姉に許婚を寝取られた妹
「俺の許嫁がアンジーじゃなくて、エティなんて最悪だぜ。あんなガリガリで無愛想な貧乳女より、綺麗で器量良しのアンジーの方がお嫁さんにしたかったなー」
「しょうがないじゃない親が決めたことだもの。あたしも顔も知らない商家のお坊ちゃんより小さい頃からよく知っている幼馴染のレリーのお嫁さんになりたかったわ。知らない街で商家の嫁として、一人で心細く生活しなくちゃいけないのよ。妹は変わらずにこの村に住んで、父母やレリーのおじさんおばさんに守られて暮らすなんて嫉妬しちゃうわ。あたしが村を出てしまえば、レリーもあたしのこと忘れちゃうんでしょ」
「そ、そんなことないぜ、俺はずっとアンジーのことが好きだっ! エティと結婚したとしても、この想いは変わらない!」
「ああっ! レリー!! あたしもよっ」
そう言うと二人はひしりと抱き合った。
繁殖期の猫のように盛り始めていた。
二人の様子を物陰から聞いていたエティは、二人に気づかれないようにそっと離れた。
村外れの小屋にいた若者二人は、姉のアンジーと許婚のレリーだった。
16歳のアンジーは、来月には隣町の商家の息子と結婚して、この村から出ていく。
15歳のレリーは親と一緒に畑を耕し、農作物を育てていた。
12歳のエティはいつも姉のアンジーのとばっちりをうけていた。
エティは両親が決めた許婚のレリーと結婚する予定になっている。
しかしレリーはエティのことを嫌っていた。
無愛想なエティではなく、村一番の美人のアンジーが好きだと臆面もなく言っている。
エティとの婚約が決まった後は、アンジーと結婚したかったとぐちぐちと愚痴っている。
村一番の美人で愛想が良いアンジーは皆から愛されていた。
両親も姉のアンジーと妹のエティをよく比較しては、アンジーを可愛がりエティを貶していた。
アンジーの人気にはスキル『カリスマ』が影響している。
スキル『カリスマ』は、人に好印象を抱かせる。
このスキルのおかげで姉は隣街の商家から声を掛けられ、嫁ぐことになった。
両親も何事も姉を優遇して、優先した。
決して裕福な家でもないのに、両親は姉が欲しがる物を可能な限り与えた。
村では場違いな高価なワンピースの服、髪飾りやネックレス。
アンジーは自分の美貌を自覚していて、着飾ることが好きだった。
おかげで家の家計は火の車だった。
両親は真面目に働いていたが、いつも貧相で忙しそうに働いている。
エティに買ってくれたプレゼントなんて、一つもない。
エティの着る服は、着れないお下がりさえアンジーが嫌がって手放さなったから、お隣のレリーの男服をお下がりとして貰っていた。
食事もエティは小さいからと、おかずの品を減らされ、さらにアンジーがおかずを勝手に取っていく。
抗議しても、親はアンジーを甘やかして、エティに厳しく叱った。
エティも言い返すのに疲れて、黙って黙認するようになっていた。
アンジーは家の仕事や手伝いも一切しなかった。
村をフラフラと歩いては、男に声を掛けて遊んでいた。
男にねだって、物を買って貰っていた。
妻や恋人のいる人にも見境なく声を掛けては遊んで、夫婦や恋人たちが争う様を楽しんで見ていた。
しかし要領が良く、人を選んで上手く立ち回っているため、アンジーの本性に気づいた一部の人に嫌われていたが、大多数の村人には好かれていた。
それが村長や宿屋の亭主など、強い立場の男性ばかりを選んで人気があった。
アンジーの悪口を言うと、逆に怒られて立場を悪くしてしまう。
特に妹エティの評判は、アンジーや両親が風評していたせいで村でも悪かった。
だから誰もがアンジーの悪口を噤んでいた。
両親はアンジーを甘やかすあまり、近所から借金までしていた。
流石に借金はまずいと思い、エティは金策を考え、狩猟をして獲った肉や素材をお金に換えて、借金返済を手伝っていた。
しかしアンジーの浪費癖は年々ひどくなり、両親も咎めないので借金額は全然減らなかった。
そんな時に村を訪れた行商の商人から、アンジーの嫁入りの話が来た。
両親は喜んでその話に乗った。
村の農家の娘から、街の商家の嫁に嫁げるのは、玉の輿だった。
