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第八話 ガマニズム

ゴールドマンに刃向かったことでクリトスは牢屋に監禁される事になってしまった。長い廊下を歩き牢屋の前まで来るとマーカスが鍵を開け中に入るように指示する、無論、銃は取り上げられている


「ここで頭を冷やせ、少しの辛抱だ、いいか素直に言う事を聞いていればドン・ゴールドマン・ボールだって解ってくれるさ、いいな?」


クリトスは返事もせず静かに座る。それを見てマーカスは戻っていった。

牢屋には明かりを取るために高い位置に小さな窓が開けてある、そこから月明かりが薄く入っているおかげで中がぼんやりと見えている。おそらく昼間は日光が入るのだろう、わずかな光で光合成したのかブロックの隙間から小さな花が咲いていた。クリトスはその花を優しく引き抜くと、花びらを一枚一枚ちぎりながらつぶやいた


「俺はM……Mじゃない……M……Mじゃない……M……Mじゃない……」


牢屋の中には先客がいた、そう、ジルである。クリトスの登場に驚きもせず、目を閉じたまま声をかけてきた


「Mじゃない人間なんていねーよ」

「黙って寝てろ」

「人間は基本【M】なんだよ」

「意味が解らん」

「我慢してない奴なんて一人もいねーの、その我慢が大きければ大きいほど強くなれる。それがわかんねーからオメーは弱いんだ」


月灯りの角度が変わったのか、目が慣れてきたのか、ジルの姿が見えるようになってきた、仰向けに転がり足を組んでいた


「俺が弱い?俺が我慢してないとでも思うのか?」

「けっ、なら今までのは大した我慢じゃねーんだな」

「なに?」


ジルは話ながら上体を起こして座り直す。


「ったく、ビギナーはガマニズムを理解してないから困るぜ」

「ガマニズム?」


ふとジルが立ち上がり、それまで壁とも空ともつかぬ方を見ていた視線がクリトスに向けられる、やがてジルは大きな声を出した


「我慢について教えてやる!お前はそれで我慢してきたつもりか?」

「つもりだと?俺だって我慢してきた!」


クリトスの反論にジルは輪をかけて大きな声を出す


「お前は、汁が出るほど我慢した事があるのか!」

「はぁ?」

「悔し涙や、血のにじみ、お前は、汁が出るほど我慢した事あんのか!汁がぁ!!!出るほどぉ!!!我慢した事はあるのかぁ!!!」

「……しる?」


困惑するクリトスにかまわずジルは叫ぶ


「押し付けられる我慢なんて大して痛くねーんだよ、自分から我慢に飛び込む勇気、そんなの味わった事ねーだろ?」

「我慢に飛び込む勇気?」


クリトスはいつしかジルの言葉を繰り返していた。意味がわからないと言うよりも真意を知りたい、そんな境地だった


「お前の母ちゃんだって、痛みを我慢してお前を産んだんじゃねーのか?」


クリトスは自分の母親を知らなかった、捨てられたのか?それとも死んだのか?ふとそんなことを考えるクリトスにジルは続ける


「死ぬことさえある。そりゃすげー怖いだろ、お前を産む代わりに死ぬかもしれないんだぞ?それでも我慢する勇気、何でだ!」

「それは……俺が……」

「お前がいたからだ。」


クリトスは自分の中でつぶやく


「我慢する……勇気」


ジルはそこまで言うと再び腰を下ろして少しだけ優しい口調になる


「お前は我慢と一緒に生まれたんだ、そして我慢と共に大きくなった。どんなに強がっても基本は【M】なんだよ」

「エム?」

「ああ、もう頭にドが付くくらいな」

「俺がエム?あ?バカも休み休み言え……そんな訳……。Mなのか?」

「もう寝ろ!」


ジルは両手を頭に転がるとそれ以上はなにも言わなかった。クリトスは口元に手を当てたまま壁を見つめていた









カウパータウンに住むおかしな科学者ディック・ハード、町の住人から【博士】と呼ばれている彼は誰も見たことの無い銃火器を作る手腕から未来人だと噂されていた。それがもし本当だったとしても本人でさえ証明することは難しいだろう。結局のところ真相は彼の胸の中だけだ。

