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8羽 天使は己の心に迷う

 凍えそうになりながらも砦に戻ると、布団が恋しくなった。

 あまりの環境の変化に眠れないのではないかと思っていたが、気付くと眠ってしまっていたようで、真夜中になっていた。

 砦の何処からも物音がしない。時折、夜行性の動物達の声が遠くから聞こえる程度で、恐ろしく静かな時だった。

 いざ目が覚めてしまうと余計な事を考えてしまう。これからどうしよう、帰れるのだろうか、魔将軍の魂はどうしよう、と。何も考えまいと決めて、頭まで布団を被って目を瞑る。けれど、頭の中でいくつもの事柄が巡り、眠りを妨げる。イライラして眠れない。

 ふと、カレルドの顔が浮かんだ。彼は少し照れ臭そうに、私に手を差し伸べてくれる。彼の手に触れた気がして、何故か他のことを考えずにいられる時間ができた。そのことで落ち着いたのか、いつの間にか眠りに落ちていた。

 そして私は久しぶりに夢を見る。


「ファラーナ、大丈夫。私たちがちゃんと見ているから、心配しないで!」

 悲しげな顔で二人の友がこちらを見ている。

「エミナ! ティエララ! 待って、私を置いていかないで!」

 伸ばした手が友の手をすり抜けた。必死に後を追おうとしても、私の翼は動かない。

「待って、待ってよ! 私も家に帰るんだから! ねえ!」

 涙が溢れる。天使のくせに私は何を泣いているんだろう。でも、二人にはもう会えない気がする。

「待って!」

 走りながら遠ざかる友に向かって手を伸ばす。

「待ってってば!」


 そこで私は目覚めた。涙で布団が濡れている。

 この地上で頼るものもなく、一人放り出された身。天界に帰る術も無く、いつどうなるか分からない。まだ夜が明けていない空を窓越しに見る。


 ふと、カレルドの顔が浮かんだ。

 あれ、なんでだろう。

 私を救ってくれた人。それだけのはず。なんで、こんな時に顔が浮かぶんだろう。何でその笑顔に触れたいと思ったんだろう。

 そう、きっと地上と私を繋ぐ人だからだ。少しだけ頼る事の出来る存在だからだ。

 ああ、少しでも頼る事のできる人が居たじゃないか。私は一人だけど、一人じゃない。

 すぐに崩れて無くなりそうな小さな希望。

 今はそれにすがるしかない。そう、彼を死なせる訳には行かない。戦地に足を踏み入れる事になる時、彼を守らなければいけない。

 あれ? 私が彼を守る? 私が存在するために彼が必要なのに、私が犠牲になっても良いと思った? 私、矛盾してる。

 自分の思考が理解できない。

 不安よりも堂々巡りの疑問が私の頭を支配し、私はそのまま眠れずに朝を迎えることになった。

 天使だって、眠らなければまともに生活できない。それをこの日、初めて知った。


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