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ハイテクなのかローテクなのか

 とりあえず船を直そうって事になったわけだけど。

「えっと……本当にこの奥に修理装置があるの?」

『疑問はもっともですが、大破しているんだから仕方ありませんよ』

「そりゃそうだけど……こんなの自力で修理できるの?」

『はい』

「いや、はいって……さすがに無理じゃないの?」

『就航当時そのまんまに戻すのはたしかに無理です。

 でも、最低限の機能を取り戻すだけならできますよ』

「……マジで?」

『はい、マジで』

 すげえな宇宙文明。

 

 今、私がいるのは通路なんだけど……先がものすごい事になっていた。

 ようするに通路ごと歪み、ひしゃげ、さらにスクラップが天井近くまで埋め尽くしていて。

 そんでもって、さらにホコリまみれだった。

 

 瓦礫の山だよこれ。

 これをドック入りなしで自力で修理って……どんだけすごいんだよ。

 ……さらにいえば。

 

『抜けられそうですか?』

「なんとかね……通るだけなら通れそう。

 だけど、途中で落盤しないか心配だね』

 生き埋めになるのは勘弁してほしい。

「あとなんか、変な生き物がいるようなんだけど?」

 姿が見えるわけじゃないけど、気配みたいなのがあるわ。

 たぶん間違いない。

 でかいのから小さいのから、無数の生き物がこの瓦礫の奥や中にいるっぽい。

『それは上が昼間のせいもあるかと』

 昼間?

 そういえばここって砂漠の地下だっけ?

 つまり昼間ってことは。

「つまり灼熱の太陽を避けてここにいると?」

『はい』

 なんてこった。

『心配無用です、さすがに侵入を許しているのはこの区画だけです』

「本当に?」

『はい。

 彼らは破損箇所から入り込んでいるだけなんです。

 さすがに船体そのものやブロック間の隔壁には歯が立たないようです』

「それもそうか……恒星間用宇宙船だもんね」

『はい』

 よくわからん人のために少し説明しよう。

 別に宇宙船に限らないけど、空や海など地上でない場所に行く乗り物は、安全確保のために中をブロック化し、たとえ一部が壊れても別の区画の安全を確保するようになってる。

 まして宇宙船なら当然、しっかりと塞がらないといけないわけだ。

『ちなみに、ここを抜けた先には洗浄区画もありますから。

 ここで多少おかしなものに食いつかれても大丈夫ですよ?』

「……食いつかれたくないんだけど?」

『がんばってくださいね!』

「あのね……まぁいい、わかった。行ってみる」

 

 

 数分後、私は反対側の隔壁の向こうにいた。

「はぁ、はぁ……死ぬかと思った」

『おつかれさま』

 落盤に人間よりでかい化け物ムカデ、さらに中型犬サイズの無数のアリ……マジで死ぬかと思った。

『ごくろうさまです。どうやらこの区画は修理ロボットだけではダメそうですね。

 警備兵も用意しないと』

「まさか人間サイズのムカデなんているとは……」

 今さらだけど、ここが地球じゃないってマジで実感したわ。

『ごめんなさい、崩落区画は各種センサーもあまり届かないんです。

 たしかに大型生物反応は時々あったのだけど』

「そしたら警告くらい……ってまぁ無理か。

 私だって、まさかあんなんいるなんて想像もしてなかったしなぁ」

 昔のB級スペースオペラじゃあるまいし、地上であんな巨大な節足動物って、どう考えても非合理的だろ。

 どうなってんの、この星?

「他の道はないの?」

『はい?』

「いや、帰りのこと。

 再始動がすんだらさ、どうやって戻ろうかってね」

『ああ、先程のところをもう一度戻るのは危険、ということですか?』

「そそ。はっきりいって、もう一度無事に戻れって言われても絶対ムリ」

 さっき、無事に通り抜けられたのだって奇跡に近いと思う。

『あー、そうですねえ。

 マコトさんは本来戦闘用じゃありせんし、おまけに武器もろくにないわけですからね……さすがにもう一度は無理ですか』

「ごめんなさい」

『あやまることはないです。

 そもそも生身のアルカレベルの能力しかないのはその体の性能であって、マコトさんのせいじゃないんですから』

 そりゃそうだけどさ……。

「それで何かいい案ない?」

『ありますよ』

「ほほう、具体的にプリーズ」

『工場さえ起動していただければ、あとはお掃除完了まで寝ていて結構です』

「え、寝る?」

『工場の横に合成人間用の休眠カプセルがいくつかあるはずです。

 それを使って休眠してください』

「え、それって、起動したらあとは寝てろってこと?」

『どのみち、作業開始したらこちらとつながるまで、そちらでマコトさんにできる仕事はないんです。

 こっちに戻るのが難しいのなら、あとは待機でしょう?

