プロローグ
久々に開始です。
宇宙モノですが、地球文明との接点は主人公たちのルーツに地球人が関係する事くらいです。
一応、うちの作品の世界観を土台にしていますが、初見でも特に問題ありません。
とりあえず投稿。
更新周期などはこれから決めますので、とりあえず不定期で。
この後、一時間後に第2話が公開されます。
(プロローグだけだと先がわからないと思いますので)
『ニャー……ニャー……』
てしてし。
かわいい前肢が私の顔を叩く。
「待って……おきるから」
まだ見えない目に重たい頭で、とりあえず起こしてくれた猫をなでようとする。
……ん?
なんで触れない?
よくわからないが、ひどい違和感に私は目を開けた。
「──?」
目をあけるが、何もいない。
いつも起こしてくれたはずの、うちの猫の顔も、それどころかニオイも気配もない。
いや、それどころか。
ここ、どこだ?
少なくとも私の家どころか、全然知らない場所だった。
まるでビルや工場の仮眠室のように無機質で。
……こんなとこに、うちの猫がいるわけがない。
さすがに寝ぼけていたか。
でも、ここはどこだろう?
壁も天井も金属かコンクリートみたいなもので、窓もなければポスターの一枚もない。
見回すと出口らしきところがあるが、ドアノブも何もない。電子ロックか何かなのか?
「む……」
まだ重い頭をふり、思考を巡らせる。
「──?」
あれれ?
なぜなんだ、何も思い出せない?
思い出すのはただ「ごはんちょうだい」とねだる猫の顔くらい。
いや、まて。
ちょっ……と、まて。
「……私、誰だっけ?」
色々問題ありだけど、それどころじゃなかった。
そもそも、他ならぬ私自身がわからない……。
どうなってんだこれ?
そしたら。
『制御システム起動、接続確認』
うお、な、なんだ!?
透き通った女性の声が響いた。
まるで鈴を転がすようにキレイで……だけど同時に、完璧な音声合成プログラムが読み上げるような、感情の起伏を感じない声でもあった。
同時に。
頭に次々と情報が流れ込みはじめ、寝起きの私の頭を一発で叩き起こしてくれた。
『「マコト」の起動を確認しました。おはようございますマコトさん』
マコト……あ、それ私の名前だっけ。
ああうん、そうみたい。
でも名前以外はさっぱりわからないな。
「ああ、おはよう。質問なんだけど答えられる?」
ふと思い、口に出してみた。
『作業を一時停止いたしました。質問を受け付けます、どうぞ』
「状況が全然わからない。そもそもあなた誰?
あと……ごめんなさい、私が何者なのかも教えてくれないかな?」
『……質問了解しました。
まず、わたしはこの船のメインコンピュータで「ミーナ」と申します。
そしてあなたですが……長い休眠により記憶に混乱が発生しているようですね。
こちらで把握している情報を開示いたしますが、よろしいですか?』
「ああ、それでよろしく……ミーナと呼べばいいかな?」
『コンピュータを名前で呼ぶのはおイヤですか?ならば好きな呼称で結構ですが』
「ミーナでいい、よろしく。それより情報頼みます」
何から何までわからない事だらけだ。
とにかくまず話をきかなくちゃ。
『あなたの現状をお話するには、まず状況からご説明したほうがよいでしょう。
まず、繰り返しになりますが、わたしはミーナ。この船のメインコンピュータです』
「よくわからないけど、要するにマザーコンピュータってやつ?」
『その理解でほぼ間違いありません。
ただし単なる計算システムではなく、類人タイプの人格型になりますが』
「人格型?」
『平たくいえば、人型としても活動できるよう育てられたということです。
純粋なコンピュータシステムに比べると非合理的な部分もありますが、よく使われます。
またこのタイプは非常時や廃船時には、人型のボディを使った退去が可能です。
持ち出せる情報には制限がつきますが、そもそも特定船舶固有のデータなど持ち出す意味もありませんし。
そうして新しい船体が建造されれば、過去の経験を活かして即戦力になるというわけです』
「……そんなことできるんだ」
船のマザーコンピュータを、ひとのボディの中に入れてしまうの?
