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24羽 カレルドの意地と天使の気持ち

 村がもう無いと知った夜。

 宿に入る前、カレルドはどうしても別の部屋にしようと言い出した。手持ちの金額を考えれば、同室で済ませたって良いはずなのに。

「同室でもいいよ」という私の言葉の後、カレルドが私に向けた表情はとても悲しみを抱えていた。

「一緒にいたら、きっと君という存在に甘えてしまう。だから……」

「私の存在って何?」

 私の問いかけに、カレルドは言葉を詰まらせた。ただの同行人? それとも友人? 恋人と答えるはずが無い。


 暫しの時間の後、カレルドは口を開いた。

「……ごめん、うまく表現できない。出会ったばかりだし、こんな事を言っても信じて貰えないかもしれないけど、大事な人なんだと思う」

 それは意外な言葉。

 けれど、私にとっては十分な答えだった。

「じゃあ、一緒にいたっていいじゃない。私は今まで貴方に助けてもらってからずっと背負われてばっかりだった……。だから、たまには貴方の荷物を背負わせて欲しいの。このまま何も出来ずに居るのは辛い……」

 嬉しさと哀しさとがごちゃ混ぜになり、微笑んだつもりだったのに、涙が溢れた。

「泣かないでくれ……」

 私の涙にカレルドは慌てた。

「私……ずるいね、涙で困らせちゃって。泣きたいのはきっとカレルドの方なのにね……」

「いや、色々気遣ってくれているのは分かる。ファラーナの言葉に甘えさせて貰う形で、手持ちも考えて同室で頼むことにするよ。手は出さないから安心してくれ」

 手を出すとか何とか、色々と余計な気を回しているのは、カレルドの方じゃないだろうか、と思う。不器用な人だという事は、今まで接してきて良く分かっているつもりだけれども。

「同じベッドで寝る?」

 涙も拭かずに、私は少し意地悪をしてみる。しかし、「ベッドが二つある部屋を頼むさ」という答えで、さらりとかわされてしまった。

 目を合わせず、都合が悪い事を言ったかのように、ふいと顔を背ける様を見るに、案外私の言葉が効いているのかもしれない。とはいえ、これ以上困らせるつもりは無いけれど。



 宿を見つけると、結局はカレルドの言葉通り、ベッドが二つある部屋に宿泊する事になった。

 宿の主人には「若くて綺麗な嫁さん連れてていいな!」と、からかわれたが、下手に否定もできずに困るカレルドを見ているのも結構楽しかった。そんな私は天使であったはずなのに、実は悪い女なのではないだろうか、と思うようになってきた。堕天さもありなん。

 部屋に入ると、堅物のカレルドが素直にベッドを隣り合わせに並べたりするはずもなく、その間隔は大きく開いたまま、いや、むしろ間隔を広げてから、納得したように腕を組んでみせた。

 呆れ半分の私は、それに関して何を言う気にもならず、空笑いしながら、その光景を眺めていた。

「さ、夕食に行こうか」

 作業が一段落したのを見届けると、私はそう言って、小さくため息をついた。


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