10
下校時刻になって、俺はいつものように2組に奈々ちゃんを迎えに行った。
俺たちが一緒に登下校するのは小学生の時からの習慣で、クラスが別でもそれだけは今も続いていた。
2組に行くと、奈々ちゃんは同じクラスの男と楽しそうに話していた。
時折そいつの腕をはたいて大口を開けて笑っている。
「奈………」
入口に立ったまま奈々ちゃんを呼ぼうとした時、男が奈々ちゃんの頭の上に手を置いてくしゃっと髪に触れた。
「……………………。」
奈々ちゃんは口を尖らせて男になにか言ったけど、また楽しそうにしゃべり始める。
くそっ!
あいつ………!
胸がムカムカする。
奈々ちゃんが他の奴と楽しそうにしゃべったり、そいつが奈々ちゃんに気安く触るなんて許せない……。
そんなことは奈々ちゃんの自由だし、まして彼女は俺のものでもなんでもない。
醜い嫉妬。
そんなことはわかってる。
でも、それでも許せないんだ……。
俺はムカムカする気持ちを抱えて、一人で下駄箱へ向かった。
靴を履いて外に出ると、奈々ちゃんがあわてた様子で追いついてきた。
「央太っ!ごめんごめん。迎えにきてくれてたの?呼んでくれたら良かったのに」
「………………………。」
「央太?どうしたの?なんか怒ってる?」
「別に…」
「本当?なんか暗いぞ?じゃあ、おなかすいて元気ないの?そうだ!たい焼き食べていこうか?」
言うなり、すぐ目の前のたい焼き屋に買いに行ってしまった。
はあ。まったく。
おなかすいてるのは奈々ちゃんでしょ。
「はい。央太の、黒あんだよー」
奈々ちゃんがにこにこしながらホカホカのたい焼きを俺に差し出してくる。
「ありがと…」
奈々ちゃんの笑顔を見たら、不思議と胸のムカムカがすーっと消えていった。
俺はたい焼きをもらって、店の前のベンチに奈々ちゃんと腰をおろした。
「あ、俺の分出すよ」
「いいよいいよ。明日食べる時に央太が出して?」
「明日?」
「うん。明日も食べようね?」
奈々ちゃんがにっこり笑って言った。
この笑顔には弱い…。
さっきまでムカついて嫉妬してたのが、ばからしくなってくる。
「うん。いいよ」
俺は苦笑しながら了承した。
「ハグッ………おいし~い♪」
たい焼きを頭からかじっている奈々ちゃんを横目で見ながら俺もたい焼きを食べ始める。
「はいクリーム。央太の黒あんも一口ちょうだい?」
「ん」
奈々ちゃんのと交換して食べる。
うん。クリームもなかなかおいしい。
2、3口もらったらまた自分のが戻ってきた。
「はい。黒あんも結構おいしいね」
「うん」
俺とは幼なじみだからか、奈々ちゃんはこういうことにも慣れっこだ。
全く動じず普通に食べている。
恥じらいなんて微塵も感じさせず、大口開けてたい焼きにかぶりついている奈々ちゃんが俺は大好きだけど、でもちょっと悲しくなる。
俺は密かに間接キスとか思って喜んでるんだけど…。
奈々ちゃんにはきっと男として意識もされてないんだと思うと…。
はぁ。
やっぱり幼なじみなんて、その程度なんだろうなぁ…。
ちょっとブルーになりながらたい焼きを食べ終え、俺たちはまた二人並んで歩き出した。
「ねぇ、央太」
「なに?」
「あのね。勉強教えてくれない?」
「え?どうしたの?まだ試験終わったばっかりだよ?期末までまだだいぶあるけど?」
「そうじゃなくて、受験勉強」
「受験勉強?へぇ。えらいね。奈々ちゃんもちゃんとやる気になったんだ」
「うん。それで、私、なにからやればいいかわからないからさ。参考書とか問題集とかも一緒に選んでくれる?」
「いいよ。じゃあ、明日買いに行く?」
「うん!」




