第三話 16連射
市長のデイヴィッド・カウパーはチェリオの話を聞き大きなショックを受けていた、もっと早く決断していれば防げたかもしれないと言うことを激しく悔やんでいた、チェリオの親代わりである博士が誘拐されたというのだ
チェリオはイタリア系移民の両親を戦争で亡くし、今は“博士”と呼ばれてるディック・ハードのもとで暮らしている。そしてその博士の作る発明道具は幅広く、中にはもちろん重火器もある、その技術が盗賊の手に渡ってしまったかもしれないのだ
「いや、よく知らせてくれた。キミ自身危なかったろうに」
「俺はいいんだ。とにかく博士が心配で」
「ああ、そうだな」
「博士は俺をかばったんだ、本当は俺が……」
「ああ、でも伝説のガンマンは無事だった」
「でも博士がさらわれたら伝説のガンマンも」
「そうだな、君の言う通りだ、早急になんとかしよう」
そこへ、秘書のベンジャミンが酒場のマスターを連れて入ってくる
「失礼します。マスターのベンソン氏をお連れしました」
マスターは険しい顔をしている。もともと強面で険しい作りの顔だったが、今は輪をかけて険しかった
「おお、マスター・ベンソン、すまなかったな、実は大変なことになってな。……ディックの奴がさらわれた」
市長が急いで来いと言うから嫌な予感はしていたがさすがにショックを受けた。その様子を見てチェリオはすまなそうにしている
マスターとチェリオは初対面では無いが話したことはほとんど無かった。
「酒場のマスターじゃねーか、たしか足が悪いんだろ」
チェリオが無事だと言うことは博士がどうにかして逃がしたと言うことだ、そのためにどんな犠牲を払ったのか、目の前の五体満足のチェリオを見つめマスターは胸が熱くなった。
しかし、そんなマスターの強面に見つめられ逆にチェリオはこわばってしまう
秘書に促され席に着くと、市長が状況を話し始めた
「まあ、かけてくれ。知ってるだろう?チェリオだ、ディックのところの彼が伝えてくれた、ディックがさらわれたと」
「ペニー一家か?」
「ああ、そうらしい」
「用心棒を雇う話はどうなった」
市長は自ら雇った用心棒“ゴールドマン”の名を出すのをためらった、ここらの界隈でゴールドマンにいい評判は聞かない、しかし他に手が無いのも事実だ
「雇ったよ、……ゴールドマンボールだ」
「あいつか」
「ああ、確かに腕は立つ連中だ、しかしその、実は」
マスターは口ごもる市長の顔をのぞき込んだ、そして少し間を開けて市長が絞り出すように声を出す
「……成功報酬として、……あの子と、アナベラと結婚させろと」
市長は目を閉じたが、悔しさからか涙を浮かべているのがチェリオにもはっきり見えた
しかしマスターの次の言葉はチェリオを困惑させる
「気づかれたのか?」
「いや、わからん、いずれにせよ、彼らだけで戦わせるわけにはいかない」
チェリオは聞いてはいけない会話を聞いている気分だったが、入ってくる余計な情報を必死に振り払う、今はとにかく博士を助け無ければならないんだ、そう強く思いチェリオは口を挟む
「とにかく博士を助けに行かなきゃ」
強面のマスターの目がこっちを見る
「……俺が行くしかないか」
「足悪いんだろ?アンタで大丈夫なのかよ?」
マスターの足が悪いのは事実だ、戦争で単発も銃弾を受けたと聞いている、しかし強くにらんでくるマスターは怖かった、気に障ったようなら謝った方がいいかもしれない
「ごめんなさい」
「そうだ、面白いやつがいる」
「ん?」
マスターは表情を変えずに市長へ提案する
「今日、ウチの店に来てた連中だが、なかなか面白い撃ち方をするんだ」
「話はできるのか?」
「ああ、さっきもバーにいた。俺が話すよ」
「じゃあ私はゴールドマンに伝えてこよう、急いだ方がいいな」
「ああ」
「ちょちょちょちょ、ちょっとまって」
席を立とうとする2人をチェリオが止めると、市長が眉をひそめた
「なんだ」
「いや実は、あれが」
「あれ?」
「いっぱい撃てる銃」が、実は、ペニー一家の連中に」
「いっぱい撃てる銃?」✕2
