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あの夏の思い出

作者: かえで

あの頃は幸せだった。冒険心に満ち溢れていた。


今でも思い出す…最高の夏を。


ー故郷の田舎町ー

「あっつーい」

「あついね〜」

何処からかそんな会話が聞こえてくる。

今年も暑い夏が来た。空には一筋の飛行機雲が通っていた。


俺の名前は鐡新(くろがね しん)、高校三年生だ。

「だり〜 早く学校終わらないかな〜」

「わかる〜」

「学校抜け出しちゃうか!」

「やめとけよ〜」

幼なじみの五人とそんな会話をしながら過ごしている。

俺が幼なじみの五人と出会ったのは赤子の時だった。都市から随分と離れた地方の田舎町だった為、近所付き合いも多く親同士も仲が良かった。そのおかげで仲良くなったのだ。

その五人とは小学、中学と毎日のように仲良く遊んでいた。そして皆で地元の同じ高校に進学し、高校生になった今でも遊んでいるという訳だ。

幼なじみの一人、健二(けんじ)が話しかけてきた。

「今日学校が終わったら秘密基地行こうぜ〜」

「いいよ〜」

そんな返答をして適当に話す。秘密基地は小学の時に作ったもので古いサビた橋の下に、ベニヤとトタンを組み立てて作った小屋である。

毎年夏になるとそこに皆で集い遊ぶのが定番だ。

ハンモックやターザンロープもあるのだ。また、川が近いので魚を釣ったり獲ったりしていた。

今年もそこへ行く時期が来たということだ。

学校が終わり、一旦家に帰ると、「今から行く」とグループメールに入れ、猛ダッシュで遊びに出かけた。秘密基地に着くと、(さき)(ゆき)真船(まふね)の三人がいた。彼女らも幼なじみだ。

「お〜!新〜ここに来るの久しぶりだね!」

「だな!」

「あとの二人まだかな〜」

「もう少ししたら来るだろ〜」

なんて話をしながら約一年ぶりに来た秘密基地の掃除をした。蜘蛛の巣だらけで汚かったが、その時は楽しさが勝ち、気にせずに掃除をすることができた。そうこうしている内にあとの2人がきた。健二と(ゆう)だ。

「すまん〜遅れた〜」

「本当だよ〜遅い〜」

「ごめんごめん」

「久しぶりだな〜」

二人も久しぶりの秘密基地に興奮を隠せていないようだ。掃除も終わり、皆揃ったところでこれからの計画を建てることにした。

「皆やりたい事を出し合ってこうぜ!」

「いいね!私は線香花火がしたい!」

「花火大会は絶対行くよな!」

「海とかもいきたいね〜」

「川入って魚とろうぜ〜」

「え〜釣りがいい〜」

「じゃぁ両方なっ!」

と沢山やりたい事が出てきた。

そのやりたい事を「やりたい事リスト」にまとめ、絶対に全部やる!という固い約束を皆でし、その日は暗くならない内に家に帰った。



やりたい事リスト

一、川で釣りや魚獲り

二、秘密基地でキャンプ

三、遠くの湖に冒険

四、海辺で手持ち花火

五、花火大会(夏祭り)に行く

六、最高の夏にする!など…



ーやりたい事リスト一ー

あれから暫くして、また俺たちは秘密基地に集まった。最近は太陽がカンカンに照っており、ジリジリと肌が痛くなる様な暑さが続いている。

「こんな暑い日は川入りたいな!」

健二から呼びかけのメールがきた。健二の呼びかけには幼なじみ一同満場一致で、今日はこれから川に行く事となった。

「新、網と釣り道具忘れるなよ!」

「おう!大丈夫、大丈夫」

「じゃぁ、放課後に秘密基地集合な!」

と約束をし、道具を用意し秘密基地に向かうと、また女子三人組が先に来ていた。

「いつも来るの早いな」

「早く来て女子会してるの」

「混ざる??」

とからかわれた。

「混ざらないよ笑」

と答えたものの、あとの男子二人が来るまで女子会に参加した。

数分たって男子二人も来て、いよいよ川に入る準備をする。

俺らが入る川は秘密基地のある橋の、すぐ下を流れており、水深は二〇センチメートル程である。少し離れた場所にいけば飛び込みスポットと呼ばれる深い場所があり、そこにも入ろうと思ってる。水は透明で上から見てもすぐに魚を見つけられる様な綺麗な川だ。

