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第四話 共闘クリトスジル

引き金を引いたまま激鉄を連続して叩く連射テクニックを「ファニング」と言い、クリトスの必殺技3連射は通常の射撃とこのファニングを2回分合わせた合計3連射の設定です。素早く撃つにはホルスターからほとんど動かさず腰のあたりで撃つ事になるのですが、下手クソなガンマンはホルスターに引っかかって自分のブーツを撃ってしまう事があるそうです。通称ブーツショットと呼ばれ、笑い者の代名詞でした。

ファニングもブーツショットも本編に入れられなかったのでこちらに書きました。


ガンマンにとって夕方という時間帯は鬼門だ、夕日を背にした方が圧倒的に有利だからだ、また暗くなれば視認性も落ちる。なので決闘などで日時を指定する場合は早めに現れてよりよいポジションを取ることは当然のこと。ペニー一家が町の西側を人質交換の場所に指定したのもこのためだ、この位置ならば銃撃戦になった時に太陽が味方をしてくれる。


町の入り口には簡素な作りのゲートがある。そのゲートを見下ろせる小高い岩場にペニー一家達は待機していた。ぼちぼち太陽が白からオレンジ色に変わってくる時間帯、時折吹く強い風に枯れ草が転がっている。ちなみにこれは特定の植物ではなく様々な草が絡み合った集合体で、回転する草「タンブルウィード」と呼ばれている。

そんな土埃とタンブルウィードの中3人の男がゲートに近づいて来る。盗賊の特攻隊長ペニー・ワンはそれにいちはやく気づいた


「来ました、奴らです」

「よし」


盗賊の女ボス、ペニーママが交渉開始の合図を送るとワンは大きな声を上げた


「用心棒の連中か!」


こだまする声を聞いて黒シャツに黒ハットの用心棒”クリストファー・クリトス”が叫ぶように返事をする


「そうだ!」

「話は通ってるんだろうな!」

「なんの事だ」


予想外の答えにワンは戸惑った。振り返ってボスに指示を仰ぐ


「話通ってないっすよ?」

「嘘だな、話が通ってなきゃここに来る道理がない、気にせず続けな」


嘘、つまりこれは心理戦だ、なるほどならば戸惑う必要無い、ワンは再び大声で話しだす


「例の物は準備できているか!」

「だからなんの事だ」


あれ?と疑心暗鬼になり、またも後ろに目線を送るワン


「話、通ってないんじゃない?」

「続けろ!」


怒られてしまった。大きく息を吸いもう一度声を出す


「とぼける気か!こいつがどうなっても知らねーぞ!」


そう言うとペニーワンは岩場の上に博士の姿をさらし銃口を突きつける。

間違いなく博士本人だがクリトス達の位置からは太陽が邪魔で見えづらい、そこでワンが博士の背中を強く叩く


「私だ!すまん」


逆にペニー一家の位置からは用心棒の連中がよく見えた。本人だと確信したようでクリトスが酒場のマスターに目配せする、するとマスターは頷き大きな荷物を取り出した。いやよく見るとあれは荷物ではない、人間だ、ペニー一家が使いに出したペニー6だか7だか、なんかそんな感じの奴だった。そのペニー6だか7だかを前につきだして、マスターが叫ぶ


