襲撃?
すっぽんぽんで海に入ったのは……たぶん前世含めても初めてだと思う。
普通は全裸で入るったらお風呂だよね、やっぱり。
水着どころか下着もろくにない私は文字通り、一糸もまとわぬすっぽんぽんで入水したわけだけど。
「っ!」
入った瞬間はたしかに冷たかった。
だけど思い切って水中に潜り込んでみたら、それは一瞬のこと。
それよりも、私はたちまち広がる景色に魅入られてしまった。
なんて──なんて、きれい!
水中なのでよく見えないことを想像したのだけど、それは一瞬のことだった。
有機合成人間であるこの体は瞬時に適応したのか、まるでスイミングゴーグルごしのようなきれいな風景に変わってしまった。
はるか彼方まで見渡せる透明度は──見えすぎて逆にこわいくらい。
水がきれいなのか、それともこの目がすごいのか──両方かもしれない。
『──おさかな』
意識を向けた途端、幾万ともつかない無数の大小の魚の群れが、私の視界とセンサーに現れた。
これはすごい。
これほどの魚たちが普通に生息しているとは。
うん。
これなら、少しくらい私たちが食事のために釣ったところで、ここの生態系はゆらぎもしないだろう。
そして。
『んー……』
見つかる限りの魚の種類を見ていくに……これは日本近海のお魚と大差ない感じかなぁ?
ただし回遊しそうなタイプのお魚は少なそう。
どちらかというと、近海の岩場やサンゴ礁の海にいそうなのばっかり。
『お』
なんか、でっかいのが近づいてきた。
んー……水中はサイズがよくわからないけど1m以上は確実にあるよね。
日本でハタとかクエとかいわれるやつに似たお魚。
『お……お?』
まるでこっちを観察するみたいに、そーっと近づいてきて……こっちが動かないと悟ったのか、おもむろに鼻面をぶつけてきた。
ちょ、待った、なんか、くすぐったい……っ!?
『な、なにこれ!?』
そのクエさんもどきが近づいてきた途端、なんか周囲から一斉に小魚が集まってきた。
それはいいんだけどさ。
『いたっ!ちょ、ちょっと誰!?』
ぎゃあああ、しっぽ、しっぽかじられてる!?
振り向くと、しっぽにものすごい数の小魚が群がってて、何も見えないようなありさまになっていた。
しかも。
『え?な、なにこれ……えええっ!?』
気がつくと魚たちに押され、私はどんどん外に向かって運ばれていた。
海はどんどん深くなり、そしてさらに魚たちはその数と、そして大きさが──!?
『っ!?』
センサーが突然、警告を発した。
何事かとセンサーの示す方を見た私は、今度こそ絶句した。
なんと。
地球のサメをはるかに凶悪にしたようなバケモノが、明らかに私を狙って接近していたから。
逃げようとした。
だけど私はその途端、魚たちの意図も理解した。
この魚たち──あのバケモノに私を食わせる気!?
おそらく、あいつに獲物を運び、食べこぼしを食べるつもりなんだろう。
さすがに小魚たちにそんな知恵があるとは思えないけど、ある程度の魚なら経験則が学習している可能性はある──って冷静に分析してる場合かいっ!
に、逃げなくちゃ!
──だけど、逃げられない。
私が水中を進むには、普通に手足で泳ぐしかない。
泳法自体は覚えてるし、たぶん泳げる。
だけど正直、押してくる魚たちを押し戻すほどの推力はない。
そして──。
『ちょ、待って、やだ、ちょ、まって!!』
バケモノが近づいてきた。
そして口が開いて──。
突然、何か視界が真っ暗になった。
そして。
──私の意識は途絶えた。