「よっしゃぁ〜 俺が一番!」

と健二が叫び バッシャーン という音をたて川に入った。

「気持ち良いぜ〜 早く早く〜」

と呼ばれたので俺と優も健二につづき川に入った。

「私達も入るか」

「だね!」

と女子の会話が聞こえる。

「なぁ、網持ってくるついでに女子押せよ」

と健二が提案してきた。

「いいね、ジャンケンで負けたヤツな!」

と急に決まりジャンケンする事となった。

「最初はグー ジャンケン ポンッ」

言い出しっぺの健二が負けた。

「チェ〜 よし!行ってくるわ」

「おう、頑張っ!」

「頑張ってくるわっ」

と言い網を取りに行った健二に内緒で女子三人にその事をこっそりと伝えた。

「健二が三人のこと押そうとしてるぜ」

「え?最低〜」

「健二の事逆に押しちゃおっかな」

「名案」

などと話している。女子って怖いなと思いながら待っていた。

やがて健二が足音を忍ばせ戻ってきた。そして女子の後ろにいく。どうやら真船の事を押すつもりらしい。「えい!」と声を出して手を伸ばし、押そうとした瞬間、咲が健二の腕を引っ張り川に落とした。

健二はポカンとした顔でこちらを見た。

「ふふっ 私たちを押そうなんて百年早いねっ笑」

と咲にからかわれ少し不満そうだ。俺らが秘密裏にバラしたという事はこの先もずっと内緒にしとこう。

そんな事を思いつつ、健二が取ってきた網を受け取り魚を探しに行った。水温は冷たく、とても気持ちが良い。時々吹く風も心地よく最高の川日和だ。

「魚はどこだ〜」

「取ってやる〜!」

とムキになって探していると バッシャーン! という、とてつもなく大きな音と同時に一メートルはあるかという大魚が飛んだ。

「でっけぇ…」

俺と健二は声を揃え、そう口にした。どうにか獲ろうとその場ですぐに作戦をたてた。

「優〜ちょっと来てくれ〜」

と少し離れた場所から見てた優を呼び

「優と俺で魚をあのくぼみに追い込もう」

「おう!」

「そこに追い込まれた魚をこの俺がとるって事さ!」

自信満々に健二が言う。

「健二〜失敗するなよ〜」

「失敗するかよ〜笑」

と意気揚々と作戦を実行した。

「どりゃぁぁぁ!」

俺と優は声を張り上げ、くぼみに魚を追い込む。

「やった!追い込んだぞ!」

「そりゃぁぁ!」

健二が網を高く振り上げ思いっきり振り下げた。

バッシャーン!バシャバシャ!魚が入った音がした。

「やったぞ!獲ったぞ!」

「いえ〜い!」

と大喜びをし、岸の方に戻った。

岸の方では女子達がレジャーシートをしき寝ている。その寝顔を見て不覚にも可愛いと思ってしまった。女子達の横で獲った魚をじっくり眺める。

「でっけぇ…」

改めて感心していると咲と雪が起きた。

「え!獲ったの!」

どうやらその魚の大きさに驚きを隠せないようだ。

「弱らないうちに逃がしてあげなよ」

そう雪に言われ

「そうだな」

と納得し写真を撮って逃がしてやった。そうこうしている内に辺りは暗くなっていたので

「じゃあね〜」

「うん!また!」

などと軽い別れの挨拶を交わし家に帰った。



ーやりたい事リスト二ー

「なぁ、今度キャンプしないか?」

いつも通り健二が提案してきた。

「秘密基地に集まってキャンプするんだ。」

「へぇ〜楽しそうだな」

「いいね、やろうやろう」

「虫とか大丈夫かな??」

雪が心配している。

「大丈夫だって!虫除けスプレー持ってくから!」

と優が言い

「じゃあ大丈夫かもね」

と納得した。「七月〇日の夜な!」と約束をした。

キャンプと言っても泊まるわけではない。補導時間ギリギリまで外で集まり遊ぶだけである。

キャンプ当日

チリンチリン〜 自転車のベルを鳴らしながら秘密基地に向かった。田んぼや山の緑も日に日に緑が深まり暑さもピークを迎えている。

「ついた〜 暑いな〜」

滝のようにしたたる汗を拭い、秘密基地に行くと

「やっほ〜」

また三人が先についていた。

「今日も女子会か笑」

「うん!そうだよ〜」

などと話をするとピコンっとスマホの通知がなった。

「ごめん、少し遅れる」