アンジーもまんざらでもない顔で、街の暮らしでさらに裕福になれるとよろこんでいた。
両親も結納金で借金が返せる。さらに商家との縁ができて良い事づくめだ。アンジーを今まで何不自由もなく育ててきて良かったと喜んでいた。
祝い事だと、いつもより豪華な食事の場で三人が喜ぶ姿を見て、エティは少しはあった肉親への情が消えていた。
三人にはエティが幼い頃より危険を冒して狩猟を行い、お金を稼いで借金返済を手伝っていた苦労や気遣いの心は一切なかった。
エティはアンジーが増やした借金を、両親と一緒に懸命に返してきた。
姉の人間性の下劣さは、成長と共に年々酷くなり、もはや手遅れなものだった。
だが両親には生んでくれて、育ててもらった恩や感謝があった。
しかし両親はいつまでも姉を贔屓して、姉の行いに対して諫めたり叱ったりすることは無く、益々増長させて、ついには両親たちも底辺な人間になっていた。
日々のひもじい暮らしを少しでも手助けしようと、狩りで獲って来た肉を渡して、食卓に上っても感謝されることはない。
肉や毛皮、素材を商店や行商に売って、借金を返済していたお金について、これからエティに返そうという話もなかった。
それどころか両親は隣家の夫婦から息子のレリーとエティを許婚にして、結婚する話になったと事後報告で告げてきた。
エティがレリーと結婚するなら、今までの借金は返さなくてもよいと言う話になったと、両親は嬉しそうに言った。
隣家の夫婦から借りていたお金が一番借金額が多く、その他にも色々と助けて貰っていた。
そんな話を姉のアンジーの嫁入りが決まった時期に急に持ち掛けてきたのは、隣家夫婦の思惑の宛てが外れたからだろう。
年も近く、アンジーに好意を寄せていたレリーとアンジーが結婚できればいいと思って、お金も貸したし手助けしていた。
しかしアンジーは商家に嫁ぐことになった。
この玉の輿が覆ることはないだろう。
ならば業腹だが、代わりに妹のエティを貰って、今までの恩を返してもらおうという考えだった。
アンジーと比べれば、器量もないし無愛想だが、狩猟をしてお金を稼ぐ技術がある。
文句も言わずに借金返済を手伝っていた娘なら、レリーの嫁になった後にいびっても文句も言わずに従順な嫁として来てくれるだろうと隣家の夫婦は考えていた。
両親は一番多額の借金が無くなったと単純に喜んでいた。
エティに相談や伺いを立てることもなく、勝手に決めてしまった。
これではエティは、借金の形の身売りだ。
レリーとの婚約の話を聞いて、エティは内に渦巻く激情を表に出さないようにするのに苦労した。
三人に悲しみや怒りの表情を見せる事さえ、したくなかった。
姉のアンジーは、玉の輿で村を出ていく。
妹のエティは身売り同然で、隣家に嫁がされる。
姉妹の待遇の違いにアンジーは妹がどういう反応をするのか、興味深そうに伺っていたが、エティの顔は相変わらず無愛想で変わらなかった。
幼い頃からアンジーにいじめられて揶揄われていたエティは、極力反応しないように無愛想な顔を張り付けて、無視することで自分を守っていた。
たとえ人受けが悪くても、エティの無愛想はアンジーから身を守る術だった。
内心の激情が通り過ぎると、静かに冷静になって、固い決意を抱いていた。
この家を、村を出て行こう。
もう肉親の情や感謝も消えてしまった。
エティがいなくなった時の騒動や借金なども、もうどうでもいい。
今までエティが働いて、返済していた借金額は決して安い額じゃない。
今までの養育費分は十分に稼いでいた。
それだけエティには狩猟の才能があった。
これなら村を出ても、狩りをして生きていける。
豪華な食事の場で、娘二人の結婚が決まったと喜んでいる両親。
アンジーは妹の許婚が決まって、表面上は祝っていたがニタリと面白そうに笑っていた。
エティは村を出る決意を固めていた。
しかしエティはすぐに村を出ていくことは出来なかった。
今まで稼いだお金は借金返済に充てていて、貯えがなかったのだ。蓄えるお金があるなら、借金返済とアンジーの欲しい物を買うお金に消えていた。
こんなことなら、両親に隠れて、森にでもお金を蓄えておけばよかったと後悔した。