普段は陽気で気さくな博士だったがこの時ばかりは違っていた。昨日までは市長の娘アナベラがゴールドマンの手に落ちたのは自分の責任だと悲観していた。しかし酒場のシリルに発破をかけられた、博士だけでは無い、みんながやる気になった。みんなでアナベラを取り戻すのだ。カウパー戦役の惨劇に比べればどうと言う事は無い、きっとうまくいく、博士は少しだけ昔を思い出し、そして銃器の制作に没頭した

そんな博士を心配してチェリオが様子を見に来る


「博士ぇ―、博士ぇーどうしたんだよ、また銃なんか作り始めて」

「アナベラを助けるならより遠くから撃てる銃が必要だと思ってな」

「より遠くから?」

「そう、飛距離を伸ばすには弾丸の速度が必要なんだ」

「あ、はい」


チェリオはまた博士の心のスイッチを押してしまったとすぐに解った。博士は説明を始めると聞き手の気持ちを無視して話続けてしまうところがある、その上知らない言葉がいっぱい出てくる。しかも今日の博士はなんだか燃えている。嫌な予感しか無い


「いいか?より速い弾丸の速度を出すに為に今までの弾薬よりも遥かに燃焼効率の良い弾薬を新たに開発したんだ、さらに敢えて小口径化することで空気抵抗を減らし、遠距離での命中精度と威力を追及した。また、弾倉を箱型とすることによって多弾数化と迅速な装填を可能としている、ワシはこれをHK417と名付けたのじゃ!この銃は21世紀の世界では、1.6キロ先のタリバン兵をヘッドショットすることも可能だ」

「うん、完璧に理解しました」

「ウソをつくな!」

「しょうがないじゃんだって意味わかんないもの」


博士はHK417と命名したライフルを作業台に下ろすと、深く息を吐いた


「あのジルって男の言う通りかもしれん、我慢を覚えた方がいい」

「やだよ我慢なんて、俺はいつかこの町を出て自由に羽ばたきたいんだ」

「お前は、鳥がどうしてあんなに高く飛べるか知っているか」

「え?なんだよ、また説教かよ、もううんざりだぜ、そんなの簡単さ、決まってるだろ、羽ばたくからだよ、羽でこう、一生懸命?ってことは努力の足りない鳥はあんまり高く飛べないんだな、だからお前はもっと羽ばたく努力をしろ!って事だろ?もうそういうのはさぁ」

「そうじゃない」

「ええ?じゃあもう解んねーよ、すいませんでしたぁ」


博士はチェリオの目を見てゆっくりと、大事そうに話し出す


「いいか、よく聞け、鳥があんなに高く飛べるのは凄まじいばかりの空気の抵抗を我慢するからなのだ」


チェリオは何も言わず博士を見ている


「私は、良い風を送ってやれてないかもしれん、良い我慢をさせてないのかもしれん、銃は結局は人殺しの道具だ、たとえ16連射ができても、その先は……」

「その先?」


博士は作業台から手を下ろし頭を下げた。そのまま作業台の下から何かを取り出す


「その先はもちろん32連射だ、これもすでに作ってみた。箱型弾倉を長いものと取り換えればさらに装弾数を増やすこともできる、これはUZIと名付けよう!」

「発展させんのかよ!」


博士が豪快に笑うと、チェリオ怒ったような顔でしかし内心ほっとしていた

そのとき聞き覚えのある女の声が倉庫に響いた


「32連射がなんだってー?」


瞬間、緊張が走りチェリオが「誰だ」と振り返る


そこにいたのは処刑されたはずのペニー一家の女ボス、ペネロペロペスだった



いよいよとんでも銃器が登場して参りましたひとつは「HK417」ドイツのヘッケラー&コッホ社製の遠距離射撃が可能な自動小銃ですが。実際の世界では2004に製造された比較的新しい銃です。これは考えようによってはTSネタになるのかもしれませんね。もう一つはUZI、イスラエルのIMI社製(※いまは社名が変わっております)の短機関銃です。1948年製造なので登場は戦後すぐくらいです、当たり前ですが西部開拓時代には存在しません。今思えばRPGもちょっと前の話で書いちゃいました。私はミリオタでは無いので調べながら書いております。もし矛盾や間違いなどありましたらご指摘下さい

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