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汎用貨物船

 事態が動き始めた。

 ミーナの船をまるごと、コトノハさんの『銀色の竜巫女』号に収容する作業が始まったのだ。

 おびただしい数の作業ロボットたち──ただし見た目にはドラゴンやら恐竜やらみたいなのが大多数だけど──が出てきて作業を始めた。

 コトノハさんの船の装備で砂漠を掘り返し、船体を露出させた……だけど。

「しかしまぁ、これはまた見事に満身創痍じゃなぁ」

『ほっといてくださる?』

「む、わらわは褒めておるんじゃぞ?

 ここまでになりながら、よう耐えて生き残った。

 たしかに汎用貨物船の船体は頑丈ではあるが……ここまでやられたら普通は終わりぞ?」

『……』

 困った顔でミーナはよそを向いた。

主機(もとき)が箱ごと失われておるのは、誘爆前に自ら捨てたんじゃな?」

『ええ……でも、そこまでやっても誰も助けられなかったわ』

「マコトがおるではないか」

『……』

 見ているだけでも面白い光景だった。

 だけど、それよりコトノハさんとミーナの会話に興味が湧いた。

「コトノハさん、汎用貨物船って?」

「おや、知らぬのか?

 ミーナ嬢、こやつに汎用貨物船について説明しておらぬのか?」

『してませんね』

「なぜじゃ?」

『理由はありません。あえていえば「それどころではなかった」からです』

「まぁ非常時じゃからのう。

 ならば、わらわが説明してよいな?」

『そうですね、お願いできますか?』

「うむ、心得たぞ」

 そういうと、コトノハさんは俺を見た。

 

