表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

No.2「救済措置」

ブックマークして下さった方々、ありがとうございます!不定期ですが、更新していきます。

「勝者、アルス・バース。」


「……。」


 勝った。あのリチュアル・ナフレイルに。今までずっと頭の中で渦巻いていた迷いは晴れ、初めて戦いにのめり込めた。


「流石はわたしのお兄さま!!」


 マリィが飛びついてきた。いつもより(ハグの)締め付けが強い気がする。自分のことのように喜んでくれているようだ。


「全部、お前のおかげだよ。マリィ。」


「いえ。お兄さまの実力ですよ。自分を過小評価しすぎです。」


 腕を組み、頬を膨らませるマリィ。なぜか注意されてしまった。


「そうだぞ。お前はやればできるんだ!」


「ちょ、カグラ先生!!」


 なぜかカグラも俺に飛びついてきた。お前は俺の妹じゃないだろ。良い年した大人が……何やってるんだ。


「カグラ先生、いい人だと思ったのに……わたしに優しくしてくれたのも、やっぱりお兄さん目当てだったからなんですね。……殺ス!!」


 ナフィが魔方陣を展開している。あ、あれは"氷塊(ヒョウカイ)"だ。


「マリィ!?ストップ!ストップ!!」


 やばい。マジで殺す気だ、この子。俺は彼女の両手をとって止めさせる。


「お、お兄さまがそこまでいうなら仕方ありません。非常に不本意ですが、今日の所は見逃してあげます。」


「悪かったよ妹ちゃん。(君の)反応が面白くてつい……ね?」


 フランク態度で謝罪するカグラ。いつもの仏頂面はどこ行ったんだ。


「俺のことは置いといて……ナフィを医務室に運びましょう。思いっきり殴ったので。」


 審判をしていたマルタが担架の用意をしている。そして、医療班がすぐに駆けつけてきた。


「それにしても、この女は気の毒ですね。お兄さまと模擬戦をするなんて。確かにレベルの高い生徒なのでしょうが、お兄さまには遠く及びません。」


「流石にそれは言い過ぎだ。十回やったら九回負ける。その一回が最初に来ただけだよ。」


 謙遜しているつもりは無い。”流星(リュウセイ)”、”障壁(ショウヘキ)”、そして木刀でのシンプルな戦いでは、基礎的な魔術と剣術のスキルがものを言う。


 ”流星・改(リュウセイ・カイ)”みたいな大技はそう上手くはハマらない。


「なあアルス、一つ疑問なんだが。」


 いつの間にか仏頂面に戻っているカグラが聞いてくる。


「砂塵で”流星(リュウセイ)”の追尾を妨害されたとき、なんで軌道が変化したんだ?どうやって追尾を継続させた?」


 ナフィが俺の戦法をトレースしたときだな。


「ああ、あれは。……はじめから追尾効果を切っていたんですよ。」


「は???」


 そう、あれは……。と、解説しようとすると、後ろから声が聞こえてくる。


「はじめから弾道を設定していたんだよね!」


 ……誰だ、この天然パーマ。同学年だとは思うが、流石に全員覚えているわけではない。


「30発の過大な弾数設定は、いわばカモフラージュ。イレギュラーで判断を遅らせて、障壁(ショウヘキ)を使わなせない。本当の決め手は追尾弾に見せかけた、最初からコースが決まっている魔弾。」


「……。」


「さらに!”左後ろ”へステップするという相手の行動パターンを見抜いて、無防備な相手を打ち抜いた。そうでしょう?アルス君?」

「せ、正解。それな。」


 嘘だろ、このくせ毛ヤロウ。俺の作戦の九割は言い当てている。はたから見ていただけのはずなのに、追尾のカラクリや行動パターンを予測したことまで……。初対面でもセンスの良さが分かる。どれだけ戦闘IQが高いんだ。大勝利をおさめた後だってのに……ちょっと自信なくすぜ?


「カグラ……先生。この男、何者ですか?」


「え?ちょっと、僕のこと知らないの?ひどい!!」


 肩を掴んで揺らし、俺の脳みそをシェイキングしてきた。一応言っておくが、俺だって怪我人なんだぞ。なんならナフィよりボロボロだ。


「僕の名前はミックス・アルデンティ。人呼んで、音響の魔術師だ。」


「へ、へぇ。」


「ちょっと。反応薄くない?これでも僕、有名なんだぞ!!」


 小さめの身体でエッヘンとポーズをとるミックス。音響の魔術師?聞いたことあるような、ないような……。


「学会発表はまだだけど、前回開発した音響魔術がとある界隈では……って。アルス君?」

「……あ、あれ?ひざが……。」


 木剣でボコボコにされたダメージが……。急に立ち上がれなくなる。めまいも……。


「アルス君?大丈夫!?アルス君!?」


 やめてくれ!俺の頭をブンブン振り回すな。流石にトブ!!意識がトブ……!!