優と健二だ。話を聞くとスーパーで食材を買ってくるらしい。

「おっけ〜」

と返信をし前回と同様、女子会に参加した。

「ねぇ、新って好きな人いるの?」

咲にそう聞かれた。実は咲の事が前々から気になっている。しかし、本人に言う勇気はないので

「いないかな〜」

などと適当にあしらった。

「へ〜そうなんだ〜」

「彼女作る気ないの〜??」

「学校で誰が一番可愛い??」

と色々な質問がくる。頼む、男子よ、早く来てくれ。そんな事を思いつつゆっくり過ごしていた。

暫くして二人が来た。ビニール袋をいくつもぶら下げている。

「色々買ってきた!」

「俺も!あと家から持ってきた!」

そういい、中のものを乱雑に簡易の机の上に並べる。

「金網とかライター、ナイフもあるぜ?」

「マシュマロあるから焼こうか」

などと話しながら、キャンプファイアの準備をし、時折吹く風にうたれ涼しみながら、夜が来るのを待った。

辺りはすっかり暗くなりキャンプが始まった。火事にならぬよう注意しつつ、キャンプファイアに火を付けた。

「明るいね。」

「綺麗だぁ〜」

などと感動する。そしてそのキャンプファイアの火を使い、焼きマシュマロを食べたり、湯を沸かして珈琲を飲んだりして過ごした。とても楽しい時間もあっという間に過ぎ、帰る時間になった。片付けを済まして、

「楽しかったね!またね!」

「うん、またね!おやすみ!」

と挨拶を交わし帰ろうとすると咲がまだ帰りの支度をしていた。これはチャンスと思った俺は

「咲、遅いから送ってくよ」

と声をかけた。

「え、ありがとう!嬉しいな」

と満面の笑みで言われ、ニヤケを隠すのに、必死になりながらも一緒に帰ることにした。ポツっと何かが顔にあたった。雨だ。

「え、雨!早く帰らないと」

などと言ったもののザーザー振りになった為、近くの神社で雨宿りをする事にした。

「濡れちゃったね、寒いかも」

夏とはいえ夜は冷える、それも雨が降っているから予想以上の寒さだ。俺はバッグの中に入れてきた上着を取り出し、咲に羽織らせた。

「新、優しいね。」

「へっ?」

突然の言葉に不覚にも変な声が出てしまった。

「実はね、好きな人いるんだっ」

そう言われ驚いた。

「え、そうなんだ!誰々?」

「言わな〜い笑 秘密だよっ笑」

と言われてしまったのでそれ以上聞かない事にした。きっとクラスのイケメンだろう。勝手にそんな事を考えていたら雨が止んでいた。

「雨止んだね。帰ろっか。」

と手を伸ばした。咲の手は温かい。

神社に一礼をし帰る途中空を見上げると星空が見えた。とても綺麗だ。

「綺麗だね。」

「うん。綺麗。」

雨上がりの星空はいつもより綺麗で、水たまりに反射した星なら俺も手が届く気がした。そこからはほぼ話すことがなく無言で咲を送り届けた。咲の家につき

「ありがとう!」

と礼を受け取ると足早に家に帰った。空に浮かぶキラッとした一等星が「頑張れ」と背中を押してくれているような感じがした。そこで確信した。

「咲の事が好き」と。



ーやりたい事リスト三ー

セミの鳴き声が絶え間無く聞こえる。

8月に入り夏の終わりも薄々感じるようになってきた。あと少しで夏も終わりか。そんな事を考え、切なさを感じながら家で一人、貴重な夏休みをダラダラ過ごしていると枕元に置いてあったスマホがピコンっと鳴った。健二からだ。

「山奥の湖に行こうぜ!」

暇を持て余していたから丁度いい。速攻で行くことを決めた。どうやら他の四人も行くらしい。

「集合場所は山の麓の神社な!」

「了解!」

と返事をし、支度をして出かける事にした。

山の麓の神社には一番乗りでついた。この神社に来るのはキャンプの時の雨宿り以来だ。

暫く神社の境内の下で涼んでいると皆がきた。

「おー悪ぃ悪ぃ遅れた」

「やっほ〜」

「大丈夫だよ〜」

と会話を交わし山へ入っていった。

湖までは片道二時間の険しい道を通らないといけない。中学の頃に一度行ったことがあるが、とても綺麗な景色が広がっていた。皆で気を付けながらゆっくり上がって行く。途中疲れたので休憩することにした。

