聖夜には精霊の御加護を
クリスマスに間に合わなかったけど「こういうのあったんだな〜!」大海のごとくおおらかで優しい目でと見逃してください。クリスマスは一日だけだけどまだ季節的にはセーフ(自己暗示)
(吹雪)「乾杯!」
カシャン、とそれぞれが手に持った氷のグラスがぶつかり合って、柔らかに鼓膜を刺激するまさに玲瓏と言える音が部屋に響く。
注がれたマスカットのシャンメリーの泡がぱちぱちと中で弾けて楽しそうに揺らぐ。全員それを一口、あるいは全て口に含み、ニッコリと笑った。
(藍希)「クリスマスって聞くとやっぱりこう言うのだよね。まぁここまで賑やかなクリスマス、僕は初めてだけど」
(雪符)「シャンメリーって思ったより美味いんだな〜。初めて飲んだぜ」
(吹雪丸)「最初は断固として酒を推していた雪符ちゃんが満足してるのを見ると勝った気がするね!」
(麗子)「まぁ、今日はイルミネーションをエイル(猫)を見に行くから深夜に帰ると言って家を出た占吹様と、大事な用事があるからと家を出たプリマコスモス様。あと、王宮のパーティに出席すると言って帰ってこなかった黒薔薇様・白薔薇様。それに友達と過ごすんだと言って集まらなかった雪流魅様。ここら辺の方々がいないのは残念ですけどね」
今あげた五人がいない、吹雪・麗子・雪符・吹雪丸・藍希・ヒョウ・クロンの7人だけのクリスマスパーティは、和やかに進んでいた。
(ヒョウ)「まぁ何人かはいないですけど、料理作れる陣の御三方が残ってくれてたので僕は満足です」
(吹雪丸)「wkr! ローストビーフがおいし〜!!」
(雪符)「喜んでくれたなら何よりだな。いい火加減だろ?」
(吹雪)「うん、美味しい!」
(クロン)『ちょっと、取り寄せたのはアタシなんだからちょっとくらい感謝しなさいよね。まぁあんたたちが楽しそうでこちらとしても嬉しい限りだけど』
今日は(ヒョウが運んでテーブルの隅に設置した)パソコンの中に姿を現したクロンも、どこか嬉しそうに笑う。
(吹雪)「今日眠ったらサンタさんが来るからね! 楽しみ!」
(吹雪丸)「(おわっと、さすが吹雪ちゃん信じたままだ! そこら辺の話は自粛しとこ……)」
(藍希)「今年は誰だろうね?」
(吹雪丸)「いや言うんかよ! 夢壊しちゃダメって一番言いそうなのお前じゃないのか!!」
(藍希)「……?」
吹雪丸の言葉に、藍希が首をかしげる。
(ヒョウ)「あー……そういえば主は初めてなんですよね、クリスマス」
(クロン)『アンタ知らないの? この世界では大体の大人子供が認知していることだけど』
(麗子)「? サンタさんって何ですか?」
(吹雪)「麗子、サンタさん知らないの〜? サンタさんはね、イブの夜に一番歳が高い人に憑依してその歳いい子だった人たちにプレゼントを配る精霊さんだよ」
(吹雪丸)「待ってそれは知らない情報!」
(麗子)「なるほどです、さすがマスター! 物知りですね!」
思わず立ち上がった吹雪丸にヒョウがドウドウと座ることを促すと、吹雪丸はおとなしく座る。
(藍希)「でも、割と一番年上が……ってことでもないみたいで。その歳で一番悪い子だった人、って言うところもあるし、何なら精霊術師は選ばれるとも言われるんだよね。まちまちで、今までやったこと人〜! みたいなアバウトなことを言うところもあったよ」
(吹雪)「藍希も詳しいね〜! そこまでは私知らなかったよ〜」
(クロン)『アタシにサンタさんが来るとも思えないしまぁ関係ない話かしらね』
(雪符)「きちんと知らなそうな吹雪丸に詳しく説明すると、サンタが取り憑いた人は、一時的に精霊のサンタと契約をして、精霊術でいい子が望むプレゼントを作って渡すんだ。まぁサンタに憑かれた人はプレゼントはもらえないんだけどな。普通は一番年上って説なんだが、精霊術師はその精霊術がうまくできるからよくサンタに憑かれるんだよ」
(吹雪丸)「ホワ〜……でも精霊術無理じゃないの? 夜なんだから月がマナを回収してるはず……そこらへんはドリームパワーだったりする?」
(藍希)「いや、クリスマスに夜をソリで滑る実体化した精霊のサンタさんがマナを上空からバラまくから大丈夫なんですよ。一年の中サンタがこの日にしか現れないのは、マナを貯めているからだって話があるくらいですし」