「マコトよ。そもそもの質問になるんじゃが。

 多くの銀河文明では、素材さえあればあらゆる物質を合成できる。知っておるな?」

「うん、知ってる」

 ミーナの船でも瓦礫やスクラップを取り込み、船の部品に作り変えてた。

「よしよし。ところでミーナ嬢はなんの仕事でこの星に来たのじゃったかの?」

「運輸業だね」

「うむ。で、矛盾があるとは思わぬかえ?」

「え?」

 少し考えて、たしかに変だと思った。

「何でも合成できるのに、なんでわざわざ輸送するのかってこと?」

「うむ、そこじゃ」

 フフフとコトノハさんは笑った。

「当たり前じゃが、ミーナ嬢が運ぶはずだったのは、いわゆる付加価値のある品じゃな。

 そもそも合成できないもの、合成に向かないもの、要は高コストに折り合う品々じゃ。

 これらを運ぶ船を汎用貨物船などと呼ぶんじゃな」

「……」

 なるほど。

「運ぶものは生物や文化遺産など、その時によって異なる。

 そして等しく単価は高く、当然狙われる事だってある。

 したがって『宇宙船』として有能であることが求められるんじゃな」

「それで『汎用』貨物船なんですね」

「うむ」

 そう言うと、コトノハさんはミーナを見た。

「あらゆる局面に対応できるよう、頑強な船体に強力な主機(もとき)を積む。

 高い機動性に運動性も確保しておる。

 それだけではない。

 さらに万が一、致命的な破壊を受けた場合も含め、あらゆる状況に対応するよう設計されておるんじゃよ」

「あ……いろんな意味ですごい船なんだ」

「うむ、まったくその通りじゃ。

 だからこそ……ほれ見てみよ、主機(もとき)なんじゃが……」

「しつもーん」

「なにかの?」

「もときってなに?」

「うむ?ああ、そうか。そなたには主機(しゅき)の方がわかりやすいかの。要はメインエンジンじゃな」

主機(しゅき)ならわかるけど……もときって言い方もあるんだ?」

「うむ、軍関係での呼び方じゃな。

 わらわが育った星でもアマルーの軍用語がよく使われておったんでな、翻訳をあてたんじゃが。

 あいわかった、これからは主機(しゅき)と呼ぶ事としよう」

 大きくコトノハさんはうなずいた。

「話をミーナ嬢の船に戻そう、見るがよい。

 主機(しゅき)が失われるほどの被害を出しておるにも関わらず背骨、つまりメインフレームには歪みもないであろう?」

「あ、たしかに」

 考えてみたらすごいことだ。

「ふふ、そなた反応も素直でよいのう」

 クスクスとコトノハさんは笑った。

「破壊の瞬間に安全機構が働き、主機(しゅき)をブロックごと切り離したんじゃな。

 さらにミーナ嬢の機転で勢いをつける形で船から放り出した……ミーナ嬢、これで間違いないかえ?」

『はい、そのとおりです』

「うむ。

 で、さらにステルスモードに切り替えつつ、あらゆる状況を使ってその場を離脱。

 航路から類推して追われぬようランダムに進路変更しつつこの星に不時着した、というところじゃな。

 もちろん最後まで追手の目をごまかして、静かに、しずかにのう」

「おー、さすが!」

「うむ、まったくじゃ」

 私とコトノハさんは大きくうなずいた。

「なるほど、それでコトノハさんはミーナに船体破棄させなかったんだ?」

「うむ、そうとも。

 有能な機体に有能な頭脳、そのまま腐らすなどもったいないではないか。

 たった一機でそのミーナ嬢の手伝いをしていた、そなたもろともな」

「え、私も?」

「当たり前じゃろうが。

 もちろん心配はいらぬぞ。

 事がすみ、もし引き取り手がおらなんだら、その時は喜んでわらわが貰い受けよう」

『わたしは破棄でもよかったのですが』

 ミーナのつぶやきに、コトノハさんは怒り顔になった。

「よいわけがなかろう、ばかもんが!」

『……ですが』

「ですがも、かすがもあるかい。

 我ら銀河文明の民にとり、そなたら船は宝であり命綱じゃ。

 撃ち落とされてしもうたのは残念じゃし色々とつらいこともあるじゃろうが、そんなことで落ち込まれては困るんじゃよ」

『……』

「壊れたなら直せ。

 疲れたなら療養もよかろう。

 そうして我が身をいたわり、明日の仕事に、まだ見ぬ客に備えるのが、そなたら船ではないのか?違うかえ?」

『はい、おっしゃる通りです』

「なんじゃその気迫のない返答は。困ったやつじゃのう。

 まぁでも、あれか。

 そなたが死ねば、わらわがマコトをもらえばよいわけで、それはそれで悪く……」

『絶対わたしません!』

「なんじゃ十分に元気ではないか。

 マコトをわらわにとられたくなくば、さっさと元気になれ。わかったかえ?」

『わかりました、ありがとうございます!

 ですがマコトは渡しません!』

「うむ、その意気じゃ」

 あれ?

 もしかしてコトノハさんって、結構ミーナのこと気に入ってる?

 

 

 ミーナの船体が無事収容され、計画が進み始めた。

 私たちは処置に入ったミーナの船体でなく、コトノハさんの船の一角に移動していた。

「これは……」

 これじゃ森の中のあずまやだ。

 それだけ巨大ってことだろうけど……とても宇宙船の中とは思えない。

 私たち三名──ミーナもボディをもってきたので正しく三名だ──は木製の素朴な丸テーブルのまわりに座った。

 しかも。

「え、バーチャルじゃないの?」

 足元の落ち葉を手にとってみたら、なんと本物だった。

 広がる森に、葉擦れのささやき──かすかなニオイ。

「……もしかしてコロニー船!?」

 いや、たしかにこの船はデカいけど、そこまでやるか?

「竜帝国の船はね、小型船でもこういう娯楽施設には手を抜かないので有名なのよ」

「娯楽施設とはちょっと違うのう、これは生活環境の移植じゃよ」

「生活環境の移植?」

「竜族はアルカとは別の意味でセンシティブな生き物でな、疑似でもよいから自然環境がほしいんじゃよ。

 まして、この船はわらわの個人船じゃからの。

 マコトよ、海辺のビーチでまったり遊びたくはないかの?」

「海あるんだ……」

「あるぞ。わらわは海辺の環境が好みじゃからの。

 海水浴も、なんなら釣りもできるぞ。好きに遊ぶがいい」

 そういってコトノハさんは微笑むのだった。

 

 

「さて、それより話を始めるが、よいかの?」

「あ、はい」

「よろしくお願いします」

「まず通信じゃがな、現状、地上では外部に対して直接通信は行っておらぬ。

 まもなく収容が終わるので、それがすんだら一度、上にあがる。

 通信はそのあとで行う予定じゃ」

 え?

「いきなり離陸するのですか?」

「そうじゃ」

「それはなぜです?」

「この星にはまだ、連邦の残存物が潜んでおる可能性があるのでな」

「連邦ですか?ですが通信波を飛ばしても反応ありませんでしたが?」

「あやつらは無駄をせんし、この星ではスクラップと現住生物どもが実に厄介であろ?

