15
試験が終わってからは、奈々ちゃんが俺の部屋にくることもなくなり、そして、あっという間に卒業式を迎えた。
三年間通った中学校とも今日でお別れだ。
通い慣れた通学路、慣れ親しんだ校舎、先生、友達。
みんな今日で最後だと思うとやっぱりちょっと寂しい。
でも、三年間奈々ちゃんとは一度も同じクラスになれなかったし、それなりに仲のいい友達はいたけれど、まあ、会おうと思えばいつでも会えるから、泣くほど寂しいということもない。
そうして、卒業式という一大イベントは思っていたよりもあっけなく終わった。
ただ一つだけ気になるのは……
あちこちで、ボタンをあげたりもらったりしているあの光景。
ちょっとうらやましいな。
でも、俺のボタンを欲しいなんていう声がかかることはなく、一番もらって欲しい人にもそれを言いだす勇気は出なかった。
この日は久しぶりに、奈々ちゃんちと一緒に俺の家で夕飯を食べることになり、卒業祝いのパーティーをしてもらった。
みんなで夕飯とケーキを食べた後、大人たちが酒を飲みながら昔話を始めたので、絡まれないうちに俺と奈々ちゃんは二階に非難した。
「はぁ。今日で卒業かあ。なんか、あっという間だったね……」
「そうだね。奈々ちゃん、今日泣いた?」
「えっ?そりゃ~、だって卒業だもん寂しいでしょ?央太は?」
「俺は別にそんなに寂しいとかなかったし」
「え~!?友達や先生とももうお別れなのに?」
「うん。だって、会おうと思えばいつでも会えるでしょ」
「そうだけど……。学校離れたらなかなか会えないと思うよ?」
「まあね」
「央太って、けっこうドライなんだねぇ。なんか冷たい……」
だって仕方ないよ。一番会いたい人はすぐ隣にいるんだから。
「別に、それほど仲良くなった奴がいなかったんだから仕方ないでしょ」
「じゃあ女の子は?会えなくなって寂しいなあと思う子、いなかった?」
「……別に、いないよ」
奈々ちゃんには会えるからね。
「じゃあボタンくださいとか言われたりは?」
「ひとつも」
「ひとつも?そっか……。可哀想に、よしよし」
そんなことを言いながらも、奈々ちゃんはにこにこ笑って俺の頭を撫でている。
なんだか弟のような扱いに、俺はちょっとふてくされる。
「うるさいなぁ。じゃあ、奈々ちゃんがボタン貰ってくれるの?」
「えっ?……うん。可哀想だから、貰ってあげる」
「なにそれ?可哀想って。じゃあ別にいいよ、貰ってくれなくても」
「えっ!うそ、うそ!欲しいよっ。央太のボタン、ちょうだい?」
予想しなかった言葉が返ってきた。
「…………………。」
俺は平静を装いながらも内心ドキドキで、制服の第2ボタンを切って奈々ちゃんに渡す。
思いがけない嬉しい展開に、ちょこっと手が震えてる。
「はい。なくさないでね」
「うん。大事にする」
奈々ちゃんは手のひらにのせた小さなボタンを見つめて微笑んでいる。
彼女の頬がピンク色に染まっているように見えるのは俺の気のせいだろうか。
こういうのって、なんだか照れくさいな……。
奈々ちゃんを見つめていたら、ふいに顔をあげた彼女と目があって、二人で赤くなる。
「…………………」
「…………………」
言うか?
今なら、言えるかも……
『奈々ちゃんのことが好きだ』って。
よし。
言うぞ……!!
俺は大きく息を吸い込んだ。
「奈々ちゃ…「ち、違うの!これは、えっとその……記念?っていうか?深い意味はなくて……だから……」
真っ赤になりながら言い訳されて、完全にタイミングを失った。
俺は力なく肩を落とす。
「うん。わかってるよ」
言おうと思った言葉は、結局、言えなかった。




