現状把握〜有機アンドロイドは市民権の夢をみるか?
第一話だけだと意味がわかりませんので、第2話も投稿しておきます。
次は未定です。
私は宇宙人製のアンドロイドで、それを教えてくれた相手も人工頭脳。
信じられない話だった。
だけど謎の技術の数々を実際に披露されたり証拠を示されると、納得するしかなかった。
そして……。
最後の懸念事項。
そう。
やっぱり、ここは地球じゃないらしい。
「惑星ロディ?」
『はい、それが現在いる惑星の名前のひとつです』
「ひとつ?名前が複数あるの?」
『政府が2つあって、それぞれ別の名前で呼んでいるのです』
なるほど。
「地球からどれだけ離れてるの?」
『地球の座標が不明です。
わたしは記憶の内容から「前のあなた」の故郷を地球であると認識しましたが、その地球に関する詳しい情報は持っておりませんので』
「へぇ……しつもーん」
『なんでしょう?』
「地球の暦でいうと今、西暦何年くらいかっていうのはわからない?」
彼女の言葉が正しいのなら、地球ではないとしても、つきあいはあったんだと思う……何しろ地球の時間や距離の単位もわかるみたいだし、それにわたしという『地球人だったもの』もいるわけだし。
もちろん不安はある。
だけど、地球の未来をこの目で見られる期待も胸をよぎった。
──だけど。
『あいにく、わたしはボルダ製ではありませんので。
地球とボルダで人の行き来があったのは聞いていますが、ちゃんと国交が開かれていたかは不明です。
わたしが年月を地球の単位に換算できるのは、最後にボルダで更新したデータライブラリに言語データがあったからです』
「え、どういうこと?だって私……」
自分が誰かすらもわからんけど、地球人どころか日本人であるという感覚まである。
「だったら、なんで私は地球の記憶がある?自分が日本人って自覚してる?」
『それについては……そうですね、そのあたりの記憶がないのでしたら、少しご説明いたしましょう』
「よろしく」
少し前。
地球の時間が不明だが、おそらく21世紀のどこかで……銀河文明よりひとりの女性が日本にやってきた。
彼女は宇宙文明になる以前の──つまり地球のようなタイプの文明を研究していた。
だが地球人に見つからないようネットワークを閉じていたのが災いして道に迷い、そして原住民──日本人に助けてもらったという。
それは、ただそれだけの出来事。
でもそれは、たしかにひとつの『出会い』だった──。
「じゃあ、地球と国交が開いたの?」
『いえ、開いておりませんね』
「開いてない?でも交流が始まったんじゃないの?」
『正式な国交は行われていません。
それどころか、地球の一般人は異星文明の存在など知りませんよ。
秘密裏に一部で貿易が行われるようになりましたが、それも日本だけでした』
「日本だけ……なんで?」
『それはもちろん、さきほど言ったように単に御縁があったからですよ。
商売にしても大規模なものではありませんし』
「だけど宇宙文明と貿易だよね?」
『そうです』
それ、とんでもない大事件だよね?
『いえ、とんでもなくはありませんよ』
「え、なんで?」
『地球はひとつの星が多くの国に別れており、仲良くしたり潰し合ったりしているのでしょう?
そういう状況の惑星に入り込むのは、貿易がもっとも良いのです』
「あー……もしかして。
山ほどある貿易品目の中に、しれっと宇宙人製のやつが混じってるってこと?」
『そういうことです』
うわぁ……あはは。
マジでありえそうで怖いわ、それ。
君がスーパーやコンビニで買い物してて、メイドイン何とかってよくわからん国名があったとする。
けどたぶん、どっかの新興国だろうかって思っちまうんじゃないか?
よく知ってる商品なら特に。
そこに、しれっと宇宙人製が混じってるってこと?
こわすぎるんだけど、それ。
『そんなわけで、国交は開いてなくとも商売はしておりました。
その関係で、非常に少ないですが人の交流もあったのですよ。
あなたの記憶もそうして地球から持ち帰られたと聞いています』
「え、記憶?」
それって、私本人じゃないの?