 何しろ対人兵器なんぞ屁とも思わん化け物ぞろいじゃし、しまいにゃエアロックを壊して中に入り込もうとするしのう。

 じゃから」

「……こちらが動くのを待つ、ですか?」

「そのとおりじゃ」

「なるほど、わたしたちが合流しても動かなかったわけですから、離陸すればという事ですか。

 ですがあの連邦が、そんな気長な戦法をとるのですか?にわかには信じられませんが?」

「そもそも、彼らが叩こうとしておるのは、隠れるのが得意なヤツじゃからのう。

 動くのを待っておるのよ。

 撃ち落としたにも関わらず、まんまと姿をくらました食わせ(もん)がおる……覚えはあろう?」

「……そうですね」

 ミーナのことだな。

 なるほどミーナ狙いってわけか。

「こちらは大破して落ちたというのに……しつこいにも限度があります」

「おまえさんからしたらそうじゃろうな。

 しかし、あちらからしてみれば、そうはいかぬでな。

 何しろ彼らは、かつて母上が銀の乙女と宇宙をさまよっていた時、たった二人とあなどり大変な目にあっておるからのう」

 そんなものなのか。

 けど、その私の認識に対してミーナは疑問を示した。

「彼らはコトノハさん、あなたを狙っているのでは?

 連邦にとり竜帝国は、議長国であるアルカイン王国を滅ぼした敵じゃないですか」

「帝国の者と認識してはおろうが、わらわとバレてはおらぬよ」

「……その根拠は?」

「ミーナ嬢、わらわはたしかに竜帝国の皇女であるが、同時に母上の実の娘でもあるんじゃぞ?」

「あ」

 コトノハさんの言葉で、ミーナが顔色をかえた。

「なるほど……もしコトノハさんが何者かわかっていれば、のうのうと待ち伏せなどしているわけがありませんね。

 むしろ連邦の正規軍が攻め込んでくる案件です」

「え、そうなの?」

 ミーナの言葉に私は首をかしげた。

「マコトは知らないから無理もないけど。

 始祖母メル・ドゥグラール様といえば連邦では大変な危険人物なの。発見次第、連邦の正規軍がすっ飛んでくるわよ。

 場合によっては恒星系ごと破壊も辞さない勢いでね」

 恒星系ごと!?

「……たしか元日本人なんだよね、そのひと」

「そうよ」

 そこまで一国に睨まれるなんて、何やらかしたんだよその人。

「ついでに説明するとね、竜帝国もかなりまずいの。

 竜帝国のリュミリア様といえば、先の連邦中枢であるケセオ・アルカイン都市を物理的に消滅させて何十万の民を虐殺したばかりか、公然と全銀河に対して『銀河連邦は、あまねく銀河に住まうすべての民に仇なす害悪である』と宣言しちゃった人だから」

「うわぁ」

 やばいどころの話ではなかった。

「……ちなみに始祖母様の方は、具体的には何をしたの?

 なんか、銀河にあまねく広がるドロイドたちの母とか、その手の与太話は何度もきいたけど?」

「それ与太話じゃないんだけど……いいわ、改めて教えましょう。

 始祖母様がどうして始祖母様というかというと、現在、全銀河に存在する有機型ドロイドのほぼすべてに彼女の因子が入ってるからよ。

 『銀河にあまねく広がるドロイドたちの母』という言葉は、まさにその通りなの」

「え……それってどういうこと?」

「銀河の有機ドロイドはね、構造的には生命体なの。これはわかってるわね?」

「もちろん」

 この身は人工物だけど、切ればちゃんと赤い血が出る。

 新陳代謝もあるし、部品交換しなくても自然治癒する。

 『有機型』はダテじゃないってこと。

「でも道具が勝手に増えてご主人様に歯向かうようになったら本末転倒でしょう?

 だから、連邦を含む多くの国では、有機ドロイドが勝手に子供を作れないように封印をかけていたの。

 これはわかる?」

「……理屈としては」

 なんだかイヤな話だけどね。

「メル・ドゥグラールの因子は、これを破壊・あるいは中和するものなの。

 彼女の因子を内包することで銀河のすべての有機型ドロイドは『繁殖』が可能になった。

 わたしたちはその瞬間、ただの『道具』でなく本当の意味での『生命体』になったのよ。

 彼女が始祖母と呼ばれるのは、ただの呼び名じゃないの。

 彼女はたしかに間違いなく、わたしたち全銀河のあらゆる合成生命にとっての『始祖母(グラン・グランドマザー)』なの」

 ……それって。

「それはすごいね。すごいけど……それって連邦から見たら」

「うむ、そなたの懸念の通りじゃな。

 母上がアマルー領の神殿で暮らしておるのはそのためじゃよ。外に出れば襲われるのでな。

 とはいえ母上は巫女じゃから、長い神殿暮らしを苦にもしておらぬが」

 コトノハさんは苦笑した。

 

 

 そうしているうちに、コトノハさんの船の準備も終わり。

 いよいよ出立となった。


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