表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

3羽 堕天使だと隠すこと

 途方に暮れていた私を保護したのは、カレルドという名の青年だった。

 青年は騎士で、私の見た砦に駐在していると語った。

 人間の年齢で18歳くらいだろうか。茶色い髪と、爽やかな顔。優男に見えるが、騎士らしく筋肉もしっかりとついている。一般的に言う好青年の部類に入る。


「なんであんな場所にいた?」

 カレルドは強い口調で言った。

 彼は恐らく、何かが木に落下したのを見て、調査にやってきたに違いない。

 こんな森の中で傷だらけ。どう言えば誤魔化せるだろう。

 軽装で荷物らしい荷物も無い。武器も無い。近くに民家はあったが、例えそれが村だったとしても、そこの人間だとは言えない。砦の位置からすると、そこの住人とも面識があるだろう。

 何の手も無いことはすぐに分かる。できるだけ、見破られないような言い訳にしよう。


「旅をしておりましたが、怪物に追われて仲間とはぐれ、荷物を無くしました。方角を失って、高い木に登り周囲を見渡しておりましたが、誤って足を滑らせ……」

 そこまで答えたところで、自分の置かれた惨めな境遇に、涙が出てきた。

 カレルドは私の涙を見たのだろう、私から目を逸らした。

「砦に連れ帰るが、出て行くまでの間、少し不自由になるぞ」

 突然現れた怪しい娘だ。このまま独房にでも入れられるのだろうか。

 翼が有っても使えない。魔法もまともに使えない。

 今の私は人間と大差の無い存在。まともに生きる術も無い分、それ以下かもしれない。


「そんなに傷だらけなのに、歩かせてすまんな」

 その気遣いが、今の私には突き刺さる。

「大丈夫…」

 涙で滲んだ声が、余計に自分を惨めにする。

 この先どうしようかと考えるよりもまず、今日どうなるのか、それさえも見えない。

 森を抜け、街道を少し歩くと、砦に到着した。

「カレルド戻りました」

 小さな門は開かれ、私達は薄暗い砦の内部へ。

 石造りの砦は、外の光を遮り、ランタンでそれを補っている。階段は思わず足を踏み外してしまいそうな程だ。


「隊長、確認して来ました。特に異常はありませんでした」

 カレルドが敬礼した相手、隊長と呼ばれた初老の男は私に視線を移した。

「この娘さんは?」

「あの木の近くで怪我をしていたので保護して参りました」

「名前は?」

 どう名乗ろうか。一瞬迷った。

「ファラーナです」

 天界での名と同じであっても困る事はないだろう。偽名を使い、その名を呼ばれて気付かない事があったら、怪しまれる。

「何故そんなところに?」

 カレルドは私の嘘をそのまま隊長さんに伝えた。

 天使のくせに嘘をつき、何もできない、どこへも行けない悔しさに、涙が溢れて止まらない。

 その涙が、途方に暮れていた旅の娘のものに見えたのだろうか。

「カレルド、お前に一時預ける。空き部屋を与えて世話をしてやれ。怪我が治れば、また旅もできるだろう」

「はあ、私が、ですか?」

「年の頃も近いから気兼ねしなくていいだろう? 私には娘がいるが、折り合いが悪くてな」

 隊長さんは頭を掻きながら、苦笑した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