『わたしが拾い上げたのは元のあなた自身ではなく、そうですね……データカプセルというべきものです』
「データカプセル?」
『ボルダに限らずいくつかの星では、親しい人の所持品でなく、記憶の一部を形見としてもらい身につけます。
元のマコトさんがどこで亡くなられたのかは知りませんが、その人はマコトさんの記憶の一部を「形見」にもらっていたのでしょう。
わたしは蘇生可能な個体を探していてカプセルを発見、ドロイドとして活動するための付加情報を与え蘇らせたのです』
「……じゃあ、元の私って?」
いったい私は何者?
『それについてはわかりませんが、ひとつだけわかる事があります』
「……なに?」
『マコトさん、形見をもらい、しかも肌見放さず持ち歩く……それはほとんどの場合身内か、それに準ずる大切な人です。
ですから……ご心配は無用ですよマコトさん。
元のあなたが何者かどうかはわかりません。
ですが、どうでもいい人の記憶を持ち歩く者はいません。
あなたは誰かに大切に思われていた……それは間違いないでしょう』
「そっか……ありがとう」
私は思わず頭をさげていた。
「ところで地球とボルダって何をやりとりしてたのかな?」
『わたしは地球文明について存じませんし、正確なところも存じません。
ですが有名なところでは……嗜好品や創作物のように、単純にお金にかえられないものが主体ですね。
あとは小動物などです』
「小動物?生きた動物ってこと?」
『そうですね』
なんでそんなものを?
「生き物ってなにを?下手にやりとりすると危険じゃないかな?」
『やりとりしたのは、アマリリン……要約すれば「猫」ですね』
「猫!?」
なんでまた猫?どういうこと?
『商材を探しにいった調査チームのメンバーのひとりが、保健所で殺処分される動物たちを見たそうです。
事情も察したようですが、殺すならうちで面倒を見たいと持ちかけ、いくらか引き取って連れて帰ったそうです』
へえ……。
「けど、猫なんて宇宙を運んだらすごいコストになるんじゃない?」
『そうですね。
当初は彼らも「商売」にする事は考えてなかったようですね。
ですが、結論からいえば大人気になってしまったようです』
「へ、なんで?」
『それはもちろん、猫がかわいかったからです』
ウフフとミーナは笑いをもらした。
『ボルダにもペットはいましたが、猫のような立ち位置のペット動物がちょうどいなかったそうです。
それで可愛いって評判になったようです』
「あー……ニッチに適合しちゃったのね」
かつて地球で猫は病害対策や害獣対策として飼われた。
近年その役割は失われつつあるけど、それでも人気が衰えないのは……実は「かわいいから」だと言われている。
しかも手頃な大きさで扱いやすいのも、人気に拍車をかけているかもしれない。
『ボルダは自然環境が豊かですが、いかんせん凶悪な生物が多いようです』
「なるほど」
へえ。
『地球からある程度の数を運び、遺伝子のバリエーションを確保してからボルダでも繁殖を開始。
そしてブリーダーたちの手でたくさんの猫が生まれ、育てられました。
この子猫たちが評判になり、さらなる繁殖が繰り返されたほか、他星系へも輸出開始されまして。
今では異星のアマリリン種と交雑に成功したりして、異星種の猫も大量に生まれているそうです』
まじか……。
「それってもしかして」
『なんですか?』
私は、記憶にある猫の話をした。
『自分のことはわからないのに、その猫のことはかすかに覚えてると?』
「うん、そう」
『それは生前にあなたが飼っていたか、よく交流していた猫でしょうね』
「……やっぱりそうなんだ」
『あなた自身の記憶がないのであくまで推測ですけど、たくさん覚えているという事はそういう事かと。
質問なさったということはボルダ関係の記憶と推測したと?』
「はい、そうです」
『それはないかと』
「……そっかぁ」
私は、ためいきをついた。