そもそも?
さて、設備の再起動をしてから寝て起きたわけだけど……様相はまさに一変していた。
「これは……」
『どう?』
「すごい!」
『ふふふ、ほめてほめて?』
「……あほ」
『えー、ひどくない?せっかくがんばったのに?』
「はいはい」
やたらと人間的にひねくれるミーナと会話しつつ、私は各所を調べていた。
「よくもまぁ、ドック入りもせずにここまで」
船の中は寝る前とうってかわり、まるで稼働中の宇宙船の中だった。
どんどん修理され、さらに清掃もなされていく。
あわただしく動き回るロボットたちに、運ばれる資材。
うんうん。
少なくとも、あの瓦礫と廃墟の面影はもうない。
「……あの大量の土砂とスクラップ、どこにやったの?」
私がどえらい苦労した瓦礫の山のあったところが、なんかハリウッドの宇宙モノSFに出てきそうなピカピカの廊下に変貌していた。
すごい。
もう、どこが壊れていたのかも全然わからない。
『元素を分解して収納、一部は再構成して資材にしました』
「元素を分解?」
聞けば、物質を素粒子状態に分解し、特殊な入れ物に収納したり引き出したりできるらしい。
さらに素粒子から必要な物資を合成したり、部品をこしらえたりもできるという……。
「部品を作る……もしかして、めっちゃ強力な3Dプリンターみたいなやつ?」
3Dプリンターというのは、設計図通りに部品などを作ってくれる地球の機械。
ま、私もよくは知らないけど。
『3Dプリンター……ああ地球の工作機械ですか。
ええ、まぁ似たようなものですね。
じっさい、多くの資材は立体印刷して作りますから、地球の3Dプリンターとやらの進化型のひとつと言えるかもしれません』
「そっか」
なるほど。
部品も船体も分割して印刷し、それをロボットたちが組み立てたり接着していくわけね。
『今は船外の資材も取り込んで使っています。
もう少ししたら色々と復活して便利になりますので、すみませんけど待ってくださいね』
「ほー……ま、周囲が資材だらけだもんね」
『はい、おかげさまで』
「そんじゃ次の仕事はやっぱりアレ?」
『はい、材料も揃いましたし、いよいよ地上にセンサー類とアンテナを出します。
ですが外の生き物たちがあの通りなので、また壊されるかもしれない問題があります』
「やばいよねアレ……ロボットたちでもダメ?」
『実は、今の状況を招いた原因がそもそも彼らなんですよ。
工場が使えない状態で、彼らに生き残りの警備ロボットや作業ロボットを全滅されられまして』
「……なんとまぁ」
あんな化け物がウヨウヨいる砂漠とか……考えただけで気分が滅入るわ。
『おそらく、過去にあった文明の汚染物質に、落下した船舶などから漏れた危険物なども影響しているかと思いますが。
巨大化や凶暴化がひどい事になっていますね』
「なんでこんな星に人が住んでるんだかなぁ」
『あら、それを言うならわたしたちの所属である神聖ボルダも似たような星ですよ?』
「え、マジで?」
『はい、マジです』
「……ねえ、ちょっと質問なんだけど」
『はい、何でしょう?』
「ものすごく基本的な質問で悪いんだけど。
なんで人間の住む星が、そんなひどい事になってるの?
いっそ、こんな星捨てるとかしちゃダメなの?」
『あー……いえ、その質問は別に「悪く」はありませんよ。当然の疑問です』
ミーナは少しためらって、でも話してくれた。
『わたしたちの星ボルダも、そしてこの惑星も、過去に文明が栄え、そして見捨てられた星なんですよ。
現在の住人は全員、外来者がルーツなんですよ』
「外来者?」
『現ロディの住人の99%は、よその星系に行くはずだった移民船団の生き残りの子孫だそうです。
巨大な移民船団の一部が事故により、目的地にたどり着けなくなってしまった。
その人々が全滅するよりはと、ぎりぎり生存可能と思われた名もなき惑星に漂着したのです』
「……」
『たしかに生存は可能でした。
だけどそこは、廃墟の星という言葉にふさわしい場所だった。
しかもこの惑星のある星域に至っては、歴史的事情で多くの星の宇宙戦争の合戦の場にされていたそうで。
よって大量の墜落船や不発弾など、膨大なジャンクがその上にトッピングされており、まるで巨大なゴミ捨て場だったそうです……今でもひどいですけどね』
それは。
「ジャンクがあるなら使える資材もとれるんじゃ?
それで船を修理して出ていくとか、外に連絡をとって助けを求めるとかしなかったの?」
『宇宙は広いですから。
それに難破した移民船の人々って、どこの国の所属だと思います?』
「あ」
そっか。
「所属すらハッキリしない人々を、しかも、はるばる宇宙を渡って遠くから助けに来てくれって言われても……ってこと?」
『はい、そういうことです。
かりに援助物資を送ってきた星があったとしても、それだって即日届くわけじゃないし、一過性のものにすぎません。
結局、自力で何とかするしかないんですよ』
うわぁ……汚染にジャンクの温床の中で、何とか自力で生き延びろって?
それなんて地獄?
「よくそこから普通に国を起こしたね」
『普通に、ではありませんね』
「え?どういうこと?」
『漂着民が全滅した記録がたくさん残っています。
現在の生き残りは、いろんな事情でギリギリ生き残った者たちの子孫なんですよ。
彼らはなんとか生き延びて、ついに再繁栄への道を開いたのです』
「おー」
漂着民、そして落ちた宇宙船。当然、ろくな資材も機械もない。
かりに周囲にお宝の山があったとしても、それを有効活用するにも道具が必要だ。
よくやるなぁ。
いやま、やらなきゃ死ぬんだから、それしかなかったんだろうけど。
「とりあえず、一筋縄でいかない歴史を抱えているのはわかった。
じゃあ、まず調査しないとね」
『調査?』
「地上の確認して、アンテナとりつけられるか見ないとね」
『そうですね、はい、よろしくお願いします』
「やりたくないけどなぁ……」
『安心してください、何があっても必ず再生してあげますから』
「いやいや、そもそもやられたくないっての!」
『あはは』
あんな化け物たちに襲われるなんて、考えただけでゾッとする。
私はためいきをついた。