高橋 翔
休日
あいつらといつもの場所でだべる。
「いやーほんと、翔にまた会えるとは
思ってなかったからスゲー嬉しい!」
「それにしても翔、お前…
大変だったんだな…。」
「なぁ~、テレビで知ると思ってなかった
からマジびびったわ~
相談じゃなくても話ぐらいは俺らだって
聞いてやれるのに…。」
「……えっと、お前らどこまで知ってんの?」
「それは……えっと~なんだっだけ?」
「バカお前、あれだよあれ!」
「えー!お前ら全然覚えてないじゃん!
俺が代わりに言ってやるよ!
翔が家族のために頑張ってた訳までしか
知らない。」
「そうか…その…お前らに心配って言うか…
余計な思い差せたくなくて言えなかった。
ごめん。」
「…何それ俺ら友情ってごっこかなにか
だったの?俺は違うよ。
翔の事親友だって思ってるよ!」
「俺だって、最初は金銭感覚狂ってる金持ち
なんだと思ってたけど仲良くなるにつれ
お前はかけがえのない存在になったんだよ!」
「全く…翔は俺らの事なんだと思ってんの…。
伊達に三年一緒に居たのに…
余計な思いって何?
そんなの知らないやつから聞く方が
嫌だったよ…。」
「………そんな風に俺思われてたのか…
ありがとう!俺バカだった、
あの時言えなくて本当にごめん!」
俺はこんな仲間思いな奴らと一緒に居たのか…
それなのに一人で色んな理由並べて
言わなかったなんて…本当に俺バカだわ…。
「うん、分かればいいよ。
じゃあ翔教えてよ。」
「あぁ。」
俺が役者になった理由は親父と行った演劇
を見て、興味を持った事がきっかけだった。
自分であって自分じゃない…そんな存在が
俺には輝いて見えた。
俺もあんな風に演技してみたい…!
そのために出来る事は無いか調べた。
柔軟運動、発生練習、早口言葉…
大きく分けて3つを重点的にやった。
だけど一つ問題があった。
それは家柄。
裕福でもなければドが付くほどの
貧乏でもない普通の家庭…。
通らなくもないがバレたくない人が居る。
それは親父の方の叔父さん。
金遣いが荒く祖父にひどい仕打ちをする外道。
この事がバレでもしたら親父がいいおもちゃ
になってしまう…。
それは絶対に避けたい。
だから俺は2.5次元俳優へと進路を変えた。
それからは今までの練習に歌の練習を加えた。
そのかいあって少しではあるが役を貰える
ようになった。
そんな時、おふくろから連絡があった。
お祖父ちゃん入院することになっちゃったよ。
血の気が引いた。なんで?
あんなに元気だったじゃん…!
なにどうして…。
監督に無理言って早退してすぐさま病院に
向かった。
そこには元気そうな祖父と叔父夫妻が
話していた。
「お久しぶりです。」
それに対して顎であしらう叔父。
そんなのもう慣れたから気に止めない。
「あら、翔くん?見ないうちに
かっこよくなったわね。」
「あはは、そんなことないですよ。」
お世辞だと分かっているから
適当にあしらった。
「翔!お前どうしてここに?学校は?」
やっと祖父が話しかけてきた。
「お祖父ちゃんが倒れたって聞いたから
急いで来た
それとなに言ってんだよ今日土曜だよ?」
「おぉ、そうか今日は土曜だったか
すまんのぉ。」
「お祖父ちゃん、いつまでも元気で居てね
じゃないと俺寂しいからさ。
じゃあ俺帰るね、あんま長居すると
おふくろが心配するからさ。」
一礼してその場去った。
数日後
自主練習をしている時おふくろから電話が
かかってきた。
なんだか嫌な予感がする…。
俺は急いで病院に向かった。
お祖父ちゃん…!死なないで…っ!
「お祖父ちゃん!」
そこには目を閉じて横たわっているお祖父ちゃん
それを囲むように叔父夫妻とその子供と両親が居た。
「お祖父ちゃん、お祖父ちゃん…聞こえてる?」
俺はあまりの変わりように驚きが隠せず
立ち尽くしていると叔父夫妻の子供が
お祖父ちゃんに声をかけていた。
「ご臨終です。」
その言葉を聞いてすぐさまに電話し始めた叔父夫妻。
その手際の良さはまるで亡くなるのを待っていたかの
ようで心底ムカついた。
なんで…そんな平気な顔してられんだよ…っ!
人が…っ亡くなった……って言うのに…っ!
涙も流さないのかよっ…!