「疲れた〜」

「今どれくらいかな〜」

「あと20分ぐらいだよ〜」

「そんな進んだんだ!」

そんな話をし、暫く休むと、また進み始めた。

山頂につき湖が見えてくる。8月というのに山の上はとても涼しく過ごしやすい。そして湖につき絶景スポットまで歩いていく。

「わぁ」

今までの疲れを忘れさせるような景色だ。水面には真っ青な空が反射し白鳥が何羽か浮かんでいる。

「綺麗だね」

「うん、綺麗だ」

まるで異世界にでも来たかのような雰囲気だ。

「サンドイッチ作ってきたんだ」

「そうなんだよ〜!」

真船と雪と咲が口を揃えて言った。どうやら朝から集まり作ってきたようだ。

「え!本当!」

お腹が空いていたので嬉しかった俺は、そう叫んだ。湖でピクニックとは、なんとも言葉に出来ない程、良いものでとても楽しかった。

「新、美味しい?」

咲にそう聞かれたので

「凄い美味しい!料理上手なんだね」

とベタな褒め方をした。実際に物凄く美味しかったので嘘ではない。

「本当?良かった!」

と、とても可愛い笑顔で喜んでくれた。サンドイッチを食べ終え暫くして下山することにした。

下山中は皆で歌を歌ったり他愛のない話したりしながら帰った。下山途中に見えた日の入りの景色は今まで日の入りの中で最も良かったかもしれない。

寺の鐘がなり、少ししてから麓の神社に戻ってきた。今日はとても良い1日だった。そんな事を思っていると健二と優が

「なぁ、今度の夏祭りも皆で行こうな」

と言ってきたので

「うん!」

と皆答えた。

夏祭りの日は夕方に花火大会がある。花火大会は浜辺で見るそうだ。そして打ち上げ花火が終わったら手持ち花火をすると約束をして家に帰った。


その日の夜、咲からメールがきた。

「今日はありがとう、花火大会楽しみだね!」

俺はどう返信しようか困ったがシンプルに

「うん!」

と返信した。それで会話が終わると思ったがそうでは無かった。

「寝れないから電話しない?」

電話の誘いがきたので再び「うん」と返信し電話をすることにした。そこで咲からこんな話を聞いた

「花火大会の最後に大きな花火が上がるんだって。その花火をその時に一緒に見ていた人は結ばれるらしいよっ」

俺は正直戸惑った。咲は以前好きな人がいると言っていたが誰かは解らないのでもしかしたら他の人と見に行くのでは?などと思ってしまった。しかしそんな心配は無駄だった。

「私、嬉しいな、新と一緒に花火見れるんだもん」

「えっ?」

「私今日おかしいや笑 こんなこと言っちゃうんだもん 」

「もしかしてからかってる?笑」

「からかってなんかないよ笑 本当だもん… あっ、そろそろ寝るねっ。遅くまでありがとう〜」

「う、うん!ありがと。」

「おやすみ〜」

「おやすみ!」

突然の話にドキドキしながら、もう遅かったので寝ることにした。



ーやりたい事リスト四、五ー

夏休みは今日で終わるようだ。そして今日は花火大会がある。

「ふぁ〜」

眠い目をこすりながら起きる。まだ5時だと言うのにセミが鳴いている。珍しく夜明け前に起きた俺はベランダに出て空を見上げた。青紫の空を眺めるとまだ一つ二つ星が見える。地平線の近くが段々と明るくなってきた。そして太陽がキラッと町を照らす。

