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第40話『死地へ向かう』


 俺は森の小道を駆け出した。


 これで俺はもう生きて地球に帰る事が出来なくなった。

 馬鹿な事をやっている。そんな事はわかっている。一応、自覚はある。


 しかし、もしかするとあいつを助ける事が出来るかもしれない。そう考えるとそれがどんなに少ない可能性だとしても、俺は駆け出さずにはいられなかった。

 別に俺に何か出来るなどとは思っていない。ただそれでも今はあいつの傍に行ってやりたいそう思っただけなのだ。

 たとえ、この先にどんな悲惨な運命が待っているとしても、俺は最後の一瞬まで……。


          *


 黒忍者の装束を纏った大国が鈿女うずめの横に並び質問した。


あねさん、良かったのですか、行かせて」


 それに鈿女が答える。


「いいんじゃない。新人は生きが良いくらいが丁度良いのよ」

「はあ。でもまた怒られますよ、天野さんに」

「あ……」

「今から、私が行って連れ戻してきましょうか?」

「い、いいわよ、別に……」

「考えて無かったんですね」

「……」


 鈿女は無言でスタスタと歩き出した。


          *


 俺は日の当たらない暗い森の中を駆け抜けた。道は整備されているとは言い難い。それでも荷車程度は引けるくらいの山道に整備されている。そして、やはり生き物の気配はまるでない。鳥や動物だけでなく昆虫も見当たらないのは、何らかの異変を察知しての事なのだろうか? 今はそれがかえって不気味に感じる。


 ティコはそろそろ街に着いた頃だろうか。無事にたどり着けただろうか。港の防波堤には外側からしか見えない秘密の船着き場があり、そこから上陸するつもりのようだった。そして、身を隠しながら移動し波止場の地下の集合場所へ向かうのだろう。急がねば! 俺は走る速度を速めた。


 山道は緩やかな下りとなった。だが……。

 呼吸が乱れる。足がもつれる。今ほど自分の体力の無さを恨めしく思ったことはない。もしこれを生き残る事が出来たなら体力づくりから始めるとしよう。いや、むしろこの世界で生きていれば自然と体力も増すのかもしれない。

 そう言えば鈿女は自分が殿しんがりだと言っていた。追手は大丈夫なのだろうか? 俺は警戒を強め山道を走り続けた。


 二人と別れておよそ二十分。見覚えのある場所にたどり着いた。すでに息も上がり足はがくがくと震える。確かそこの小さな広場を抜けて藪を突っ切れば街の街壁が見えたはず……。俺はふらふらと歩き茂みを掻き分けた。


「……」


 俺は言葉を失った。


 街が燃えている。そして、あの立派に見えていた壁は見るも無残に破壊されていた。日の入り門のところだけでなくいたるところが崩れ、瓦礫と化している。恐らく俺たちが街にいる間はこんなことになっていなかったはずである。とすると、俺とティコが海に居る間という事になる……。ウチの社員たちが脱出の際に破壊したとみて間違いないだろう。

 大きく崩れている個所は三か所。それぞれに特徴がある。一つは壁の下の方に大きく穴が開いている個所。もう一つは壁の上半分がえぐり取られた様に吹き飛ばされている個所。そして一番手前の箇所は大きくV字にカットされている。どうやったらこんな風になるのかわからない……。俺は震える足で斜面を下っていった。


 周囲に人気は無い。俺は今回は街道の方へは行かず、そのまま草原を突っ切り壁の割れ目を目指した。


「うっ!」


 何かものすごく嫌な臭いがする……。臭いの漂ってくる方角を見た。そして、見つけてしまった……。


「チェーンメイル……」


 喉に酸っぱい物が込み上げてきた。思わず俺は嘔吐した。足がすくむ。――当然だ。ここは戦場だ。生き死にを賭けて人が争う場所なのだ。覚悟を決めろ!

 その元、人であった物体は見事に上半身と下半身が断ち切られていた。とても人の仕業とは思えないが、ここに打ち捨てられたままという事は、きっと社員の誰かがやったことだろう……。仕事とはいえ容赦ない。


 匂いはそこかしこから漂って来ている。俺はそれらを避け、無理やり足を動かして壁の割れ目を目指した。


 綺麗にV字に切り取られたように崩れた街壁。崩れた壁が小山の様に積み重なっている。辺りは水浸しで、その切断面は消しゴムをカッターナイフで切り取ったようにすっぱりと平らになっている。俺はその瓦礫を這うようにして上り街へと侵入した。


 そして、周囲を見回した。街は燃えていた。誰かが建物に火をつけて回ったのだろう。あちこちの建物が燃え上がっている。俺は周囲を見回した。辺りに人の気配はない。パチパチと燃え盛る炎の音だけが聞こえて来る。俺は瓦礫から飛び降り通りへと降り立った。


 ここは恐らくティコと来た風呂屋の西に位置する場所だろう。そう当たりを付けて俺は東の方角へと歩き出した。

 燃え盛る炎から出る煙で、街は白く霧に覆われたように視界が悪い。二本先の通りが辛うじて見える程度だ。俺はバッグからタオルを取り出し口元へ巻いた。


 しばらく道沿いに歩いていると一本南の通りに大きな石造りの建物が見えた。屋根の上にうっすらと煙突も見える。間違いないあの時ティコと一緒に来た風呂屋だ。俺は急いでその正面に回った。

 入り口は壊され中は荒らされている。周囲のお店はどれも破壊され火を付けられていた。


 その時、風に乗って街の北側から喊声が聞こえてきた。


「まだ争ってる……」


 馬鹿な連中だ。


 ここは死地だ。これからこの街は死の帳に覆われる。誰一人逃げられないというのに……。

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