「うん、博士が作ってたんだよ、ピースメーカーは弾が6発だろ?」
ピースメーカーとはコルト製シングルアクションアーミーの代表格で撃鉄を起こすとシリンダーが回るいわゆるリボルバータイプの銃の事である、装弾数は6発、またSAAに限らず初期のリボルバーは誤発射を防ぐために1発目を空にして持ち歩いていたため5発装填が通常だった。この時代、多くの弾を仕込める銃と言うのはそれだけで驚異となり得る
マスターはその重大さを瞬時に把握し、恐る恐るたずねた
「いっぱいって……どのくらい?」
「16発」
「16ゥ?」
普段一切表情を変えないマスターの顔がゆがむ
「ああ博士の作った銃は弾が16発入る」
「そんな馬鹿な」
16という数字に市長もとまどう
「それじゃ今までの、3倍じゃないか」
「うん、でもあの銃の機能は、それだけじゃない」
「……なに?」
「……どういう事だ?」
チェリオは続ける
「普通の銃は一度撃鉄を起こし、トリガーを引くことで撃鉄が弾を叩く、すると弾に着火し爆発、弾丸が飛び出る仕組みだろ?」
「ああ」
「博士の銃は弾丸の反作用で撃鉄を起こしてしまおうって設計なんだ」
ついにマスターが頭を抱えて立ち上がり、うめき声のような音を出す
「……!!なんてことだ、そんな恐ろしいものをあいつは!」
「つまりどういう事なんだ?」
理解の追いつかない市長に、マスターが補足する
「いいか、撃鉄を起こす手間がかからない」
「ああ」
「つまり連射が出来る」
言葉を飲む市長、そして最後にチェリオがこう締めくくる
「16連射だ」
カウパータウンから西へ数キロ離れた場所にペニー一家のアジトはあった、小屋がいくつも立っており人数の多さがうかがえる、それはまるでちょっとした村のようだった
博士を拉致した彼等は、新しい銃の説明を聞くため集まっていたが、説明の内容が難しかったのか皆一様に頭をかしげていた。盗賊の一人“ペニー・トゥー”は声を荒げて言った
「16連射だぁ?」
それに端を発し次々に文句が飛ぶ、赤髪の男“ペニー・ワン”がとりわけ大きな声で詰め寄る
「どこの名人だぁ?バカも休み休み言えよこのバカが!」
「バネの力を使うんだ」
「バネを使って16連射じゃオメー反則だろうが、子供たちもがっかりじゃねーか」
ペニー達の文句が止まらない
「はぁー……やはり理解されないのか」
「おめー今俺たちの事遠まわしにバカって言っただろ、そう言うのはすぐ解るんだぞ!」
ペニー・トゥーが身動きが取れないように縛られている博士の胸ぐらを掴んで揺する、博士が苦しそうな声を漏らすと、ペニー・スリーがその手を止めた。このメンツの中では比較的頭の賢いスリーは博士の発明に目を輝かせていた
「なるほど、バネの力を使って弾丸を自動的に装填するわけですね?」
「おお話が分かるな」
「ああ、銃をいじるのは割と好きな方でね」
「ほう銃を?」
「ペニー・スリーだ、俺ならあなたの言ってることが理解出来る」
ペニー・スリーは孤児だったが昔から読み書きが得意だった、そのせいかペニー一家の中で重宝されていたが友達もいなかった。だからスリーは博士と会話ができることが楽しかった
「弾数はどうやって増やしてるんだ?」
「弾倉を箱型とすることによって多弾数化と迅速な装填を可能としている」
「箱型!」
「そうだ、グリップの中に仕込んである」
「じゃあこの中にバネを使っているんだな」
「ああこれがカウパー戦役のころに完成していればもっと多くの仲間を救えたかもしれん」
「なるほど」
「そしてさらなるパワーアップのアイディアもある」
その場のほとんどの人間が会話の内容について行けず困惑していた。ボスであるペニーママは違った
「おもしろいね、さすがは未来人」
「なんの事でしょうか?」
「アンタは未来からきたってもっぱらの噂だよ」
「……そんなことできるわけがないだろう」
ペニーママは博士のあごを掴んで自分の顔を近づけると真っ直ぐと目をのぞき込んでくる。博士は身動きが取れないまま見つめ返すが自身の心臓の音がやけに響いている気がする