今日で夏が終わる。勝手にそんな事を決めつけ過ごしていた。すっかり明るくなった八時頃、スマホがピコッとなり見てみると

「今日は花火大会だな!」

というメッセージが入っていた

「だね」

「楽しみだ〜」

と皆ウキウキしているようだ。

「なぁ、新、優、俺ら男子で先に遊んでようぜ」

そう健二に言われたので先に遊ぶことにした。

「夏も終わりだな。」

「だな、来年はもうこうして会えなくなるのか」

「寂しいな」

といった夏を惜しむ声が上がる。また、

「今年の夏は楽しかったな」

「健二が獲った魚でかかったよな」

「うん、キャンプもしたしね笑」

などと夏を振り返ったりもした。そうこうしている内に集合時間になっていたので浜辺へ行くと女子三人がいた。

「やっほ〜!」

真船が大声で叫ぶ

「やっほ〜!」

健二も真船に負けず叫んだ。女子は皆着物を着ている。普段見なれない格好に少しドキドキしている。

「新、着物どう?」

咲に聞かれた

「す、凄い似合ってる」

突然の質問だった為に少し戸惑った。ぐるっと、周り揺れるサラッとした髪に可愛い笑顔、水色の水玉模様の着物に下駄を履いている。

「本当?ありがとう!」

と言い赤くなった顔を袖で隠す。

「なぁ〜まだ花火まで時間あるぜ〜」

「神社の方にでも行ってみるか〜」

と健二と優が提案してきたので行く事にした。神社に行く道には線路が通っておりそこから見える海が太陽の光で輝いていた。その横を六人で並んで歩きながら神社に向かった。神社に着くと出店が沢山出ていて皆、はしゃいでいた。

「焼きそばあるじゃん!腹減ったから食べよっかな」

「だね!」

「クジ当ててやる〜!」

「ちょっと〜子供みたいにはしゃがないでよ笑」

「わかったよ〜」

健二が真船に怒られてる。それを見て笑ったりした。

「もう少ししたら花火だね」

「だね〜」

「浜に戻ろっか」

「うん!」

また六人で来た道を戻る。線路の向こう側の海は行きの時とは違い真っ青で、静かな波の音が聞こえてくる。少し切なさを感じながらも浜につき出店で買った焼きそばを食べながら花火を待っていた。


ヒュ〜 一筋の光が、空高く上がった。その瞬間綺麗な光の花がドォォォン!という音と共に空に咲いた。

とても美しく大きい花火に感動した。

ドンドンドン!ドォォォン〜!と大きな音と共に咲く無数の花火が青黒い空を明るく照らす。

「すげぇや〜!」

「綺麗だね」

「ヒュー!」

「たまや〜!」

と皆で叫んだ。

「もう少しで花火大会も終わりか。」

「うん、これが終わったら俺らの夏も終わりか。」

「またいつかここで花火見ようね!」

「うん!約束!」

と固い約束をし残りの花火を見る。いよいよクライマックスだ。

「ねぇ、新」

隣で咲の声がした。

「どうした?」

と振り向くと咲と目が合い、ニコッとこちらに微笑んでいる。俺もニコッと微笑むと

「最後の花火 見れるねっ。」

と小さな声で言った。

「うん。」

そう返事をし青黒い澄み渡るような空を見上げ、咲の手に俺の手を伸ばす。そして手を繋いだ瞬間どの花火よりも高い光が上がった。そしてほんの一瞬の静寂に包まれた後、空いっぱいに大きい花火が咲いた。ドォォォン!という、とてつもなく大きな音と響きが胸をうつ。その大きな花火は夜空を明るく照らし、ゆっくりと暗い空に消えていった。花火大会が終わった。その後、咲の方を見ると泣いている。

「新と見れて良かった」

という声が聞こえて俺も泣きそうになった。

「付き合おっか」

俺は雰囲気と勢いに任せそう言ってしまった。

「うん、付き合お」

と言う答えが聞こえ、繋いだ手を更に強く握った。その後、静かになった浜辺で

「凄かったね〜」

「うん!良かった」

などと皆で話していると健二が

「最後のイベント忘れてるぜ」

そうボソッと呟いた。

一同一斉に目を合わせキョトンとする。その瞬間シュゥゥゥ!という音と共に健二の持っている手持ち花火が燃えた。

「あ!そうだ!忘れてた笑」

「そうじゃん!忘れてたよ〜笑」

そして皆で静かな浜で手持ち花火をした。

「アッチッチッ」

「気をつけてよ〜笑」

「綺麗だね」

「うん、楽しいな〜」

「花火最高〜!!」

などと話す。

「あと線香花火が丁度六本残ってるよ」

「本当だ!じゃぁ皆で一斉にやろ!」

「いいねっ!」

そう決め、皆一本ずつ手に持ち、一斉に火を付けた。徐々に燃えて玉になり赤く光る線香花火を見る、皆の顔を忘れることはないだろう。バチバチっと小さな音をたて弾き飛ぶ松葉の如き火は美しかった。そして六本同時にジュっと言う音がし、火が消えた。そして俺らの夏は終わったのだ。



ー今。ー

あれから何年もたったが未だに夏が来るとあの時を思い出す。


今では全く会わなくなってしまった幼なじみ達だが、いつかまた一緒に集まって話が出来たらななんて思っている。


今日も空に一筋の飛行機雲が通っていた。


そして今年も夏が来た。



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