「なら、こいつがどうなってもいいのか?」


人質交換の内容は博士とマスターだったはず。だがそんなことはペニーママの想定内だ


「どうなってもいい!誰だい?アタシゃそんなやつ知らないね」


仲間を見捨てる対応に驚くマスター、そんなマスターを指してワンはペニーママに耳打ちする


「あの真ん中の男が酒場のマスター“伝説のガンマンもどき”です」

「よし続けな」


小さく頷くとペニーワンが大声で交渉を続ける  


「お前たちこそどうなんだ、こいつがどうなってもいいのか?」


拮抗する交渉にマスターがそっと漏らす


「交渉は無理か。やるしかないな」

「そうだな」


銃撃戦を懸念して弾丸を改めるクリトスとマスター、そんな2人を見てジルがわたわたと慌て出す


「やるって何を?まさかもう撃ちあうの?ちょっと心の準備が」

「じゃあ家に帰って準備して来たらどうだ?俺は行くぜ」


今にも撃ち始めそうなクリトスをマスターが静止する


「まて、奴ら思った以上に人数が多いな。町に入られたら厄介だぞ」

「食い止めればいいんだろ」

「ダメだ、まて、山の向こうにも何人かいる」


そんなマスターの警戒を知ってか知らずかペニーワンが叫んでくる


「おい、どうなってもいいのか、返事くらいしたらどうだ。マスターとの交換だぞ!」


太陽がゆっくりと沈んでいくのを見て、ペニーママはワンに耳打ちする


「もう少し時間を稼ぎな、今打ち合いになったら時間が足りないよ」


任せろと言わんばかりに小さく親指を立てるペニーワン、一歩だけ前に出るとひときわ大きく息を吸う、そして


「それにしてもいい天気ですね」


問いかけを無視してクリトスの銃口がこっちを向くのが見えた


「だめですね、撃ってきますよ」


銃口を向けるクリトスをマスターが止めようとする


「おい、クリトス、我慢しろ」

「俺に我慢とか言うんじゃねー!俺の嫌いな言葉は「妥協」と「我慢」だ!」


そう叫ぶとクリトスはトリガーを引いてしまった。クリトスの愛銃コルト・ドラグーンから火花が散り、乾いた破裂音を立てる


パン!


ペニーワンの後ろで博士を掴んでいたペニー8が倒れると。それを見てペニー一家は一斉に岩場にしゃがみ込む。ペニーママはイラ立ちを募らせて叫んだ


「ったく!仕方ないね、行きな!」


それを聞いてペニーワン達は岩場から顔を出し撃ち始める


バンバンバンバンバンバン!


ゲート近くには遮蔽物が少ない、ゲートの柱に慌てて身を隠すジルとクリトス、マスターはとっさに盗賊の使いを盾にした。そのまま銃弾を受けペニー6だか7だかは絶命した











ペニー・トゥーとペニー・スリーは町の中に潜入していた。目的は酒場の地下室だ、そのためにボスであるペニーママが自らおとりを買って出たのだ。酒場の目の前までやってくると陽動班の銃撃戦が思っていたよりも早く始まってしまったようで、その銃声に気づきペニースリーの目つきが変わる


「銃声だ」

「え?なんだよ、全然時間稼ぎできてねーぞ」

「急ごう。酒場のマスターが戻ってきたらマズい事になる」

「でも、もう年寄りなんだろ?大したこと無いんじゃねーのか?こっちにはその16連射もあるし」


16連射とは、博士の魔改造による拳銃だ。リボルバーと比べると直線的なデザインで全体的に四角い印象を受ける、ペニースリーはガンベルトに納まっているそれを手に取り改めてグリップ感を確認した


「そうだな」

「でもさ、お前がどうしてもダメな時は俺がソレ使ってもいいか?」


ペニー・トゥーが手を伸ばして触ろうとした時、再び遠くで銃声が鳴る


バンバン!


見合わせる2人


「急ごう」


そう言ってお互いうなずくと、勢いよく酒場の勝手口を蹴破って中に入っていく

店の中にはシリルがいた。マスターの娘シリルは店のウェイトレスとして手伝いをしている。今日は店を開けない予定だったので1人で留守番をしていた。


「なんだよあんた達」


目が合ったトゥーとスリーは躊躇せずシリルを縛り上げる


「ちょっと、やめろ」


口に布を噛まされ、シリルの声がふごふごふごと情けない音になるが、やがて抵抗を止め静かになった








西側のゲートでは銃撃戦が続いていた。

ペニーママの指示で何人かが走り出す。町に入って狙いを分散させる作戦だ。しかも相手は町の用心棒、一般市民を襲えば追いかけてくるはずだ。幸か不幸か盗賊達が柵を越えて町に侵入する姿をマスターは見逃さなかった


「まずいぞ、町の中にも何人か入った」


ジルは銃撃戦に参加せずおびえている


「無理無理無理」


そんなジルを見てクリトスはある事を思いつく


「くそ、こうなったら」


クリトスはジルに駆け寄ると胸ぐらを掴み頬をビンタする


バチン!