やがてペニーママは手を放すと、ドカッとテーブルに腰かけた
「嘘かホントか、まあ、アタシはどっちでもいいけどね、アタシが興味あるのは一個だけ」
「なんだ」
「伝説のガンマンが欲しい」
「はっ、何かと思えば、酒場のマスターがどうした?」
「酒場のマスターねぇ……。とぼけても無駄だよ。全部解ってるんだ「男性はリスクを恐れなくなる」だったかな?」
博士は慌てた、なぜそれを知っている、マズい、非常にマズい、あれだけは、伝説のガンマンだけは知られてはならない、それなのに
「何の事だかわからん」
「思ったより強情じゃないか、これなら一緒にいた若いのも連れてきた方がよかったかな」
ペニーママは立ち上がると、子分達の方へ声を上げる
「誰か行きたい奴はいるか?報酬に金貨を3枚でどうだ」
「行きます」「俺も」「いや俺が」「俺だ俺だ」
にわかに沸き立つ面々を見て博士が叫ぶ
「チェリオには手を出さない約束だぞ、そのために私がきたんじゃないか!約束は守ってもらうぞ」
「うるせーー!」
ペニーママが一喝すると子分達も黙りこくる、息を止める者さえ居る
「伝説のガンマンはどこだ?」
全員の視線が博士に集まる
「……酒場の」
「酒場の?」
「……酒場の地下室だ」
ついに言ってしまった、深い後悔が博士を襲う、拘束されている上でもがっくりと肩を落としているのがわかるほどだ、しかし実際に酒場を襲撃したことのあるトゥーが声を上げる
「ウソだ!酒場に地下室なんて無かった!」
「嘘じゃない。いつもマスターが立っている、……そこに」
「なにぃ?じゃああいつが守ってやがんのか、困ったな」
頭の賢いスリーがスッと手を上げ、ママに進言する
「おびき出しましょう、博士とマスターの交換を持ちかける、あの用心棒連中もまとめて来てくれればなお良いですね」
ペニーママは少し考えて、そしてニヤリと笑う
「悪くないね、こいつとマスターの交換だ。おいペニー・ワン」
「わん!」
「使いに行きな」
「使い?」
「そうだよ」
「俺が!?」
「そうだよ」
「今?」
「そうだよ!いいかい「明日の夕方、町の西側の入り口で待つ」と伝えてきな」
「ええー、やだよー、トゥーが行けばいいじゃんか」
ペニー・ワンは“ワン”の称号を持つだけあって腕が立つ、性格も怖い物知らずで切り込み隊長の狂犬だ、ゆえに荒仕事は好きだが伝令などの地味な仕事を好まなかった。対してペニー・トゥーはワンが嫌いだ、頭の悪いトゥーだったが、いつもクールぶってママの言う事を聞かないワンにいらだっていた
「な、お前が行けよ、トゥー」
「悪いな、俺には16連射の使い方をマスターしなきゃならんと言う使命があるんだ」
「はぁ?それ俺のだからね?」
「ああそうか、悪いな、俺は新しい武器が手に入るかもって一昨日くらいから思ってたから、心の準備ができちゃってるんだよ」
「なんだよ心の準備って、そんなのしらねーよバカ」
「うんうん、だから悪いなって」
「うるせー俺のだ」
「うんうん悪いな」
いつしかつかみ合いの喧嘩を始める二人
「見苦しいよ!もう誰でもいいからら町に使いに行きな!」
夜のアジトにママの声がこだました。
カウパータウンに唯一あるホテルにゴールドマンたちは部屋を取っていた。
小さな町なのでホテルと言っても大した設備があるわけじゃない、それでもゴールドマンの泊まる部屋は特別だった、代金は言うまでもなく町が出している。クリトス達は盗賊退治の手順を決めるため集まっていたのだが、クリトスの頭の中はジルのことでいっぱいだった
「あの野郎、俺の顔にミルクをかけやがった。それも素早く」
ふとしたことで嫌な記憶がよみがえってくる、そのたびに「あいつは卑怯だ」「油断しただけだ」と言い訳が先に立つ、しかしどれも最後は自己嫌悪に変わっていくのだった
そんなクリトスを慰めようと、用心棒の一人マーカスが声をかける
「まだ気にしてんのか。ミルクは綺麗にふき取っただろ?」
「そういう問題じゃねー!それに、あいつは俺より素早く正確に撃ちやがった」