「ちょっと、やめてください!!お兄さまを返して!!」


「そうだぞ、アルスも限界なんだ。早く医務室にって……おい?」



「大丈夫ですか、お兄さま?……お、お兄さま?」




 @医務室


 目蓋が開かれ、視界がだんだんと明るくなる。


「……知らない天井。」


「奇遇ね。私と全く同じセリフを吐きながら起きるなんて。」


 となりのベッドには、俺と全く同じ状態のナフィがいた。


「フッ。お嬢様もテンプレに従順なんだな。」


「は?」


「いや。」


 横並びのベッドに座る病人の二人。ボコした相手と相席なんて気まずいなぁ。まあ、蓄積ダメージは確実に俺の方が大きいけど。


「……許せないわ。」


 唐突に切れるナフィ。


「じょ、情緒不安定なのか?」


「……違うわよ。……いや、違わないわね。内心煮えたぎる思いだわ。」


 眉間にしわを寄せている。


「悪かったよ、模擬戦なのに。でも、こっちだって本気だったから。」




「そうじゃない!!」


 声を荒げるナフィ。どうやら本当にご立腹らしい。


「私が怒っているのは……あなたが退学になることよ。」


 ……そのことか。


「それだけの実力を持ちながら……退学なんて、なんで。」


「……。」


「私は一日たりとも努力を怠ったことはないわ。剣も魔術も、それ以外も。私は一生懸命にやっている。それでも今日は負けた。私は魔術師として、あなたに劣っているのよ。」


 ナフィには才能がある。魔術の規模は規格外だし、剣のセンスも相当なものだろう。だがそれ以上に、この女の強さはその努力値だ。戦って分かった、研鑽の日々が。


「俺は、お前ほど凄い奴じゃないよ。」

「……それでも、私は今日負けた。私とあなたじゃ、魔術に対する……向き合い方?が、多分違う。どこまでも突き詰めたいという欲求が、私には足りない。」


 自分の手の平を見つめながら、饒舌に語るナフィ。遠目から見ることしかなかったが、こんなに喋る彼女を見るのは初めてだ。それは自分の敗北を戒めるためなのか、よほど主張を突き通したいらしい。


「今日あなたは、私より強かった。だから、退学になるなんてありえない。」


 コイツが言いたいのはそういうことか。


「でも……進級試験をすっぽかしたのはホントのことだ。文句なんて言えないよ。」


「いいえ。私が文句を言うわ。理事長に。」


 え。今なんと?(理事長?)


「このままあなたがこの学校を去ったら、恥をかくのは私なのよ。勝ち逃げされた敗北者として、のうのうと学生生活をおくり、偽りの首席で踏ん反り返る。それが私には許せないの!」


 絶対的王者としてのプライド。今まで積み重ねてきた研鑽と、確かな実力の自負によるものだろう。退学への反対は、俺への温情などでは一切なく、ただひたすらに自分の都合。勝手な奴だと思いつつ、同時に尊敬する。自尊心を貫けるやつは凄い。


「今から理事長に掛け合ってくるわ。」


「い、今から?病み上がりだぞ!」


 病床から立ち上がり、説得に向かうナフィ。どんな行動力だよ。


「待ってくれ。行くなら俺も……。」


「うるさい。あなたは関係ないわ。」


 ……関係あるよ。お前よりあるよ。




 30分ほどして、病室の扉が開く。ナフィがもどってきたかと思ったが、カグラだった。


「妹さんから弁当を受け取った。後で食べろ。」


 カグラの弁当、だと?


