一週目ノニ
どなたか存じませんが、ポイント有難うございます。めちゃんこ嬉しいので調子に乗って投稿!
*木曜日
「さて、今日はライ君にお料理の仕方を教えます。」
う〜んと………。幻聴かな!?うん、これは空耳だ。きっと疲れているんだな。HAHAAHA!
「すみません……。少し幻聴が聞こえるので休んでいていいですか。いいですね。休んできます。」
これは逃げている訳では無い。決してない。そ、そう。これは戦略的撤退なのだ。勇気ある、戦略的撤退なのだ。
俺は急いで調理場から離れようとする。が、そこにクリスティが立ちはだかる。
「クリスティ、道を空けてくれないかな………?」
「え〜でも、店長がさっき言ったことは幻聴じゃないから早退する必要無いですよ?〜〜」
ク、クッソォォオ!仕方が無い。切り札を使おう。
「後でパフェを奢るから……」
本当に遺憾だ。だが、この場から立ち去るためならば仕方が無い。クリスティは一瞬迷った素振りをして、一つ頷いた。よし、それでいい。それでいいんだ。
「パフェも食べたいですけど、ライ君が料理しているのを見る方が面白そうなので私はここをどきません。」
OHー!NOー!
いつもは呼び捨ての癖に、今回に限って君付けで呼びやがって………
「それじゃ、まずはオムライスから作るわよ。」
店長が準備を始めていく。
俺はその場で膝を付く。そして両手を上に挙げた。降参である。
「これは…………。酷いね…………。」
休憩中に俺の様子を見に来たクリスティの発言である。
「だから言ったんだ。料理は不得意だと………。」
俺の目の前の調理台には黒焦げの汚物オムライスがある。頑張って手順通りになるようにしたんだ。普段以上に集中して取り組んだし、店長に教えてもらった注意点も全て順守したんだ。だが、その結果できあがった物がこれである。
「私も色々な人に料理を教えてきたけど……これはちょっと、ねぇ………」
店長が言い辛そうに顔を顰める。いいんです。店長。もう、言っちゃって下さい。『ライには料理の才能が全く無い』と。そうじゃなきゃ……惨めではありませんか……。俺が………
「いっ、一体何があればこんな………汚穢と魔物の臓器とゴブリンの衣服を混ぜたような造形物を作れるんですか……」
いつもなら此処で茶々を入れるクリスティも、流石に俺をからかう気は無いようだ。事実しか言わない。その事実が俺の精神を崩壊へと導いていくのだが………
「ライ君は……料理をしないで、接客を頑張ってね!」
店長が努めて明るく振る舞う。店長の笑顔は優しく、温かいのだが……
今はその笑顔が何よりも残酷に感じられた。
*金曜日
今日も今日とて、俺はファミレスで労働の喜びを味わっていた。食材を調理場に運んで店内を見渡し、空いている食器をお下げしてレジをやり、接客をする。
え?掃除や調理はって!?
知りません、そんな仕事。
カラン、カランー
自動ドアに括り付けられた名も知らぬ固形物が鳴り響く。あれ何ていう名前なんだろう?
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか。」
俺は食器をお下げしているところだったため、クリスティが接客に向かう。
「お、カワイイ嬢ちゃんだなwww」
「オジサンたち、嬢ちゃんをお持ち返りしちゃおうかな〜」
「ガハハハ!昼間から何言ってるんだよwww」
「車はそこにあるぜ!」
入店してきたのは、十人ぐらいのYAKUZAさん達だった。穏やかでは無いことを言っているが、今日は四月一日。エイプリルフールである。嘘の一つや二つ、問題無いだろう。
「え〜と、十三名様ですね。お席は二つに別れてお座りになられる事になりますが、宜しいですか?」
クリスティは瞬時に人数を把握して、席に案内しようとする。
が、一人の男が後ろに回り込んでクリスティの肩を掴む。
「ねぇ、ねぇ。一緒に食事でもどう?奢るよ。」
「え〜と、今は勤務中ですので、そういうのはちょっと………」
「大丈夫だよ。初めてでもちゃんと優しく手とり足とり教えてあげるからさwww」
HAHAAHA………面白いアメリカンジョークだな。クリスティもさっさと股間でも蹴ればいいのに……。律儀に接客なんかして、以外と乗り気なのかな〜
「さあ、さあ、そうと決まれば早く行こうぜ。」
「善は急げってかwww」
「キャッ、ちょと触んないでよ!」
「おいおい、はしゃぎすぎんなよ!?」
「今夜はお楽しみだな!」
ヤクザ達に背中を押されてクリスティが店を出ていく。キャッ、とか言っているから乗り気なんだろうな〜行ってらっしゃあーい。
俺が出て行くクリスティを温かい目で見送ろうとしたとき……
