異世界転移 ②
「マジかあ……」
異世界に転移したことが分かった瞬間、思わず俺の口から独り言がこぼれた。アニメや漫画もそれなりに観る方なので、異世界転生やら異世界転移についてもそれなりの知識はあるが、まさか自分が当事者になるとは思ってもいなかった。
「アイザワ様、どうかされましたか?」
「ああ、すみません。こっちの事情です」
異世界転移したことへの驚きが表情に出ていたか、キキョウさんに心配されてしまった。そして、ついはぐらかしてしまったが、国王様とキキョウさんには事情を話しておいた方がいいかもしれない。
「あの、今度は俺の話を聞いてもらっても大丈夫ですか? 少しお二人に話しておきたいことがあって」
「ああ、構わんぞ」
国王様から許可も出たので、俺は召喚の際に異世界(地球)からこの世界に転移した旨を二人に伝えた。
「そうじゃったのか……。アイザワには悪いことをした。突然召喚してしまって本当にすまん」
「私からもお詫びを。アイザワ様、申し訳ございませんでした」
「顔を上げてください。確かに驚きましたけど、お二人のせいじゃないんですから」
二人のことを責める気はないのは本心だ。地球に帰る手段は全くもって分からないが、ここで理不尽に怒ったところでプラスに働くことはないだろう。
地球に帰る方法は追々探すとして、当面の問題は今後どうするかだ。ひとまず、国王様にお城に住まわせてもらえるよう頼んでみるか。
「その代わりと言ったらなんですけど、しばらくこのお城に住ませてもらえませんか? この世界のことは何も分からないのが現状なので」
「承りました。国王様、私の方で手配してよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんじゃ。そんなのはお安い御用じゃが……アイザワ、お主に一つ尋ねたいことがある」
「? 大丈夫ですよ、何ですか?」
「お主の元いた世界、日本といったか? その国は強い国であったか?」
日本が強いかどうかだって? うーん、第二次世界大戦以降日本は戦争はしていないし、そういう意味での強さはどうなのか分からんな。でも、先進国であることは間違いないし、意味合いが違う気するけど強いってことでいいだろ。
「俺もそんなによく分かってないですけど、多分強い国だと思いますよ」
「そうか、強い国か……」
そう言うと王様は黙り込んだ。何か考えごとをしているのか、その表情は真剣そのものだ。そのまま一分程経つと、国王様は意を決したようにこう言った。
「よし、決めたぞ! アイザワ、いきなりですまんがワシの今生の願いじゃ! この国の国王になってくれ!!」
………………は? はあああぁぁぁあああ!?!?
ちょっと待てちょっと待てちょっと待て!!!
「俺に国王をやってほしい? ……冗談だよな?」
「そうですよ国王様! いくら何でも!」
「いーや、ワシは本気じゃ! ワシではどうやってもこの国を救うことはできん! 神の遣い召喚の儀式でアイザワが来たのも何かの縁にちがいないわい、頼むアイザワ! クロンキスト王国の国王になってほしい……!」
…………一気に色々ありすぎて、もう訳が分からないよ。
◇◇◇◇◇
「てか今更だけど、異世界で日本語通じたの奇跡だな」
衝撃の国王就任依頼を聞いてから早くも一時間、あてがわれた部屋のベッドに寝そべった俺は、何気なく思ったことを呟いた。……本当に今更だが。
「国王か~、やっぱり俺には無理だよなー」
国王様に今生の願いをされたとはいえ、流石にあの場で「分かりました! やります!」とは言えなかった。というか、「無理無理無理無理!」と叫んだぐらいである。
「責任が重すぎるし、何したらいいかすら分からん! 国王様には一晩考えてくれって頼まれたけど、断るのが無難かな」
国王様には申し訳ないなと思いつつ、普通に国王就任は断ることにした。後は明日の朝、国王様に謝ってこの話しは終わりだななどと考えていると、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「アイザワ様、キキョウです」
「あ、開いてますよー、どうぞ」
「失礼致します」
そう言うと、キキョウさんは部屋に入ってきた。手には紙の束を抱えている。
「どうしたんすか?」
「国王様にお使いを頼まれまして。これをアイザワ様にお渡しするようにと」
