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6羽 天使の見てきたもの

 私がしばらくベッドに突っ伏し、泣きながら眠りに落ちかけた時、入り口のドアを叩く音がした。

「はい」

 私は慌てて飛び起きて返事をした。

「カレルドだ。食事の用意が出来たから呼びに来た」

「あ、ありがとうございます」

 ベッドから降りて靴を履く。

 急いで扉を開けて、カレルドに頭を下げる。

「遅くなってすまない」

「いえ、突然の来た者のために、すみません」

 先行するカレルドの後を遅れないようについていく。薄暗いところに慣れているのだろう、私よりも歩く速度が随分速い。急ぎすぎて、私は何度か階段で転びそうになったが、なんとか食堂に着いた。

「俺達はあの端の席だ」

 カレルドは食事を受け取りに行き、私は言われるがままに、指示された場所で椅子に座る。


 すぐに、二人分の食事を持ってカレルドが席にやってきた。

 席に座ると、すぐにカレルドが口を開いた。

「早速なんだが、はぐれた仲間はどうするんだ?」

 聞かれて困った。

 嘘の理由付けのあと、何も考えていなかったからだ。

 ここは確かアルカイラル王国。帝国と戦っている連合軍のひとつ。もっともらしい言葉で逃げるしかない。

「帝国との戦闘が激化しているので、王都の実家を目指すことになっています」

「激化?」

 何のことか分からない様子で、身を乗り出すカレルド。意図せず話を逸らすことができたようだった。

「ご存知ないですか? 恐らくハラル平野で、昨日辺りに大規模な戦闘があったはずです。私はその近くを通って、軍を見てきましたから」

 実際にはその戦闘を見た。そして魂を回収した。だが、この砦までは一日で歩いて来れる距離ではない。

「……ハラルだって?」

 フォークを持ったカレルドの手が震えた。

「……どうかされましたか?」

「俺は、ハラル近くのリンフォス村出身なんだ……」

「そう……なん…ですか」

 私も何も言えなくなった。恐らくその村は、その前日に帝国軍の急襲に遭って、ほぼ全滅している。

 僅かな人たちが逃れたが、村は焼き払われ、再起の道は無いと言って良い。彼の婚約者も運よく逃れていれば良いのだが、可能性は低いだろう。

 私はその村でいくつもの魂を回収した。感情を左右されず、事務的に魂を回収するのが私達の仕事だったが、そこで見たものは、私を動揺させずには居られなかった。

 老人から子供まで、見境無く虐殺され、それは酷いものだった。

 それを指揮したのが、私の腰の袋に入っている魂、魔将軍ベルデリンドだ。死因までは知らないが、村を襲った翌日に彼が死んだのは因果応報というものだろうか。


「明後日、休暇を利用して里帰りする予定だった」

「危険です、まだ戦闘は続いているかもしれませんよ」

「いや、まだ軍として正式な情報は聞いていない」

 軍としても伝令を送る余裕すら無かったのか。

 帝国領から離れた細い街道の小さな砦だけに、気にもしていなかったのか。

「では、私も同行します」

 王都に行くと嘘をついた私が、なぜそんな事を口走ったのか、自分でも分からない。

 ただ、そのまま送り出してしまえば、この人は死んでしまう。そんな気がした。


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