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No.7「騒動翌日」

「失礼する。」


 道化師襲来事件の翌日。

 マリエル・バースの病室に現れたのは、警備隊が誇る最強の魔術騎士リチュアル・エクスワード。

 最強の名を冠する男にしては、随分な細身。


 そして珍しいことに、剣は腰でなく背中に差しています。あれが、「貫けぬものなし」と謳われる名刀"糸電(シデン)"ですか……


「ご苦労様です、リチュアル殿。すみません、こんな格好で……。」


 私は現在、病床の上。包帯ぐるぐる巻きの見っともない状態で対応しなくてはならないとは……何とも不服です。

 穴があったら入りたい。動けない身体でそう考えている私に、エクスワード殿は語りかけてきます。


「容体が優れない中で悪いが、今日は事情聴取のために伺った。君は道化師と話をしたと聞いている。是非とも教えてほしい。どんな会話をしたのか。そして、どうして戦闘に発展したのか。」


 彼は無駄話もなく、すぐに本題に入りました。

 お忙しい方なので、これも仕方がないのでしょう。

 まあ私としても、お兄さま以外の長話に付き合うことはできないので好都合。私は彼の頼みを快諾し、事の顛末を一通り説明しました。

 その間、彼が口を挟むことはなく、私が喋りを終えたところである質問を投げかけました。


「えーと、まず。……君から先に攻撃したの?」

「は、はい。そうです。」


 エクスワード氏は、何か困惑した表情を浮かべている。


「それは……なんで?」


 おっと、これは愚問です。お兄さまの教えを受けていれば、簡単に辿り着く答えだと言うのに。


「お兄さまが言っていたのです。この世で最も理想的な攻撃手段は奇襲であると。」


 奇襲こそ最強。いずれ魔術師の頂点に君臨するであろうアルス・バースが説いた言葉です。


「それは同意する。奇襲は最も理想的だよ。だが、俺が知りたいのはそこじゃなくて……その。」

「何でしょうか。」

「君はまだ専門学生ですらないよね。来月から魔術専門に入学すると聞いている。そんな新米未満の君が、なんで戦闘に踏み切れる?」


「なんで……とは?」


「怖くないのかということだ。普通は、命のやり取りに身を投じる前に、それ相応の訓練を受ける。」


 確かにそうでしょう。

 魔術専門の授業は、そのような訓練も兼ねている筈です。


「自分の命を懸ける度胸と、相手の命を奪う覚悟を育てる必要があるんだ。……君はそれをどこで手に入れた?」


「フッ。またも愚問ですね。」

「……!?」


 私は病床の上に立ち上がり、両手を広げて声高らかに宣言した。


「全てはお兄さまのため!私とお兄さまを間を引き裂く悪魔は全て葬り去ります!!そのためならどんなカルマも苦ではありません!」


 言った。言ってやりましたよ!お兄さま!!私と貴方の愛の証明を、今ここに示したのです。


「うっ。傷口が。」


 ポージングとクソデカボイスは病人には厳しいものがあったようです。

 しかし悔いはありません。エクスワード殿も、私の宣言に感銘を受けているご様子。

 口をあんぐりと開けています。


「……最近の女の子は、前衛的なんだね。色々と。」

「前衛的!正にその通りです。私たちの愛は、既存の概念では捉えられませんから!!」


 流石はリチュアル家のお方。理解が乏しい愚民共とは違います。


「俺はもう帰るよ。……なんか怖いし。」


 資料をまとめる必要があるらしく、警備隊本部へ向かうとのこと。

 被害確認に道化師や召喚魔術に関する情報収集。

 本当にお忙しい方のようだ。


「っと。そのまえに。コレについて何だが。」


 彼から手渡されたのは、新聞記事だった。

 見出しには、「道化師テロ 音響の魔術師が解決」と書いている。


「研究者として評価されている音響だが、今回の件で戦闘の才能も知れ渡る事になった。今後は、若手の中でも台風の目になるだろうな。」


「くっ。」


 悔しいが、認めるしかない。音響の魔術師の実力を。


「まあ、ウチの妹には敵わないだろうがな。」

「うわーシスコンですか。キモ。」

「……君にだけは言われたくないな。あと一応、警備部隊のエースなんだけど俺。」

「あっ!お兄さまも記事に載ってる!」

「……。」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 音響の魔術師ミックス氏は、共闘したアルス・バース(20)について、「彼がいなければ勝利はなかった。」と語る。