 ならば休眠したほうが、むしろエネルギーの節約になりますよ』

「なるほど……起きるのはいつにする?」

『その時には通信が回復するはずですから、わたしが都合のいいタイミングで起こします。

 あ、でも休眠カプセルが使えなかったら、その時は無理しないでくださいね。

 その時はその時で、何か別の道がないか模索してみましょうね』

「了解」

 

 

 ミーナに指示されるままにしばらく歩いていると、やがていくつかの隔壁を越えた。

 4つばかり越えたところで、ミーナが突然に宣言した。

『この先は通信がつながっていません』

「ん?するとどうなる?」

『さきほどの破損部を再構築するまで、わたしと連絡がとれなくなります。

 ここまで戻ってくれば通信できますので、非常の際には戻ってくださいね』

「なるほど……この先でやる事のデータをくれる?」

『はい、今送りました』

「ありがとう」

 ミーナからデータを受け取ると、私は足を踏み出した。

『それではマコトさん。

 最後にひとつだけ。

 吉報にしろ凶報にしろ、必ずあなたは無事で戻ってください。いいですね?』

「了解、わかった」

 そんな会話をしたっきり、ミーナの通信は唐突に途切れてしまった。

「む、連絡……ダメか、もう切れちゃったか」

 よし、この先は気合いをいれていこう。

 

 

 しばらく歩くと、眼の前にいくつかの扉が現れた。

 データによると3番目の扉が問題の『工場区画』ってやつにつながってるんだと思うんだけど、扉は他にもある。

 あるんだけど……。

「なんだこれ?」

 ひとつ、データに全然ない扉があるぞ?

 おかしな扉だった。

 他の扉とデザインは変わらないけど、ここだけ表札めいたものどころかドアノブらしきものもったくない。

 しかも、手前の廊下に薄い構造材みたいなものがたくさん転がってる。

 

 あれ?

 もしかしてこのドア……壁ごと塗り込められてたというか、塞がれていたんじゃないの?

 ああうん、やっぱりそうだ。

 壁側に残っている建材からしても、ここは前は何もない壁だったっぽい。

 つまりこの扉は隠されていたってことだ。

 

 これはもしかして……?

「あ、やっぱり」

 近くの道具入れに、地球の斧に似た形の鈍器と、説明文らしきものまであった。

 どうやら間違いなさそうだ。

 これ非常時に壁の一部を壊して、この扉を出すようになってたっぽい。

 たぶん大破の時の衝撃か何かで構造材の一部が崩れたんだな。

「ふむ……ちょっとおじゃましまーす」

 まだ剥がれてない部分を合成人間の腕力で剥がし、ドアを露出させた。

 悪いけど、ちょっと確認させてもらう。

 動力も通っているようで、手をかざすと他の部屋のように普通に扉が開いた。

 私は中に入った。

 

 扉の中は、どうやら一種のメンテナンスルームのようだった。

 中央にカプセルがあり、中で誰かが休眠している。

 何者だろう?

 いやま、なんとなく想像ついてるけどね。

 顔が見えそうなので、ちょっと拝見……おー。

 めっちゃ見覚えのある顔じゃん。

 

 間違いない。

 これ、ミーナの『肉体』だと思う。

 予備ボディなのか何なのか、立ち位置は知らんけど。

 

 あれ、おっぱい小さい?

 あー……映像のは「盛ってる」わけかぁ、あはは。

 うはは、今度「盛ってる?」っていってやろっと。

 妙なとこだけしっかり『女の子』だよね、ミーナって。

 

 あと、なんか一部違わねえ?

 ていうか両方生えてねえ?

 宇宙船の頭脳って両性なんかね?

 それとも何か別の意味が?

 むむむむむむ?

 

 とりあえず周囲の装置をチェックする。

「システム生きてる?」

『はい、稼働しております』

 ああうん、やはり生きてるよね。

「あなた、このエリアの統括頭脳?」

『正しくは補助用人工頭脳です。

 現在、中央統括頭脳との接続が切れており、暫定的にこのエリアを管理しております。

 ところで、あなたのお名前および所属情報が不明です。

 汎用ボディを元にした改造タイプのようですが?

 詳細をお教えいただけますか?』

「呼称は『マコト』でよろしく。

 ごめん、所属は私にもわからない。許可ともども復旧でミーナとつながったら確認してもらえるかな?」

『ミーナ……中央統括頭脳の呼称のひとつと推測します。

 わかりました、では状況説明を』

「私は隣の部屋の?ロボット工場システムの復旧を頼まれてやってきた。

 ここが復活したら、中央との連絡の修復はできるよね?」

『可能です』

「あと、このエリアに入る許可はたしかにもらってる。

 だけど、この部屋に関しては……ごめん、ない。

 手前の壁が崩れてたからね、保安上の確認のために一時入室したの。

 ごめん、入っちゃダメって事ならすぐに出るわ」

『そういう事ですか、わかりました。

 暫定的にマコト、あなたにシステム操作権限を付与します。

 ですがこれは復旧作業に特化したものです。

 システム再稼働の後には自動的に削除され、中央頭脳との連絡後まで結論は先送りになります。

 あと、すみませんがこの部屋からの退出よろしくお願いいたします』

「うん、心得た。

 あと質問なんだけどさ、できれば休眠カプセルをひとつ頼めるかな?

 再稼働から連絡の復活まで、可能ならカプセルで寝ててって言われてるんだよ。

 この身体じゃ、もう一回向こうに戻るのは危険だからね」

『わかりました……工場受付横のカプセルを。工場稼働と同時に使用可能になります』

「よろしく」


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