『マコトさん、あなたが使っているその肉体が、まさにそのために予定されていたものですよ。
非常用ボディを修理、転用してあなたに使わせている状態なんです』
「え、この体が?」
『はい。ちゃんとしたボディでなくて本当にごめんなさい』
「……?」
自分の体をさぐってみる。
まったく覚えがない、まるで他人の体。
この体に移されたということ?
『まぁ、そのあたりを含めて今、ご説明しますね』
「あ、はい」
ミーナの説明は、驚くべきものだった。
『かんたんにいえば、わたしたちは撃墜され、墜落したのです』
「撃墜?」
なんですと?
『わたしたちの所属は、マドゥル星系のボルダという国になります。
ボルダはこの惑星にある国と貿易をはじめようとしておりまして、まずわたしのような船が購入され、派遣されました』
「へえ……そのボルダとやらと今いるこの星までの距離って?」
『あなたの記憶にある地球という星の尺度ですと……だいたい50光年ほどになるかと』
「おー」
ここで銀河スケールだったらアニメかってとこだけど、50光年……その近さが妙にリアルだった。
『ボルダは生体工学の分野でこそ優れていますが造船技術はなく、つきあいのある星から購入したわけです。
ですので、わたしはボルダ所属ではありますがボルダ製ではありません。
そしてボルダの船員が雇われ、彼らと商人を乗せて船団は旅立ちました。
──ですが途中で襲撃を受けて船団は壊滅。
無事だった船もありましたが、あいにくわたしは撃墜されてしまいました』
「やられちゃったわけね……それじゃあ今の状態は?」
『砂漠に落ちたわたしは、しばらく機能停止しておりました。
何とか再起動しましたが、非常電源が生きているだけの難破船には何もできませんでした。
おまけに僅かに残っていた作業ロボットも破壊されてしまいまして……。
わたしは残り少ないエネルギーで休眠しつつ再生プログラムを走らせ、時間をかけて少しずつ、少しずつ機能を取り戻していったのです。
そしてようやく、わたしの手の届く範囲にあった情報を拾い上げ、何とか動きそうな機体のひとつに投入して目覚めさせた──これがマコトさん、あなたです』
「なるほど」
納得できるかどうかは別にして、話は理解できた。
『すみません、こんな状況で起こしてしまって』
「それはいいよ別に……ところで撃ち落としてくれた敵さんとやらは?」
『再起動から今に至るまでは、全く見つけられていません』
「再起動から?」
『停止中の事は、すみませんわかりません』
「あ、そっか。そりゃそうだよね」
機能停止しているのに周囲の事なんてわかるわけがない。当たり前だった。
「生存者の確認は?」
『マコトさんにわかりやすく言えば……彼らの目線ではわたしたちは全て無人船だったんですよ』
「……それはどういうこと?」
『現状をひとことでいえば、マコトさんは人間の記憶をインストールした合成人間です。
これはボルダの基準では人間にあたります。
しかし、彼ら──銀河連邦の基準では人ではなく自律型のロボット扱いなのですよ』
「厳しいね」
技術的なところはよくわからないけど……なんだか楽しくなさそうな話だった。
「無人機を撃ち落としたとわかっているのに、生存者の確認にくるわけがない……そういうこと?」
『はい、そういうことです』
なんとなく状況が読めてきたわ……なるほど。
……それにしても。
人間と変わらない人工の体。
人間と変わらない思考力と言語能力をもつマザーコンピュータ。
50光年先の星と貿易。
少なくともこれ、21世紀の日本じゃないのは間違いないよね。
未来?宇宙の果て?
それとも異世界?
そこいらは全然わかんないけど。
思わずためいきをついた。