 戦闘時は、無数の流星軌道で相手を追い詰めたというアルス氏。今後、二人の活躍に期待だ。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 ……少ない。お兄さまの魅力を伝えるにはあまりにも少ない文章量。しかし、お兄さまが記事で紹介されること自体には感激しています。


「お兄さまが、大きくなっていく。」


 こうなることは確信していました。私は、お兄さまが最強の魔術師になることを信じて疑いません。これからも彼は強くなり、名のある魔術師として活躍し、いずれ最強の座を掴むのでしょう。


 それに比べて、自分は。そう考えると胸が締め付けられる。


 お兄さまに敵うはずがない。そう思い続けていたら、私は置いていかれてしまうのでしょう。

 現に、私はあの戦いに手も足も出せませんでした。

 あの道化師や音響、そしてお兄さまと比較すれば、私なんて凡も凡。


 このままじゃダメ。強くならなきゃ。


 お兄さまの腕にしっかりとしがみついて、彼の隣を歩けるように。




 ♣︎




 ー同刻ー @???


「落ち着いたか。サイズ。」


「……ブレイド。」


 "闇のチカラ"を才能あるものに普及し、道化師の勢力を拡大する。


 それが俺に与えられた任務だ。

 だが、昨日は失敗に終わった。

 あの小娘の勧誘は上手くいかず、不意打ちを喰らう羽目になった。


 更に、現れた二人の魔術師。

 あんな雑魚どもに返り討ちに遭うなんて。


「命令違反の戦闘行為。更に、位喰を使って負けるとは……呆れたよ。」


 ブレイド……。コイツにだけは逆らえない。

 道化師たちの中でもリーダー格のコイツには。

 なんせ、あの"黒魔術師"だからな。


「お前の言う通り、マリエル・バースを引き込もうとしたしたが……。それが間違いだったんだ。ありゃとんだじゃじゃ馬だぜ。」


「自分の事を棚に上げて……よく言うよ。」


 いきなりナイフで突き刺してくるようなイカれ具合。俺でもそんなことはしない。


「……まあ、今回は運は悪かった。"音響"の実力は噂以上らしい。」


「いや、勝てた。アイツ一人が相手なら。アンタは見てないだろうが、あの黒髪短髪はヤバい。」

「黒髪?」


 あのえげつない流星を放ってきた黒髪の魔術騎士だ。

 瞬発力からするに、騎士としても一定程度の実力あるのだろう。


 それ以上にヤバいのは、あの"流星(リュウセイ)"だ。


「コチラのデータにはないが?」


「新しく加えとけ。流星軌道だけで分かる。ありゃセンスの塊だ。弾道の引き方に、幾つも戦術的意味と魔術ギミックがあった。」


「お前の評価は当てにならないが、一応警戒しておく。……"軌道の魔術師"と言ったところか。」


 ブレイドに、アイツの脅威はあまり伝わっていないらしい。

 ……まあ良い。次こそは完膚なきまでに打ちのめす。


 そして、仲間に引き入れよう。闇のチカラは奴に渡す。

 アイツには道化師の仮面が良く似合いそうだ。


「待っていろ、軌道の魔術師。まだ俺を楽しませてくれるんだろ?」





 ◆





「へぶしっ。」


「あれ〜アルス。全身打撲に加えて風邪?」


「ミックス、うるさい。」




 軌道の魔術師。

 後にアルスはそう呼ばれる事になるのだが、彼はまだ何も知らない。

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