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第五話 伝説のガンマン

盗賊集団ペニー一家の中でもぺニー・スリーは頭脳派だ。頭はキレるが体力面は平凡以下だった。拳銃を打つ際はしっかりと保持していないと発砲時に銃口が上に傾いてしまうのだが、ただでさえフィジカルの弱いペニースリーが人質のシリルを片手で掴んだまま右腕だけで16連射を撃つと発射の度に上に傾き、最後の弾丸は天井に向かって飛んでいった。


用心棒のマーカスとジニーは16連射の存在を事前に聞いて知っていた。とはいえ連射機構の銃を初めて見る彼等に対して16発の連射音は怖じ気づかせるには充分なインパクトがあった。



「おい、おいおい、何だよあれ、一人なのにすげー撃ってくるぞ」

「あれが例の16連射じゃないか?」

「ってことはあいつがボスか」

「いや、たぶん中ボスだな」



2人が遮蔽物に隠れている間にペニースリーは箱形の弾倉を取り替える。アジトで何度も練習したその動作は非常にスムーズで、グリップから弾倉を抜き予備と取り替えるまでにかかる時間はおよそ5秒、一般的なガンマン達の所有するSAAシングルアクションアーミーと比べても格段に早かった。そしてペニー・スリーはすぐさま銃口を彼等に向け引き金を引いた


タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!!!!


狙われたジニーが慌てて頭を引っ込める


「早い!リロードがバカみたいに早いぞどうなってるんだ」

「左右に分かれよう」


1カ所に固まっていてはダメだと判断し、リロードの隙を突いてジニーが応戦、マーカスは飛ぶように柱の陰へ移動した


パン!…パン!

タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!!!!

パン!…パン!…パン!

タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!!!!


何度か応戦してみたものの、その物量の差は歴然で、2人は逃げ回るので精一杯だった



「くっそ、ちょこまかと」


タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!!!!

パン!


そこへ突然、地下室からペニー・トゥーが飛び出してきた


「YEEEEEEEEEEEEEEES!」

「おい、何やってんだしゃがめ!」

「YES!」


好機とみてマーカスは発砲する


パン!


しかし弾は外れ後ろの酒棚のウイスキーがガチャンと割れるだけだった、その音にペニースリーは慌ててカウンターの下へしゃがんだが、トゥーは棒立ちのまま微動だにしない


「おいバカ、しゃがめって!」

「YES!」


言葉とはうらはらにしゃがむ気配の無いペニー・トゥー


「おい、トゥー、あいつらを何とかしないと外に出られないんだぞ」

「YES、16連射貸して」

「え?」


何か策があるのか?と思いスリーは持っていた16連射をトゥーに手渡した。そのままペニートゥーはふらふらとカウンターから外に出てジニーの隠れている柱に近づいていく


「なんだあいつ」

「こっちに来る」

「え?撃っていいのかな。……撃つよ?」


マーカスは不可解な状況に一瞬戸惑ったが、ジニーに近づく盗賊を止めるべく発砲した


バン!


マーカスの弾丸はペニートゥーの右肩に当たり右腕が少し跳ねた、しかしペニー・トゥーは全く表情を変えない


「オー、YES」


これには撃ったマーカスだけで無くジニーも目を丸くした


「え?」

「今ちゃんと当たったよね?」

「うん。」

「どうなってんの?」

「ショットガンが欲しいとこだね」


ペニー・トゥーはジニーに向かって16連射を撃つ


タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!!!!


撃ち終わると、急ぐ様子も無くリロードをする、右腕に銃弾を受けているのに右手で銃を扱っている、そのまがまがしい様子を目の当たりにしてマーカスは恐怖した


「やべーぞ、このままだと距離を詰められて終わるぞ」

「逃げよう」


頭脳派のペニースリーは考えた、この状況は一体何だ?撃たれても痛がらないペニー・トゥー、そして時折さけぶ聞き慣れない口癖


「……伝説のガンマン」


そうだ、おそらくペニートゥは興味本位で伝説のガンマンを飲んだ、そうに違いない


「なんだよ、無敵じゃねーか、あの博士天才だ、……いや悪魔か?」


タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!!!!


