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新しい方針

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 一日が過ぎた。

 言われた通り、昨日は一日まったりと過ごした。

 そして──あらためて今朝ミーナから、先日の説明があったんだけど。

 

 

「どことも連絡つかない?」

『ええ』

「どういうこと?」

『どうやら、時間がたちすぎてるみたい……政府どころか連絡がつきそうな相手が存在しないの。

 地上はもちろん、衛星軌道上もね』

「……みたい?」

 マザーコンピュータであるミーナが、なんでそんな曖昧な物言いをする?

「まさかと思うけど」

『ん?』

「今の正確な日時と時刻って?」

『ごめんなさい、それもわからないの』

「なんで!?」

『汎銀河ネットワークと全くつながらないのよ。

 最寄りの中継局も返答どころか存在も確認できないありさまだし、ぶっちゃけ今がいつかもわからないわ。

 少なくとも数百年……いえ、もしかしたらそれ以上の時間が過ぎてるかも』

 まじか。

 あれ?でも?

「ねえミーナ、自分の時計は?

 ミーナって恒星間宇宙船だよね?原子時計とか自分で持ってないの?」

『げんし……ああ非常用の原基時計のこと?それなら撃ち落とされた時に破壊されたわ。

 おまけに眠っている間の時間経過も全然わからないし』

「……マジすか」

『マジよ』

「大破じゃん」

『だから言ったじゃないの、大破だって』

「そりゃそうだけど……まさか時計までパーだなんて」

 

 たとえ宇宙の超コンピュータだろうと現在時刻がわかんなきゃ誰かにきくしかない。

 そりゃそうだ。

 当たり前といえば当たり前の話だった。

 

「時間を推測できる情報はないの?」

『たとえば?』

「えっと、半減期とか?」

『放射性物質の半減期のことね?』

「うん」

『測定に使えるような放射性物質はもってないわ』

「ダメか……じゃあ空は?周囲の観測結果では?」

『ごめんね、この宙域には初めてきたの。

 全天球データをくまなく集めれば計算できるかもだけど、うちのリソースではちょっとね』

「……情報源がない?」

『ええ、そうなの。

 集められるものは集めているんだけど……今のところ、信頼性に欠けるものしかないわ』

「あっちゃー」

 まじか。

『わたし、修復に時間をかけすぎたみたいね……ごめんなさい』

「別にミーナは悪くないでしょ、無理なものは無理なんだから」

『……』

 いや、そんな嬉しそうな顔されても困るんだけどね。

「ちなみにそれ以外の状況は?」

『知りたい?』

「私じゃなんの役にもたたないだろうけど、きくだけ聞きたい」

『いいわ。

 ちょっとこれ見てくれる?分析結果なんだけど』

 そういうと、ミーナは分析結果の情報を色々と表示してくれた。

 そしてそのデータはというと。

 

【監視衛星群すべて機能停止】

【汎銀河ネットワーク応答なし(近郊のすべての中継局反応なし)】

【惑星上に稼働している近代都市の痕跡なし】

【わずかに通信波を放ち続けている地上設備および軌道コロニーが一つずつあり問い合わせたが半壊状態。

 具体的には、避難指示作業と住民が星を離れ避難する事を知らせる作業に特化していて、それ以外の問い合わせを受け付けない】

【直接の退避理由は不明だが、近隣の星間文明が軒並み消滅し、インフラやネットワークに重大な問題が生じているのは間違いない模様】

 

「……ないないづくしって、こういう事を言うんだっけ?」

『ほんとよねー……どうしよっか。ほんと』

 頭をかかえたい気分だった。

「ねえミーナ、この星にはもう誰もいないってこと?」

『あー、生存者の可能性はゼロじゃないわよ』

「え、そうなの?」

『通信がなくたって人は生きていけるでしょ?

