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夢と晴天の霹靂

 夢をみた。

『おおっ!』

 それは地球の夢。

 知らない女の子が──いや、知ってる子だった。

 少し思い出した。

 うんと昔、住んでたアパートの隣人。

 帰宅後、ごはんが炊けるまで少しずつ遊んでいたゲームの音でやってきた子だ。

『ぴんちだよ、どうするの?』

 女の子に大丈夫だと諭して、弓兵のスキルを選ぶ。

 ゲーム中の兵士が【アローレイン】を発動すると、大量の矢が画面に降り注ぐ演出と共に、敵集団にダメージが及んだ。

 弱い敵はそれだけで倒れていく。

『おおー』

 それにしても……よくこんな古いゲームで喜んでくれたものだ。

 ゲームといえばスマホが主流の時代に、とんでもなく古い型のテレビとつなぐタイプ。

 私はたぶん、たまたまもらいもののゲーム機とソフトで、余暇にちまちま遊んでいただけ。

 その古臭いけど特徴的なゲーム音が、鍵をもって帰宅し、ひとりぼっちで親の帰りを待ってたこの子の耳に届いたんだろうね。

 

 なつかしい。

 個人的な記憶なんてないと思っていたのに、こんな思い出がまだ残ってるなんて。

 まぁそれでも、自分が誰かはわからずじまいなんだけど──。

『すごい!』

 ふふふ。

 きっと私はこの時、ドヤ顔で返したんだろうな……そんな気がした。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 目覚めたのはベッドの中だった。

 そんで、なぜか右にコトノハさん、左にミーナが寝ていた。

「……?」

 なにこの状況?

 あーうん、とりあえず『自然のささやきが呼んでいる』ので、起きなくては。

 でも。

「……」

 左右からがっちり固められてて動けない。

 あー……仕方ない、起きちゃうかもしれないけど、ちょっと無理やりに……。

「ん〜……」

「む?」

 げ。なんか両方の力が強くなった。

「はぁ……仕方ない」

 このままだとやばいし、もれるし!

 私はためいきをひとつつくと、無理やり全力で拘束から抜け出した。

 背後で寝ぼけたような声がふたつ重なる。

 問答無用で引きずり戻される前に、さっさとトイレに向かって駆け出した。

 

 

 トイレをすませて戻ってきたら、ふたりが起き出していた。

 そして、いろいろと事情をきくことができた。

「それじゃあ、あのあとすぐ倒れちゃったんだ……ごめんなさい」

 頭をさげたらミーナは笑ったけど、コトノハさんには少し渋い顔をされた。

「倒れたのは別にかまわぬ。

 しかし船外で何かやるなら『命綱』くらいつけんか。

 作業デバイスたちが間に合ったからいいようなものの」

「あ」

 そういえば、命綱つけてなかった……宇宙空間なのに。

 だけど。

「命綱がいるんだ……てっきり宇宙的な超技術でそんなものいらないのかって思ったんだけど」

「『引き寄せ力場』のことかえ?もちろん搭載しておるとも」

 あ、やっぱりそういうのがあるんだ。

「出口に赤い仮登録ボタンがあったじゃろう。

 なぜ使わなかったんじゃ?

 船外では人工重力もほとんど働かんからアレをつけてあるんじゃぞ?」

「あれって宇宙の命綱なんだ……ごめん、知らなかった」

「知らなんだか、やれやれ。

 じゃが、その隣には伝統的な命綱もあったじゃろう?

 あれなら地球人のおまえさんでも理解できたろうに」

「すみません忘れてました」

「そうか……次からは忘れずに使うんじゃ、よいな?」

「了解、改めてごめんなさい」

「うむ、よろしい」

 