リロードと連射をくり返してジニーに近づいていくペニー・トゥー、いよいよ追い詰められたと思ったそのとき、酒場のスイングドアが勢いよく開いてクリトスが入ってきた


「おいこっちだ!」


登場と同時に発砲するクリトス


パン!


弾丸が背中に当たる、


「YES!」


ゆっくりと振り返るペニー・トゥー、状況が飲み込めないクリトスに16連射を向けると引き金を引いた


タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!!!!


拳銃を保持する気も無いのか、振り向きざまに撃った16連射はそのまま横一線に暴れ、壁に点線が描かれた。

異様な光景にクリトスは驚きを隠せない


「?なんだコイツ」


リロードのタイミングを見計らってジルと一平そしてアナベラも酒場に入ってくる


「あいつ、撃たれてYESとか言ってるけど、まるで変態だな」

「え?うん。そうだね」


ペニー・トゥーは隠れたクリトスを諦めると再びジニーに近づいて撃ちまくる


タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!!!!


連射の度に暴れる16連射をペニー・トゥーは力で押さえ込む、なかなか定まらない弾丸だったが、ついにジニーの足に当ってしまう


「うあああ」


さらに一歩近づくと遮蔽物も無いジニーの身体に直接銃口が向けられる

アナベラは見ていられないと目を伏せる、ジルもどうすればいいか解らずあたふたするばかり


「やばいやばいやばい」


クリトスは打開策の無い自分を悔やんだ、銃弾を受けてもひるまず、16連射を乱射するバケモノ、名うてのガンマンが4人がかりで手も足も出ない、絶対絶滅のピンチ、一体どうすればいいんだ


そこへ酒場のマスターが戻ってくる


「人の店で何してんだ?」


ペニー・トゥーが16連射を向けるがマスターは素早く近づき銃口を跳ね上げる様に腕を掴む。銃口を下げようとするペニー・トゥーと力比べ状態になる。そして銃に気を取られている隙を突いてマスターはペニー・トゥーを力一杯ぶん殴った


バキ!


その場にいる全員があっけにとられていた。


マスターは床に落ちた16連射を遠くに蹴ると、ペニー・スリーをにらみつける。それもそのはずペニースリーの横にはマスターの娘シリルが、口と両手を縛られた状態で立っているのだから


「え?いや、ああ、この娘?ちがうちがう、お店の子でしょ?ちゃんと金は払うから、ねぇ、いくらだっけ?ほら、ガキっぽい方が好きでさ、俺。」


マスターはペニースリーに近づくと、何も言わず胸ぐらを掴み強引にカウンターの外へひきづり出す。そしてそのまま顔面を力一杯殴った

意識を失ったペニースリーがそのまま仰向けに倒れても、マスターは殴るのを止めなかった、何度も、何度も顔面に向け力一杯拳を振り下ろす


バキ!、ゴキ!、ボキ!


やがて手を離し立ち上がるとシリルの拘束を解いてやる、呼吸が楽になるシリルだったが次の瞬間マスターの平手がシリルを頬を強く叩いた


パチン!


「痛っ」


反射的ににらみ返すシリルだったがこっちを見つめるマスターの視線はいつもと違う感じがした。

普段と違う父親のこの感じはなんだ?、うまく説明出来ないけど、なんというか人間らしさみたいな……

しかしその感情が何なのかわからないうちに父親の視線は別の場所へ移ってしまった。


「アナベラ、どうしてこんな処に」

「ごめんなさい、マスターが心配で」

「お父さんのところへ戻ろう」

「……はい。」


自分よりも市長の娘を心配する父親を見てなんとも言えない気持ちになる。

アナベラに嫉妬しているのか?まさか?そんな筈はない、あんなクソ親父に心配されたところで気持ち悪いだけだ。

自分の中の感情を押し殺すシリルにマスターの鋭い声が響く


「おい!」


父親の方へ視線を向けると、あごで指示をしてきた。これはおそらく「散らかった店内を片付けておけ」と言う事なのだろう。割れた酒瓶に壊れたイスやテーブル、銃の薬きょうもたくさん転がっている。

これをアタシ1人でやれって言うのか?