「痛い」

「さあ行け!」

「痛いじゃないか」

「なんでだ、これで不思議な力が出るんじゃないのか?」

「男に叩かれて喜ぶような奴はただの変態だ!」

「変態じゃないのか?」


バカなやりとりを見てマスターが叫ぶ


「おいバカやってる場合じゃないぞ」


チャンスと見たのかペニー一家の銃撃がひときわ激しくなる


バンバンバンバンバンバン!


このままではらちがあかない、作戦の変更を余儀なくされるマスター


「ジルは町の中に戻ってみんなに伝えろ、クリトスはここで何人か食い止めるんだ。いいな!」

「ったく、なんなんだよ」

「さあ行け」


そう言うとマスターは銃を撃ち始めた、ジルの為の援護射撃だ。それを見て走り出すジル

しかしそれを阻止するべく3人の盗賊がジルめがけて走ってくる。

それは一瞬の出来事だった、クリトスは走ってくる盗賊に銃を向けると発砲、そのままトリガーを引き絞り続け左手で撃鉄を素早く2回叩く


パン!パン!パン!


3連射だ

あっという間に3人を仕留めるとクリトスは再び遮蔽物へ隠れた。そしてジルは町の中へ消えていく


「噂どおりだな」

「アンタはどうする」

「いやー、足が痛くてな」













市庁舎ではアナベラと市長が言い争いをしていた


「どうしてパパ、ベンソンさんが矢面に立つなんて聞いてない」

「我慢しなさい、あいつを信じるしかあるまい」

「どうしていつもベンソンさんが危険な目に会わなくちゃいけないの?」

「あいつは元々軍の人間だ。それに今回はあいつ自ら言い出したことなんだ」

「自分で言いだしたならベンソンさんが死んでもいいって言うの?」

「そうは言ってないだろう!……なぜお前はそういつもマスターの心配ばかりするんだ。あいつは強い、きっと大丈夫だ、それにあれがあいつの仕事なんだ」

「違う、あの人の仕事はそんなんじゃない、あの人の仕事は酒場のマスター、マスター・ベンソン!」

「……ああ、確かにそうだな、ただの酒場のマスターそれが今のあいつだ」


本当は違う、でもそうあって欲しいと言う思いが市長から透けて見える。そしてそれはアナベラにとっても同じだった。危険な仕事では無く、普通の人でいて欲しい


「……私が小さい頃から、ベンソンさんはいつもそばにいてくれて、いろんなことを教えてくれた。私を育ててくれた半分はベンソンさんだよ」

「そうかもしれんがでも、もう半分は私……」

「パパは私を閉じ込めてばかり。アレはダメ、これはダメ、もう我慢の限界」


市長は扉を開けて外へ行こうとする娘の手をとっさに掴んだ


「待ちなさい、どこへ行く」

「ただの……、ただの酒場のマスターなんでしょ?」


アナベラの目が真っ直ぐこっちを見ている


「ベンソンさんの仕事を手伝いに行ってきます」

「それだけはダメだ!」


手をふりほどいて走り出すアナベラ

その様子を見て秘書のベンジャミンが駆け寄ってくる


「追いますか?」

「頼む」















ジルは伝令の為に走っていた、盗賊達との交渉が決裂したことを伝えるために、このままでは一般市民に犠牲者が出てしまう、……とまで考えていたかどうかは解らないが、とにかく走っていた。しばらく走っているとジルの耳に聞き慣れた相棒の声が飛び込んできた


