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トンネル

作者: アルス

20××年1月深夜、某トンネルにて。

深夜、俺はある未開通のトンネル内で作業をしていた。


トンネル内に張り巡らされた照明が故障したので、その復旧という俺からしたら美味しい仕事だった。


その代わりじゃないが、人員は俺一人だけだった。


「どういう人件費の仕組みか知らないが、単独の作業は危険じゃないか?」


誰もいない暗闇に独り言が反響する。

その暗闇をヘッドライトで照らしながら進む。


愚痴っぽくなってしまったが、実際は一人の方が心地いい。


そんなことを考えながら、修理箇所へ向けて進む。


トンネル内にはどこからかこぼれ落ちる水滴の音だけが、重く響いている。


対象の修理箇所まで僅かのところだった。



ひた



俺以外、無人のトンネル。


そこで、裸足で歩くような足音を聞いた。


慌ててライトで背後を照らすが、もちろん誰もいない。


気のせいかと思い、進もうとした時、ふと側面の壁を見た。


違和感。


壁の側面に手の跡があった。

それだけなら、誰かが汚れた手で壁を触っただけだろう。


問題はーー


「あし、あと?」


手の跡と同様に、足跡が壁には刻まれていた。


その足跡は、2メートル、3メートル上へと続いている。


ぎょっとしながらも、更に周りの壁を見回した。


すると


辺り一面に天井へと登っていく手足の痕跡が見えた。


見えてしまった。


ひゅーひゅー


やけに近くで風の音が聞こえてくると思ったが、それは自分の喉から掠れでる息の音だと気付いた。


ふざけた現実から逃れるようにトンネルの奥へと視線を移す。


季節にそぐわない湿った風が、頬に伝っていく汗を揺らした。


ライトによって映し出されたトンネルの奥深くから、夥しい手足の跡が黒く天井に刻み込まれていた。


気が狂いそうだった。


くるえばよかった


追い討ちをかけるように、ある法則性をその黒い痕跡たちから見つけてしまう。


全てこちらへと、自分の方へと進んできているということに。


逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃


脳が叫ぶ中、足は微動だにせずに立ち尽くす。

動くのは、両の眼だけ。


脳の指示とは裏腹に、瞳はその痕跡の行方を追い続ける。


そしてーー


そして、終着点だという風に自分の真上を見上げた。


「あ」



****


昨日未明、××トンネルにて作業中のーー

――行方不明に


居住者の失せた部屋でテレビが今日も変わらずよくあるニュースを垂れ流していた。


続いて、東京上空にて発光する巨大な輪が現れーー


****



ひた


ひたひた


あのトンネルでは、今日もまた一つ、足跡が増えている。


END


この物語『は』フィクションです。

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