女ガンマンのジニーはマーカス同様にジルの正確無比な射撃を見ていないので、クリトスよりも早撃ちができる人間の存在をにわかに信じられない
「あんたより早く?信じらんないねー」
「じゃあよ、あの後から入ってきた東洋人は何者なんだ?チャイニーズか?あいつはすげーのか?」
「いや、入ってきたとき盗賊に脅されてたろ?銃も持ってなかったし、きっと大したことないね」
ストレスの限界かクリトスが大声を上げる
「ああああ!あの変態ブタ野郎!」
そのまま立ち上がり「出かけてくる」と言うとハットを掴んでドアを開ける、そこへゴールドマンが立っていた、丁度部屋に入ってくるところだった。
「どこへ行くクリトス」
クリトスの肩に触れると「座れ」と促すゴールドマン、クリトスは渋々イスに腰かけた、ゴールドマンは一同の顔を確認して話し出す
「いいかお前ら、市長との話はついた、市長の娘とクリトスとの結婚、手はず通りだ」
狭い部屋に歓声が上がる
「条件は女ボスの死体、解ったな」
全員が理解したことを確認するとゴールドマンはクリトスの背中に手を添える、説得する相手に触れるのがゴールドマンの話術のやり方だった
「ところでクリトス、聞いたぞ、おかしな奴に助けられたんだって?」
クリトスが返事をしないをしない代わりにマーカスが茶々を入れる
「助けられたって?そりゃ本当ですかゴールドマン」
「ああ、なんでも、お前より早く撃ったとか?どうしたクイッククリトス」
クリトスはあのときの出来事を誰にも話していない、じゃあ誰がゴールドマンに話した?そんなのは決まっている、ジル本人に違いない
「あの野郎、俺の顔に泥を塗りやがったな」
「泥じゃねーだろ?ミルクだ、アレはミルクだ」
再び茶々を入れるマーカスにものすごい形相でにらむクリトス、それをゴールドマンが諭すように割って入る
「悔しいか、なぁ、その泥だかミルクだかをかけた野郎を今すぐどうにかしてやりてーか?」
クリトスは返事をしない
「でも今はダメだ」
すかさずマーカスが合いの手を入れる
「我慢しろってよ」
「俺に我慢とか言うんじゃねーよ!、俺の嫌いな言葉は「妥協」と「我慢」だ、二度と俺に我慢とか言うんじゃねー!」
それでもゴールドマンは余裕を持ってたしなめる
「少し落ち着け、おまえらしくねぇ」
返答をしないクリトスにゴールドマンは続ける
「よぉクリトス、俺たちの目的を忘れた訳じゃねぇだろ?」
「……ああ」
「ちっちぇハエなんて気にしてる場合じゃねーぞ?」
ゴールドマンは優しく肩を抱き逆の手で胸をポンポンと叩いく、クリトスは大きく息を吐くと落ち着きを取り戻した。
そこへ部屋のドアを叩くノックの音
コンコンコン
「私だ、カウパーだ、取り急ぎ話がある。」
今夜の酒場は貸し切りだった、と言っても酒盛りのためではなくペニー一家討伐の作戦会議本部にする為だ、ゴールドマンとジル達が一度に集まれる場所がここしかなかったのだ。
先に集まったのはジルと一平、新聞社の2人、そしてジルの依頼人であるアナベラとマスター、中心にはペニー一家の“使い”がぐるぐる巻きの状態で横たわっていた、そいつの頭をマスターが軽く蹴る
「もう一度、さっきと同じ事を言ってみろ」
「あ……明日の夕方、町の西側で博士とマスターの交換だ!」
博士が人質になったことを知った一同は驚きを隠せなかったが、ジルは興味がなさそうにしている、マスターはそんなジルに問いかける
「と、言うわけだ、明日の夕方、一緒に来てほしい」
「ほう!この俺に?しかし今の雇い主はアナベラだ、彼女がご主人様、いや女王様だ。女王様に聞いてみな。」
ため息をつくマスタ―
「どうだアナベラ」
「マスターが人質になるんですか?」
「そうならないように手伝ってくれと言う話だ。」
どうしてよいかわからず返答できないアナベラとは対照的に記者のトーマスはガシガシとメモを取り、ポールに写真を撮るように指示を出す。
ジルの身を案じ一平が口を挟む
「マスターとジルの兄貴の二人だけです?」
「いや、もう一人」
