ろよ。あいつスポーツブラつけてるぞ」
「おお!本当だ!」
三人は奈々ちゃんの背中を見ながら盛り上がっている。
俺もついつられてそっちを見てしまった。
わっ………!
一気に顔が熱くなって、心臓がドキドキしだした。
確かに、よく見ると白いシャツにうっすらスポーツブラらしき線が透けてる……
三人はまだじろじろと奈々ちゃんのことを見ている。
奈々ちゃんのことをそんな風に見られて、いてもたってもいられなくなった俺は、席を立ち彼女を隠すように三人の前に立った。
三人組にはいつもいじめられているのに、この時は怖いとかそんなことを思う前に体が勝手に動いていた。
こいつらが奈々ちゃんのことを汚い目で見るのが許せなかった。
「…やめろよ!そういうの」
「はあ?なんだよ山本」
「奈々ちゃんのこと、汚い目で見るなっ!」
「ああ?別にお前は関係ねぇだろ。あっちいけよ」
「いかない!」
「あ、こいつもしかして、木下のことが好きなんじゃねぇの?なぁ?お前いつも木下とべったりくっついてるもんなぁ。そうなんだろ~?」
「う、うるさい!今はどうでもいいだろそんなこと!」
「あ、赤くなった~♪ぃえ~い、図星か~?あんな狂暴女のどこがいいんだよ~?顔もかわいくねぇしよ~」
「……奈々ちゃんは狂暴じゃないし、すごく……か、かわいいんだ!お前らの目がふし穴なんだよ!」
「なんだと?俺たちのどこがふし穴だ!」
そして、殴り合いの喧嘩が始まった。
もちろん一方的に俺ばかりぼこぼこにされたけれど、それでも、いくらか奴らにもひっかき傷をつくってやった。
「ちょっと、なにしてんのあんたたち!また央太をいじめて!」
俺たちの喧嘩に気づいた奈々ちゃんが、椅子を振り上げて三人に投げつけた。
「うわっ!」
「危ねっ!木下やっぱ狂暴だぞ!逃げろ!」
「へーんだ。お前らやっぱりできてんだろ~。わっ!やべっ!木下がキレた!!」
奈々ちゃんが今度は机を持ち上げてる。
俺は全身殴られ蹴られして傷だらけで、まだその場に座り込んでいた。
三人を追い払うと、奈々ちゃんは俺の元に駆け寄ってきて、心配そうに顔を覗き込む。
「央太、大丈夫?」
「……うん」
また奈々ちゃんに助けてもらっちゃった……。
はあ。
いつもいつも好きな子に庇ってもらってばっかりって…
俺ってダメすぎる…。
「央太、傷だらけだよ?ほっぺたも血が出てる……保健室いかないと」
「うん…」
体中ギシギシしてあちこちヒリヒリ痛む。
「でも、どうしたの?央太が喧嘩なんて…」
「……あいつらが、汚い目で奈々ちゃんのこと見るから……」
「えっ?わたし?汚い目って?」
「……奈々ちゃんが……スポーツブラつけてるとか言って…じろじろ見てた…」
「えっ!?」
奈々ちゃんはバッと両手を前で組んで胸を隠した。
顔が真っ赤になっている。
「……央太も…見たの?」
「………ごめん」
「うぅ~…あう~……」
奈々ちゃんは真っ赤になり、あうあう言ってうろたえている。
そのうち、奈々ちゃんの目にだんだん涙が盛り上がってきて、ポロリとこぼれた。
一度堰を切った涙は、次から次へとポロポロ頬へ零れ落ちる。
奈々ちゃんが……泣いちゃった……
「……っ……ひっ……っく…………ぅあーん!」
奈々ちゃんは泣きながら走って教室を出て行ってしまった。
俺は奈々ちゃんを泣かせてしまったショックで、追いかけることもできずにただ呆然とする。
そのうち先生がやってきて、俺と成り行きを見ていたクラスメートが喧嘩の原因を話し、三人組は後で先生にきつく叱られていた。