見えてしまった。平気な素振りをしながらも、瞳に涙をためている彼女の顔を……。その目は、真っ直ぐにこちらを見ていた。口元が僅かに動く。何を言っているのかは聞こえない。それでも、伝わった。
タ………ス……ケ………テ……………。
確かに、クリスティはそう言っている。いつもは平気で俺に嘘をついたりして楽しんでいる彼女だが……
「流石にこれは冗談では無いだろうな。」
俺は深く溜息をつく。俺のクリスティの印象は『賢く打算的な人物』だ。だから、どんなことが起こっても大抵のことは自分でどうにかできると思っていた。戦争とか、自然災害とか、……そういうのはどうすることもできないが、詐欺やスリ、ナンパぐらいなら逆にとっちめられるぐらい、クリスティは賢いと思う。
だから、今も合意の上で連れて行かれているのだと思った。でも、そんな訳無いよな。
彼女は、クリスティは、『賢く打算的な人物』である前に『少女』なのだ。
一人の、幼気いたいけな少女なのだ。
大勢のYAKUZAに囲まれて、平気な訳が無い。怯え、奮え、何もできずに、誰かに助けを求めてしまう。例え、助けを求める相手がレベル一桁の雑魚でも……
でも、クリスティには安心して欲しい。何故なら、此処に居るのは人の限界を超えた【世界最強】なのだから。
俺は身体の中の魔力をコントロールする。通勤時のように、適当にやると間違えて国を滅ぼす極大魔法を使いそうだ。怒りを静めなければ……
使う魔法は……そうだな……火攻め、氷漬け、台風、地震、津波、浄化、呪詛………
俺は何でも使える。俺は魔法において『苦手』が無いからな。でも、今回は魔力塊をぶつけるだけにしておこう。具象化する魔法は威力が高いからな。クリスティが巻き込まれたら本末転倒だからな。
一応勧告はしておくか。
「おい、そこのチンピラ!地獄に墜ちる準備はできたか?」
一人だけこちらを向いた奴がいたが、無視することにしたようだ。【世界最強】を前によくそんな真似を……
まあ、良い。俺は寛大だからな。魔力塊の威力を少し上げるだけで許しといてやる。
魔力を右手に集める。固めて、固めて、更に固めて………
魔力塊が可視化できるようになったところで、ようやく周りにいる人は俺の異常性に気付いたようだ。目を丸くしている。だが、YAKUZA共はまだ気が付かないようだ。
仕方が無い。これじゃ、足りないよな。おかわりだよな。分かっている。
俺は更に魔力を集結させる。固めて固めて固めて………ついには魔力塊が結晶化されていく。
「な、なんだ!?」
「ま、眩しい!」
「誰だ、あの坊主は!」
ようやく気付いたな。もう、魔力塊が太陽と同じぐらいに輝いているじゃあないか。まあ、こちらは気付くまで待ってあげたんだ。【世界最強】の魔力だ。お残しなんてしないよな?
「とくとお食べ!」
俺は右手にある魔力塊を全力でYAKUZA共に放った。
*土曜日
「それで周辺の建物を殆ど破壊して、責任をとるのが嫌だったから、逃げ帰ってきたの?」
「レミー、そんな目で見ないでくれ!魔力塊を使うのは久しぶりだったから威力調整が上手くできなかったんだ。」
「ふ〜ん。で、ヤクザさん達はどうなったの?」
「ふっ。それは安心してくれ。全員病院送りだ。」
俺は今、家で幼馴染のレミーと昨日の事を話していた。一週間に一回、土曜日にレミーは来るのだ。いや〜それでも、クリスティがお持ち帰りされる前に彼奴らをブッ飛ばしてよかった〜
「良い事をしたのは分かったけど、それで職を無くしたんじゃ、意味がないね。」
「ごもっともです。」
そう、俺は良い事をした。それでも、周辺の建物を破壊した。それは悪い事だ。悪い事をしたらどうしなければならないか……責任を取らなければならない。俺は臆病だから店長の元へ戻らなかったが、戻ったとしても責任として解雇されて終わりだ。最悪の場合、警察のお世話になって投獄されるかもしれない。そんなの俺は嫌だ。
「はあ………。何か別の仕事探さなければ……」
「大変だね………。」
ライの天職探しはまだまだ続く。
*おまけ*
ステータスを載せて置きますね。
名前 ライ・⚫⚫⚫⚫
称号 ⚫⚫⚫⚫
役職 ファミレス店員
魔力 ⚫⚫⚫⚫⚫⚫
レベル ⚫
経験値 ⚫⚫⚫⚫
身体能力 スピード ⚫⚫
パワー ⚫⚫
バランス ⚫⚫
所持スキル名
ホルダA ⚫⚫⚫⚫⚫
ホルダB 条件を満たしていないため、表示することができません。
ホルダC 条件を満たしていないため、表示することができません。
これが、店長とクリスティが見たライのステータスです。普通の成人男性で数値化されているところは大体三桁、冒険者などで二千から三千、勇者や剣聖、賢者、魔王あたりが五千ぐらいにしようかと現在考案中………