マスターが説明しかけたタイミングで丁度スイングドアが開いた。入ってきたのはゴールドマンとクリトスだった
「酒場ってのはここでいいのかい?」
ゴールドマンの顔を見て記者のトーマスは興奮気味に声を上げる
「あれは!この界隈じゃ知らないものはいないギャングの大物、ドン・ゴールドマン・ボールじゃねーか!おい撮っとけ」
「ハイ。」
マスターは2人を招き入れテーブル席へ促す、ゴールドマンは初顔が多いと見ると手を広げ大きく挨拶をする
「ゴールドマン・ボールだ、ほら挨拶ぐらいしろ」
「クリトスだ」
アナベラがクリトスの顔を見るなり指を指す
「ああ!トリスの人」
「ああ、アンタか、俺はトリスじゃないクリトスだ」
ジルと一平も混乱気味だ
「え?クリス?トリス?」
「クリトスですって」
バカみたいなやりとりでジルの存在に気づいたクリトスが豹変する
「お前は!」
対抗するようにジルも反応する
「ああ!あの人だ!」
この男と組むのは無理だ、瞬間的にそう判断しクリトスは叫ぶ
「嫌だ、俺は断る!」
「わがまま言うんじゃねークリトス言う事を聞け」
「わがままじゃない、無理だって言ってるんだ」
意見が食い違うクリトスとゴールドマン、そこへ重ねてジルの断りが入る
「俺だって願い下げだぜ、女王様ここは悪いけどお断りいたします。」
「そうか、お前が来ないなら俺はやるぜ!」
「なんだよ、トリスだかクリスだか知らねーけどお前が下りればいいじゃん。なんだっけ、トリス?」
「クリトスです兄貴」
ついにクリトスがキレる
「この野郎!」
クリトスが銃を抜きジルの鼻先に銃口を構えたそのとき、ジルの銃口がクリトスの視界に入る。構えるスピードは互角だった
カチャ!
トーマスが慌ててジルをたしなめる
「ちょっとちょっと、ジルさん拳銃しまって!」
「うるせーな新聞記者、口出すんじゃねー」
「いやそうは言ってもですね」
「嫌だね、天地がひっくり返ってもこいつとは組まねー」
「あ、そうだ、アナベラさんが直接言えばいう事聞くかも、ね、アナベラさん!」
制止を聞かず銃口を向け合う2人、ゴールドマンもクリトスに声をかけるが2人は構えを解こうとしない
「ジルさん!我慢してください」
アナベラの声が聞こえた瞬間だった、ジルは言葉が終わる前には銃を下ろし、構えたときよりも早く握手の手をクリトスに差し出した。
「緒にやろうクリトス!」
あまりの変わり身の早さに全員があっけにとられ沈黙状態になる、さすがのトーマスもメモを取る手が止まった
「……アナベラさんすげぇ」
それでも銃口を下げようとしないクリトスに、マスターが優しく声をかける
「クイッククリトスだろう?名前は聞いてるよ、キミが来てくれると頼もしい」
悩んだ末に銃を下げるクリトス
「……今回だけだぞ」
その言葉で酒場は安堵の空気に包まれた。ジルとクリトスのチームワークがどうなるか一抹の不安は残るとはいえ、ある意味ドリームチームが結成されたのだ。マスターが3人で握手をするように彼等の手を包んで握る。だがそんな中ジルが余計な一言を口走ってしまう
「今回だけ我慢だな」
「お前、そんなに我慢して楽しいのか?」
「楽しいね、誰かの為に我慢する。楽しいね」
「ああそうかい」
「お前はしないのか、我慢」
とうとうクリトスが怒鳴り声を上げる
「俺に我慢とか言うんじゃねー!俺の嫌いな言葉は「妥協」と「我慢」だ、二度と俺に我慢とか言うんじゃねー!」
「お前が先に言ってきたんだろうが!」
一触即発の2人にアナベラが割って入る
「ジルさん、我慢してください」
「はい!」
不安をぬぐうようにマスターが締めくくる
「よし、博士奪還作戦はこの3人で行う」
その様子を見てカメラマンのポールがストロボを焚いた
「カウパー」はアメリカでは割とメジャーな名前で、つづりは「Cowper」ですが発音次第では「クーパー」と書く事もあります。アルファベットをカタカナ表記にする時に発音を少しだけ曲げて解釈すれば色々な表現が出来そうです。登場人物の名前解説もどこかで出来たらいいなと思っております