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第24話『脱出経路』


 俺はキッチンで湯を沸かした。外からは微かに怒号が飛び交っているのが聞こえ、そこへ時折ドーンと炸裂音が混ざって聞こえて来る。ポットに茶葉を入れお湯を注いだ。


 ティコはキッチンの椅子の上で膝を抱え小さくなっている。どうやら雷の音が苦手らしく、外から炸裂音が聞こえるたびに身を小さく震わしている。


「お茶入れたぞ」

「ん、あんがと」


 俺はカップにお茶を注ぎティコへと手渡した。


「なあ、ティコ。よく聞いてくれ」

「うん」

「多分そのうち日の入り門は破られる」

「もしかして、そのバクダンってやつの所為かよ」

「ああ、時間は掛かってるようだがそのうち多分壊される」

「でも、そんな事になったら……」

「ああ、きっとここまで敵兵が押し寄せて来るだろうな」

「……」


 ティコは暗い顔をして俯いた。


「それでな、敵に気付かれずこの街の外へ逃げる方法は無いか」

「無い……、と言いたいけどいくつかは考えられるよ……」


 ティコは説明を始めた――。


 先ずは神殿の地下道。葬儀の際に遺体を日の出門前の墓地へと運ぶ通路だそうだ。だがここは送り火祭りというお盆の様な行事で使用されるため、街中の人が知っているそうだ。当然、敵方にもばれているだろう。さらに、その通路を通り抜けたとしても街の東側には荒野が広がっており、墓地から丘の上の耕作地まで身を隠す場所が無いそうである。敵兵に街を取り囲まれている現状では使用できそうにない。


 次に沖の小島。漁師とその家族たちが避難しようとしていた島だ。港を出て湾から南に下った先にあるそうだ。しかし、どうやらここも今はその周辺に大型海竜が住み着いているらしく、船でもたどり着くことは難しいらしい。あるいは王様の船で兵を引き連れていけば可能かもしれない。


 次に小舟で湾内を逃げる。ティコ曰く魚河岸の端の水路には荷揚げ用の小舟があるそうだ。その小舟で港を出て海岸線に沿って小舟で逃げる案である。最も現実的な案ではあるが問題は有る。


 それは……、まず間違いなく海竜に襲われることである。

 ただし、湾内に限りさほど大きな物は来ないため銛で突いて撃退可能だそうである。

 次に問題なのは接岸場所である。街の東側は荒れ地と浜になっており港から出れば丸見えになってしまう。小舟では速度が出ないため接岸と同時に捕らえられることになるだろう。それに対して西側は魔獣の住む森と崖になっている……。


「……この周辺国の人間なら魔獣の住む森には絶対に近づかないよ。危険なことは十分知ってるから。この街の外壁だって元々は魔獣から人を守るためのものなんだ」


 俺はその森からここへやってきた訳だが……。

 ――ん? 何かが可笑しい……。そうだ!


「西の森には小道があるんだろ」


 この王都にたどり着くために俺は小道を歩いてきた。絶対に人が近づかないというのは変だ。


「え? 小道?」


 ティコがそんなものは知らないといった風に小首をかしげる。


「あっ、そうか! 西の森の中にはかつてアウケラス神殿があったんだよ! そこの調査のために王様が軍隊を送り込んだことがあるんだ。その道は多分その時のものだよ」

「アウケラス神殿だと……」


 あの牧場の様にダダ広い草原は神殿の跡地だったという事か……。今回の作戦にアウケラス神も関わっているとすればその可能性は高い。


「でも、よくにーちゃんはそんな事知ってたな」

「うん、まあ、ちょっと以前にな……」


 俺は言葉を濁した。


「ふーん、まあいいか。でも、だから西の森は敵も近づかないほど危険なんだよ」

「それは魔獣がいるから危険って事だよな」

「そうだよ」

「魔獣だけなら退ける方法がある」

「あ、あるのかよ、そんな方法!」

「ある! 俺を信じろ」


 そう魔獣だけなら方法がある〝聖剣エクスカリバー〟。既に一匹を屠っている。流石にあれを人に向けて放つのは躊躇われるが、問答無用でこちらに襲い掛かってくる魔獣であれば容赦はしない。何匹でも叩き切ってやる!


「でもよ、にーちゃん。その先はどうするんだよ」


 ティコはぽつりと呟いた。


「え?」


 その先……?


「まさかそのまま森に棲む訳じゃないよな」

「あっ!」

「森を抜けた先は山脈があって、それを越えないと隣国には入れないぜ。一体何日掛かるかもわからねえんだぜ」

「むぐ……」


 ――しまった、考えていなかった!

 俺一人ならまだ良い。後五十時間も経てば帰還できる。だが、ティコも連れていくとなると状況が異なる。あの場に一人残すわけにもいかない。この案は駄目だ……。

 その後も俺たちは脱出経路について話し合った。



 ――そう言えば聞こえてこないな……。


 いつの間にか気が付くと外から炸裂音が聞こえなくなっていた。扉の閂を外し表を覗いてみた。

 外はすでに日が暮れていた。日の入り門の方角にいくつも黒い煙が上がっている。門の方角から怒号とカンカンと金槌を振るう音が聞こえて来る。補修しているという事は、今日は何とか持ちこたえたのだろう。明日はどうなるかわからないが……。


 その時、胸元のリベレーションがブルッ! と震えた。


「――おい、負傷者が北東の塔へ運び込まれてっぞ」


 これは建比良鳥たけひらとりの声だ。


「――聖女はここにいるぜ!」


 そう声が響いた。


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