村を出るにしても、生きるためには準備が必要だ。
両親が買ってくれるはずもなく、自分でお金を稼いで、装備を揃えないといけない。
しかし今まで渡していたお金を急に渡さなくなると、いくら能天気な両親だろうと怪しむだろう。
狩猟する獲物の数を今まで以上に増やして、両親に渡すお金は今までと同じ金額にして、差額を地道に貯めるしかなかった。
今まで以上に毎日森に入って家にいない私に、両親は気にもしなかった。
レリーに会えば、アンジーが良かったと愚痴や文句を言って辟易してくる。
エティがお金稼ぎで狩猟に精を出している間、玉の輿で村を出るアンジーは暇を持て余していた。
流石に結婚が決まったアンジーに手を出そうとする男は少なかった。
しかし暇を持て余したアンジーは、良からぬ事を考えてしまった。
どうせ村を出るのならば、妹の許婚に手を出してしまおう。
妹に対して優越感が持てるし、暇も潰せるだろう。
レリーはアンジーが好きだと公言して面倒くさかったから今まで手を出さなかったけど、エティからレリーを寝取ると考えれば面白そうだ。
レリーの心にずっとアンジーがいれば、二人が結婚しても夫婦仲は良くならないだろう。
アンジーは面白い遊びを思いついたとほくそ笑んだ。
レリーは隣家の好きだったアンジーが玉の輿で村を出てしまうことに絶望していた。
しかも妹のエティとの結婚が決まって不貞腐れていた。
そんな時にアンジーから声を掛けられて、有頂天になって喜んだ。
妹の許婚を寝取ろうと下種な思惑でアンジーはレリーを誘った。
喜んで誘いに乗ったレリーも同類だろう。
二人はマリッジブルーの作用もあったのか、燃えるように愛し合った。
もちろんアンジーは村を出て結婚するまでの遊びだった。
レリーは本当にアンジーのことが好きで、その想いがアンジーに届いたと喜んでいたようだ。
二人は暇があれば、逢引きを繰り返していた。
エティがよく使う、村はずれの解体小屋で逢引きをしたのは、アンジーがレリーを誘ったからだ。
もちろんアンジーは、エティに目撃されることを狙って、解体小屋で逢引きを行った。
無愛想で何を考えているのか分からない生意気な妹の悔しがる顔を見てみたくもあった。
しかしエティの隠密技術は高く、アンジーはエティを見つけることはできなかった。
狩猟から帰って、獲物を解体しようと小屋に向かっていたエティは、小屋で逢引きしている二人を目撃しても、もはやどうでもよかった。
よくやるよなぁとしか思わなかった。
下品で危ない火遊びをするアンジーも、エティと婚約しながら浮気をするレリーにも期待する気持ちなど、すでになかった。
どうせ二人の逢引きを両親に言ったとしても、結婚までの事だから許してやれと言われるのがオチだった。
獲って来た獲物を解体するのを諦めて、村で唯一の商店に素材を売りに行く。
ここの店主は珍しく、エティに同情的な人だった。
店主は昔アンジーが店の商品を万引きしたことを覚えていた。
万引きした代金を支払いに来たエティを見てから、何かと気にかけてくれる。
狩猟で獲ったお肉や素材を売りに行っても、子供だからと下に見ないでちゃんとした値段で買い取ってくれる。
売り物にならない商品だからと、古い薬やカバンを安く売ってくれた人だった。
こっそりと旅の装備品を商店で買っても、店主は黙って売ってくれた。
今日は珍しい品を商店で買った。
いつも商店で買う、薬や袋じゃない。
でも女の人なら買う物だから、不信に思われることはなかった。
***
ひと月が過ぎ、村に商家一行がアンジーを迎えにやって来た。
商家一行はたくさんの食料や荷物を持ち込み、祝いの宴が開かれた。
アンジーが嫁ぐ商家は、村人にもご馳走を振舞って裕福さを誇示していた。
アンジーを迎えに来た商家の息子はややぽっちゃりとした凡庸とした男だった。
良く言えば優しそうな容姿で、悪く言えば甘ったれた商家のボンボン息子だった。
アンジーは初めて見た自分の夫に、笑顔を張り付けていたが、内心不満でイライラしているのが丸わかりだった。
しかし商家が持ってきた嫁入り道具の衣装や装飾品を見ると、一転して機嫌を直していた。