「兄貴!おーい兄貴!」

「おう一平」

「なんだかヤバそうですね」

「まあな、で盗賊はどっち行った」

「酒場の方かなぁ」


そのとき悲鳴が聞こえてくる


「うわああああ!」


声の方を見ると、倒れた盗賊と、その隣には娼婦のマライヤが立っていた


「なんなんだよ、全く、金もってないやつは嫌いだよ!」


その状況からはマライヤが盗賊をやっつけた?ように見える。そんなマライヤに一平が声をかけた


「ああ、お姉さん良いところにちょっと手伝ってくれない」

「なんだよ、金もってんのか?」

「まあまあ、金の話は一旦置いておいて、俺が合図したら、ジルの兄貴を叩いたり蹴ったりして欲しいんだ」

「はぁ?」

「人助けだと思って、ね、お願い」

「叩けばいいの?」

「そう、頼みます。」


そんなことを話していると、盗賊が声を上げて走り込んできた


「あっちから来る!お姉さん、今だ」

「おら!」


ジルのお腹に綺麗なボディーブローが入ると、その瞬間ジルはホルスターから銃を抜いた。


「ハイ!」


バン!


早い、普通銃を撃つときには構えて撃つのが一般的だがジルのそれはあまりに早かった。グリップを掴んでホルスターから銃を持ち上げ、銃口がホルスターから抜けるギリギリのところで角度だけを変えて的を狙う、同時に左手で撃鉄を起こし右手の人差し指でトリガーを引く。ホルスターは通常時は下を向いているので、膝から上の上体を反らし、ホルスターの先が的に向くようにしながら一連の動作をほぼ同時に一瞬で行う。ボディーブローで前屈み気味だったことを考えるとまさに驚異的である。盗賊はその場であっけなく倒れた


「いいね、うまいよお姉さん!」

「そうかい?」


マライヤは腹を殴っただけなのにまんざらでもない。

そしてまた盗賊が現れる


「あっちの屋根!」

「ほら!」


今度はマライヤの張り手が飛んだ、ジルの顔が横にぶれる


「ハイ!」


バン!


倒れる盗賊、顔がぶれて照準が合わないことなどジルには関係無かった、


「路地から2人」

「おら!よ!」

「ハイ!ハイ!」


バンバン!


「あっちとコッチとそっち」

「おら!おら!おら!」

「ハイ!ハイ!ハイーーー!)


バンバン、カチャ!


3連発の最後に嫌な音がした、そう弾切れである。ジルの持っているピースメーカーは弾が6発しか装填できない


「やば!」

「兄貴!リロード!」

「なに?6発殴ればいいの?」

「違う違う」


そこへクリトスが現れて撃つ


バン!


「悪い悪い、そういや痛いのが趣味だったな、次からは気を使って……」


クリトスが言い終わる前にジルが銃口を向ける


「ハイ!」


クリトスの背後にいた盗賊を撃ち吹いた


「そっちは痛いの、嫌なんだろ?」

「クソ!」


相変わらずの2人だが今のはお互いの背中をカバーしたとも言える、案外相性が良いのでは?この2人なら盗賊を一掃できるかもしれない。一平はそんな事を考えていた。よしどんどん行こう!と思った矢先に娼婦のマライヤが地面にへたり込んでしまった


「もう叩くの疲れた、痛っ、手が」


手首が赤く腫れている。ジルを叩く時によくない当たり方をしたようだ

困っていたその時、都合よくアナベラが通りかかった。一平はすかさず手を上げる


「アナベラさーん!、こっちこっち!」

「ああ、ジルさんの」

「ちょうど平手が切れちゃって困ってたんです」


マライヤが手首をさすりながら愚痴をこぼす

「もう手が痛いよ」

「アナベラさんお願いします」


状況を察したアナベラは「またですか?」と露骨に嫌な顔をするが、そんな会話もつかの間、盗賊達が現れる


「ああ!あっちから4人来ます」


アナベラは覚悟を決めジルの前に立つと右手を大きく振りかぶった


「この変態ブタ野郎!」


パチン!


「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」


バンバンバンバン!