「先生……。俺、一生ついていくよ……!」


「い、一生?それはちょっと……考えさせてくれ。」


 マリィの弁当を持ってきてくれるなんて、たまにはいいことするじゃないか、この教師。と思ったら、なんか体をクネクネさせている。きもい。


「そ、それにしても聞いたぞ。妹さん、体調を壊していたらしいな。」


「は、流行り病で。でももう、すっかり良くなったみたいで。」


 なぜか悲しそう顔で聞いてきた。


「……お前が試験に来なかったのは?」




「マリィの看病ためだ。」


 マリィの……俺たちの母親は、流行り病で亡くなったのだ。”多分、大丈夫だろう”とはいかない。マリィが熱を出し、病気を患っていると分かった時点で、俺は欠席を即断した。


「はあ。とんだシスコンだな。」


「何とでも言え。」


 何度でも言う。俺は後悔はしてない。


「退学のこと、妹には言っているのか?」


「言えてない。言えるわけがない。……けど、民間にスカウトされて就職したってことにして。」


 実際、そうするつもりだったし。


「そう上手くいくか、バカ。」


 まあ、そうだよな。それが正論だよな。


「お前の退学、誰も納得いっていないんだよ。私にナフレイルにお前の妹。お前を実力を知る奴は全員な。金持ちのボンボンに手を出したお前も悪いが。」


 でも、今更じゃ……。そう思う俺に対して、カグラはニヤリと笑う。


「もう立てるか?理事長がお呼びだ。」




 @理事長室


「入りなさい。」


 カグラと俺で理事長室に入る。1年通っているが、この部屋に入るのは初めてだ。


「アルス・バース君だね。」


「はい。」


 理事長。白髭を驚くほど伸ばしている老年の男性。魔術師としての雰囲気が作為的かと思うほどよく作られている。そんな老練の魔術教師が、髭をねじりながら語る。


「本来、君は退学とするべきなのだが。今回は特別に”進級試験の追試”を行うことにした。」


 救済措置という訳か。ナフィのやつ。本当に説得しやがった。


「だってうるさいんだもん、あの子。あんまりリチュアル家に逆らうとワシの立場もあやういし。」


 老練の魔術師というレッテルは一瞬で崩壊した。フラットな口調で保身に走ったことを明言する理事長。この人もしかして、髭を伸ばしてるだけの面白おじいさんか?しかし、今回退学を一度取り消ししてもらえることは事実だ。コミカルな雰囲気に流されず、丁寧にお礼を言っておこう。


「ありがとうございます。」

「ただし!!!」


 急に威厳を取り戻したように、野太く大きな声で理事長は言う。うるせぇよ。心臓に悪い。


「試験内容を少し変更する。実技はなし。筆記だけで評価する。先日の試験と問題難易度は同じ。内容は変更して行う。本試験は三日後だ。」


 なるほど。流石に実技はやらないか。


「さらに、合格基準を得点率五割から八割へと引き上げる。」


 これを聞いたカグラは、即座に一歩前に出て理事長へ意見した。


「恐れながら申し上げます理事長。得点率八割は、いささか難易度が高すぎるかと……。」


 それに対し、厳格な態度で即答する理事長。


「いや。この追試は、一度ふるい落とした学生を救い上げるものだ。このくらいのハードルは当然だろう。いいな?アルス・バースよ。」


 ふん、わざわざハードルを用意してくれるとは。分かっているじゃないか、理事長。これでまた、妹にカッコいいところを見せつけることができる!


「理事長、俺を誰だと思っているですか?世界一カワ(・∀・)イイ!!マリエルの兄、アルス・バースですよッ!!」

「……。」


 ……冷静になるなよ。




 ◇




「カグラ先生。アルスの結果が出ましたよ。」


 ついに来たか。理事長の話から4日後同僚のマルタが採点結果を持ってくる。正直心配だ。

 全教科で得点率八割は、この私ですらとれるかどうか。魔術数学に関しては問題ないだろうが……。


「ど、どうだ。結果は?」


 マルタに恐る恐る訊ねると、彼がはその用紙を差し出した。


「それなんですが……。」




 ー-------------------


 国立魔術師専門学校 進級試験(追試)

 1年 アルス・バース


 魔方陣学:98/100

 魔術数理:200/200

 属性学:88/100

 歴史M:59/100

 魔術特論:95/100

 計:540/600


 ー-------------------




 得点率九割……。魔術数理は満点か。デキるやつだと分かってはいたが。


「カグラ先生。私は実技担当だから分からないのですが、九割というのはそんなにすごいことなのですか?採点した教員が『音響の魔術師と同じ点数だぁ!!』と大騒ぎで。」


「……。」


「……先生?」


 やはり、私の目に狂いはなかった。この生徒を見出した自分に喜びと恐怖を覚える。


 この生意気な小僧ならたどり着けるかもしれない。世界を変える禁断の魔術師。……黒魔術師に。




(そうだアルス。本気を出せ。もっともっと強くなれ。時間は待ってはくれないぞ。)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