その日の内にお通夜と告別式の日取りが決まった。
おふくろから聞いた話によるとお祖父ちゃんが
入院して一週間ほど会社を休んで病院に
入り浸りだったらしい。
普通の会社員が一週間も休むなんて…クビになっても
おかしくない筈だし、それを親父に強要するのも
可笑しな話で叔父さんは相当イカれてる。
お通夜、告別式
叔父夫妻は泣いていなかった。
斎場やお坊さんの費用は予想以上に
お金がかかっていた。
遺産相続だって…叔父さんは親父にお前は
金でいいんだろ?と聞いておきながら
一千も無かった…。
終いには親族皆叔父さんの見方をした…。
………ふざんなよっ!なんであんな奴の言い分を
信じてんだよっ!可笑しいだろ!
……お祖母ちゃんなんて一番近くで親父が…っ…
お祖父ちゃんの為に頑張ってるの
知ってるのに…!なんで……っ……なんだよ…!
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんで魚屋を営んでいた。
親父は小さい頃からお店を手伝っていた。
叔父さんは家で本を読んで、
店の手伝いなどしなかった。
お店はいつも賑やかで楽しそうな声が
飛び交っていた。
だけど…お祖父ちゃんは段々弱ってきて施設へ。
お祖母さんは腰を痛めていて一人では
お店を切り盛り出来ない。
そこで叔父さんがお店を継いだのですが…
アジとサバだけのお店になってしまったそうで
それじゃあ客足だって減るに決まっている。
案の定、お客さんは減った。
閉店を余儀なぐされた。
それもそのはずなにもやってこなかった奴が
魚屋を切り盛りなんて出来る筈がなかったのだ。
なのに、お祖父ちゃんは叔父さんに
新しい砥石を渡した。
その訳は叔父さんがねだったから…。
包丁全然使わない人が砥石ねだるって…なに?
形から入るタイプ?宝の持ち腐れ?
終いにはお店を潰した本人が店を片付けるの俺が
やったんだぞ!(業者の方も一緒に)
お前はなにもやってない!
はぁ?なに言ってんの。
お前の何ヵ月と親父の何十年をなに一緒に
してるんだよ。全然違うから。
なにがなにもやってないだよ!
お前のほうがなにもしてなかった癖に
よく言えるな!
それにそんなこと知らされてないんだが?
教えない癖に来いって理不尽過ぎないか?
ちょくちょくお前の様子でも見に来いってか?
こっちだってそんなに暇じゃねぇわ。
そのくせ、来たら来たで嫌み言うくせに。
だから俺は俺なりにやりたいことを突き詰めて
いつか必ずこの事実をばら蒔いてやる!
お祖父ちゃんの財産と土地百坪独り占め
今度はお祖母ちゃんにまで虐待紛いな事して…!
どれだけやれば気が済むんだよっ…!
お祖母ちゃんが今だって家賃払って住まわせて
もらってるくせに…。
お祖父ちゃんの財産が入って仕事辞めたくせに。
暫くして悲劇は起きた。
その日は久しぶりにお祖母ちゃんに会いに
いった日のこと。
世間話程度の話しをして帰ろうとした…。だが
そこに叔父さんが現れた…。
タイミング悪過ぎ…。
いつもなら嫌そうな態度をするはずが
その日は笑顔だった。
なんならまだ居ろよと言わんばかりにお茶を
出してきた。
え?なんでこんな笑顔なの?こわ…。
出されたお茶は少しだけ鼻につく臭いがした。
なんだこの臭い…?嫌な予感がする。
特に嫌な臭いがしたお茶は
親父の前に置かれた。
「親父、そのお茶俺が飲むから
こっち飲みなよ。」
「ん?どれも一緒だと思うが…?」
「いいから、いいから。」
疑問符を浮かべた親父が俺の方にお茶を渡す。
その時ちらっと叔父さんの顔を見たら
すごい顔で睨んできた。
やっぱり…何か小細工したんだな…。
親父、おふくろ、瑠璃ごめん…。
あとは頼んだよ。
覚悟を決めお茶を飲んだ。
遠退く意識の中、親父とおふくろの声が
聞こえる。
微かに見えたのは笑顔の叔父さんの顔。
「翔、そいつ殴りに行っていい?」
「それいいじゃん!俺さんせーい。」
「そいつどこいんの?」
「ちょっ!お前ら待って!
気持ちは分かるが教えないし
行こうとするなって!」
「だって!そいつムカつくんだもん!
なんで…そいつじゃなくて翔が…っ!」
そんなの…俺が一番思ってる…。
でも。
「泣くなよ。姿は変わっても俺は俺だから
心配すんなって、な!」
「…っ!翔~!お前ってやつは~!」
「かっこつけやがって~…っこいつめ~w…!」
「抱きつくなよ!ほら泣き止めって。」
「うぅ、優男…。」
「はぁ。
あのさ、お前らに協力してほしい事が
あるんだけどいい?」
「………なに?ヤバいw鼻水止まんないw」
「汚い…。」
「協力ってなにすればいいの…っ…?」
「それは_____」