ジルの動きはマライヤの時とは明らかに違う。力強さを感じさせる動きだった。明らかにひと味違うジルの動きを目の当たりにして一平が褒める


「一発のビンタで4人も、アナベラさんすげー」


手首をさすっていたマライヤでさえ「あんた何者?」と言った顔で見ていた。

息つく暇もなく女の悲鳴が聞こえてくる


「きゃー、助けて―」


娼婦のエレクトラが2階の窓から助けを求めていた。彼女の後ろには銃を構えた盗賊がいる、どこかで見たことのある光景だ


「兄貴、あのひとまた襲われてる」


既視感を感じつつクリトスも口をはさむ


「さすがに遠いな。100メートルは優にあるぞ」

「兄貴は100メートルなら大丈夫、さあ、アナベラさんお願いします。」


ジルはひざまずき、平手打ちを最大限受けられる位置に顔を持っていく


「思いっきりきて」


アナベラは肩を落として溜息をつくも、気を取り直して右手を振りかぶる


「これが欲しいんだろう」


バチン!


「キタぁーーーーーーーーー。ハイ!」


バン!


盗賊が頭から血を流して倒れるとエレクトラは力なくお礼を言った。一平はそれを確認すると通りの先を指さして一同を促す


「さあ、酒場へ急ぎましょう!」


ジル達は再び走り出した










町の西側ゲートでは、マスターが一人で盗賊一味を壊滅させていた。立っているのは女ボスのペニーママただ一人。ただしペニーママも伊達に女ボスを務めてはいない。マスターとペニーママは激しい戦闘の末、至近距離で銃口を突きつけ合う、そのまま2人は膠着状態となっていた

マスターは決め手を欠いて焦っていた、この距離で打ち合った場合2人とも致命傷を受ける確率が高い、かと言ってかわして逃げられるほど相手はヘボじゃない、どうしたものかと思っていると、自分を呼ぶ声が聞こえてきた


「マスター」


チェリオだ、非戦闘員の彼は、事態が落ち着くまで待機している約束だった。しかし大事な博士の身を案じて自ら乗り込んできたのだった。


「来るんじゃない」


マスターの静止も効かずすぐ隣まで近づいてくるチェリオ、肩には大きな筒状のものを担いでいた。トリガーらしきものがあるところを見るとおそらく銃だ、しかしサイズが異様に大きい、チェリオはその先端をペニーママに向け狙いをつける


「マスター、あれ?残りはやっつけたの?」

「ああ、あと一人だ」

「すげー、これ要らなかったかな」


銃口を向けあって身動きの取れないペニーママも、チェリオの持ち物に興味を示す


「なんだいそりゃ」

「これは博士の作った携帯式対戦車擲弾(てきだん)発射機だ、トリガーを引くと先っぽの大きなつぼみみたいな部分が飛んで行って大爆発するんだ、博士はこれをRPGって呼んでた」


ほとんど意味は解らなかったが、最後の大爆発だけでも取扱注意の代物だと察したマスターは、「今は撃つな」ときつく念押しする。

やがて地面に転がっていたペニーワンが、げほげほとせき込みながら笑い出した。チェリオはRPGをそちらに向ける


「なんだお前?」

「くっくっくっく、もう手遅れさ、今頃仲間が町の酒場に向かってる」

「バカ、余計なことは言わなくていいんだよ」

「すいません」


うっかり口を滑らせたペニーワンにチェリオが問いかける


「酒場に何の用だよ」

「用があるのは店じゃない、酒場の地下室だ!」

「バカ、余計なことは言わなくていいって言っただろ!」


二度あることは三度ある、チェリオはもう一度質問した


「その地下室に何しに行くんだ?」

「その地下室には実はな」


パン!


