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一週目ノ一




*日曜日




「今日からここで働くことになった、ライ君です。」



「はじめまして。今日から働かせてもらうことになりました。ライです。よろしくお願いします。」



 俺は今、ファミレスに来ていた。ヤケ食いをしに来た訳では無い。ん?誰だ、『お前は引き篭もりだからファミレスに一度もきたことが無いのだろう』とか思った奴……失礼だな!


 まぁ〜あ、一回ぐらいは来たことあるよ、一回ぐらいはね………



 このファミレスは朝の八時から開業しているため、俺はわざわざ朝の六時という早すぎる時間に起きて出勤していた。全てはニート回避のためである。


 昨日、連絡したばかりなのにも関わらず、今日から働けるのは偏に俺がステータスの『役職』という項目を経験値を使って変えたからだ。何故、ファミレス店員なのかというと、一番現実的で必要経験値が少ない『役職』だからだ。


『役職』


 それは、その職業に対する適正を表したものだ。ステータスウィンドウと呼ばれるものに、自分が就ける役職候補が全て並ぶ。つまり、そこに表示される職業に関しては大なり小なりの才能があるということだ。『役職』はステータスウィンドウの中からしか選べない。


 要は、経験値で購入された『役職』は信頼することができるということだ。

 

 それにしても、たかがファミレス店員ごときになるために経験値を1000も消費するとは……



「これはあっちに、あれはこっちに運んで……………」



 俺に丁寧に仕事を教えるのはこの店の店長ーベナンティさんだ。優しくもあり、厳しくあるという矛盾を抱えたクールビューティーお姉さんである。


 毎朝恒例という朝会に参加した後、俺は実際の技術指導を受けていた。と言っても、まだまだ下っ端のため、やることは単純だ。



「ちょっと、ボーっとしないで。ライ君、話聞いてた?」



「はい、聞いてますよ。食材を調理場に運んだら、店内を見渡して空いている食器をお下げするんですよね。」



「そうよ。分かっているならいいのよ。」



 あっぶぅねえー!楽勝だと思って侮ってたらド忘れしちゃった〜


 店長の後ろにいる同僚のクリスティさんがジェスチャーで教えてくれなければ初日早々に首になるところだった。今一度、自分を戒めなければ……


 それにしてもクリスティさん、思ったよりも優しいな。見た目は賢そうで打算的な少女なのに。見た目は宛にならないものだな。



「後でパフェ奢ってね?」



 すれ違う瞬間にクリスティさんがコッソリと耳元で囁く。うん、結構見た目は宛になるわ。





*月曜日



 俺は今、人生最大?のピンチに出会っていた。どんなピンチかって?


 それはお気付きの方も多いのではないだろうか………


 そう、接客である。接客なのである。大事なことなので、もう一度言おう。接客なのだ。接客なんです!接客なんですよ!ん?なんかキャラ変わった?ま、いいか!



 分からない人に説明してあげよう。この世界では十歳から役職を選択して働くのが普通だが、俺は十歳から一昨日までニー………ではなく、幼馴染であるレミーの金で生活………していた訳でもなく、自宅警備員という大職に就いていた。


 べ、別にニートで同世代の幼馴染の脛をかじって生きてきた訳では無いんだからね………。違うって言ったら違うんだからね!


 つまり、俺はレミー以外の人と碌にコミュニケーションをとっていなかったのである。そんな奴が社会にほっぽり出されたらどうなるか………


 そう、今の俺のように顎がカタカタと音を鳴らし、脚は産まれたての子鹿のように奮え、手で注文を書き留めるためのペンを握ることすらできない………


 俺は昨日までは雑用係として活躍していた。だが、店長から今日は接客をしてみるように、と言われたから気合を入れてチャレンジしたにも関わらず、ここまで惨敗するとは…… 


 店長が裏方から現れる。そして、顔面蒼白の俺を見て何かを悟ったのか、急いで駆けてくる。こ、これでなんとかなる……


 流石、仕事ができるクールビューティーお姉さんだぜ。速く緊張で固まって動けない俺を助けておくれ!

 

 クリスティさんはというと、別のテーブルでオーダーをとっている。はあー。絶対見ているなー。弱みを握られたな。早めにどうにかしなくちゃ、またパフェを奢られる。昨日は交渉してみたけど、結局パフェを奢るはめになったし……


 あ、あれ?そういえば何で店長とクリスティさんとは普通に話せているんだ?一切緊張することなんて無かったような………


 何か話すときに気を付けていることあったけ………う〜ん。


 初めて店長に会ったときのことをもう一度思い出してみよう。


 初対面の第一印象は奇麗、だ。ここで美しい、とならないのは、レミーの影響だろう。引き籠もっている間は気付かなかったが、レミーはかなりの美人だ。まあ、店長はレミーと並ぶとまではいかないがそこそこ……


 そして、最初から緊張すること無く話せていたな。ステータスの中の名前と役職だけ教えて、ファミレスで働く上での注意を聞いて……前日に届いたゲームのことを思い出して…………あ!そうか。ギャルゲーの登場人物と話す感覚で話していたんだっけ!それを接客でもやれば……


