触手さんこんにちは
夢っていうのは、いつだって理不尽なものだ。
ものだけど……今回の夢は、とびっきり異様なものだった。
だって。
『やぁ、君を食べていいかい?』
「……はぁ?」
いきなり意味不明の挨拶だった。
だってさ。
なにしろ彼、きわめつけの非人類型。
なんとなんと。
触手の塊みたいな生命体だったんだよね。
向こうから話しかけてこなかったら、そもそも知的生命と認識できなかった。
うにうにと自立稼働する触手の塊……。
うん。
悪いけど、普通に殺してたかも。
彼らが食べるのは汗とかおしっことか、要は生物としての老廃物。
しかも人間のそれが大好物なんだって。
遠い昔には故郷で、保護した人間たちがたくさんいたとか。
まぁそれは別にいい。
だけど大問題なのは、その食事風景。
はっきりいって、その状況を客観的にいえば──触手プレイってやつじゃないの、これ?
あ、そこそこ♪
ん、ンンンンっ!…………はぁはぁ。
あの、いつから18禁になったんですか?
ていうかマジですか?
こんなネタみたいな『知的生命』が本当にいるんですか……いるのね、いるんだ。
うう……。
■ ■ ■
朝、目覚めると──なぜか触手まみれだった。
あれ?
まだ夢の中?
触手プレイ?
しかも全然うごけない。
マジか。
軟体動物な見た目なのに、合成人間の腕力でもビクともしない。
どうなってるの?
『おはようございますマコトさん、どこか痛かったり痒かったりします?』
「あー、だ、ダイジョウブ……?」
懐かしいような、聞き慣れないような声に目をあけて。
そんでもって記憶をまさぐる。
「……あー……えっと、おはようございます?」
『おはようございます。
ふむ、どうやらちゃんと認識されてますね』
目覚めたら、いきなり触手の化け物に全身包まれていたでござる。
驚いたけど、ミーナたちのデータベースによると、なんとこれでも知的生命。
まじですか……まじなのね、そうですか。
カムノ族。
地球人的にいえば「触手のかたまり」を思わせる異様な風体だけど、こんなんでも知的種族らしい。
クラゲやタコみたいな触手の塊だけど、一応だけど特別な2つの触手があり、そいつは先端に感覚器がついてる。
そんな生き物。
「えっと、なんで私?」
『海でデッカーに食べられかけていたので、救助させていただきました。お代は頂きましたので気にしないで』
「デッカー……あのお魚?」
『はい、あれ惑星カムノても有数の肉食魚なんですよ』
「なんでそんな魚まで飼ってるの?」
『ここの環境は、自然環境をそのまま切り取ったものなんですよ』
「あー……」
なるほど、誰かに都合よく作られた環境じゃないってことか。
当然、ひとに対して有害な生物もいると。
コトノハさぁん、先に教えてよそれ。
てか、センサー壊れたとかも、魚とか海の生き物たちがやってんじゃないの?
いやまじで。
「動けないんだけど?」
『すみませんが、神経系に干渉して無力化しています』
「どうして?」
『逆にうかがいますが、あなたはビチビチと暴れる元気なお魚をそのまま食べますか?
調理法はともかく、まずは無力化するのでは?』
「……いいけどさ」
私はまな板の上の鯉か何かですか、そうですか……はぁ。
『わたしはセーナ、みての通りカムノ族です。末永くよろしくお願いいたします』
「私はマコト、このとおりの合成人間の体だけど……」
『存じてます、中身は地球人。そうですね』
え?
「なんで知ってるの?」
『わたしの一族は、いわゆる始祖母様やその関係者に長年仕えているのですよ。敵味方問わずにね』
「敵味方……問わず?」
『ええ。始祖母様ご本人にも親族がついておりますし、彼女の最大最悪の敵であった、イーガ帝国の皇后ソフィア様のご子孫にも着いておりますよ』
「ついてる……憑いてる?」
『なんでしょう?』
「なんでもない」
要するに、いろんなところに潜り込んで、こうやって触手で関係者をもてあそぶ変態と。
あー……もしかしてだけど、変なのにつかまっちゃった?
『何やら心外な評価をされている気がします』
「気のせいよ」
すっぽんぽんで触手につかまり、逃げられない。
あんまり他人に見られたくない光景よね、これ。
とりあえず。
「ところであなた、男の子?女の子?」
セーナという名前には、なんとなく女の子な雰囲気があるのだけど……何しろまるっきりの異生物だ。
どうなってるのやら。
『性別……われら種族に性別はありませんね』
「そうなんだ」
男の子だと言ったら、迷わず殴るつもりだったのに……。
私は思わず、ためいきをついた。