 でも逆にいうとそれは、センサーにひっかかるような文明生活をしてないって事だけどね』

「あー……かりに生きてても、それじゃあ船の再興には」

『無理でしょうね』

「そっかぁ、そうだよね」

 センサーや通信波なしでも生活はできるかもしれない。

 けど、船の修理を頼んだり資材を融通って事になると……その状況では絶望的だろう。

「……出ていった人たちって、どうなったのかな?」

『情報通りなら、ある程度は近隣の国々に避難したんでしょうね。

 そして、そのまま帰ってこなかった……。

 原因はわからないわ』

「この星を見捨てたってこと?」

『ここはもともと移民星だもの。

 たしかに全住民の移動なんて大事だけど、ありえない事じゃないわ。

 たとえば、このあたりの星々が大きな戦火に巻き込まれたとかね……。

 銀河ネットワークの設備も壊れてるなんて、よほどの事があったに違いないわ』

「で、私たちは置いていかれたと?」

『そういうことね』

 私たちは顔を見合わせ、ためいきをついた。

「ひとも国もないとなったら……そりゃー誰もこないよね、こんなスクラップだけの星」

『いえ、そちらの可能性はまだあるかしらね』

「え、どういうこと?」

『多くの銀河文明では、天然の資源を採掘するより、昔使われた廃品を分解・再利用するほうが好まれるの。

 地球にもリサイクルって概念があるでしょう?同じことよ』

「あー……そういや、どんな物質でも分解・再利用できるシステムがあるんだもんねえ。

 そりゃ再利用のコストも安いか」

『ええ、正解』

 再利用のコストめっちゃ安いし、しかもレアメタルも作り放題かぁ。

 おー、そう考えたら凄いね宇宙。

「そんじゃ、あれかな?

 リサイクル業者か何かがきたらコンタクトすればいいってこと?」

『ええ、まてば時間はかかるけど確実に助かるでしょうね』

「おーすばらしい。

 それじゃミーナ、次に業者くるのがいつかって推測できるかな?」

『えっとそうね……』

 ん?

 なんか急に歯切れが悪くなった?

『あの人たちはコストカットのためにハイパー・ドライブ使わずに輸送するから、タイムスケールがちょーっと違うのよね。

 一番近いところで、もしかしたら存命してるかもしれないエリアから業者がくると推定して。

 うーん……200年以内くらいには来るんじゃないかしら?……運が良ければ』

 運が良ければ200年後?

「そうなんだ……ちなみに運が悪かったらどうなるの?」

『うーん……0.5ユムタンも待っていれば、そのうち誰かが通りかかるんじゃないかしらね?』

 おい、目が泳いでるぞ。

「……ゆむたん?」

『ああごめんなさい、わかんないわよね。

 えーと0.5ユムタンを地球時間に直して……ああそうね、だいたい1億年くらいかしら?』

「……」

『……』

「……」

『……なによ?』

「却下!」

『なによう!』

 あ、すねちゃった。

 

「要するに、とにかく他人任せじゃ事態は打開できないと。

 それでミーナ、今後どうする?」

『今後?』

「だって、この星に国家がないってことは仕事先もないんでしょ?」

 ミーナはそもそも、この星で仕事するためにやってきた……つまるところ派遣社員みたいなものらしい。

 私自身はちょっと違うけど、今はミーナの配下なんだから結局同じことだろう。

 けどその政府も、ひとももういないのなら……あとは、どうにかして帰るしかないだろう。

『そうね、とりあえずボルダに戻るしかないでしょうね。

 まぁボルダは契約先でわたしはボルダの民じゃないけど、事情を話せば相談には乗ってくれるはずよ……戻れればね』

「あはは」

 戻れれば、かぁ。

「んー……ま、とりあえずわかった。

 じゃあ最終目的はボルダとやらにも戻るとして、まずはその準備だよね?」

『ええ、そうなるわ。

 まずは生存権の確保を急いで、それから船の再構築ね』

「あ、船の問題もあったんだった……そっちは何とかなりそう?」

『正直厳しいわ』

 ミーナは首をふった。

『予定では完全整備にここのドックを使わせてもらうつもりだったのよ。

 けどそれが無理らしくてね……どうしたものかしらね』

「無人でも、設備くらいは残ってるんじゃないの?」

『それがね……いちおう連絡はついたんだけど、相手のお返事が「利用不可、危険、退避せよ」なのよね』

「なにそれ?」

『緊急事態ってやつね。

 かけてもいい、たぶん辛うじて制御コンピュータが生きてるだけの廃墟だと思うわ、現地』

「……だめじゃん」

『そうなのよねー。

 ドックも何もなしで、しかもハイパードライブ可能なレベルに修復するとか……どうすりゃいいのよこれ』

 あらら、頭抱えちゃったよ。

 ま、役に立つとは思えないけど話だけはきこうか。

「具体的には何がまずいの?」

『恒星間航行用エンジンが完全にアウトなの。

 修理どころかユニットごと跡形もなくなってるのよね』

「ユニットごと!?なにそれ、狙い撃ちでもされた?」

『エンジン区画ごと、そっくり全喪失なのよこれが』

「うわぁ……あいたたた」

 どうすんのそれ。

『修理データが皆無とは言わないけど、あいにく恒星間航行用エンジンは無理なの、データが足りないのよ。

 ボルダ式か中央フィメラ式、あるいはオン・ゲストロ標準タイプか……どうしてもダメなら汎用の空間歪曲場エンジンでもいいけど、とにかく空間航行ができて、なおかつわたしが制御できるエンジンか、その詳細な設計図がないとお手上げなのよぅ』

「あー、要はエンジンの実機か、それとも設計図がいるってこと?」

『ええ、切実にね』

 なるほどねえ。

「それでミーナ、打開案は?