「これって、その紙っすか?」
「そうです。どうやら、神の遣いの方にお渡しする予定だったものだそうです。国王就任を依頼するにあたっての、諸々の契約書のようなものだとか」
「契約書?」
キキョウさんから紙を受け取り、パラパラと眺めてみる。(ちなみにだが、話し言葉だけでなく書き言葉も日本語と同じであった。後から聞いた情報だが、これはクロンキスト語というらしい)
なるほど、確かに国王に就任した場合のことが細かく書かれている。契約書というよりは、引継ぎのための資料といったところだろうか。
「では、私はこれで」
「わざわざありがとうございました」
目的を済ませたキキョウさんは足早に立ち去っていった。キキョウさんは何と言っても国王秘書なのだ、他にも色々とやることがあるに違いない。
「さて、折角持ってきてもらったけど、もう断るって決めちゃったからな」
とは言ったものの、今はやることが全く無くて暇だ。当然ゲームなどあるはずがないため、半ば必然的に先程もらった資料に目を通すことになる。といっても、今更何かが変わったりは……。
「……待て、なんだこの一文は」
サラサラと読み進めていたが、ある一文に目が止まった。その一文には
“国王には、この国の財を自由にする権利がある(もちろん、いくら贅沢をしようと咎められることはない)”
みたいなことが書かれていた。それだけではない。同じような「贅沢ができますよ」的な感じの文章が大量に書かれている。
「これマジか!? マジなら大企業の社長なんて目じゃないレベルの生活が送れるぞ!?」
地球にいたときも、親のお金のおかけで何不自由無く暮らせていたが、必要以上の贅沢はしなかったし、家事なども全て自分でやっていた。そのため、本当の意味での贅沢な暮らしは未経験だ。そして、そういう生活に興味がないとは言い切れない。……どちらかと言うと体験してみたいまである。
「贅沢な暮らし……。送ってみたい、送ってみたいが……! かと言って国王になるのも……!」
おそらく、17年生きてきた中で一番悩んだはずだ。それだけの葛藤につぐ葛藤の末、やはり国王就任は勘弁! という結論にたどり着いた。
「よし、さっさと寝て早起きして、朝一番に国王様に断りに行こう! ……俺の決断が揺らぐ前に」
俺はそう心に決め、ついでに国王就任を断る理由も一緒に考えた。それを考えている間にも、「贅沢な暮らし」というワードが頭に何回かよぎったが、何とかねじ伏せ意志を貫かんとする。
「うんうん、断る理由も完璧だ。これで準備万端! 寝る!」
そう呟き、ロウソクを消して(この世界には電気は存在していないらしい)布団を被った。
これで国王にならなくて済む! ……はずだった。
―次の日の朝―
「それで、結論は出たかの?」
昨夜の宣言通り早起きした俺は、朝食を食べた後、昨日の小さな会議室に移動した。やがて国王様とキキョウさんがやってきて、早速本題に入ったというわけだ。
「はい、一晩考えて決めました」
「そうか……。では、返事を聞かせてくれるか?」
「はい。俺は……、クロンキスト王国の国王になります!!」
そう、俺は結局国王に就任することにした。昨夜は何とか贅沢な暮らしから目を逸らした俺だったが、今朝起きてあるものを見てしまったのだ!
それは昨日の資料のラストに書かれていた一文である。そう、俺は昨日最後の一枚に目を通すのを忘れていたのだ。そして、そこにはこう書かれていた。
“クロンキスト王国国王は、この国の全権を持つ”
要するに、国王になればやりたい放題というわけだ! もちろん、実際にはできることに限度はあるだろう。だが、そうだとしても、この一文は高校二年生の男子の心を掴むのには十分すぎた!
結果、俺は手のひらを返し、国王就任を決めたのである!
「そうか!! 国王になってくれるか!!」
「はい、未熟者ですが、宜しくお願いします!」
この瞬間、俺はクロンキスト王国第13代国王になった!
そして、俺はこの時の決断を、この後すぐにめちゃくちゃ後悔することになる!!
皆様、この度は霧城ユウトの作品を読んでいただきありがとうございます!
今回のお話しでついにカイトが国王に就任しました。この後、カイトが国王としてどのようにクロンキスト王国を発展させていくのか、どうぞ皆様にも見届けていただきたく思います!
これからも、霧城ユウトを宜しくお願い致します。