村では見たこともない繊細なレースが施された真っ白なドレスを着たアンジーは、村一番の美人というだけあって綺麗だった。
村の女性陣はため息をついて羨望の眼差しを向け、男性陣は鼻息荒く興奮していた。
ボンボン息子も鼻の下が伸びて、商家の旦那は自慢げに鼻高々のようだった。
宴会で一番浮かれていたのはアンジーの両親だっただろう。
結納金も満足できる額を貰ったようで、父親は品性もなく、ただ酒を飲んでは泥酔しながら娘自慢をしている。母親は有頂天に村の女性陣に自慢して回っていた。
盛り上がっている宴会の中に、エティの姿がない事に気づいた村人は何人いただろう。
エティは宴会会場の広場が良く見える、村はずれの木上に登って、宴会会場を見下ろしていた。
手には狩猟で使い慣れた弓矢を持っていた。
矢には細工が施されていた。
先端の矢じりは取り外され、怪我の無いように柔らかい玉が付いている。
矢が物に当たれば先端の玉が緩衝しつつ表面が破れ、中に入っている液体が飛び散るように細工をしてある。
この日のために森の中で何度も試作して練習した自信作だった。
エティは息を吐いて深呼吸をした後、弓矢を構えた。
狙いは宴会で一番の主役、姉のアンジーだ。
ご自慢の巨乳に当たれば、脂肪が守って万一も怪我はないだろう。
村外れの大木から、村の広場の宴会会場までの距離は遠い。
常人が弓矢を番えて、目標に届くことはまず不可能だった。
しかしエティのスキルは『必中』だった。
狙い通りに当てることができる。
このスキルのおかげで、子供ながらに森の獲物を仕留めることができた。
このスキルに加えて、長年の狩りで習得した風魔法を矢に纏わせると、驚くほど遠くまで、矢を射ることができた。
この技術は誰も知らないエティだけの切り札だった。
エティが弓矢を上空に射ると、矢は弧を描いてフラフラと減速しながら、狙い通りにアンジーの胸に当たった。
パンッと矢の先端に付いていた玉が破けて、中に入っていた液体がアンジーにかかった。
「ぎゃぁぁあああああああ!! なにこれぇぇえええ!?」
アンジーの着ていた真っ白なドレスは胸からどす黒く汚れてしまっていた。
エティが矢の先端つけていたのは、獲物の膀胱に入れた黒い塗料だった。
普段は服や糸の染め物で使う塗料をわざわざ商店で買って詰めた。
糞尿や泥じゃなくて、わざわざ商店で買った塗料にしたのは、エティなりのアンジーへの情けだった。
塗料の汚れは落ちないだろうが、染め直せば黒いドレスとして、着ることもできるだろう。
真っ白な純真なドレスではなくなったが、アンジーにはお似合いだと思っている。
宴会場ではアンジーが悲鳴や金切り声を上げて、騒いでいた。
これでドレスも宴会も台無しだろう。
この騒動の犯人がエティだと思う人は少ないだろう。
宴会会場にいなかったエティを疑う人はいるかもしれないが、たとえスキル『必中』を持っていても、長距離からアンジーを狙うことはできない。
長年いじめられてきたアンジーにやっと仕返しができて、エティは晴れやかな気持ちになれた。
エティはニヤリと笑うと、するすると木上から降りていく。
木の下に準備していた装備や荷物をさっさと背負うと、いつものように森に向かった。
しかしもう家には帰って来ない。
このまま誰にも見つからない内に村を出て、旅に出る計画だった。
旅で向かう先は、アンジーが住む隣街とは反対側の山を越えた先だ。
森や山には危険な魔物が生息しているが、エティのスキル『必中』があれば、狙いたがわず一撃で頭を射止め、倒すことができる。
エティが男だったら戦場にでも行って、一旗揚げて英雄にでもなれたかもしれない。
しかし家庭を守る女としては、必要性のないスキルだった。
両親も役立たないスキルだと落胆していた。
でも一人で生きるのなら、重宝するスキルだ。
魔物を狩りながら、肉や素材を売れば、生きていける。
生臭いし、女らしくないが、エティには性に合っていた。
山を越えて街に着いて、落ち着いたらこれからのことを考えようと思う。
これからは、自分の為にお金も時間も使える。
両親やアンジー、レリーのこともすっきり忘れられるだろう。