(吹雪丸)「用意周到に準備する系のサンタさんなんだな……」
(ヒョウ)「まぁ精霊術師いないと思いますし。年齢順で言えば僕じゃないですかね、10000超えてない人います?」
(麗子)「あれ、ヒョウさんはそんなにいってたんですか……!?」
(吹雪)「サンタさんに憑依されてない人〜ってなら私かも……私サンタさんやったことないんだよね」
(雪符)「一番悪い子だったやつ、ってんなら俺だと思うな。割と他人に喧嘩売ったり良くない生活してた自覚あるぜ……そもそも俺じゃなくてももらえるかわかんねぇし……」
(吹雪丸)「まぁ雪符ちゃんは可愛いからもらえるんじゃない?」
(雪符)「な〜に言ってんだ! べ、別に俺は可愛くなんかねぇよ……」
心なしか嬉しそうな雪符を見て、吹雪がクスと笑った。
(吹雪)「精霊術師説はなさそうかな? 吹雪丸ちゃん使ってるのは一応魔術なんでしょ?」
(吹雪丸)「ん、ま〜そうね。私は悪い子認定されなければもらえる枠確定かぁ。勝ちやな」
(麗子)「私はプレゼントもらえるんですかね?」
(藍希)「麗子さんももらえると思うけど、その辺はちょっとわかんないかも……」
(吹雪)「麗子ももらえるよ、多分! 今年いい子にしてたもんね!!」
(雪符)「まぁ今年もらえなかったら吹雪のところに行こうとしてジェット起動するのを自粛すればいいんじゃないかな(被害者その1)」
(ヒョウ)「僕もそう思います(被害者その2)」
(藍希)「それには深く同意するよ(被害者その3)」
(吹雪丸)「被害者が列を組み始めたな(被害者その4)」
そんな調子でパーティは終わり、10時ごろには全員が床についた。
そして、次の日。
(吹雪)「サンタさん来た〜!!」
吹雪は小さな小箱を持ってリビングの扉を叫びながら開けた。
(麗子)「ふっふっふ〜……私ももらいました!」
そう言って手を大きく広げた麗子のエプロンは、昨日まで使っていた薄桃のフリル付きではなく、黄色のタータンチェックが可愛らしいよく似合う新しいエプロンになっていた。
(吹雪)「……あれ、他の子は?」
(麗子)「……マスター、時計を」
吹雪はそう言われ、時計を見た。
(吹雪)「…………10時!?!?」
(麗子)「まぁマスターの今日のシフトは12時からですよね? セーフです」
(吹雪)「遅めにしておいてもらってよかった〜! あっぶな……」
(麗子)「……っていうか、マスターもサンタさんからプレゼントもらっていたんですね」
(吹雪)「? どういうこと?」
吹雪が首をかしげる。
(麗子)「それだと、誰も今年サンタさんをやっていないことになるんです。昨日いた吹雪丸様はメガネケース、ヒョウさんはお魚の形のクッション。藍希様はスイーツの本で、雪符様は可愛らしいミトンでした」
(吹雪)「あれ〜?」
(麗子)「何ならクロン様のところにも、クリスマスっぽい壁紙の入ったファイルが送られていたそうで。送り主のパソコンは吹雪丸さんのだったそうですが……」
(吹雪)「でも吹雪丸ちゃんはプレゼントをもらっているんだよね? だったら誰か別の人が吹雪丸ちゃんのパソコンで壁紙を作ったと思うんだけど……」
(麗子)「パソコンはパスワードがかかっていますから、吹雪丸さん以外操作できない気はするんですけどね……」
(吹雪)「う〜ん……あ! ヒョウくんって可能性は? ヒョウくんは確か吹雪丸ちゃんのパソコン一緒に使ってたからパスワードわかるでしょ!」
(麗子)「それだとなんでヒョウさんはプレゼントをもらっていたんでしょう?」
(吹雪)「そこで吹雪丸ちゃんだよ! 一番早く起きるの吹雪丸ちゃんだから、朝ヒョウくんのところにプレゼントがなかったから急遽用意した……みたいな!」
(麗子)「なるほど……! さすがマスター、天才ですね!」
(吹雪)「いやいや、あくまで憶測の域を出ないし、わかんないけどね」
吹雪がはにかむと、麗子が冷ましたうどんを吹雪の前に出した。
(麗子)「でもマスター、ともかく出勤の準備ですよ! 余裕はありますがいつもよりやばいので!」
(吹雪)「そ、そうだった! いただきまーす!」
謎は残ったが、吹雪は元気にうどんをすすり、クリスマスの一日が始まった。
メリークリスマス!
……あっぶな。