ペニーママがワンの頭の横すれすれを打ち抜いた、当然ペニーワンの会話はストップするが、それはマスターとの膠着状態の終わりを意味していた。無論マスターの銃口はママを狙い続けている。彼女は観念して両手を上げると、マスターの出した手のひらに自分の銃を渡した


チェリオは話が中途半端に途切れたのでマスターを問いただす


「なんの事だよ、教えてくれよ」

「知らなくていい」

「知ってもいいだろ」

「ダメだ」


そこへ解放された博士がゆっくりと戻ってきて声をかける


「マスター・ベンソン」


もう隠しきれない、すべてを話そう、そんな落胆と決心の入り混じった表情をしていた。












ぺニー・トゥーとペニー・スリーが梯子を下りきるとそこには炭鉱のような広い空間が広がっていた。ペニースリーがランプを片手にあたりを照らす


「これが地下室か」

「すごいな、どうりでマスターがずっとカウンターに立ってたわけだぜ」

「ああ」

「でもよくみたら酒ばっかりだな」

「この中にあるはずだ」




町の西ゲートでは、マスターがペニーママたちの武器を取り上げ縛り上げると、博士は岩に腰かけて語りだした


「地下に降りていくと酒樽の隙間にビンが一本だけ置いてある。目立つ場所にあるからすぐわかるだろう」


チェリオが恐る恐る質問する


「それがなんだっていうんだ」


博士が黙ってしまうと、ペニーママが横から口をはさむ


「どうした。教えてやったらどうだ?」

「……薬だ、薬が入ってる」

「薬?」




酒場の地下でペニー・トゥーがその薬を発見する


「これじゃねーか?」

「おお、きっとそれだ」




チェリオの顔がこわばっていた、ペニーママはそんなチェリオの反応が面白いのかニヤニヤと楽しそうな顔で説明に入ってくる


「カウパー戦役を覚えてるだろう?命を捨てさせるような最後の特攻作戦、あの作戦を成功させた秘密が、それだ」

「薬で作戦を成功させた?なんだよどういう事だよ博士」


博士は声を絞り出す


「ああ、まず痛みを鈍らせるんだ」


ペニーママが嬉しそうに笑う

「最低だねー」

「そうさ、最低の発想だろう?それは兵士を使い捨てるという考えならばこの上ない特性だ」

「それから?、まだあるだろう?」




酒場の地下室でペニートゥーが薬の瓶を手に取り愛しそうに顔に近づける


「俺、ちょっと飲んでみようかな」

「え?」

「えへへ、冗談だよ、本気にすんなって」


その時ペニー・スリーが何かに気づいた


「足音だ。誰か入ってきたな、見てくる。」


そういうと、静かに梯子を上っていく




説明の回りくどい博士に対してペニーママがつつくと、観念したように博士ははっきりとチェリオに言った


「そしてポジティブになる、なんでも前向きになる。痛みにさえな、これを突き詰めていくとどうなると思う」

「どうなるんだ?」

「命令に従順になるんだ、どんな命令でも従うようになる」

「……すげぇ」

「痛みを喜び、そしてどんな命令にもYESと言う、それが「伝説のガンマン」つまり人間を変る洗脳薬だ」









酒場のスイングドアをゆっくり開けてマーカスとジニーが入ってくる、酒場に盗賊連中がいるらしいと聞きつけて用心棒としてやってきたのだ。銃を構えたまま慎重に行動する姿から警戒心の高さがうかがえる。だがテーブルの下を一つ一つ覗いても誰もいない、マーカスは疑問に思う


「確かここに2人入って行ったと思うんだけど」

「他に隠れる場所も見当たらないし、一体どこへ」


しびれを切らしたマーカスが大声で威嚇する


「おい!居るのは解ってるんだ!出てきやがれ!」


天井に向かって威嚇射撃


バン!


銃声が響くだけですぐに静けさに包まれる

しかしその直後、銃声に目を覚ましたシリルのうめき声が響く


「んーーー、んーーー!」


カウンターの中から声がする、そう思い一歩近づくとシリルのこめかみに銃を向けたペニー・スリーがカウンターの中に現れた。マーカスとジニーは慌てて銃を銃向けるが、人質を見て手を止める


「俺はペニー・スリー」


シリルがふごふご言っているが判別できない


「お前たちはこいつの初めての獲物だ、そこを動くなよ」


ペニー・スリーはマーカスに銃口を向けると、力いっぱい引き金を引く

連続の破裂音とともに16発の弾丸が飛び出してきた。


タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!!!!


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