 理解して解けない問題など無い。俺はゲーム感覚で接客をすることで、店長の手を煩わせること無くミッションをコンプリートするのだった。




追記:なんとか交渉に持ち込んだものの、結局クリスティさんにパフェを奢ることになりました。





*火曜日




「ふぅー。疲れた〜帰るかー」



 今日も前日に引き続き、食材を調理場に運んだり店内を見渡して空いている食器をお下げしたり、接客したりするのに加えられて新しい仕事を覚えた。もう、ここまできたらファミレスにある仕事は一つしか残っていない。そう、レジである。


 え?掃除や調理はって?ふっ。愚問だな。俺をなんだと思っている。天下のライ様だぞ。そんなことできる訳が無いだろ。チャレンジする時間だけ無駄だ。ていうか、こうやって見てみると意外とステータスウィンドウも適当だな。


 店を、職員用の裏口からでる。俺が働いているところは、勤務時間がファミレス店員みんな平等のホワイト企業なので、俺に続いて店長やクリスティさんも出て来る。



「それでは、また明日よろしくお願いします。」



 俺は自覚は無いが結構なトラブルメーカーらしい。ミレーから聞いたことがある。だから、もう既に何かやらかしてしまっているかもしれない、という不安を帳消しにするために、サヨナラの挨拶をする。クリスティさんには敬語を使わないけれども、店長がいるので一応敬語で……



「うん、じゃまた明日も頑張ってね。」



「じゃあね、パフェ専用ATMさん。」



「おい、クリスティ。今聞こえてはいけない単語が聞こえてきたような……」



「そういえばライって何処に住んでいるの?」



 おう……。見事に避けられた。ついでに言うと俺は今日もクリスティにパフェを奢っている。おっと、何故そのようになったかの経緯は聞かないでくれ。自分の醜態を話すと精神力が削られるんだ。今の俺の心はクリスティにボロボロになるまで砕かれている。



「言われてみると、私達ライ君のことについて名前と役職しか知らないわね。この後、時間ある?三人で喫茶店にでも行かない?」



 辺りを見回すと、俺たち三人以外は誰もいない。ファミレスで働いている他の同僚の方々は既に帰宅したようだ。



「う〜ん、そうですね。喫茶店に行きますか。」



 別に家で待っている人がいる訳では無い。少しぐらい帰るのが遅くなったところで問題は無いだろう。レミーは毎週土曜日にしか来ないし。



 そんな訳で、俺は店長とクリスティと共に近場の喫茶店へと向かうのだった。





*水曜日




 朝、俺は準備運動をしていた。


チュン、チュン、チュン………


 うん、うん。いいね〜小鳥さんは。朝から『かわいい』を届けてくれて。


カァー、カァー、カァー………


 うん、うん。超最悪だね〜カラスは。朝から『喧しい』を届けやがって。


 ガチで鳥類全滅させようかな。



 くだらないことを考えながらも、俺は念入りに準備運動をやっていく。



「昨日の二人の驚いた顔、面白かったな〜」



 ふと、昨日のことを思い出して思わず口元が緩んでしまう。


 昨日、俺は彼女らにステータスを一部だけ見せてあげた。


 ステータス……


 それは、人を始めとして、エルフ、ドアーフ、獣人、竜族、魔族、そして家畜や魔物までもが持つ個人の実力を数や文字で表したものだ。


 一般に、『ステータス』と唱えると空中に詠唱者の実力が表示される。名前から始まり、役職、称号、レベル、スキルとその中身は様々だ。


 普通の成人男性のステータスだと、数値化されているものは基本的に数字三桁、スキルは人にもよるが二つぐらい。称号は持っていない、という場合が多い。


 但し、人類最高峰の勇者レベルになってくると話は変わる。レベルは五千程になるし、総スキル数は百を越えるという。


 基本的に、ステータスをより良いものとするためには経験値が必要不可欠だ。何かを成し遂げたり、努力したりすることによって経験値は増えていく。そうして貯めた経験値はレベルを上げたり、スキルを会得することができたり、スキルを育てたり、役職を選択したりと、幅広く活用することができる。


 まあ、そんなステータスを俺は店長とクリスティに見せた。といっても、大事な部分は伏字にして、見えないようにしたが………結果的に殆どが伏字になってしまった。


 そんな中でも彼女らは俺の異常性に気付いてくれたようだった。俺の場合、伏字になっていても分かる異常性は三つある。




 一つ、レベルが一桁代である。(身体能力はレベルによって左右されるので割愛)


 二つ、魔力が六桁もある。


 三つ、称号を持っている。



 どれも勇者などという稀職に就いている者のステータスだったら信じた者は多かっただろう。だが、一市民がこんな異常性、しかも三つも抱えているなんて本来ならありえない。


 だから、二人の驚きようは最高だった。顎が外れそうになるまで驚愕してくれて俺は満足、満足。住所は詳しく教えなかったから、帰宅したら家が破壊されていた、みたいなイタズラはないだろうし。



「さて、準備運動も終わったし、通勤しますか。」



 俺の働いているファミレスは王都にある。だが、俺の家は王都の郊外の小さな村にある。ということで、俺は毎朝風魔法を使って通勤していた。常人なら馬車を使って一週間程の距離だが、俺の風魔法なら三分で着く。魔力を結構使うけど、俺は総魔力量がかなり多いから問題はない。


 身体の中の魔力に意識を集中させ、自分の身体が風によって飛ぶイメージを思い浮かべる。そうしたら、あ〜ら不思議。俺は周りの景色が視認できない程に速く飛んでいる。


 よし、今日も仕事がんばるぞ!






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