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第十話 我慢のジル

賞金稼ぎや用心棒を生業とするならず者達を束ねるドン・ゴールドマン・ボール、彼の屋敷の大広間は急造で祭壇を設けたチャペルとなっていた。プロテスタントの牧師を招き、ゴールドマンとアナベラの結婚式は着々と進行していく。牧師から誓いのキスをうながされ。ゴールドマンは年甲斐も無く緊張した


「よしよし、まあ仕方ないだろう、誓いのキスをしないわけにもいくまい」

「YES」


ゴールドマンは放心状態のアナベラに顔を近づけ唇を突き出した

そのとき壁の向こうで銃声が響いた


パン!


「なんだ?」


唯一の立会人であるベンジャミンは立ち上がり外の様子をみに行く。すると再び銃声が鳴る


パンパン!


ベンジャミンが胸を押さえ戻ってくる


「う、う……クリ……トスが」


ベンジャミンが死に際に侵入者の名前を告げると、銃口を向けたままのクリトスがゆっくりと入ってくる


「立会人無しでどうやって式を挙げるつもりだ?ゴールドマン!」


血まみれのベンジャミンと銃口を見るや否や、牧師は慌てて退去する、チャペルには新郎新婦とクリトスだけが残った。銃口に狙われたゴールドマンは両手を挙げたままクリトスへ話しかける


「よおクリトス」

「ゴールドマン!」


怒りを込めて名前を叫ぶクリトス。銃口の先はゴールドマンの額をピタリと狙っている


「まあ座れよ。」


聞く耳もたんと言った様子でクリトスは微動だにしない


「おいおい、いつまでそのおっかねーの向けてるつもりだ?」


ゴールドマンの問いに返答は返ってこない


「怖いから下してくれよ。」


返答の無いまま鋭くにらむクリトス


「お前も銃を下ろしてほしいって思うだろ?アナベラ」


アナベラがクリトスの方へ振り返ると、ゆっくりと手を差し出してくる。その手には小さな銃、レミントンのダブルデリンジャーが握られていた


「そんな!」

「ああ、あの人、怖い人でちゅねー」


そう言うとゴールドマンはアナベラを盾にするようにゆっくり移動する、どうすればいい、アナベラと一緒にゴールドマンを撃つのか?それはできない、しかしもたもたしていればアナベラが引き金を引いてしまう


「俺を撃ちたければこいつも一緒に撃つしかないな。」


クリトスは奥歯をかみしめた。


「さあ、銃を置け。」

「……クソ」


どうすればいい、言う事聞くしか無いのか?言う事を聞くにしても寄りによってこんな中年のおっさんの言う事を聞くしか無いのか?


「じゅうをおけ」


それはアナベラの声だった


「……はい。」


気がつくとクリトスは素直に返事をしていた。そしてに銃を床に置く、アナベラの銃口はこっちを向いたままだ


「まだ撃つんじゃないぞアナベラ」

「YES」


ここまで来て、ここまで来て何もできないのか俺は。いや、アナベラは本心でゴールドマンに従っている訳では無い。そしてクリトスは意を決してアナベラの名を呼ぶ


「アナベラ!」

「クリトスよお、親殺しは重罪だっつってんだろ?」

「アナベラぁ!」

「俺の嫌いな言葉、お前ならよーくを知ってるだろ?【妥協と我慢】だ。ガキの頃から家族のいないお前を育てて立派なガンマンにしてやったのに。その俺に銃口を向けるなんて」









カメラマンのポールはクリトスとゴールドマンの様子を望遠鏡で覗いていた


「ジルさん、やばい、クリトスさんが」


そう言われてジルが目をこらすと。そこにはドレスを着てクリトスに銃を向けるクリトスがなんとかギリギリ見えた


一平も娼婦の二人も「どうしよう、どうしよう」と慌てるしかできない、しかしジルの目は死んではいなかった


「よし、俺が、アナベラの持ってる銃だけを撃ちぬく!」


距離を考えすぐさまチェリオが否定する


「そんなの無理だよ、危険すぎる、もしアナベラさんに当たったら!」


カメラマンのポールは望遠鏡を覗きながら訴える


「アレはデリンジャーですよ、銃だってかなり小さい」

「大丈夫、俺が超ドMモードになった時の射撃の精度なら大丈夫だ、絶対に銃だけを撃ちぬいてみせる。」


常軌を逸するジルの発言にチェリオが忠告する


「アンタまさか、ここから!?でもあそこまで400メートル以上あるぞ」

「遠すぎる、兄貴の精密射撃の距離は過去最高150メートルですよ」


ジルがニヤリと笑う


「つまり、3倍の痛みを与えれば届くってわけだ」


3倍と聞いて娼婦のエレクトラが怖じ気づく


「3倍強くたたくの?無理無理!」


マライヤも素振りをしてみるが3倍に届くとは思えず首をかしげる

一平は到底うまくいくとは思えなかった


「無理だよ兄貴、そもそも、こういう時こそアナベラさんの罵りがないと」


「一平!」


ジルは一平の泣き言を大声でさえぎると、自分に言い聞かせるように言った


「真のドMってのは心の中にいつでもイメージをストックしてるもんだぜ!」

「……じゃあ、……イメージをオカズに?」


ジルは今まで使っていた16連射をチェリオに差し出す


「俺のいつもの銃をくれ」


チェリオは16連射を受け取るために預かっていたジルのピースメーカーを一平に渡す


「うん、でもそれ残り3発しかないよ」

「大丈夫、3発もあればアニキの」


チェリオからピースメーカーを受け取った拍子に一平は誤って引き金を引いてしまう


バキューン!


