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竜と人の娘

 恐竜に誘導されて歩く道。

 しばらく進むと、私は中央広場のような場所に出た。

 

 中央はまるで偉い人の寝所みたいな作りになっていた。

 天蓋つきのベッドが中央にあって、そのまわりには絨毯も敷かれている。

 なんとなくファンタジー映画に出てきそうな風景だった。

 そして、そのベッドには。

「……竜人?」

 黒髪の美少女が眠っていた……うん、たぶんスレンダーな美少女。

 ちなみに竜人といったのはもちろん、普通の人にはないパーツがいくつかあったから。

 それは……爬虫類を思わせる太い尻尾と、それから、短いが明らかにわかる二本の『角』。

 もちろんコスプレじゃないだろうし……これは。

 で、それでなんと。

「……ついてる?」

 そう、ち◯ち◯が生えてる。男?

 けど体型からして、どう見ても若い女……どうなってる?

 もしかして、これでこの種族の男?

 こういう外見の種族?

「ねえミーナ、この子の性別わかんない?……ミーナ?」

『……』

 ミーナの返事がなかった。

 通信途絶したのかと思ったけど、そうじゃなくて。

『ユベラルダじゃない?どういうこと?』

「ミーナ、ユベラルダってなに?」

『竜帝国の竜人種のことをユベラルダというの。

 だけど彼らは『直立二足歩行をする竜』が正しい姿なの。

 こんな、アルカ族……つまり人間に竜のパーツがついてるような姿のユベラルダなんて、ありえないのよ!』

 ほほう……。

「混血とかじゃないの?」

『ユベラルダは超のつく民族主義社会よ?こんな容姿の者なんて「ふむ、悪かったのう」!?』

 声に驚いてそっちを見たら、眠ってたはずの女が起きていた。

 開いた目の瞳の色は赤。

 縦に裂けた瞳孔が、ひととは違う生命体であることをハッキリと自己主張している。

 その瞳が私を見ていた。

「ほほう、なかなかに可愛い来訪者よの……歓迎しようぞ。

 我はクトゥーバ・メラール。竜帝国の者じゃ。

 神竜皇后リュミリアと始祖母メル・ドゥグラールの間に生まれし実の娘である。

 まぁ見ての通り、種族的な問題で竜帝国の継承権は持っておらぬがの」

 超のつく民族主義社会。

 ミーナの言葉が頭の中で揺れた。

「わらわはの、事情で自由に動けぬ母の手伝いをしておる。

 ここには五百年ほど前にたどり着き、母の予言に従い来訪者を待っておった」

 そこまで言うと、クトゥーバさんとやらはベッドから降りて立ち上がった。

 そして私の前に来ると、しゃがみこんで、わざわざ私に目線を合わせてきた。

「えっと、あの?」

「名前をきいてもよいかの?」

「あ、はい、失礼しました。

 マコトと申します。

 たぶん所属は──ボルダ所属の派遣隊──の一員なんだと思います。

 まぁだいぶ前に船ごと撃ち落されて、マザーコンピュータと私だけの二人三脚で対応中です」

「それは大変じゃったのう」

 そういうと、クトゥーバさんは微笑んで私の頭をなでて。

「では……『今後ともよろしく頼むぞよ』」

「え?」

 その言葉に驚いた。

 え?何が驚いたかって?

 だって。

「……にほんご?」

 

 そう。

 クトゥーバさんはなんと「今後ともよろしく頼むぞよ」と日本語で挨拶したのだ。

 

「ほほう、やはり今のがわかるかや……マコト」

「え、なんで?」

「わが母も『元』日本人じゃが……とっくに元の人格などないんじゃがな。

 そなた、前の主記憶は?」

「ありません」

「ふむ、わが母と同じか。

 日本人としての主記憶がなくとも、その身を、人格を組み立てるベースが日本のものという事じゃな」

「はい……でもあの、主記憶がない単なる記憶なんて、ただのデータですよね?」

「いや、記憶と人格というのはそう単純なものではなくての。

 主記憶がないといっても残された記憶が読めておるということは、断片であろうと元の人格の一部が残っておるはずなんじゃよ。

 もし全くもとの記憶がなければ、他人の記憶などほいほい読めはせんからの」

「そうなんですか?」

「うむ、そういうものだそうじゃ」

 にっこりとクトゥーバさんは笑った。

「ところでマコトよ、そなた日本語で日常会話は可能かえ?」

「あー……まぁ限度はありますが」

「ふむ、では改めて日本語で名乗ろうかの」

 そういうと、本格的に日本語に切り替えてきた。

「わらわのクトゥーバという名は対外的なものでな、わが母がくれた本当の名も日本名なのじゃよ。

 わらわの本当の名は『コトノハ』。漢字で書くと──ほれ」

「……言葉(ことのは)?」

「うむ、とてもきれいな響きであろう?気に入っておるのじゃよ」

 フフフとクトゥーバ、いえ言葉(コトノハ)さんは笑った。

「えっと、コトノハさんと呼んでいい?」

「もちろんかまわぬ」

「変な質問だけど──お母様が日本の人なんですよね?

 けど、さきほどうかがった中に日本人を思わせる名前が全然なくて」

 あと、どっちも女性の名前に思えるのだけど?

「もちろん、わが母は始祖母メル・ドゥグラールであるぞ。

 母には日本名をつけてくれる者がなくてな、日本名は名乗っておらぬ」

「そうなんですか」

 そんなこんな話をしていたが、突然に割り込む声があった。

『お待ちください』

 って、ミーナも日本語で対抗してきた!?

「ほう、マコトの支配者か」

『その言い方はどうかと。わたしは指令機であり、彼女はその配下というだけです』

「ふふふ、同じことじゃろが。

 マコトなどと日本名を与えたのも貴様であろう?

 それよりこの娘をもらうが問題ないな?」

『ダメにきまっているでしょう!』

 拒否するミーナの声も呆れていた……ま、そりゃそうだわな。

『マコトはわたしのものです、渡すことなどできませんよ』

「え、所有物?」

『そのとおりです!』

 うわお、ネタのつもりで突っ込んだらガチで返された。

 しかも所有物て……。

 ちょっと引いていたら、コトノハさんが笑い出した。

「ふふふ、無理やり独占しては嫌われるぞ?

 日本人は外柔内剛こそ本質じゃ、物腰こそ柔らかいが、舐めてかかると痛い目をみるぞ?」

『それは』

「わかっているのなら、我ら(・・)の介入も認めるがいい。よいな?」

『そうですね……わかりました。

 しかし、こちらに合流するからには状況により命令系統に組み込む事を了解いただきます』

「うむ、お互いにのう。ところで──」

 なんか私を無視して、交渉みたいなのが始まってしまった。

 懐かしくはあるけど、なんか置き去りにされてる?

「えっとあの?」

「ん?ああ、そうじゃな。

 要は、わらわもそなたらに参加するということじゃよ。そうじゃなミーナ殿?」

『はい、こちらこそよろしくお願いします。ところでクトゥーバさん』

「日本語の時には『コトノハ』でよい」

『ではコトノハさん。この船にハイパードライブ用のエンジンユニット、またはそれの資料はありますか?』

「大破しておるのはわかっておったが──エンジン修復も不可能じゃったか。

 ならば、本船に収容するのがよかろう」

『収容?』

「なんじゃ、気づいておらぬのか……この船はそなたらの言葉で言うドック船じゃよ。

 方式が違いすぎて直接修理はできぬが、なに、最悪、直せるところまでそなたらごと運べばよかろう」

 そういうと、コトノハさんはにっこりと笑った。


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