そんな気持ちが思わず口から溢れた


「はあ?」


しまった、口ごたえはビンタと決まっている、シリルは一瞬身構えたが父親はこっちを見るだけだった。やがてマスターはみんなに声をかける


「さあ、行こう」


クリトスも足を撃たれたジニーに声をかける


「立てるか?」

「ああ、なんとか」


アナベラが「手伝います」と肩を貸す

クリトスとマーカスは倒れた盗賊をそれぞれ担ぎそのまま店を出て行った


さっきまでの喧騒が嘘の様に静かになる、店内に聞こえるのは割れたガラスを集める音、溢れたウィスキーを雑巾で拭く音、そしてシリルの何かを押し殺す声


やがて溢れる様にシリルが叫ぶ


「クソ親父!」


そして再びの静寂、しかしそこへジルが戻ってきた


「なぁアンタ、なにをそんなに我慢してんだ?」

「はぁ?気安くアンタなんて呼ばないでほしいね。」

「じゃあ名前は?」

「……シリル」

「なぁシリル、なんでそんなに我慢してんだ。」

「我慢なんてしてねーよ」

「してるさ、俺は我慢のプロだ、俺の前で我慢はごまかせねぇ。」

「はぁ……?」


ただでさえ感情がぐちゃぐちゃなシリルにはジルの言葉の意味がわからなかった。だが入り口で様子を見ていた一平がそれを補足する


「この人は我慢のプロ、戦場で撃たれても痛いけど我慢して撃ち返す。人呼んで我慢のジルだ。」

「我慢なんかしてないね、言いたいこと言って、不機嫌丸出しで、アタシのどこが我慢してるってのさ」


そんなやるせないシリルを見てジルが大声を出す


「我慢について教えてやる!お前の我慢は「悪い我慢」だ」

「はぁ?何言ってんの?」


ジルはシリルの隣に来ると軽い口調でで小芝居を始めた


「私にはあんなに厳しいのに店の女にはめっぽう優しい、不公平だ、どうせ裏でどうにかしてるんだろうサイテーなクソ親父め、……ってね」

「クソ親父じゃねーか!」

「マスターがどうして厳しく教えてるか考えたことあるか?」

「アタシのやり方が気に入らないんだろーよ」

「マスターはシリル、きっとお前を娼婦にしたくないんだ。だからここの仕事を徹底的に教えてる」

「……はぁ?」


キレの悪い「はあ?」だった。まだ子供のシリルにだって娼婦の仕事が何なのかくらいわかっている。しかし言われてみれば確かに自分が娼婦になる姿を想像はした事は無かった。それは自分が単に幼いからではない。父親が酒場の仕事を詰め込んでいたからだ、酒を売る未来は容易に想像できるのだ。それに気づいたシリルは、目に涙を浮かべ、ただうつむくしかできなかった。


ジルはそんなシリルの頭に手を乗せる


「ま、きっと最後は褒めてくれるさ、飴とムチ、飴とムチだよ。今までいろんなプレイを我慢してきた俺だから解るのさ。」


それを聞いた一平が肩を落とす


「最後のがなければカッコ良かったのに」


シリルを残し2人は店を後にした。

16連射はマシンガンの「パララララ」と言うより1発づつ発射する「タンタンタン」と言うイメージです。16発撃ち終わるまでに4秒から5秒かかる想定をしています。

連射と言えば1800年代後半にガトリングガンと言う連射のできる銃火器が出てきますがとても大きく取り回しもめんどうなので本編に採用しませんでした。ジル対ガトリングガンなんかもやってみたい設定ではありますけど……十中八九死にますよね。


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