空高く弾丸が飛んでいった


「あ……」


一平はごまかすように喋り続けた


「残りの弾数は2発、これを兄貴に託すぜ!」

「何やってんだアンタ!」

「いやいやいや、兄貴なら2回もチャンスがあれば」


一平がそこまで言うとジルはその手から銃をつかみ取ると、残弾数とシリンダーの位置を確認する


「いやチャンスは1回だ」

「なに言ってんだ兄貴、2発あればチャンスは2回」

「最近の連中は、ちょっと痛ぇくれーですぐ文句言いやがる。でも俺は違う、痛い、辛い、苦しいは成長の証、俺は我慢が大好き、我慢のジル、我慢のジルだぁぁぁぁぁーーー。」


そう叫ぶとジルは銃口を自分の太ももに当て、引き金を引いた!


パン!


「ぎゃぁーーーーーーーーーーーー」


仰向けになって転がるジルの叫び声が辺りに響く、

チェリオ達が慌てて膝をついて声をかける


「何してんだ、おい」

「アニキィ!?」

「痛ってぇーーーーーーーーーーー、痛てーー、痛てーー、我慢我慢我慢」

「バカ!太ももってのは重要な血管通ってる場所だ、当たり所が悪ければ」


チェリオの注意を無視してジルがおもむろに立ち上がる


「痛い痛い痛い痛い!、我慢我慢我慢我慢!、来た来た来た来た!、当てる当てる当てる当てる!」


ジルの銃口は遙か400メートル先に狙いを付ける


「ハァイ!」


パン!









ジルの放った弾丸はクリトスの額に向けられていたアナベラのデリンジャーの銃身の先に当たり、アナベラの手から銃がはじけ飛ぶ


カキン!


瞬間クリトスが立ち上がり、ゴールドマンの顔面にパンチ、自分の銃を拾いゴールドマンの顔に向ける


「おいおい、育ての親になんてことするんだ。」

「黙れ!」

「やめろ、撃つな、我慢しろ?」

「俺に我慢とか言うんじゃねー!男のお前が言うんじゃねー!」

「俺だって、我慢してきたんだ、お前らガキは知らねーだろうが戦争の時代は物がなくて我慢するしか無かったんだ」


そこへ一平に肩を支えてもらったジルが入ってくる


「我慢について教えてやる!」


ジルのひときわ大きな声がチャペルに響く


「昔してたんなら、知ってんだろ、我慢がなんなのか」


両手を挙げた状態でゴールドマンはジルをにらみつける


「なんだお前は!?」

「したことあるんだろ、我慢」

「だから、二度と我慢しないように奪って、蓄えてきたんだ」

「奪うから足りなくなるんだ!」

「足りないから奪うんだよ!」

「我慢とは愛だ!」


ジルの思いもよらなかった解答にクリトスが反応する


「愛?」

「ああ、我慢ってのは不思議なもんでな、カネとか食料とか、足りない足りないって言っててもみんなで少しづつ我慢すると、ちょっと余っちまうんだよ。これで解決じゃねーか、我慢とは譲り合う心、すなわち愛だ。」


ジルの甘えた考えに我慢しきれずゴールドマンが叫ぶ


「だからカウパー戦役の時代は!」

「おいおっさん!大惨事が起きると我慢できるのに、どうして今はできないんだ、3年たったら我慢できなくなるのか?5年たったら我慢しなくていいのか?そうじゃねーだろ!」

「論点がおかしいだろ」

「そんな事は無い!むしろこっちが本質だ、その時は我慢できたのに、どうしてできなくなっちまうんだ!我慢が世界を救うんだよ!」

「世界を?」


状況からしてゴールドマンに勝ち目は無かった。そこでクリトスが口を開く


「この町から去れ、そうすれば殺すのは我慢してやる。」


クリトスの一言にジルがニヤつき、冷やかす


「おお、言うようになったね」

「うるさい」


少しの沈黙の後ゴールドマンは観念して、クリトスの提案に同意した


「……解ったよ。」

デリンジャーは殺傷能力の極めて弱い銃として有名です。かのバックトゥーザフューチャー3でも「すぐは死なない、この前のやつは死ぬまで2日かかった」と言う台詞があるくらいで、威力を期待すると言うよりはサイズの小ささから隠し武器として護身用に使われることが多かった様です。一般的なデリンジャーは弾が1発だけしか装填できないので撃ったらそれでおしまいでしたが、本編に出てくるダブルデリンジャーは銃身が2本縦に並んでいて、それぞれに1発づつ計2発発射する事が出来ました。


次回はいよいよ最終回です。ぜひご期待下さい。


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