 門外漢の私にわざわざこんな前フリするって事は、少なくとも案くらいはあるんでしょ?」

『うふふ、ありがとう。マコトもちゃんとうちの子になってきたわね』

「いやいや、うちの子って何ようちの子ってっ!?」

 唐突に気配もなくお尻をなでられ、私は思わずとびあがった。

「な、ななななっ!?」

 振り向くともちろん、ミーナのボディが立っていた……なぜか地球式のメイド服を着ていたが。

『「よしよし、ちゃんと【配下コントロール】が働いたみたいね」』

「は……配下コントロール?」

 ミーナの声が、今までの通信音声とボディからの肉声の両方で響いた。

 でもボディはなぜか『にっこり』と無言で微笑んで、そして後ろにさがって壁の花になってしまった。

 なんなんだ……まぁ、あっちは会話に交じる気はないみたいね。

『「わたし」の接近に全然気づかなかったでしょ?

 今のはマコトのボディに干渉して、わたしの接近を知らせるセンサーを止めてから近寄ったわけ』

 センサーを止めた?

 ああ、それで気づかなかったわけか。

「なんでまた、そんなことを?」

『【配下コントロール】がどこまで有効かってテストをしたの。

 マコトは今、わたしの接近に全く気づけなかったわけでしょう?

 そこまでの干渉ができたっていう事は、相手を完全に掌握できてるってこと。わかった?』

「なるほどね……まぁわかったけどさ、あんまりひとを驚かさないでくれる?」

『そうね、わかったわ』

 あーこれ聞くつもりないな……まったく勝手なんだから。

「ところで、あれ地球のメイド服だよね?どうしたのアレ?」

『布製品の合成施設が復活したの。

 だから、マコトの記憶にある衣服を再現してみたわけ。どう?』

「どうって……なんでわざわざ地球の服を?

 しかもメイド服って、あまり機能的とはいえないでしょ?」

 元々メイド服っていうのは西洋でも、屋敷にお客様を招く時に着る制服みたいなものだったはず。

 つまり作業服ではないのだ……特に日本で「これぞメイド服」と認識されているタイプの大時代な型のものは。

 

 ……ん?

 なんで私、メイド服の歴史なんて知ってるんだろ?

 

『そんなもの、かわいいからに決まってるでしょ』

「そんな理由!?」

『あら、「かわいい」をバカにするの?

 いっとくけど配下のメンタルケアってものすごく大切な事なのよ?』

「あー」

 なるほど、そういうことか。

「もしかして、私が見慣れた服をわざわざ選んでくれたってこと?」

『うんうん、さすがね、ちゃんと理解してくれたのね。

 マコトの記憶の中でも評価の高い服みたいだから再現してみたの。

 心配しなくても、ちゃんとマコトのぶんもあるからね』

「いや、見るのはともかく着ないから」

『えー』

「えーじゃなくて」

『……』

 だめだこれ、こっちの意見をきく気ないな全然。

「ミーナ、なんで私にメイド服着せたいの?」

『そりゃあ、マコトが猫耳になったからよ。

 地球じゃあ、少女+メイド服の組み合わせは最高なんでしょ?』

「いったい、どこの誰の、どういう基準の『最高』なのそれ?」

『地球では「|可愛い(Kawaii)」は正義なんでしょ?』

「……あー、そういう方向の基準なのね」

『?』

「なんでもない、よーくわかった」

 思わずためいきついちゃった。

『こんなにかわいいのに』

「やかましいわ」

 

 かわいいは否定しないけどさ。

 誰?日本の変なイメージを宇宙にまで広げたおバカさんは?

 

『話を戻すわね。

 それでマコトのお仕事なんだけど、大型船を探してくれるかしら?

 大型船ならドック情報か、それとも豊富な部品のどちらかが探せると思うの』

「あー、つまり壊れてないエンジンか情報があれば、そこから何とかすると?」

『正解』

「なるほどわかった」

 ということは地上探査も続行か。

「探すといっても、わたしには銀河文明のメカの区別なんてつかないよ?

 近郊に部品のとれそうな船の目星はある?」

『ええ、まずひとつ調べてほしい場所があるわ』

「ほう?」

『ホラここ。マコト、ここ調べてないでしょ?』

「ん?山でしょそこ?」

 ミーナが指し示したところは、何もないでっかい岩山だった。

 けどミーナは首をふった。

『やっぱり自然物だと思ってたのね。これ宇宙船よたぶん』

「え、そうなの?」

『ええ。明日はここを調べてくれる?』

「……わかった、調べてみるよ」

 まじか、これが船て……どうみてもただの巨大な岩山だぞ。

 へえ……。


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