 そして、改めてほかの事情を聞いた。

「ミーナ、それじゃあコトノハさんの傘下に入るの?」

「ええそうね。

 ただ雇われるだけでなく、彼女がわたしたちの船主になるの。

 そして、この船が新しいわたしの『船体』になるわ。

 今まで使っていた船体は改装を受けて『小舟』になるわね」

「小舟?」

「艦載機の一種だけど、本体の機能を最低限内包している種類の艦船のことを小舟と言うの」

 あー……アレか。脱出船も兼用してるやつか。

「今はドックに収容されているけど、修理完了と共に船体外側のどこかにセットされるわ」

「まぁ、この船でかいもんね」

 たしかにミーナの船もデカいけど、地球の単位でせいぜいキロメートル級だし、普通の船っぽい長い形をしてる。

 これに対して……コトノハさんのこの船はデカい。

 初見で船でなく岩山だと思った私だけど、あれはほんの一部が見えてただけだそうだ。

 実際のサイズは……まさに山脈ごと動いてるってレベルのとんでもない代物で。

 たしかにそう考えたら、ミーナの船すらも艦載可能なんだね。

「今さらだけど、よくこんな巨大な船をロケットエンジンで飛ばしたもんだ」

「種明かしをすればの、既存のセンサーにかからぬよう船を上げ下ろししたいという特殊用途の推進器なんじゃよ。

 化学燃料(はなび)の系列なのは母上の趣味なんじゃが、船体を上げる推力が得られる事は前から計算済みでの」

「そうなんだ……ちなみに再利用できるの?」

「無理じゃな、燃料をほとんど使い切ってしもうた。

 大気圏外に出るだけでのう……。

 使える事はわかったので補充するが、できれば連発はしたくないの」

 それでも補充はするんだ。

「とんでもないコスパだね」

「まったくじゃ。

 据え付けと燃料調達は母上がやってくれたんじゃが……その母上が一発屋のロマン装備とほざいた理由がようわかったわ」

「あはは」

 一発屋のロマン装備て。

 しかもそれ、わかっていながら娘の船にとりつけたのか。

 始祖母様って結構、お茶目な人?

 

 

「そういえば船主っていったよね?ねえミーナ?」

「なあに?」

「……あーいや、なんでもない。ごめん」

 今までは誰が船主だったのって質問しようと思った。

 だけどミーナの顔は露骨に「聞くな」って感じだった。

 だから、今はきかない事にした。

「今後なんだけどさ……この流れだとボルダとやらに行く件はナシだよね?

 じゃあ目的地は?」

「それは」

 そういうとミーナはコトノハさんを見た。

 そして「うむ」とコトノハさんはうなずいた。

「惑星『カムイ』じゃ」

「は?カムイ?」

 なんだか耳に覚えのある単語に首をかしげた。

 首をかしげていたら、コトノハさんが笑った。

「わかっておる、まるで地球の──日本の地名のようじゃと言いたいんじゃろ?

 じゃが、それは当たり前じゃ。実はわが母のせいでのう」

「失言ですか?」

「なに、単に母がこう言ったのじゃよ。

 この星には神殿と海しかない──まるで『カムイコタン』のような星ですねと」

「え……それじゃあ」

「もともとシャク・コターンという名前だったんじゃ。

 それは偶然じゃが、地球の地名にそっくりだったそうでな」

「たしかに」

 何とかコタンとか、たしかアイヌ語源のはず。

「それでカムイですか……でもカムイって神様って意味ですよねたしか?」

「惑星カムイには神殿と海しかないんじゃよ」

「あー……」

 なるほど、ある意味実情を反映もしてるのね。 

 

「了解しました。

 そういえば、今いるのって宇宙なんですよね?」

「ああ現在地じゃな」

 そういうと、コトノハさんが今度はミーナを見た。

 ミーナは無言でうなずいて、コトノハさんの言葉を引きついだ。

「現在地は例の惑星を離脱、星系に対して楕円軌道を描きつつ系外に向けて移動中よ」

「まっすぐ脱出しないんだ?」

「こういう自然物タイプの船はね、特に星系の中では天体のように運行するのがお約束なの」

 へえ……。

「星系の外に出ればハイパードライブを使うから、普通のお船の運行に切り替わるけどね」

「なるほど」

 まぁ、へたな小惑星くらいあるわけだし、見た目も私が山脈と間違えたくらいで、そういう外見だし。

「第九惑星の軌道の外に出たら、その後はアマルー領の中心部に向かうわ」

「惑星カムイとやらに向かうわけね、了解。

 ところで質問なんだけど、その惑星カムイって、どこの星系に属してるの?」

 惑星はよほどの事がない限り、どこかの恒星系に属してるってミーナが言ってたはずだ。

 だったら。

「あー、それは極秘なんじゃよ」

「極秘?」

「始祖母様を狙う勢力は多いから」

「あ、そっか」

 そりゃあ秘匿するわな。

 彼女の答えを頭の中で反芻する。

 そして私は言う。

「ねえミーナ」

「なに?」

「目的地と状況はわかった。あと、ひとつやりたいことがある」

「やりたいこと?」

「うん」

 ミーナの問いに、私は微笑んで答えた。

「船内探検」

「は?探検?」

「そう、探検」


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